2015/12/11 のログ
シド > 「ああ、君が隊を率いているのは分かってたよ。ヴィヴィトーネ。隊を纏めるべき重責を負ったものの目をしている。」
軍靴の跫音が経る。2人だけが、城門へと繋がる橋上にと踵を深く鳴らせていく。
ガントレットをつけた無骨な指は長剣の柄を、そしてもう一つの獲物の位置へと指を這わせて確かめて。
そして今一度相手を見た。鎧すら纏わぬ華奢な体躯に。されど抱えられた槍を見るに決して侮ってよい相手ではないと。
目庇の下で爛々と輝く葡萄色が値踏みをしていた。
「それじゃ、始めようか。」
やがてその腰は深く落とされ。相手の正中線へと揺れることない剣の鋒を定める。
言葉の掛け合いもほどほどに。戯言好む唇は今や気息を整えるのに忙しい。
そして左足が血を蹴り砲弾めいた勢いで長駆が駆けてゆく。
――狙いは主導権を握ること。その刃圏に入る前に一撃を呉れてやろうと、歯の隙間から息を斬り出しつつ。
相手の肩へと袈裟懸けに剣先が弧を描く。
ヴィヴィ > 味方の兵が城門の内へと引き、二人だけの戦場を見守る形となる。
頑丈な橋上に、脚甲がかしゃ、と金属の軋む音を軽く鳴らす。軽装鎧の音さえ軽い。
目前へと進み出てきた男を注意深く見遣る。剛堅そうな全身鎧、目を引く長剣。
「……来い、シドニアス。」
宣告し、左足を下げて膝を撓める。やや半身へと姿勢を変えて。
己は元より巧みに言葉を操る気性をしていない。薄紅の唇、細く息を吐いて、強く引き結んだ。
駆けてくる長駆。まるで砲弾のように、速い。
迎え撃つように、両手に構えた槍を直線に繰り出す。鋭い刺突は、袈裟懸けに振り下ろす剣を持つ肩に狙い定めて。
男の踏み込みの方が速いか、はたまた自身の刺突の方が速いか。それを競った覚悟の初手。
己の槍が遅ければ、繰り出した槍が阻む形となり、浅く肩に傷を受けることとなろう。
シド > 相手の言葉に微かに眉宇を寄せる……其れが采配を分けたやもしれない。
穿つ穂先は剣先が届くよりも早く、肩の甲冑を穿って体制を崩す。
相手の肩を、槍を持てぬようにと切り割く筈の鋒は虚空を虚しく掻く。
重心が崩れた長駆が相手に凭れ掛かりそうなほどに。
「クッ…… シドニ『ウ』スだ。確りと頭に刻んでおけ!」
小さな怒気を帯びる声音を、碧眼と紫眸の視線が重なる刹那に吐いたその直後、肉体は条件反射の瞬発を為した。
左足に深く重心預け屈めた上体を後ろへ引き、同時に前に出した左足を相手の腹部に蹴りつけようと。
叶えば相手を蹴り飛ばしながら再び両の足を地につけ、正面へと剣を構えて大きく息を吐く。
叶わずば相手に凭れ掛かるように浅く肩でぶつかるだろう―― いかつい甲冑が歪む痛々しい肩を。
ヴィヴィ > くす、と戦時にあって笑みを浮かべる。
槍の間合いは長い。甲冑の肩を穿ち、男が体勢を崩した。
袈裟懸けに振られた剣の鋒は虚しく空を切る。己の身には届かぬ位置で。
「これは失礼。シドニアス」
再びの呼び間違い。否、挑発。
長駆が傾げば、己へと凭れそうなほどに降ってくる。が、男の見せた瞬発。
く、と短く呻き蹴り足から逃れようと上体を後ろへと逸らすが、刺突のために前に出ていた右足がそれを遅らせた。
鍛えられた男の長駆が放つ蹴りを強く腹部に受けて、体勢を崩し後方へよろめく。
槍を片手へ持ち変え、掌で滑らせて杖がわりにすることで転倒は免れた程度。
男からの追撃があれば、対応は難しいか。
シド > 「ふぅぅ……わざとか?なぁ、お前。挑発したのか?やってくれるな。」
気息を整えながら諸手にチアkらを入れる。穿たれた右肩が痛むに兜の奥で額に汗を浮かび。片手にと剣を握り直す。
