2015/11/29 のログ
ご案内:「オリアーブの主戦場」にシドさんが現れました。<補足:分厚い漆黒の全身鎧。兜の隙間から銀髪が覗いている。>
シド > 秋から冬に色づく草原に鈍色が埋め尽くされている。それはティルヒアとマグメールの両軍の兵士達が纏う鎧。
遮るもの無き平原は兵力数が圧倒するマグメールが有利なれど戦況は動かない。朝から両者が睨み合ってどれほどの刻が過ぎたか。
既に中天が差し掛かる陽光を眺める貴族は茫洋と……どこからか用意した木テーブルに腰を下ろして早いティータイムを楽しんでいた。
それを咎めるものもない。皆が皆、動かぬ戦況に焦れて最低限の衛兵しか武器を付けていない。
褐色の茶を啜るその貴族も、足元に置いた武器以外は、纏う鎧以外つけてない有様だ。
「やはり……龍を恐れて責めてこないか。」
青天の霹靂――マグメール軍をオリアーブまで運ぶ結果となったが、されど被害は甚大。
攻めに出ても受けを甘んじて敵陣営からの防衛を選んだ次第だ。
戦場特有の血と汗の臭いもない。悲鳴も鬨の声も上がらぬ。静かな清涼な平原で、ただ鼻腔を擽る茶を楽しむ青年。
畳床机にも似た椅子に深く腰を下ろして全く動く気配も見せぬ静寂な戦場だった。
シド > 時折、空気を割く弓射る音が戦場にいると思い出させるも慌ても驚きもせずそちらを眺む。
前線の部隊は形式上とばかりにまばらに弓を射返すばかり。どちらも届かぬのは見ずとも明白――
両軍、どちらも被害を恐れて出ようとせぬのに、眉間に浮かぶ皺を撫でて立ち上がる。
「このままで兵の指揮に関わります。私とその兵で斥候として出ていきましょう。
――ありがとうございます。」
伯爵たる指揮官に許しを得てからティーカップの代わりに剣の柄を。形ばかりだったその兜の目庇を落として馬で駆けてゆく。
人数にして100弱……敵軍の兵たちの顔も見える距離になっても弓も射かけて来ない。
斥候と見縊ってる証―― 仮面の下で口端を吊り上げ手綱を強める。
斥候と銘打った部隊はその敵陣に槍の如く穿ち、眼前に迫る兵士達を剣で槍で薙ぎ倒していく。
ご案内:「オリアーブの主戦場」にリーゼロッテさんが現れました。<補足:毛先の辺りに緩やかなウェーブが入った薄茶色のロングヘア、青い丸い瞳の童顔。幼児体型に、可愛らしい軍服。>
リーゼロッテ > 今日は主戦力の裏で待機し、状況を見て遊撃に出るという任務。
とはいえど、お互いに被害を恐れて動かぬ前線にきょとんとしていた。
なんというか、変な言い方だけれど平和。
傍らに居た参謀を見やれば、お互いに恐れている状態だとのこと。
つまりと首を傾げ返せば、今日は仕事が来ないだろうといわれ目を輝かせていたのはつい先程までだ。
「ぇ、なっ…さ、さ、参謀さんっ!?」
遠目に見えた敵の突撃を見やれば、目を回しながら慌ててそちらを指差す。
単眼鏡で様子を見やる彼は、どうやら始めるようですと淡々と語りつつ、遠眼鏡を畳んでいく。
迎撃体制を取っていなかった兵士がなぎ倒されていく、このままではあっという間に崩壊するだろう。
主部隊の伝令が、どうにかしろと無茶を叩きつけに来た。
「ど、どうにかって…」
こちらは負傷した兵士達を残してきたり、他の部隊の増強に兵を撮られたりして500しかいない。
参謀は呆れたように溜息をつくと、的確な指示を兵士達へ飛ばす。左右前方に展開して弾幕を、そして少数で背後を突いてひっくり返す。
「わ、私が…いき、ますっ!」
残った仲間を守るためにもと、ぐっと見上げて参謀にすがりつく。
危なかったら逃げなさいと一言言われ、数人の兵を連れ、突撃してきた敵の背後を狙う。
