2015/12/07 のログ
オーギュスト > 「『まだ負けてない』か。
滅びゆく国の連中はみんなそう言うんだ」

言って、オーギュストはふっと自嘲する。
彼自身がその台詞を言う時とて、来るかもしれない。
明日ティルヒアが滅び、次はマグ・メールか。

だが、少なくとも今日の彼は勝者の側に居る。

「全てを失うには早過ぎる?
ちげぇよ、もう遅すぎるんだ。
たとえ個々の戦闘に勝ったってな、本陣に攻め込まれた時点で『戦争』はお前らの負けだ」

もちろん、戦争に負けたからといって終わりではない。
ゲリラ的抵抗をしつつ、王国軍に損害を与え続け、講和をするという目もある。
だが、悲しいかな。ティルヒアには、それが出来る外交官が残っているだろうか。

「なるほどな、じゃあ試してみるかい!」

大剣を振りかざし、オーギュストは少女へ容赦なく襲い掛かる。

タマモ > 「戯言を…全てが全て、お主等が知る物語通りに行くと思うでないぞ?」

それは一つの結末だ、その逆の結果を生み出す可能性は零ではない。
それを、今この時は己が導き出してみせる。
そう思っていなければ、思い続けていなければ、待つのは確実な敗北だ。

「もしそうであったとしても…妾はその瞬間をはっきりと知るまでは認める訳にはゆかぬのじゃ!
でなければ、妾は…妾の存在は…!」

己の存在は呼び出された時からこの国とある。
戻る手段もなく途方にくれる自分に、その可能性を与えたこの国。
その国が滅びるという事は、己の存在も失せる、そう思うからこそ…

「よかろう、力を大半失おうとも…人間如きに!」

普段使う読心術は使えない、少女から見たら劇的に不利な状況。
それでも負ける訳にはいかないのだ。
襲い掛かる男を前に、その剣の動きをしっかりと目で追っていく。

オーギュスト > 「成る程な――なら、引導を渡してやるよ!」

余程この国に思い入れがあるのか、あるいは何か理由があるのか。
どちらにしろ、オーギュストの判断に代わりはない。
この面倒な相手は始末し、とっとと動乱を終わらせる。
まったく、戦いはこの動乱だけで終わりではないのだ。

「人間如きか! そういう台詞にはな、もう飽き飽きしてんだよ!」

魔族から何百回、何千回と聞いた言葉。
オーギュストは大振りの大剣の斬撃を何度も繰り返し少女に向け繰り出す。

タマモ > 「引導を渡されるのはお主と知れ!」

思えば、これだけこの国を思っていて何があっただろう?
己が呼ばれ、そこから見てきたのは黒き気配に蝕まれる姿。
それでもきっと元の姿へと戻って、いつか帰れると希望を持っていた。
だから、あの王国の者の誘いとて、受けずにいたのだ。
この戦いではっきりさせる。
この戦いで勝利したならば、きっと。

「ならば、その台詞をもう聞く事も無くしてやろうぞ!」

見える。心を読まずとも、剣筋は見える。
とはいえいつものような確実性はない。
その剣筋に沿うようにして扇子を流し、ぱしんっ、と外へと弾いて流していく。
右から、左から、それを流し、閉じた唐傘を隙を見て横殴りに叩き付けようと凪ぐ。
たかが傘だと思って当たってしまえば、その体を大きく吹き飛ばす程の威力だ。

オーギュスト > 「――ふん!」

普段のオーギュストなら一撃を受けていたかもしれない。
だが、ここ数日。そう、あの王都の門が破られてから、何故か調子が上がっていた。
唐傘を大剣の柄で受け止めると、逆に大地を這い斬り上げる一撃を繰り出し。

タマモ > 「…む…!?」

唐傘が柄で受け止められた。
予想外の事に動きが止まる、次いでくるのは下から振り上げられる一撃だ。
仕方ない…柄で止まった唐傘をくるりと捻り、無理矢理に上から押さえつけるように叩き付ける。
…打ち込み方に無理があるか、その力は僅かに緩い。
少女の身はその勢いに乗せて後ろへと飛ぶが、大剣を流すのに打ち合わせた唐傘が上空へと舞い上がる。

オーギュスト > 「むっ――!」

相手の技巧はかなりのものだ。
地摺りの一撃をいなされると、たたきつけられた唐傘の痛みに顔をしかめる。
だが、これならばいける。
そう判断したオーギュストは一気に少女との距離を詰め、一撃を叩き込もうとする。
そのスピードは何時にも増してはやい。これが、人間に加護を与えようとするこの島の何かの力なのか。