獲物を失った右手は鎧の隙間に入った銀髪を出すように後ろから優雅に掻き揚げ
酷くゆっくりと相手の前にと掲げられて緩く指を動かす。
彼女が立ち上がるまで来い、とばかり大仰に剣を肩で担ぎ。
「淑女が杖を付くなんてよろしくないな、ヴィヴィトーネ。今度は片手で相手をしてやるよ。
――鎧がない分、良いハンデだろう?はは。」
玲瓏に舌腹で転がす声音に笑みのさざめきを乗せてゆく。挑発のお返しといったところだ。
眼中にないとばかり横に向きながら、ちらりと見るのは己の軍勢。既に立て直してるのを見届けて鼻を鳴らす。
「ギャラリーを退屈させるな。お前の槍の曲芸を見せてみろ。」
ヴィヴィ > 「っく、かはっ……さて、どうかな」
片手、蹴りを食らった腹部を押さえて九の字に折った体勢立て直し、再び両手に槍を構える。
鍛えた長駆の男から受けた衝撃は、身体の要をじくじくと痛ませ、こめかみに脂汗を滲ませる。
上目に、己よりも遥かに長い銀髪が掻き上げられて靡く様をしばし眺めて息を整え。
大仰な仕草で肩に担がれた剣を、睨めつける。
「わざわざ初手を受けた上にハンデをくれるとは親切なことだ。」
女の背後、ティルヒアの兵たちは固唾を飲んで二人の勝敗の行方を見守っている。
まるで、隊を率いる長たる女の純粋さを写したように、疑いなく。だが、女一人よりも城門の守護を優先させるつもりやも知れず。
「曲芸などと……言ってくれるっ!」
その挑発には、容易く乗ってしまった。
右足を大きく前に、左足で地を蹴り槍を正面に構えて男へと突撃する。己の身をも槍の一部とするかのように。
狙いは胸部。堅い鎧に守られた場所を目掛けての全身を乗せた刺突。単純な直線の。
シド > 「はは、無礼な口振りだが怒った顔はなかなかどうして……
初手といってもあの程度なんのこともない。レディーファーストさ。
ほら、きなよ?お前さんの坊や達にカッコいい所見せなきゃなぁ。」
わかりやすく怒髪するに鼻を鳴らして首を振る。
大人しく見守る彼女の部隊に反して、青年の部隊は何かに気づいたのか微かにどよめきが立つ。
疑うことを知らぬを体現した突きに正面は向けど長駆は動かない。肩に担いだ剣も其の儘、地を蹴る足音に律動刻むように肩上で揺らし。
そしてその身があと数歩で胸を貫くという所で兜から覗く唇を弓月の弧に描いた。そして2人の間に空を斬る音が響く。
それは鎧の腰元に隠していた茨の鞭。挑発していた掌は銀の薔薇造花を模した柄を握りしめて振り上げていた。
本来の武器――その鞭は空を這う蛇の如く迫り、狙う先は彼女の腹部――
当たれば服は破け、肌に襲うは痛みではなくひりつくような熱く甘い悦楽。情交で腹奥まで貫かれるような感覚が襲うだろう。
槍の鋒にややも体を横にずらすも、当たらねば、或いはその愉悦に耐えて突っ込めば右胸にと当たるやもしれず。
ヴィヴィ > 「シドニウスっ!」
怒りに震える声音が叫び、身体を乗せた刺突を真っ直ぐに放とうとした。
動かない長駆に疑問が微かに浮かび、肩上で揺れる剣に不安を抱いた時には、遅く。
男の唇が弧を描くのを見て取りながら空を裂く音を聞いた。それはしなる茨の鞭が生み出した音。
ぱしん、と鋭く軽鎧の腹部を打たれたと同時、弾ける衣服。打たれた瞬間に走った熱い悦楽の衝撃に背を反らして、がくんと膝をついた。
槍に縋るように強く両手を握る。ぶるぶると身体を震わせ、驚愕の表情で男を見上げる。
遠く、葡萄色の瞳を窺うように。
「な、にを……した?」
はぁ、と己の意志と裏腹に甘い吐息が声に漏れた。
シド > 「なんだ。やっぱり態と間違ってたか……全く可愛い顔しておちゃめなことをしてくれる。
