2015/11/22 のログ
ご案内:「◇「ティルヒア動乱」の現状」に さんが現れました。
  > 「ティルヒア動乱」――神なる龍の咆吼、「白龍王降臨」
  >  
――戦端が開かれてから幾つかの時が経った。

王都へ至る道や、オリアーブ地方では大小の戦いが繰り広げられていた。
開戦直後に陥落した「堅実なる都市フラ=ニス」は王国軍により取り戻され、
現在は王国軍の拠点としての機能を取り戻していた。
開戦直後に雷電の如く戦場を疾走したティルヒア軍だったが、
徐々に王都も戦時下としての状況を飲み込み始め、
戦地への多くの増援などを増やしたために戦力は拮抗しつつあった。

オリアーブ地方にはいくつかの要塞も築かれ、
いよいよ本格的な戦争の様相を呈していた。
主な戦場はオリアーブ地方に移り、アフリークやオリアーブ海ではもちろん、
中にはオリアーブ島へと上陸する王国軍も増えはじめていた。
徐々に王国軍が盛り返して来たとはいえ、
しかし、ティルヒア軍の兵士の多くはティルヒアへの強い忠誠心を保ったままである。
未だ仕えるべき一人の「王」を持たぬ王国軍とでは、その兵士の多くに士気の差があった。
ティルヒア軍には乱れた王都を正し、邪なる者たちから解放するという大義名分を持っていた。
 

  >  
たとえティルヒアが暴政を行ったとしても、多くのティルヒアの民は女王への信仰を抱いていた。
オリアーブ島に上陸されても、多くの場合はティルヒア軍の奮闘により、
「千年の女王の都」へと王国軍が入城することは叶わず、
ティルヒアの都の入り口付近に攻め入るのが限界であった。
ティルヒア軍の多くは、ティルヒアの乱心がいつしか治まり、
この戦いに終止符を打つことを信じていた。
ティルヒアの都では嘆きが満ち始めていたが、神なる女王を諌められる者もいなければ、
女王を穢し続ける神代よりの巨大な闇をどうにかできる者もいなかった――

  >  
  >  
状況が入り乱れ始めたころ、「千年の女王の都」のティルヒアの城の頂上において、
白き肌と髪を持った幼き姿のティルヒアが、オリアーブの海を見つめていた。

「……これが本当に民のためになるのか。
 神は……本当にこの国へ再び来るのか」

自ら引き起こしたはずの戦乱や、都の様子を見てティルヒアは涙していた。
それが、自らの“意志”ではなかったかのように。
民の嘆きを聞いて、ヤルダバオートの力の一つに穢された魂魄が、揺らぎ始めていた。

「ヤルダバオート――そう、全ては、全ては。
 憎き、憎き混沌の子の導き。偽りなる創造主。
 おのれ、おのれ、おのれ――」

  >  
しかし、ティルヒアの魂魄は正常な状態には戻らない。
ヤルダバオートの化身に、その身と魂魄に刻みこまれた傷はあまりに大きく根は深い。
民に、自らの子らに向けていた慈愛の心は曇ったまま。
その身を焦がすは怒り。激しい激しい怒り。
偽なる神。ヤルダバオート。この国に魔族の力を持ち込んだ者。
その力の一端なるナルラート王への憎悪。
そして、この世界を想像した真なる神、アイオーンを忘れた王国の人間への強い怒り。
それは、魂魄にもたらされた穢れによって、否応なく増幅されていく。
魔族に侵されるこの国を嘆く心は狂わされ、王国を愛する心は乱され、
ただただ強い強い怒りのみがこみ上げる。

  >  
不意に、一つの黒い影がティルヒアの背後に現れ、その幼い身を撫でた。
身体の奥に触れるように、魂魄の底に触れるように。

「――ッ!」

刹那、ティルヒアの声にならない声が上がり、
その瞳は世界を焼きつくすほどの怒りに燃えた。
それと同時に滑り込んでくる。
自ら引き起こしたはずの戦乱で死んでいくティルヒアの戦人。
自らが命じたはずの淫祀なる儀式のために、
闇の化身にティルヒアがそうされたように己が身を穢されていく都の者達。
それらの声がティルヒアの耳に滑り込んでくる。
そのどうしようもない矛盾は、ティルヒアの身体に怒りの力をみなぎらせていく。

そして、あまりに神々しい輝きが、彼女の身体を包み――

  > 彼女に触れた黒い何かは、その果てにある混沌を望むかのように、笑みを浮かべていた。
  >  
  >  
――そして、ほぼ同時刻。
オリアーブ海での海戦において、それは訪れた。

