2015/11/30 のログ
キスカ > 「そう。じゃあ私がやるよ」
「今までと何も変わらない。私がひとり諦めなければそれでいいだけ」

じゃあ、とかバーター取引の条件でも何でもないのだけど。

「その人自身は止められないかもしれないけど、次の悲劇は止められるから」
「おじさまはえらい人なんでしょ? 鎧もこんなに立派だしさ」
「子飼いの密偵がいるなら貸してほしいし、警護の私兵だってたくさんいるはず」
「そういう人を私に貸して。人さえいれば大概のことはどうにかなるんだから」
「……自分のふるさとが壊れちゃうのは誰だって嫌に決まってるよ」
「みんな、この戦いの後もずっとここで生きてかないといけないんだから」

おじさまができないなら、私が代わりにやればいい。
でも、ここは知らない土地だからたくさんの手が必要になる。
情報収集ひとつとっても商会の人員だけでは追いついていないのが現状だった。

「私はただの余所者だから、力が及ばないところは助けてほしい。できるだけ多くの人に」
「それでよければ、私がやるよ。やらせて、おじさま」
「……ところで、第一軍のグスタフさんって一番えらい人と同じ名前だね! けっこう言われない?」

グスタフ > 「――そうじゃな」

みんな、この戦いの後もずっとここで生きていかないとけない。
そう、そうだった。
自身は彼女に殉じるつもりでも、島民全てをその巻き添えにするわけにはいかないのだ。
こんな簡単な事も言われなければ分からないとは、老いとは怖いものだ。

「――そうじゃな、いいじゃろう。
第一軍の連中に、嬢ちゃんの事を伝えておこう」

そして、彼女に向けて悪戯っぽく笑うとこう告げる。

「もし第一軍の連中を使う時は、こう言っといて貰えるかの。
『グスタフ司令を怒鳴りつけた女だ、私に従え』とな」

キスカ > 「ありがと。それだけ伝えてもらえれば十分………うん?」

つられて笑顔になったまま、つかのま時が止まる。

第一軍をあずかる古参の名将グスタフ・ヘルヘイム。
兵たちの尊崇も厚く、軍歴の中で培われた勇名はもはや軍神の域にして雷霆の君。
この戦いに駆りだされた兵たちの中でも最高峰の一角をなす武人だ。
戦端が開かれて間もない頃に緒戦を飾った、ティルヒア側の諸将の一人でもある。
―――その人が、どうしてこんなところに。
顔が火照ってそのまま火が出そうになって、ばくばくと動悸が止まらなくなる。

「……んっ、で、でも心強いのはたしかというか! 本当に。ありがとう、ございます」
「そうだ。ファリアさんとひふみんに連絡入れないと。でもその前に初動捜査かな」
「まずは口封じされる前に尋問を。それがあの人たちの為にもなるから。私も立ちあわせてもらっても…?」

暴れる心臓を押さえながらお願いしてみる。

グスタフ > 「――お前さん、この『雷神』を怒鳴りつけたんじゃ、もっとしゃきっとせんかい」

かっかっかと笑うと、ばんっと彼女の背中を叩く。
久しぶりに渇を入れてもらったせいか、気分が晴れやかだ。

「悪いが、ワシはこの後前線での。捜査の方は、お前さんに任せるわい」

グスタフは警備兵と第一軍の参謀に、彼女に従い捜査するよう命じる。
おそらく、女王まではたどり着けないだろうが……それでも、少しでもこの島の未来が良くなるならば、するべき事だ。

「任せたぞ、嬢ちゃん。 ――この島の、未来をな」

一通り指示を出すと、老将は王宮に向かって歩きはじめる。
若い連中が頑張っているのだ。自分も――もう一度、あの子と向き合う時が来た。

その決意を胸に秘め。老将はその場を立ち去った。

ご案内:「“千年の女王の都”ティルヒア 商業区画」からグスタフさんが去りました。<補足:ティルヒア軍を率いる老将。老齢にも関わらず指揮能力は衰えない>
キスカ > 「えへへへ……あいったぁ!!」

大きな手に叩かれてよろめく。―――このおじさまわりと容赦ない!
しっぽを出したままだったらぴんと伸びてしまっていたかも。
背中をさすりさすりしながら、思いがけない僥倖に感謝していた。
ミレーの難民問題と奴隷交易の闇を追うのに、これ以上の後ろ盾はないかもしれない。

「ぜ、全部はわからないけど、この手の届く限りのことなら」
「―――まかしといて!!」

手を振り振り見送って、おかしなはずみで交わった道はふたたび分かたれていく。
その先に待ち受けるものを、今はまだ知る由もなく。

ご案内:「“千年の女王の都”ティルヒア 商業区画」からキスカさんが去りました。<補足:白銀に黒のメッシュが入った長髪の色白娘。生地の薄い異国風のローブを軽やかに纏う。>