お前さんはギャンブラーに向いてるかもな……今回の賭けは私の勝ちだが。」
穂先が届かずに地に落ちたのに瞼を落として剣に鞘に収める。
そして闘志虚しく崩れ落ちいく様を呆れたように眺めながら唇が謳うように言葉を綴る。
「マジックアイテムだよ。火も灯さなければ傷も癒やすこともないが、肌に当たれば気持ちよくて喘いでしまう、調教用のな。
痛みに耐えて死を恐れない者は、どうしてなかなか。こういうのに弱いのさ。
分かったかい、英雄さん。」
もう一度振り上げた鞭は槍縋る手指を打ち、地を激しく打つ鞭先が胸元のプレートの留め金へと迫りてまた肌を熱く苛ませる。
ヴィヴィ > きり、と奥歯を噛み締めて男を睨みつける碧い瞳。強制的に与えられた快感に薄ら涙が浮かんでいる。
釣り上げた眉と眦とは、まだ闘志衰えていないことを示すも、慣れぬ感覚に即座に立ち上がることもできず。
「悪趣味なものを。……ひぅっ!」
再び振り上げられた鞭が手指を打てば、槍を取り落とし。
鞭先が胸部装甲の留め具を弾けば、まろやかな乳房を露にしてその先端を尖らせる。
まだ性経験の浅い己にとって、これは凶悪な武器だった。
鞭打たれる度に走る性感が身体から戦意を奪ってしまう。心を置き去りに、熱く火照ってしまう。
「城門をっ、閉ざせぇっ!」
力を振り絞り、後方の兵たちへと叫ぶ。己が負けた以上、戦線を立て直さなければならないと、指示を飛ばした。
同時に、惨めな己の姿を見せずに済むようにと、願って。
シド > 「悪趣味なのはお前だろう?鞭で打たれて興奮してる…そうして詰るのももっと虐めて欲しいんだろう、痴女さん?」
その尖る乳首へと鞭先は正確に幾度も打つ。その白肌に朱の痕は残せど血は出ず。
皮破けぬ代わりにむず痒く狂おしい愉悦が脳内麻薬を多量に送る。
肉打つ音を響かせゆく内に、その眸が眼前の兵士たち、その城を睨みつけて。
「ティルヒア軍に告ぐ。この女―― おい?」
宣告は彼女の叫びを以って掻き消される。兵士たちは束ねる体調を慮れど指示に従い城門を閉ざすのに頭を抱えてしまう。
狙いは辱め――ではなく。挑発。彼女を生け贄に少しでも内部の義憤溢れる兵士たちを誘い出したかったのだが――
「してやられたな。読んだのか?この私の考えを?自己犠牲に伴うその矜持には誰にも勝てなかった……としておこうか。
――だが覚悟はできているんだろうなぁ。城門を閉ざしたとなれば、もう救いの手はない。」
実在の鞭では不可能な地を這う動きで彼女の首を縛り上げる。無論、呼吸が出来ない程ではないが。
立たせて此方を仰がせようとする寸法だ。
兜を外し厳寒極まる声と共に葡萄色が冷酷に碧眼を覗きこむ。
ヴィヴィ > 「ちがっ、その鞭の所為で……っ」
辱める言葉で、素直に羞恥を覚えて否定の言葉を必死に紡ごうとし、息を飲む。悲鳴を、嬌声を、あげることは堪えた。
尖った乳首を的確に、幾度も打たれ、朱く痕を残される。じんじんと痛痒に似た狂おしい悦楽が身を襲いくる。
脳髄に送られるその刺激は徐々に理性的な思考を奪い、下腹にまで熱を伝播させる。
だが、男の宣告は遮ることができた。狙いは知らずとも、男の思惑を崩すことは出来たようで、苦しげに笑みを作る。
いっそ潔いまでの勝気な笑みを。紅潮した頬や、熱に潤んだ瞳のままに。
「ざまを見ろ。……好きに、すればいい。っく、ぅ……」
鞭が通常ではありえない動きで地を這い、己の首へと巻きつく。
男の意図する通りに動かざるを得ず、震える腕で露にされた胸を隠して立ち上がる。
身長差の分、喉を反らすこととなる。冷えた声音と、葡萄色の瞳に覗かれれば、これからのことに僅か、浮かんだ恐怖が見えるだろう。