タマモ > 「………致し方あるまい…!」

かつんっ、と遥か後方で響く唐傘が地面に叩き付けられる音。
それを聞きながら、生半可な戦い方では無理と判断する。
それならば…!
素手となった左手が空を凪ぐ。
途端に、目に見えぬ衝撃が正面から男の体へと叩き付けられる。
普段、近接戦闘で使う事のない放出型の念動力だ。
突進するその体へと与える衝撃で、その動きを一瞬止める。

頑強な者であろうと、この衝撃はかなり利くだろう。
それで隙が出来ると思えば、右手の扇子を投げ付ける。
くるくると回る扇子は、その手にした大剣の柄。
それを握る手を正確に打ち払おうと飛来する。

オーギュスト > 「――ぐぅ!?」

オーギュストの体がくの字型に折れ曲がる。
見えない衝撃破が身体に当たり、大きく揺らぐ。
精霊銀糸を編みこんだコートを着ていなければ危なかっただろう。

そして、迫るのは扇子。
これをくらえば大剣を取り落とす。だが――

「――舐めんなよガキがぁ!」

左手で飛んでくる扇子を打ち払う。
当然、素手である左手に衝撃が走り傷だらけになるが、なんとか大剣を取り落とさず済むだろう。

タマモ > 当たった、どうやらこちらは有効的のようだ。
衝撃に揺らいだ男だが、直撃の割には…反応が薄い。
内部から痛みを与えるものと違い、衝撃はやはり緩和するか。
あのコートはかなり厄介だ。

「ふんっ…舐められる程度の腕しかあるまい?
その程度で粋がるお主が悪いのじゃ…!」

そうは言うが実際にはそうではない。
力の消費の抑えられる扇子や唐傘では敵わない、その判断での能力の行使だ。
ただ…やはり消費が激しい、持久戦は無理そうか?

更にその右手が、左手が次々とゆらりと動く。
その大剣を何とかせねばと思うか、断続的に体のところどころを打ちつける小さな衝撃。
そして、時折、それよりも大きな衝撃が大剣を持つ手を襲う。

オーギュスト > 「――なら、こっちも全力だッ!」

なれた詠唱を行い、身体にヘイストの呪文をかける。
断続的な衝撃にじりじりと耐久を削られるが、消耗戦にする気はない。
一気に決める。

「ふっ――!」

右と左。両方からの一撃で少女を狙う。
ヘイストと島の加護で、その速度はまるで小剣の鋭い斬撃のようですらあり。

タマモ > 「今更全力とはのぅ?…お主こそ、妾を侮るでないわ!」

なにやら呟いている…術か!?
言葉を発し、男から感じる気配に何かが加わった。
そして、再びこちらへと大剣を振り下ろす速度は先ほどのもの以上だった。
…反応が追いつかぬか…!?

ぎりっ、と歯軋りをさせる。
本当にこれ以上の力を出してくるとは…となれば、もう躊躇は出来ないか。

ぱしんっ、と眼前で両手を合わせると、大きく広げる。
己を中心にした衝撃が、半球体を形作るように広がっていく。
近ければ近い程に与える衝撃は凄まじい。
大剣が届くほどの距離にいる男には、どれほどの衝撃が伝わるだろう?

とはいえ…
この一撃でほとんどの力を使い切ってしまう。
広げていた両手をゆっくりと降ろし…吹っ飛んだであろう男の方へと向き直して。

オーギュスト > 「なっ――!」

まだ力が残っていたか。
とっさに後ろに飛んで勢いを僅かに殺したものの、オーギュストは吹っ飛び地面に転がる。
それでも大剣を離さなかったのは意地故か。

額から血を流し、ふらふらになりながらも、立ち上がり剣を構える事はやめず。

「……どうした、それで終わりか?」

虚勢も良い所、こちらもあと一度か二度の攻撃が限界だが、それでも剣を向けハッタリを利かせる。

タマモ > 「………」

どうやらちゃんと当たったようだが…駄目だ、男は立ち上がった。
無言のまま、じっと男を見遣る。

「………だ、まれ…妾は…負け、ぬ…負けられぬ…!」

裾へと残している最後の扇子、それを右手に取り広げる。
もう力は使えない、頭がふらふらする、吐き気もする。
枯渇寸前まで力を使いきった事で起きる気だるさだ。
体を休めるか…あるいは、この男を倒し、力を得るか…!