その間にも左右に展開した彼女の部下が、魔法の弾丸を充填の合間を潰すように交互の射撃を繰り返す反撃を始めるだろう。
シド > 油断しきった敵を倒すは紙を割くより容易い。
鋼鉄の擦過音を響かせ清涼な平原に銀の煌きが描かれる。馬蹄が通り過ぎる痕に鮮血を残す。
葉の隙間から息を斬り出しつつ、敵手が構える前に一撃を呉れるを繰り返し。ティルヒア軍の前線に動揺が走る。
波濤の如く湧く悲鳴に指揮官の甲高い声音も……時既に遅い。思いの外手応えがあるのに壊滅できるかと踏んだ青年は
兜から覗く銀髪が乱れるも構わず馬を走らせ。
「作戦変更だ。このまま突っ切る。敵軍を真っ二つに割れば本隊も動いてくれる。祖国のために命を惜しむな ……ッ!」
突如振ってきた弾丸は漆黒の鎧の背に当たりて蹌踉めいてしまう。
此度の奇襲は相手の成功―― 貴族の家臣・傭兵達は主君の様態に動揺を。
数からすれば勝るティルメア軍が包囲を始めるのに忌々しく眇めた葡萄色が後方を睨みつける。
「構わん!私に構わず突っ切れ。エイブラハムとザームエルは私の横につけ。後方の部隊を叩くぞ。」
マグメールの奇襲部隊は2つに割れる。大多数が敵陣を掻き乱し奥へ。
そして漆黒の鎧を纏う銀髪の男とその2名が射撃をする後方へと迫る。
リーゼロッテ > 参謀が声を張り上げ、魔法銃の三段構えを指揮する。
一列目が発射し、直ぐ様二列目が前へ、打ち終われば三列目が前に出る。
一列目が充填が終わり、撃てるようになるまで、このローテーションなら十分な余裕ができた。
この三列1セットを左右に展開し、突撃する敵兵を十字砲火することで進撃を抑えこもうとするだろう。
青白い魔法の弾丸が列となって迫るのは、威圧感も強いだろうと参謀は考えたのだ。
「何でそっちに…っ!?」
そのまま突っ切るだろうと思いきや、自分の仲間の方へと敵の頭らしき男が走っていく。
魔法の弾丸と銃剣を使えるぐらいの彼らでは、近接装備の相手と戦うには難しい。
早く止めないと…と、焦る気持ち、ひたすらに銀髪の男を追いかけて背後を狙おうとする。
「じゃあ…いつも通りに」
射程にまで届けば、付いてきた4人の仲間にお願いを一つ。
薔薇蔦の鎖を相手に放ち、動きを止めた後、高熱を宿した赤い弾丸を放つ仲間が撃ちぬくという連携。
直接殺すのを戸惑う彼女の代わりに殺す、そして確実に殺せる手段。
後方200mぐらいまでに近づければ、そこから魔法の弾丸を放つだろう。
他とは違う、緑色の弾が彼を取り囲むように飛来することになる。
シド > 青白い稲光にも似た弾丸に背筋を泡立てながらも冷静に思う。
射程距離外からなのか、弾幕が張られない。統制された部隊だ、と。
そして敵兵の――薄茶色の女性の顔も見える頃になり額に汗が浮かんだ。
縦列の銃隊――…兵法書で習った騎馬で挑んではならぬ危険な陣形が網膜に映ったからだ。
「奴ら……ああ、マズったか。
――いや、馬の速度を落とすなよ。逃げようとすれば狙い撃ちだ。3人散って後方を叩く。
上手くいけばもう一つの部隊が敵陣を蹴散らしてくれる。
いいか、勝利を見誤るなよ。奴らの銃を惹きつけろ。そうすれば私達の勝ちだ。 ――ヴァルハラで逢おう。」
馬上で互いの拳をカチ鳴らして土煙が更に舞い上がる。弾道にも思える迷いなき走りは敵一直線に。
誰かが生き残りて叩き潰せば勝ちと踏んだ。 ――それが二度目の失敗。
銃弾より早く放たれる鎖――馬足絡めるものだろうか――に葡萄色の眸が瞠られる。
「奴らッ、鎖……ッ! …間に合うか!」
手綱を力強く引きて馬が飛び上がる。間に合えば緑色の弾丸の雨を分厚い鎧で受けながらも猛進してその銀の刃が銃隊を切り裂く。