戦後も一つの奇跡、夢のような出来事だと語られる戦の一つ。
王国軍の艦隊と、ティルヒア軍の艦隊が激しい戦闘を繰り広げていた。
艦戦だけではなく、ついには敵方の船に乗り込んで、直接の戦闘が繰り広げられるほど、
その戦闘は激しいものだった。幾人もの兵士や艦船が海の藻屑と消えていく。

そんなとき、突如オリアーブ海がいつもよりも更に激しく波打ち始めた。
それは尋常ではないものであった。
元々荒れ狂う海として知られるオリアーブ海だったが、
突如ここまで荒れるようなことはめったにないことであった。
空は突如暗雲に包まれ、雷鳴が谺した。
稲光がいくつも空を照らし、海はどよめき、大風が巻き起こる。

  >  
「……これは、まさか」

ティルヒア海軍の老将はこの様子を見て言った。
思い当たることがあった。これは伝説に記された光景だった。

「陛下だ……ティルヒア様が、陛下が、国守の龍をお呼びになられた!」

その言葉を聞いて、ティルヒア軍の兵士たちは言葉を失い、空を見上げた。
暗雲垂れ込める空……その切り裂くようにしてそれは現れた。
天から舞い降りるように、あまりに神々しい光を伴って。
青銅の鐘の音のような声を天地に轟かせて。

旧き伝承を忘れた多くの王国の兵士はそれが何であるかはわからないだろう。
ナルラート王によって消された伝承の中に存在した偉大なる神の一柱。
アイオーンの神話を持つミレー族ならばかろうじてその正体に気づくことはあったかもしれない。
しかし、最早それは忘れ去られた神。
混沌の神を祭る神殿を持つ王国からは消えて、
ただ自ら創造したオリアーブ島を護るためにこの二百年を過ごしてきたもの。
龍の中の龍、世界の草昧の時より存在する、アイオーンのしもべ。

あまりに巨大な“白き龍”が天よりオリアーブの空へと降臨した。

  >  
『――――――――!!!』

遥か東国の神話伝承にかろうじて姿を残すような、
オリエントの色を濃く持つ白き龍が戦場に姿を現した。
単なる龍ではなかった。それは魔物であるドラゴンとは全く異質なものだった。
その力はあまりに大きく、神々しい。一目見れば誰も理解できるほどに。

それは口を大きく開け、高く高く咆吼した。
その青銅の鐘のごとき叫びは、世界に谺する。
その衝撃は、海を、大地を揺るがした。
咆吼と衝撃は、王都まで、そして遥か魔族の国までをも揺るがした。
王都では何事かという騒ぎが起こり、魔族の国ではさらなる混乱を巻き起こした。
それは、すでに力を失ったと思われていたものの、絶大なる力を伴った叫びであったために。
アイオーンのしもべが力を取り戻したとなれば、それはただ事ではない。

  >  
「……神だ、神の龍がついに」

ティルヒア軍の老将はそれを涙して迎えていた。
その他多くのティルヒア軍の兵士も、天に祈りを捧げていた。
それは神だ。遥か神話の時代に姿を現した神。
いかなる精霊や魔王をも凌駕するような力を秘めたもの。
そして、人々の信仰が失われればその力を失ってしまうもの。

その怒りの声が、天高く響いた。

神の怒りが天地を灼く。
白き龍が放った咆吼により、戦場は大いに乱れた。
ティルヒア海軍の老将は次に何が起こるかを察した。

「全速力でこの海域を脱出せよ!」

神の怒りが爆発するのだ。
それをいち早く察知し、ティルヒア軍は全速力で海域を脱出し始める。

  >  
幾つもの炎や雷撃が海を奔り、幾つもの艦船を沈め始めた。
王国軍の多くがそれに巻き込まれ、さらにはティルヒア軍の艦船の一部をも海の藻屑へと帰す。
龍は荒れ狂っていた。怒りのあまり、我を失ったかのように。
その体にはいくつもの傷がある。
雲海をのたうち回りながら、龍は怒りの力を振りまいていく。
龍はアフリークやオリアーブの平原にも姿を見せて、
そこに築かれた要塞などに大きな損害を与えた。
王国の動乱を好機としてオリアーブ地方にやってきていた異国の軍隊や魔族の軍隊、
それらにも大きな損害を与えていく。
ティルヒアが駒として扱っていた魔族たちにさえ、その被害は齎された。
ただただ、神々しい破壊が地を嘗める。

大いなる龍は、人に、魔族に、大きな力を見せつけていった。
万歳、万歳という歓声がティルヒア軍から巻き起こった。
しかし、その神の怒りはティルヒア軍をも巻き込んでいき、
それ知った龍は更に怒りを燃え上がらせるように空を激しく飛翔した。