だんっ!と地面を蹴り、最後の一撃と手にした扇子を横薙ぎに切り払う。
当たればよし、とはいえ着地は覚束無いだろう、男と共に地面に倒れ込むかもしれない。
当たらなければ…もう地面を踏み締める力も無い、無様に地面に転がるだろう。

オーギュスト > 「――往生際が」

突っ込んできた狐の少女をもろに受け止める形になり、地面に共に転がる。
こちらももう大剣を振るう余裕などない。
あとは地面で、どちらがマウントを取り勝者となるか。

「悪ぃんだよ!」

それでもなお、少女を組み敷き頭を押さえつけようと。

タマモ > 「…っ…ぐっ!」

男への最後の攻撃は…受けられた、共に地面へと転がっていく。
勝利を得る事も出来ぬ、戻る事も叶わぬ…地面を転がりながら、少女は瞳を閉じる。
右手から最後の獲物が離れ、ぱさりと地面に落ちた。

「………」

もう少女の抵抗は無い、力を込めずとも、その小さな体は簡単に組み敷かれ、頭を抑えつけられる。
力なく垂れる耳と尻尾、勝敗が決した瞬間だ。

オーギュスト > 「――っはぁ、はぁっ!」

荒い息を吐き、男が膝を着く。
まったく、薄氷の上の勝利だ。
慌てて部下たちが寄ってくると、オーギュストは彼らに魔力封じの首輪を持ってくるよう命じる。

そして腰を下ろし、痛みに顔をしかめながら溜息をつく。
ほんの一瞬、僅かな隙が出来るかもしれない。

タマモ > 「………止めよ…そんな、首輪なんぞ…意味は、ないっ…」

抑えつける上から聞こえる声、魔力封じの首輪、との言葉。
そもそも力の根源が違う為、魔力を封じられても己の力に意味はない。
黙っていれば、それは分からないのだが…そんな嘘を付いてまで、この結果を汚したくなかった。
それ以上に、首に着いた装飾品を取り除かれるのを、非常に嫌った。

その隙は見逃さない、とはいえ…ここで逃げて、一体何とするのか?
逃げ帰って、それから自信を持って行動出来るのか?
頭から浮かんでは消える自問、答えの出ないそれを繰り返す。
…少女は敗北を受け入れた。

オーギュスト > 「――ふん、なら、そのまま来い」

どこまでも癪に触る女だ。
部下たちにタマモを抱えさせると、オーギュストは港湾にある己の基地へ向けて撤収を開始する。

全滅した砲兵隊のことをどう報告するか、頭を抱えながら

タマモ > 「………勝手にせよ」

ぽつりと返す。
抵抗も無いまま部下達に抱えられ、連れられる。
何もかもが終わった…そう思えば緊張の糸はぷっつりと切れ、かくん、と意識を失ってしまい。

ご案内:「ティルヒア都 郊外」からオーギュストさんが去りました。<補足:大剣を持った将軍。黒髪を後ろで縛っている>
ご案内:「ティルヒア都 郊外」からタマモさんが去りました。<補足:名簿参照。>
ご案内:「オリアーブ島 湾港基地付近」にタマモさんが現れました。<補足:名簿参照。>
タマモ > 少女はのんびりと海を眺めていた。
ここは王国軍が今や占領している湾港にある基地を近くにした、海岸の上だ。
…後ろにくっついてきている監視やらの人間がちょっと邪魔っぽい。
まぁ、立場上仕方がないというのはあるのだけど。

「やれやれ…ゆっくりと感傷に浸らせてくれる事もさせてくれんものじゃのぅ」

ふぅ…溜息をついた。

タマモ > 先日相手をした人間はまだ休養中だろうか?
回復力の違いもあるが、そもそも少女は傷と言う傷を負ってなかった、というのもある。
次の日には動ける程度には回復していた。
なので、こうして海を眺める目的で散歩をしていたのだが…

「ふぅむ…」

目を閉じて意識を集中する。
…周りの気配を感じ取るには支障無し。
…読心術は…なんとかいける。
…術の方も軽いものならば可能だろう。
ただ、大きなものはまだ使えそうにないか?