間に合わねば馬上から転げ落ちながらも手にした大盾に身を潜めて耐えようとするだろう。
リーゼロッテ > 以前より鍛錬に寄って破壊力の上がってきた魔法弾は、離れた敵の鎧こそ撃ち抜かないが、代わりに直撃した時の衝撃はかなりのもの。
馬から転げ落ちるなり、倒れるなり、進軍のさなかで起こせば、自身の仲間を踏み潰すことになる。
しかし、敵の頭は止まらない。
放った緑の弾丸は地面へとぶつかる、同時に薔薇の蔦が鎖のごとく、強固に長く伸びれば馬を転ばせるだろう。
「い、今です!」
間接的とはいえ、人殺しに関わるのはやはり怖い。
小さく震える手を抑えながら仲間に指示を飛ばす。
四人が一斉に大盾に身を潜める彼に向け、高熱の弾丸を放った。
赤い弾は、少しでも人体に当たれば火傷を負わせるぐらい容易いシロモノ。
「他にも…っ」
引き連れていた部下2人は薔薇蔦の鎖は届いていない。
再度緑色の光を放つ銃、それは彼の部下の足元に届けば、そこから巨大なハエトリグサを生やす魔法だ。
その大きな口に捕まると、粘液と挟みこむ力で足を捕らえる罠の様なもの。
逆に、少女が仕掛けてから魔法弾の三段射撃はシド達には向けられていない。
同士討ちを恐れて、撃てないのは吉と出るか凶と出るか
シド > 馬上より転び落ち土草舐めて今は盾に潜める。
蒼白い光の渦は終焉なき焔と周りの大気を揺らがせる。瀟洒な鎧も鉄くずにと変える銃弾に痛みに呼気の嵐を零しても。
土埃と熱い大気が許してはくれない。
全てを頻り溶かさんとする熱は、分厚い盾を確かに溶かして、青年を冥府に追いやろうとする。
それでも……息苦しさに兜を脱いだ顔は笑っている。
「参ったな。敵さんやりやがる……が、ここまでずっと辛酸を舐めたんだ。ただじゃ死なんぞ。」
視線の端に馬から落ちる2騎を見る。我が部隊の歓声はまだ遠い―― やるしかないと葡萄色の眸は覚悟を決めて大盾を進める。
衝撃に、痛みに顔を強張らせながらも、蝸牛が如き遅々としても、 然し、焼け爛れて鉄塊にも見える大盾は相手へと距離を縮める。
その距離100mとなれば大鎧を背に……全身鎧を脱いでいく。衝撃と膚を火傷させるかの熱に顔中に汗を吹き出させ留め金を外し。
盾を抱え上げた。銃弾にも当たる覚悟で。その時に三段射撃を行わなかったのは始めての幸運。
「ウルァァァァ!」
獣の咆哮にも等しい叫びと共に大盾を敵陣に投げ放つ。そして駆けた。
最後の賭け ――弾丸には劣るが大気を割くかの音と衝撃が彼女たちを襲う。
それに気を取られている隙に、目立つ漆黒の鎧が脱ぎて純白のパフスリーブ姿で疾駆。
そして手にした銀の剣で敵が構える前に一閃を放とうとしていた。
リーゼロッテ > (「止まらない…」)
高熱の弾丸が盾に吸い込まれる、その熱が盾を破壊しようと熱を流しこむ。
それでも盾に隠れながら距離を詰められては、少女たちとしては分が悪い。
高熱の弾丸は、魔法の弾丸より発射に時間がかかるのだ。
魔法弾へ手段を変えた少女の仲間4人が交互に発射を繰り返すが、貫通は出来ないだろう。
(「火打の弾を…撃てば」)
鉱石の弾丸を放つことが出来る少女だが、その破壊力はよく知っている。
多分溶けた鉄を貫いて、殺せることだろう。
だが、殺したくない。
その思いが未だに拭えず、構えたまま手が震えていた。
再度、薔薇蔦の鎖を放とうと考えるも、咆哮にびくりと震えて集中が崩れる。
「きゃっ…!?」
戦場に似合わぬ囀りじみた悲鳴を上げて盾を、銃身で受け止めるも、力のない彼女は銃ごと押しやられて地面を転がる。
