2025/11/22 のログ
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート ファルズフ大聖堂」にルーパスさんが現れました。
■ルーパス > 聖堂の隅、小さな小部屋の中で台座に膝を付き祈るように手を組む紅い修道女の姿。
しかしその部屋は本来ならば修道女が入るような場所ではなく、告解を求める側が入る部屋。
それ故に、閉められた扉の網の目の格子を隔てた部屋の向こう側にはまだ人影は無い。
「ああ……主よ……。私の罪をお赦し下さい。」
誰も聞いていない、赦してくれる者も居ない。
それを理解しても尚、紡がずには居られなかった。
魔の者に魅入られてしまった事、仔を宿し、結果的に捨てた事……。
そして未だにその欲、熱が身を焼く事を。
小さな小さな声で紡がれる。
ウィンプルやチュニックには隠すのが難しい程の獣のそれが存在を主張し、
今まで隠していたそれに驚いた既知も多く、震えるように狭い部屋で瞼を閉じ、ただ震えていた。
もう、望んだとて戻れない。教会の名士である娘にもいずれ、此処にいる事が知れてしまおう。
どのような折檻が待つか、或いは本格的な放逐か…。何れにせよ心を覆う雲は厚く重い。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート ファルズフ大聖堂」にルヴィエラさんが現れました。
■ルヴィエラ > かたん、と、小さな音が響いた。
告解室の向こう、其処に、誰かが着席した、気配。
だが、其処に誰かが来る筈も無いと、女は判って居る筈だ
なら、誰が。 格子窓の向こう側に居るのか。
「―――――求める者には与えられるのが、赦しと言う物だ。」
声は、穏やかに響いただろう。
知らぬ者であれば、心を落ち着かせる、優しい声音。
嗚呼、だが。 女にとっては、必ずしもそうでは無いやも知れぬ
其の声の主が、女が魅入られ、堕とされた魔、其の物なのだから。
こつり、と、格子の淵を指で叩く音が鳴る。
「もしも、赦されたなら。 ――心の安寧は得られるのかな?」
其処に居るのは、決して、司祭ではない。
なれば、これは決して、告解と言う形式足り得ぬであろう
隔たれて居る以上、女が厭えば、離れる事だって叶う筈だ
魔の言葉を、厭うならば。
■ルーパス > 「────」
静かな部屋に響く音、そうして……その奥より聞こえた声は、今一番聞きたくなかったもの。
不快感、嫌悪感、それと同じだけの、安堵感。
知った風に言葉を紡ぐそれが無性に腹立たしく、
そしてなによりその懺悔を聞かれたのであれば口惜しい。
「貴方には関係、ない──。 勝手に、覗くな……聞くな。そこは相応しい場所じゃ……ない。」
彼から逃げる事も、主人である娘から逃げる事も結局叶わなかった。
それは刻まれた刻印からも、外で待ち受けるだろう家の者の気配でも──。
最早絶望しかない。彼の手から逃れ放浪していたのも、
家の者に捕まる覚悟をしてこの場に来たのも。
結局は無駄足という事に成る。 逃げられない、抗えない──だから
その扉の中小さな部屋に籠るしかなかった。
外から力づくで開けられれば逃げ場も無いというのに……。
そうして、逃げた狼を捉えようと、聖堂に執事服を着た老人が顔を出すのだろう。
『いい加減、気が済んだでしょう。戻りなさいルーパス。』
そう、威厳のある、有無を言わさぬ命令口調。身体が自然と震え強張った。
そうして、抗いきれぬようにその扉を開こうとする気配が、薄い板一枚隔てた向側にも伝わるだろう。
■ルヴィエラ > 唯一逃げ込む事が出来たこの場所で、己が来なければ
果たして彼女は、これ以上、何を祈ったのだろう
されど、きっと。 己が訪れなくとも、其れ以上は赦されない。
迎えに来た、と言う事なのだろう。 響いた、他者の声は、部屋の外。
彼女の、本来の主たる者の使いであろうか。
最早、逃れる道は無く、 抗う牙をも折られた、女には。
何方を選ぶか、と言う――そんな、選択の自由しか。
「……勿論、私に相応しい場所では在るまい。
だが、告解であると言う事に対しての、其れなりの尊重はした心算だ。
……そう、告解室へ、不躾に押し入ろうとする者よりはね。」
――告解室は、多少の防音は施されている。
告解を他者に聞かれぬ為、小声であれば、会話は届かぬ。
故に、この一瞬の、この言葉は、使いの者には届かぬ筈だ
「…………選ぶのは君自身、と言うのは変わらぬよ。
だが、今が其の時では在る。 ……攫われるならば、何方が良いか。
………望むなら。 ……来なさい、ルーパス。」
――懺悔室の、格子窓の部分から、黒き裂け目が生まれ、広がり
女の前に、人一人が入り込めそうな暗闇が生まれるだろう
そうして、声は、其の暗闇の奥から響くのだ。
その黒の中から伸びる、白く、滑らかな指先が、掌が、女の眼前に差し出される
――猶予は、きっと、そう与えられては居ない。
扉が開かれて仕舞えば、きっと、彼女を捉えに来た者達の手によって
女は、在るべき所に"繋がれる"事となるのだろう
だが、もし、其の前に。 目前へと差し出された掌を、選ぶなら。
使い達が、告解室に押し入った、其の時には。
女の姿は、まるで文字通りの、"神隠し"めいて、姿を消す筈だ。
■ルーパス > どちらを選んでも、その末路は悲惨な物になるのだろう。
そんな予感は、どこか確信めいてはいて、
売られた頃より、自らに自由など無く、それは今後もきっと変わらない。
幾ら、主に助けを求めたとて、今の自分には主からすら奪い取らんとする魔の手と。
ただの駄犬としか見ていない、尊厳も何もない盤外に落ちた駒を拾うような手。
どちらの手も雌狼を歪ませ壊す手に違いは無い。
甘く誘惑する声はそれこそ、悪魔の囁きのように思え、
強引な命令は、自らの存在を強引にでも連れ戻そうとする占有の心地よさを思い出させる。
「あ、あ──嗚呼…… わから……わから、ない。」
身体も、爪も、牙も力だってそこらの従者や司祭に劣るつもりはない。
しかし一度壊され崩れたココロは容易にまた瓦解する。
そして、現れた裂け目からすらも、身を置くように狭い部屋の壁、
その隅に身体を押し当てるようにして逃げた。
が──、本能は容易に身体を、その背中を押した。
ミシッ、木製の扉が抉じ開けられる。その音に逃げ場を失った身体は、その手に縋るよう。
そうして、こじ開けられ光の差す小部屋の中には、小さな水たまりが一つ残るのみ……。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート ファルズフ大聖堂」からルヴィエラさんが去りました。
ご案内:「神聖都市ヤルダバオート ファルズフ大聖堂」からルーパスさんが去りました。