今の状態を大体理解すれば、目を開く。
再び視界に入る海を眺め始める。

ご案内:「オリアーブ島 湾港基地付近」にオーギュストさんが現れました。<補足:大剣を持った将軍。黒髪を後ろで縛っている>
タマモ > まだ完治もしていないのに動き回るのはどうだろう?とも言われそうだ。
でも、この場所には当然顔を知った者が居ない。
どころか…中には戦場で見た者も居るだろう。
視線が痛い。何というか…異種族とかを見る目というか、敵を見る目というか…それも当然なのだけど。
正直、肩身が狭い。

そんな中に居るくらいならば、監視がついていようと外に出ようとなる。
まだ日が高いか、日の光が眩しい。
しかし、その日の光を遮っていた唐傘は、丘の上に置き去りにされているだろう。

オーギュスト > 「ったく良いご身分だなぁ」

軍服の下に包帯を巻いた男がゆっくりと歩いてくる。
大剣を杖代わりにしながらあらわれた男は、少女の横へ立つ。
まだ少し動きがぎこちない。先日の傷が回復しきっていないのだろう。

「散歩か」

別に外に出たのを咎めようというわけでもない。
逃げ出さないのならばそれでいいし、この手のタイプは逃げようともしないだろう。
何かのきっかけで暴れられると困るのだが。

タマモ > 「妾もそう思うぞ?てっきり冷たい牢獄の中に放り込まれるかと思っておったからのぅ?
で、お主…まだ治っておらんじゃろう、動いて良いのか?」

かかる声の方へと顔を向け、思っていた事をそのままさらりと言う。
視線に男が入れば…その姿に苦笑を浮かべた。

「………うむ、どうもああいった場所は慣れぬ」

そもそもティルヒアにいた頃も単独行動が多かったし、部隊以外の大人数の側に居た事もない。
医療室で自分が傷付けたかもしれない敵兵達も居るの中で寛ぐなんて、とても出来ないものだ。
返答に間が空いたのは、お小言がどこかに入るかと思ったからなのだが…それは無かったようだ。

オーギュスト > 「牢獄に放り込んだところで、お前は情報を喋るのか?」

王都ならともかく、この港湾基地には牢獄が無い。
わざわざ王都まで連れ帰る暇もなし。結局適当に寝床を与えて見張りをつけておくだけに落ち着いた。

「まぁ、好きにしろ。お前の尋問は王都に帰ってからだ」

つまりは、動乱が終わった後。
もっとも、この動乱がこのまま終わるとはオーギュストは思っていない。
あと一幕、何かがある気がする。

「今のうちに喋ってくれりゃ、ありがたいんだがな」

タマモ > 「情報のぅ…多分、妾はお主が求めるような情報なんぞ持ちはせんじゃろう」

くすりと小さく笑う、自虐的に。
実際に少女はティルヒアについて何を知っているのか?と言われれば…ほとんど答えれる事はないだろう。
あくまでも帰る為に手を貸していただけで、それ以上は深く関わる気もなかったからだ。
もっとも…都の方には少々思い入れが出来てしまった為に、あんな行動に走ってしまった訳なのだが…