シド > その勝ち誇る言葉を聞いても表情は変わらぬ。薔薇蔓を模した鞭を引っ張り更に顔を近づけていく。
その碧眼の眼窩まで見過ごすように。喉に食い込む鞭の棘が頸動脈を刺激し全身を肌に火息を吹くかの劣情を誘わせ。
「違わないさ。お前は祖国を守る槍を手放し快楽に選んだ。城門の向こうの仲間が何を考えてるか当ててやろう。
城門を閉めて自分を犠牲にした英雄などとは誰も思わぬ。
敵将の前で無様に這いつくばり、その肌を晒して喘いでる売女への軽蔑だ。
兵士ではなく娼婦。殉教者ではなく売国奴。ヴィヴィトーネ、それが今の貴様だ。」
泰然と紡ぐ唇は雹雨より強く女の鼓膜を震わせ。無骨な掌がきつめに乳房を握りしめて尖りを指腹で陥没させていく。
愛撫ではなくその心臓に聴かせるように力強く。
そして見えた恐怖の色合いに鞭を解いて半裸の肢体を肩に担いでいく。
「ああ、好きにさせてもらうさ。怯えてる今のお前を見せしめにしても奴らは籠城はやめない。
ならば、たっぷりと『教育』して……せいぜいティルヒアの士気を下げてもらおう。」
長駆は彼女を担いでも揺れること無く強く踵を踏みしめて歩む。目の前にある尻肉を鷲掴みて言い聞かせるように紡ぐ声は。
やがて城前から消えていく。2人の似た色の髪波を、夕暮れに吹く木枯らしがいつまでも不安げに揺らしながら……
ヴィヴィ > 冷酷な表情を見上げる碧眼には怯えが滲む。男に対する、異性に対する僅かな恐怖。それが隠しきれない。
頚動脈に受けた茨の刺激が全身に熱を回らせる。は、と荒くなる呼気を短く何度も吐き出す。
「違う……っ! 英雄などでなくとも、彼らは、そんなことは……っ!」
必死に紡ぐ否定の言葉。仲間への信頼。真っ直ぐで純粋で疑いを知らぬ少女のような内面が垣間見える。
しかし、きつく乳房を握られ、先端を押し潰されれば痛みと、快感に涙を零して呻く。喘ぐ。
男の指に伝える鼓動は早く、不規則に乱れて脈打っている。
半裸の己を担ぎ上げられ、尻を鷲掴みにされると共に告げられた言葉には、ついに上擦った悲鳴が小さく上がる。
「ひっ……ぅ、く」
いやだ、と幼く口にしそうになるのを飲み込んで、身体を強ばらせた。
夕暮れの木枯らしに肌を、髪を吹かれながら。何処へか運ばれていく。
その先に待つものへの恐怖を、どこへも吐き出すことはできないままに――。
ご案内:「女王ティルヒアの城の周辺」からシドさんが去りました。<補足:分厚い漆黒の全身鎧。兜の隙間から銀髪が覗いている。>
ご案内:「女王ティルヒアの城の周辺」からヴィヴィさんが去りました。<補足:銀髪、碧眼、軽装の鎧姿>
ご案内:「◇“千年の女王の都”ティルヒア」にアリサさんが現れました。<補足:メイド服は従者の戦装束>
アリサ > ティルヒア市街地、商業区の表通り。
千年の女王の都と呼ばれるだけあって、その街並みはとても美しかった――のだろう。
壊れた魔導機械の残骸にティルヒア兵の死体の山。
王国軍の兵士達は早くも戦勝気分か、占領した区画を我が物顔で闊歩している。
そんな兵士達の群から離れ、一人歩く女がいる。
女は、戦場にはおよそ不釣り合いなメイド服を身に纏っていた。
腰には短刀、両手には手甲と武装こそしていたが、違和感は拭えない。
然し行き交う兵士達はと言えば、気味の悪い物を見た、という調子でそそくさと距離を置く程度だった。
――戦場に介入して10日程度経ったろうか。
メイド服を着た女は当初、兵士の慰み者と思われていた。
胸元や太腿を露わにさせたその格好は、生死の境目で滾る男達の良い餌でしかなかった。