猛烈なる破壊の怒りを齎して、神なる龍はオリアーブ島の方へとその姿を消していった。

  >  
結果として、ティルヒア軍は王国軍に多大な損害を与えることができたが、
同時にティルヒア軍にも被害が出、一端オリアーブ海から脱出せざるを得なくなった。
ティルヒア軍が保っていた制海権も揺らぎ始めたのであった。
白き龍の怒りは、おのが民を護るはずのものだったが、
怒りに狂った心はその力の制御を奪わせた。
王国軍などに強烈な衝撃を与えたとはいえ、
オリアーブの海は現在、まっさらな勢力図となったのであった。

この海戦で生き残った兵士の一部による報告は王都まで届いた。
単に魔物を呼び出したというだけではない事実に、王都の一部の者達にゆらぎを与えた。

  >  
この海戦で生き残った兵士の一部による報告は王都まで届いた。
単に魔物を呼び出したというだけではない事実に、王都の一部の者達にゆらぎを与えた。
ティルヒア軍の切り札かとも言われたが、
そういったものがあれば先に使っていたのではないか、などの意見も出され、
さらにティルヒア軍にも被害が出たとの報告もなされ、混乱は極まっていった。
しかし、これだけの戦争となったものを今から引くわけにもいかない。
ティルヒア軍が呼び出したものにせよ、制御はできていない。
また、その後の“龍”の出現も報告されていなかった。

龍の出現と共にオリアーブ地方にて以上に増大した魔力も、今はその反応は消えていた。
龍は、どこかに消えてしまったというほかなかった。
十二分に気をつける必要はあり、王国軍にも絶大なダメージを与えたものの、
ティルヒア軍は一端オリアーブ海から引き上げ、
こちらが攻め入る隙が生まれたことも予想された、

龍の出現は大きな衝撃となったものの、王国軍による追撃の機会をもたらすこととなった。
王国軍は退くことなく、ティルヒアとの戦争を続行する事が決められた。
官民問わず、龍に対抗するために魔術師が多く集められ、前線への投入も決められた。
すでに、この戦は退く事ができない所まで来ていた。
仮にあの龍が王都に現れれば事である。
早期の決着、ティルヒアの陥落が急がれた――

  >  
――龍の出現から数刻後、ティルヒアの城にて。

「……はぁ、は、ぁ」

城の頂上に降り立ったティルヒアは、身体を大きく震わせて、苦しんでいた。
その姿は幼い少女のものであり、“真の姿”に一時的に戻ったため、その力を大きく失ったのだった。
おそらくは、暫くの間龍になることは不可能であろうと、ティルヒアは自覚した。
ティルヒアの都では、龍の出現を聞いて歓声が湧いていた。
それを城の頂上で聞くティルヒアの元に、黒い影が迫っていた――

  >  
その後、ティルヒアの求める民への儀式は更に苛烈なものとなった。
民の怒りや嘆きこそが、あの龍を呼び起こすのだという。
それはまさしく、ティルヒアに再び怒りの力を齎すためのもの。
女王ティルヒアの瞳からは、輝きが失われつつあった――

  >  
  > 【“龍”が戦場に出現、王国軍、ティルヒア軍、異国軍、魔族軍などに大きな損害を与える。
 一部の砦なども破壊されたが、ティルヒア軍は制海権を一時的に手放すこととなった。
 王国軍は、ティルヒア軍追撃の機会を得ることになる。
 「千年の女王の都」の治安は更に悪化。ティルヒアの暴政が強まる。
 魔族への衝撃は与えたものの、ティルヒアに再び魔族を寄せ付けなくする結界を張る力はない。
 ティルヒアの周りには未だ魔族は存在する。
 そしてこれまでどおり、ティルヒア自身の認識は歪められ、周りの魔族を魔族とは思っていない。】

  > 【基本的な大勢としては以上の様になります。
 ただ、絶対にこの通りに全てせよというわけではありません。
 破壊されなかった軍や要塞があってもいいですし、未だ勢力を海で保つティルヒア艦隊が居ても構いません。
 基本的な状況としては上記のようなものということで、参考程度に考えていただければ大丈夫です。
 上記のロールに乗っていただくのは歓迎ですし、あまり深く考えないのも問題ありません。
 これまでどおりのことを否定するものではありません。
 最終的にティルヒアは敗北するため、ティルヒア軍の敗色は濃厚になっていきますが、
 今はまだそのようにする必要はありません。】

ご案内:「◇「ティルヒア動乱」の現状」から さんが去りました。