2025/11/05 のログ
ご案内:「設定自由部屋(鍵付)」にアーシェさんが現れました。
ご案内:「設定自由部屋(鍵付)」からアーシェさんが去りました。
ご案内:「冒険者ギルド詰め所」にアーシェさんが現れました。
アーシェ > ――併設された酒場も仕舞いとなった、深夜に近いギルド内の詰め所。
施錠は既に成されていて、外からは仄かな照明が灯る様子が見えようか。

紙の摩擦の手触り、乾いた墨の跡。
女は一人、山積みになった書類の塊に手を伸ばしては、一つずつ仕分けていた。
ある程度纏まると束にして整えながら、静かに視線を文面へ落としてゆく。

「……冒険者向け、ではないわね。」

ふわり、ひとひら。紙を持った指先を束に滑らせた。
冒険者ギルドというものは集会場と思われがちであるが。
様々な所から齎される依頼を、ギルドに通すことで
依頼と報酬を仲介する機構――でもあるのだ。

依頼を受ける者の職種は細かく分かれていて、
其々に契約内容、報酬の規定、提出の書式まで異なる。

紙の上にペーパーウェイトを置き、ペンを取ってインク壺へ。
筆跡は何時ものように。変わらず、整えて、読みやすくを心がけて。
――穏やかに流れる墨の匂いが、夜気の気配に溶け込んでいくようだった。

分類票の確認印を押し、署名を一つ。
確認を――上級のギルド員に翌日して貰えば良い。

アーシェ > 依頼受託者区分と書かれた一つの束を手に取る。

――冒険者。
分類に於いては、最も登録者数が多い職業。
寧ろ――全てにおける基幹とも呼ぼうか。
依頼の内容は討伐から探索、採取等、多岐に渡る。言わば総合的に活動を行う。
個人や徒党で登録され、力量に合った等級付けもされていて――
駆け出しの若い人が多く受付嬢としては説明や質疑応答の為、自然と話してしまう。
報告の際に、彼らの冒険譚を聞く事が、少し楽しみであることも確かだからだ。

彼らは、未知に踏み出す者達。
自由がある反面、生活は安定するとは言い難い。
なれど、その飽くなき探求心こそが、時には世界を動かす。
――己にとっては、背中をそっと押してあげたい人。
そして、無事に帰ってきて欲しいひとたち。

「……ふふふ。あの人達って、字の癖がそれぞれ違うのよね。」

アーシェ > ――傭兵。

膠着状態の最前線配置や危険な掃討作戦を多く請け負う――戦場契約者。
彼らは危険な場所から生還する事を求められる。
それ故に見返りは多く、命と金銭を秤に掛ける職業だ。
――今日の戦友が、明日の敵になる。

冷厳で、冷徹、リアリストばかりだと思われがちだけど、
規律を守り、仲間想いな所も確かに感じるのだ。

彼らと話していて、理路整然と報告してくる所は簡潔で無駄がない。
ただその行間には、戦場の熱を感じる――余計な修飾などなく、事実だけを。
どれだけ戦果を挙げられたか……どれだけ人が斃れたか。

「……言葉を削るのは、無駄を省くということ。
 ――それもまた、貴方達の生き延びる為の術なのかしら。」

生きて、次の契約を交わすこと。
受領印を押す時、戦場と日常が交差するのだ。

アーシェ > ――自由騎士。

貴族階層と市井の狭間に属するもの。
要人護衛と運搬、儀式警護に当たる事が多い。
誓約と義理を重んじ、規範に厳しい人も居る。

礼節ある護衛として信頼も厚く、話も進めやすく。
依頼も報告もスムーズに終わるので寧ろ、助かるのだ。
文体も整っていて、読みやすいサインは有難い。

「言葉選びを考えてくれている人が多いのよね。
 でも、時々――…戒律で自分を縛っている様にも思えるの。」

――それが、自由である代償なのだろうか。
主を持たず、誇りを胸に己が名を穢さず戦う。
彼らは誓いの元に生きる者が多い。

願わずには居られない。
守るものの中に、自分も含めて欲しいのだと。
だから、ほんの少しだけ――話すときは声音を和らげてしまうのだ。

アーシェ > ――賞金稼ぎ。

彼らは――追う事で、糧を得る人。
指名手配犯、二つ名を持つ魔物。危険生物の討伐や捕縛を専門とする。
時折、治安局からも指名が来るほど。
対象の生死に関わる故に、正確な証明が必要な為だ。
一つでも欠ければ、報酬は支払われる事は無い。

単独行動も多く、戦闘のみならず追跡や心理戦を伴う。
――狩人のような気質を感じる事も屡々。
執行者であり、死を運ぶ、影のようで。

だから、書類を扱う手は少しだけ震える。
報告の一つが誰かの生き死にを決める故に。
――慎重に、正確に。
彼らの報告を聞く前は、自然と背筋が伸びる。

「――…あまり報告を受けたがらないギルド員もいるのよね。
 特に判断に欠ける場合、印を押す訳にもいかないもの。」

自分は戦う力を持たない。
討伐が難しい存在であればあるほど、戦闘経験のある職員が判断を下すことが多い。
――其処には、少しだけ申し訳なさと、疎外感を感じるのだ。

アーシェ > 「――……嗚呼、いけない。
 流石に帰って休まないと――…明日起きられなくなるわ。」

書類を纏め、机を片付けて――上司であるギルド員の机の上に束を置く。
女は急ぎ足で施錠を再度確認し、速やかに魔導装置の照明を落とした。
受付から向かって、奥の職員専用出口から直ぐの、自室であるアパートへと向かおうと。

――夜だから余計に感じるのだろうか。
季節の移り変わりを思わせる、冬の足跡の気配。
ストールを持ってきて正解だったかもしれない。
肩まで手繰り寄せると耳を飾る、蒼い雫型のイヤリング一粒が――
カツンと。音を立てて床に転がった。

「……やだ、大事な物なのに。」

しゃがみ込み、素早く拾い上げて掌の中できゅっと握りこんだ。
もう片方の耳を確かめて、外れていない様子に安堵し胸を撫でおろす。
――令嬢時代の名残であり、大好きだった祖母の、大切な形見。
指を広げて確かめると仄暗い明りが映りこんで、深い蒼が煌めいた。

「――落とすなんて、縁起でもないわね。」

起こらなければいい。
そう、何も。

アーシェ > ギルドを出ると夜気が肌を刺す。
――空気が乾いて、吐く息が、白く散る。
手にしたままのイヤリングをひと撫でし――

『――人の仕事は、誇りが形作るのよ。
 報いるように心で磨いて、仕上げなさい。』

――おばあさま。
あの優しい声音。凛とした――強いひと。
所作の一つ一つに、誇りが宿っていた事を思い出す。

心で磨き、仕上げる。
今の私にとっての其れは、誰かの無事を信じる事。
形のない祈りを、そっと日々に忍ばせるように。

「……明日も、ちゃんと笑わなきゃ。」

ぽつりと零れた声が、静謐へ溶ける。
その足取りはほんの少し軽くなり、ストールの端が揺れた。
夜の帳の向こうに輝く星々の金と銀。
自分の瞳と同じ色の光が――遠くで瞬いていた。

ご案内:「冒険者ギルド詰め所」からアーシェさんが去りました。