「尋問か、こんなか弱い少女に酷い者も居たもんじゃのぅ?」

言葉を返しながら、ころころと笑った。
思っても無い事を、と思われそうだが、実のところそこまで頑丈ではないのだ。

「はてさて…それは問う者次第ではないじゃろうか?」

笑顔を浮かべたまま、ぽつりと呟いた。

オーギュスト > 「何がか弱いだ、ったく」

痛めた肋骨をさすりながら呟く。
まったく、魔族顔負けの力を持つ少女だ。

「改めて聞くが、お前は何だ、魔族じゃねぇのか」

魔族とあたりをつけていたのだが、どうやら違うらしい。
何せ、魔力封じの首輪が通用しないのは本当だったからだ。
腕につけたがうんともすんとも反応しない。

「あとは、何でティルヒアに協力してたかだな」

タマモ > 「ふふ…嘘は言っておらぬぞ?」

傷めた場所に触れる男を見ながら、自分だったらその状態で動けはせんよ、と。
多分、それは本当だと思う。

「うむ、魔族とかいうものではないぞ?
…分かるかは分からんが、妖怪じゃよ。
物の怪、化け物、まぁ…人間の恐怖の対象という感じかのぅ?」

どう説明したものか…少し考える。
が、面倒事が嫌いな少女だ、深く考えず簡単に説明した。

「それは………妾の元居た地に戻る為じゃな。
…正確には別の世界じゃ、理解出来るかのぅ?」

隠す気ももう無い、あっさりと答える。
一から十は長過ぎるから、根元だけ残してばっかり切り捨てた。

オーギュスト > 「魔物みてぇなもんか」

知性のある魔物は多く居る。
一部では真竜などという規格外も居るのだから、この狐のような妖怪などもいるのだろう。

「あぁ……異世界?」

そういえば、聞いた事がある。
ここではない何処か他の世界、そこに戻る為に働いていたというのか。

「また面倒な話だなぁおい。何でんなとこ戻るのにティルヒアなんぞに協力してたんだか」

タマモ > 「うぐっ…ま、まぁ…そうなのやもしれぬ、が…魔物…うぅむ…」

どうも魔物と言われると、こう…知性も品も無い印象を受けてしまうから不思議だ。
間違いではないのだが、どこか不満気に唸っていた。

「おぉ、そう、それじゃ!…なんじゃ、分かっておるのではないか」

まるでそんな考えに至らないのが普通、みたいなそんな反応だ。
ちょっと失礼な気がするが、少女は気にしてない。

「呼び出されたのがティルヒアの城内だったのじゃ。
来てしまった要因がそこにあると思ったからこそ、事が終わった後に方法を探す条件で手を貸すという話にじゃな…?」

口元に手を添え、思い出すような仕草をしながら答えていく。
まぁ…今やもう方法を探してくれるのかどうかさえ、かなり怪しい雰囲気ではあるのだが。

オーギュスト > 「――あぁ、成る程な。召喚されたのかお前」

この戦乱の初期。あのナール大橋の会戦でティルヒア側の高位魔術師がドラゴンを召喚した。
他の妖怪の類が召喚できない道理も無い。この娘はそうやって召喚されたのか。

「んじゃ、罪には問えんなぁ」

ティルヒアに召喚されたのなら、ティルヒアに尽くすが道理。
少なくとも、戦争なのだ。この娘は己の義務を果たしただけである。

「んで、これからどーすんだ。今更あの城には戻れんぞ、結界が破れん」

タマモ > 「うむ、そのようじゃ…気付いたのはここに来てからじゃったが…」

本来は召喚は相手との疎通あってこそ、なのだが…少女の場合は事故みたいなものだった。
本人としては、当時は転移をして自分の部屋に、というつもりだったから。

「………そ、そうなのか?ならば、犯して殺すってのはないんじゃな!?」

罪が消えた、そう思えばぱっと表情を輝かせた。
実のところ、事が終わった後はそんな目に会う覚悟をしていた。
思っていただけなのだが…なんか言わなくて良い事を言った気がする。

「そ、それは…」

これからの事を問われれば、言葉に詰まる。
少女の考えとしては、このまま戦争が終わるまで拘束され続け、終わったら国に送られて…あれやこれや。
そんな想像をしていたからだ。
逃げようと考えない辺り、なんとも複雑なところである。

オーギュスト > 「犯すのはまぁ保留だが、殺しゃしねぇよ。
戦争なんだ、死ぬのも殺すのも当たり前だぁな」

少なくともこの動乱の間は保留だ。
召喚獣をいちいち罰していたらキリがない。
それよりかは召喚を解除してとっとと送還するなり、逆にこちらの手駒にするなりした方が建設的だ。

「協力するんなら、色々考えてやらん事もないぞ」

タマモ > 「そうかそうか………ん?
ちょ、ちょちょ、ちょっと待つのじゃっ!?犯すのが保留とはどういう事じゃっ!?
…あうぅ…そ、その辺りこう、もうちょっと…あれじゃな…穏便に…」

なんか持ち上げられて叩き落されたような、そんな気分だ。
びくーっと耳と尻尾を立てれば、慌てたように妙なジェスチャーを加えながら事を収めようとし始めた。
1度良い方向にいったのだ、何とか持ち直そうとするように。

「本当か!?………あ…でも、協力?妾がか?しかし…」

希望を与える言葉、とても乗り気だといわんばかりに勢いよく身を乗り出させるが…
自分がこの王国軍にやった事を思い出せば、なんとも不安気な表情を浮かべ、ちらりと見上げる。