前方にはティルヒア兵が、背後には己の体を狙う王国軍が。
四方から狙われ続ける日々――然しそれもせいぜい2,3日のことだった。
女の戦闘能力は常軌を逸していた。
戦場を駆ける姿は影を捉える事も叶わず、転がる死体が道標と化す。
魔導機械を素手で破壊し、腹を槍で貫かれても素知らぬ顔で闘い続ける。
白魔道士の手も借りず傷口を再生させ、魔族すら儀礼済のナックルで殴り倒す。
自軍の3倍以上の敵に囲まれた状況下、単騎で活路を開き、挙句最後まで一人で闘い続け殿まで務めた事もあった。
その人知を超えた戦闘能力を称えられ、戦女神などと呼ばれ――然しそれもせいぜい、2,3日のことだった。
今現在、女は"死神"として、敵からも味方からも距離を置かれている。
"強さ"も度が過ぎると、脅威と見做されるのは世の中の常ではあるが――。
女は、そんな扱いも素知らぬ顔で、占領下に置かれた街区を眺めまわしていた。
アリサ > 鼻孔を擽る焼け焦げた匂い。人が燃えているのだろう。
唇のベタつく感触は、焼けた脂肪が空気中に飛散しているからだ。
周囲を見回してみれば案の定――黒く焼け焦げた女の死体。
胸に子供を抱き締めた格好のまま、死んでいる。
「――…気の毒に」
その言葉は偽らざる正直な気持ちである。
――女は死神の如き戦闘能力を有し、生と死の狭間で己の暴力を存分に振るえる事に少なからず喜びも覚えていた。
けれど、戦闘狂ではあっても殺人マニアではない。
母と子が焼け死ぬ様を見て、同情をする程度の感情は、この女にも存在した。
"助けて!"
その悲鳴は、割と近くから聞こえてきた。
見れば、まだ幼い10代前半の少女だろうか。王国軍の兵士に囲まれ、衣服を引き裂かれている。
兵士達はと言えば、数名で一般市民の少女を嬲り、犯そうとしているのか。
公道のど真ん中でもお構いなし、彼女を押し倒して下半身を露わにし始めている。
「――……」
襲われている少女と、目が合った。彼女は助けを懇願する。
襲っている男達と、目が合った。彼らの表情に動揺が広がる。
一瞬だけ時が止まり――やがて女は、踵を返す事を選択した。
"いやぁ!!助けて!!"
引き裂くような悲鳴を背に、女はただ歩く。
兵士達は――見なくてもわかる。安堵した表情を浮かべ、すぐに少女を犯すのを再開した。
アリサ > 勿論、兵士達なぞ、殺そうと思えば数瞬で殺せた。殺した後の始末とてどうとでもできた。
けれど、何もしなかった。
――犯される少女が可哀想だと思う。同じ女として、男に凌辱される苦しみは筆舌に尽くし難いだろう。
一般市民を手にかける兵士達、"簒奪と凌辱は戦の華"と見過ごす上官達も許せない、と思う。
けれど、何もしなかった。
弱肉強食主義者では無い。気の毒に、と思う程度の情はある。感情をロストした人形では無い。
強いて言うなら――。『そういうものだ』と達観しているからに過ぎなかった。
従者は考えない。
なぜこんな戦争が始まったのか。なぜ市民が巻き込まれるのか。なぜ罪も無い人が殺されるのか。
――それらは全て、従者にとってはどうでもいい事なのだ。
自分の役割はただ一つ。"主が立つこの戦場で、主を護る"
ただそれだけ。
さらに言えば、己の武勲は全て主の者。自分を従える主の為に闘う。
それしか考える必要が無いのだ。
女は再び街を歩く。王国に蹂躙されている最中の、戦場と化した街を。
夜の闇に包まれている市街地、いつ誰に襲われ無いとも限らない。
周囲に若干の警戒をしながら。
ご案内:「◇“千年の女王の都”ティルヒア」からアリサさんが去りました。<補足:メイド服は従者の戦装束>