同時に突っ込んできた彼の一閃が、仲間一人を切り裂いた。
ふらつく意識の中、顔を上げれば、血を吹き出しながら倒れる仲間が目に飛び込む。
残った3人は銃剣術で反撃に掛かるだろうが、槍としては短く、不慣れな銃剣の攻撃は、それほど強くはない。
「…ぁ…あぁ…っ、や、やだ…死んじゃ…っ」
強打した体が痛む、頭を打って意識もふらふらする。
仲間の死に瀕した姿に、青ざめながらも動く。
血を滴らせる仲間を治癒しようと、魔法銃を手にすると、四つん這いになって、ゆらゆらと倒れた部下に向かっていった。
シド > 切り裂いた刃は流水が如く返し刀で迫る銃剣を弾く。一足一刀の距離まであと僅かに余す相手には長駆の肩でぶつかり押し倒す。
最後の一人は喉元に剣先を突きつけて武装を解除させる。
刹那の出来事なれど終わった後は無理をした体が酸素を欲さんと激しく上下し。焼け爛れた衣服から覗く胸板が激しく上下していた。
されど視線だけは殺気を込めて未だ敵はいないかと探す……見えたのは最初に見えた薄茶色の髪波の女性。
四つん這いになりて銃を抱えるは見過ごすことは出来ぬと爪剥がれて焼き爛れた指が再び剣の柄を握れど――
仲間の元に歩み寄る様を見届けて鞘に収めた。
「ほらよ……死んじゃいない。浅かった。無我夢中で切り回したからな。
――早く治療してやれ。それと、銃は捨てな。」
四つん這いになる肢体を軽々と抱えて鮮血滲む仲間の元へと運ぶ。
切り裂いたのは銃を握る二の腕。出血少なく気絶している顔が見えるだろうか。
リーゼロッテ > あっという間に倒されていってしまう仲間、それよりも血を滴らせて倒れた仲間に気が向いてしまい、気づく様子はない。
「きゃっ…? ぅあ、えっと…」
不意に体が持ち上がると、素っ頓狂な声を上げて驚いてしまう。
慌てふためきながら確かめると、先程まで離れたところに居たはずの彼がそこに。
敵と怯える様子が見えるが、武装解除を促す辺り…殺す気はないのだろうかと、少しだけ恐怖が薄れるも、少々怯えた顔で彼を見やる。
「ぁ、あの…この銃がないと…魔法、すぐに使えないんです」
味方の傍に下ろされると、傷は浅くそれほどでもなかった。
それよりも手と火傷の状態の酷い彼を見やれば、びくりと驚く。
こんな状態で何で動けるのだろうか、ちょっとの怪我でも慌てる自分とは大違いで、不思議そうに見やるも…運んでもらった分のお礼はしたいと、少々ずれた気持ちが働く。
「あの…運んでもらった分の、お礼…したいですから、使ってもいいですか…?」
と、銃を抱きしめる。
子供がお強請りをするような、迫力のない涙目で見つめる。
未だに戦いの場にいるのもあって、肩は小さく震えて、緩やかなウェーブの掛かった髪先もゆらゆらとしていく。
シド > 「……分かった。そのままで良い。だがおかしな真似は考えるな。こんなナリでもまだ一人くらい斬り殺せる。
私の目的はティルヒア軍の撤退……いや、お前たちの後方部隊の無力化だ。人を殺したくて剣を振るってるんじゃあない。
そしてお前さんは仲間を助けたい。利害が一致してる。だから、おかしな真似だけはするな。」
膨らみ上がる興奮と殺気を吐き出すかのように饒舌となる声音は夕暮れに差し掛かる大気より厳寒を極める。
だが然して、殺気は愚か此方を慮る声には片眉をあげて訝しげに葡萄色の眇める。
――やがては涙目となりて仰ぐ姿には大きく溜息を吐いてから髪を掻き揚げ……ることは出来ずに掌を抑えた。痛みが奔りて。
「ッ……優しいんだな。敵にまで同情して治してやろうなんて。
それじゃお言葉に甘えよう。まずは手を直してくれ。君だろ?あの赤くて熱い弾を打ったのは。とっても痛かったぞ。」