オーギュスト > 「保留は保留だ。俺が抱きたくなったら抱く」

そういう事に一切躊躇しないのがこの男である。
今はそんなでもないらしいが、暇をもてあますと途端に師団の女たちに手を出し始める。
そういう所も含めてアレである。

「あぁ、そういう事なら気にすんな」

ぽんと少女に手を置き、師団の連中を何人か指差す。

「あいつはミレー族でな、奴隷だったんだが主人を殺して逃げてる。あいつは前科12犯の貴族専門の泥棒、あいつはもと強盗団の親玉だ」

ならず者師団の面目躍如、とでも言うべき面子である。
まぁこんな連中ばかりだから安心しろ、という意味だろう。

タマモ > 「な、なっ………まぁ、良いか…」

ぱくぱくと口を開閉させ何かを言いたげだったが…ふと考えが過ぎった。
考えたら自分に欲情が向くとは限らないじゃないか?変に行動しなければ大丈夫だろう、そんな結論に到った。
そう思い通りにいくかどうかは…謎だが。

「む、むむむ………分かったのじゃ…ならば、妾はお主に協力をするとしよう」

その何ともいえぬ師団の者達の紹介を聞きながら、いや待て、妾はそんな者達と同一視されておるのか!?とか考えた。
表情には出な…いや、思いっきり表情に出てた。
とはいえ、もはや頼れる場所もなくなっているのは確かだ、こくんと頷いた。

オーギュスト > 「あぁ、まぁ気が向いたらな」

ちなみにこの男は移り気なので、すぐに気が向くのだが。
まぁ別の話である。

「同じだよ、あいつらも、お前も、俺もな」

どっかりと近くにある岩に腰掛ける。
衝撃で骨が軋み少し顔を歪める。

「この世界に居場所がねぇ。だから寄り集まって、居場所を作ってる。そんな連中だ」

タマモ > 「気が向いたらか…そうか…」

出来ればその気紛れがこちらに向かぬように…そう願うだけだ。

「………」

どうとも、この男は掴み難い。
少女がまだ精神的に幼いからなだけかもしれないが。
じっと見詰めていたところ、腰かけただけで痛みを伝える表情に、ふぅ…と溜息をついた。
すっと手を男へと翳すと、唇が小さく動き言葉を紡ぐ。
自然を現わすといわれる五行だが、身体にも影響を与える事を理解している。
流れ出る力は男へと注がれていく…そこまで大きな効果は見せないが、これで少なくとも治りは早くなるだろう。
…終われば、その手を戻す。

「居場所を作るか…いや、帰り道を探しておる妾がそこに入ってしまって良いのかは分からぬ。
が…今は頼らせて貰うとするかのぅ」

オーギュスト > 「……ん?」

何やら少し力が戻った気がする。
どうやら協力してくれたの、か?

「あぁ、助かる」

腕を動かす。うん、大分動けるようになっている。
オーギュストは満足そうに頷いた。

「しっかり頼れ。こっちも期待してるからな」

タマモ > 「………あ、いや、何じゃ…妾の手によるものじゃからの?
別にそこまで大層に思う事はないぞ?」

礼を言われるも、それを素直に受け取れる少女ではない。
ぱたぱたと両手を振って、どこか慌てた様子で答えた。

体の調子を確かめる様子に、うむ、と満足気に頷く。

「あー…まぁ、とはいえあんまり過大な期待はせぬようにの?」

この雰囲気はこの雰囲気でどうとも苦手なものである。
どこか擽ったそうな感じに頬を指先で掻いた。

オーギュスト > 「――協力する以上、お前は第七師団の一員だ。
歓迎するよ。あー……」

そうだ、重要なことがある。
名前を聞いていなかった。

「俺は第七師団長、オーギュスト・ゴダン。
お前は?」

タマモ > 「なるほど、よろしくじゃな」

第七師団、第七師団、繰り返し頭の中で繰り返しながら、もう1度だけ頷いた。
なんで繰り返しているのかと言われれば…なんとなく、忘れてしまいそうな気がしたから、なんて言えない。

名乗られると、はて?と首を傾げた。
あ、うん、そういえばお互い名前を知らないんだったっけか?と。

「妾はタマモじゃ。…団長っていうと、なんじゃったっけか…偉いんじゃったか?
おーぎ、っ…おーぎゅ、す…おーぐす………えーっと…
のぅ…おーちゃんじゃ駄目か?」

どうも馴染みのない単語ゆえか、首を傾げながら考え、ぽつりと問う。
そして、名乗られた相手の名前を復唱しようと………出来なかった。
しばしの間、にこーっとどこか引き攣った笑みを浮かべながら、冗談のような本気の提案をするのであった。