ゆっくりと腰を下ろして老婆が如く火傷で皺寄る両掌を見せる。そして間近に見える涙目へと片目を瞑りて――殺気も失せてしまった。
リーゼロッテ > 冷たく重みのある声に、叱られた子供のように竦み、怯える。
明らかに怖いと顔に出た状態で両目をギュッと閉ざしながら、言葉に耳を傾けていた。
「…そんなこと…できないですから大丈夫ですよ」
殺されそうになった時に弾みで殺したのが一度、自分を騙して殺したのが二度、それから人を殺すことが出来ない。
多分、勘違いされて剣を振り上げられたら…身も守れない気がして、自嘲気味に苦笑いをこぼす。
「だ、だって…悪い人だったら、私の事殺してるはず…ですから。それに、そんな手で運んでくれましたから……ぁ、はい、私のお仲間さんが…そう、ですよね」
手を見れば酷い火傷が見える。
慌てふためきながら頷くも、殺気の消えた雰囲気に安心もして苦笑いが柔らかになった。
それから銃口を空へ向け、魔法陣を描き、トリガーを引き絞る。
それは大輪の蓮を咲かせ、解けるように散っていく。
大きな花弁が小さく分裂し、降り注ぐ花弁は、触れたところを治癒して消えていくだろう。
掌に魔力を集めると、花弁を誘導するように集めて、彼の手と、仲間の傷口へと押し当てていく。
重なる治癒の効果で、多少動かしづらさは残るが、痛みや外傷は収まるだろう。
「どう…ですか?」
おずおずと具合を問う、痛かったであろうことは見て分かるほどで、しょげたような子供っぽい表情で問いかける。
シド > 「殺さなかったのは君が私を前にして仲間の方に動いたからだ。
ああ、コイツは戦場で生きる人間じゃない。仲間や自分の命を大切にするなって思った。
そして哀れに見えたからな。他の奴らも同じだ。命の危険に晒されれば動けない子供だ。
――しかし戦術は見事だった。本当に死ぬかと思ったぞ。」
気絶し或いは戦意を失う彼女の仲間たちに流し目をして。そして幻視の花に目を瞠る。
美しき花弁は荒む心と等しく傷の痛みを取り除き―― 焼け爛れた掌に健康的な膚の色が戻る。
翻して見れば爪も綺麗に伸び揃う様、感嘆の吐息を零して五指を動かしていく。
「グッド。凄いな。銃の力を使ってもここまで素早い治癒術は始めて見た。ティルヒアに置いとくのは惜しいな。
――……さっきの赤い弾が仲間ならば、君はあの薔薇蔓の鎖を使ったのかな?」
なめらかに動く掌は虚空で指遊びを……そして酷くゆっくりとしょげかえるまろい頬を包み込んで撫で上げた。
リーゼロッテ > 「そう……ですね、戦争がなかったらいいのにって、いつも思っちゃいます」
甘いといわれることも多い自分の動きに見通された事実。
少女は悲しげに苦笑いのまま頷いて、肯定する。
他の仲間たちも意識を取り戻しても、刃は向けない。
様子こそ見ているが、敵意というよりはあくまで警戒というところだろう。
「戦術は私じゃないんです、参謀さんが凄く頭がいいから…」
緩やかに頭を振れば、薄茶に髪がふわりと揺れる。
蓮の花に混じった甘い香りは、手入れの行き届いた髪から零れたもの。
「いえいえ、そんな…これがあるから、皆のお役に立ててるぐらいで、その他は全然ダメですし」
謙遜する言葉と共に微笑んでから頭を振る。
ふと、頬に当たる掌にびくりとするも、優しい手付きにどうしても表情が緩んでしまう。
歳相応の屈託のない微笑みで彼を見つめる。
「そうです、そっちの方が得意なので」
こくこくと小さく頷き、肯定する。
戦況はどうなったのだろうか、皆は無事か?
それが気になれば、ちらりとそちらへ視線を向けた。