2026/02/08 のログ
影時 > 果たしてどちらが飼い主か、親分かは分かっているのかいないのか。
使い魔、式紙として新顔の毛玉は生成したはずなのに、気取られるの避けるために凝り過ぎたか。
良くも悪くも先達の毛玉達に、よく似てしまったところがある。最早今更過ぎる程に。

「そこはちぃと限度は設けておきてェかねえ。茶と合ってとんとん、となる位には。
 ……あぁ、それはそう願いたいね。別に店を開くつもりは無いとは云っても、感想は欲しい」

乳製品を用いた菓子は故郷にもあったらしい、と思える記述、書は見た記憶があるが、定かではない。
とは言え各地を巡ったお陰で、こういう菓子もある、味もあるのか、と知れたのは良い経験だ。
勿論、美味さと隣りあわせの諸々と共に。菓子で腹を膨らませるのは、遣り過ぎると胸やけがしてしまう。
そうした探求もまた、余暇のひとつだ。精妙な加減というのは、薬学じみた塩梅にもよく通じる。

――弟子に説いた極まり過ぎというのは、尖り過ぎ、先鋭過ぎる点への戒めにかかる。キわまり過ぎと崩してもいい。
熱く焼けた鋼を急冷すれば硬くなるが、硬くなりすぎると柔軟性を失って脆さを得る。そこに緩急、緩さが必要になるのだ。

その機微に、いつしかたどり着けるかどうか。それは師たる男にも未だ分からぬこと。

「ああ、そうらしい。……しかし、燻製に例える方がもっとまだ分かり易かったか。俺もまだまだだなぁ。
 目が飛び出るような高い奴に引っかからんようにな。
 種類があるなら、よくよく売れ筋を見るといい。頑張って売れ筋を眺めていれば、手頃な奴に気づけよう」
 
興味が無ければ、酒の作り方、要点を耳に挟むことも無かろう。
だが、咄嗟に口に出るコトバとは拾うに値する。物事の伝え方には、相互に認識し易いものを基準とするのが角が立たない。
故に助言は惜しまない。酒も上を見ればきりがない。売れ筋をよく眺めていれば、安酒にも色々あることにも気づける。
……大丈夫だろうか、とは思いながらも、そんな一抹の心配をすぐに塗りつぶす手応えが掌の中にある。
自分ならばこう作る、作れる、なんて考え方は野暮だ。真心を受け止めるには、心底から唾棄されるべき邪念である。
火除けの呪いの有無ではない。篭められた見えないものが、大事だ。言葉にすると陳腐化しそうな儚いものが。
掌に収まる小さなものを、親指でそっと撫でつつ、息の音を聞く。間近にあるものの安堵の息だ。

「どういたしまして、だ。っ、て……お前ら。飛びつくにも限度があろうによう」

弟子の頭を撫でるに使うは、右手。毛並みに逆らわないようにわしわしと撫でていれば、飛びつくものがある。
ひとつふたつ。遅れてみっつ。小柄の肩の左右に白法被の毛玉二つ、飼い主の手に黒燕尾の毛玉一つ。
一緒になって鼻先をこすり頬擦りしつつ、抑揚が乗った声音を受け止めては、静かに頷く。

「有難うよ。迷惑云々は、まァ、別格なのがあンのは気を配り続けなきゃならんが、兎も角、として。
 ちゃんと傍に置いてやるから、くれぐれも先走ってくれるな。
 ……故に、クロジロウ。王都に居る時は、篝の奴をちゃんと傍で見てろ。ヒテンとスクナはそん時は留守番な」
 
直近の懸念の件は最早別格として、心配の種を声に出してやりつつ、燕尾の毛玉に命を遣る。
元々与えていた務めだ。その代わり、先達の毛玉達には留守番の仕事を手伝ってほしい。
ちょっと不満げな二匹を見れば、先輩だろう?と目配せしよう。仕方がないでやんすねー……と肩竦めるさまが見えて。
それを見届ければ、毛玉達がよぢよぢと登る。白二匹が飼い主の双肩。黒が弟子の右肩。
ぺたんぱたんと尻尾を振る姿を見つつ、カップを置いて改めて梱包の作業にかかろう。
小さな紙箱ひとつ。中に薄紙を敷き、例の猫クッキーたちと数枚の形違いを入れて、蓋をしてリボン掛け。

出来上がれば、改めて弟子に両手で差し出そう。

> 料理の腕を上げるには様々な者の意見、知恵を取り入れるのは有効な手段だ。
初めて作ったものであるなら、この出来栄えは大成功と言って過言なく、きっと皆から良い反応が得られるだろう。
そして、来年も楽しみ!なんて期待を寄せられるに違いない。
娘は既に来年はどれほどのものが見れるのか、飽くなき探求の徒である師の上達ぶりに期待してしまっている。
そして、次の頃には己も手作りのものが用意できるようにと、今から努力を重ねる心算でもある。

「燻製はチーズや肉で食べたことがあります。どれも美味。燃やす木くずで風味が変わって、とても興味深い。
 経験があったから、わかったこと。ので、お酒の作り方も勉強してみます。
 目が飛び出るような……――。あー……ん、そう、ですね……。気を付けます」

ものを知らない己の落ち度だと首を横に振り、師が好むものならばと、また知識を深める心算にもなる。
高額な酒、と聞けば覚えがあった。先日、話に乗せられ買った蛇を漬け込んだキツイ酒の事。
少しだけ味見をしたが、凄い味だったとしか言いようがない。確かに活力は湧いたが、好き好んで一気に飲むようなものではないらしい。
少しばかり意識が逸れて、ぼんやり部屋の隅を眺めた後、何とか言いつくろって頷いておいた。

心地良い感触に機嫌良くゆらりと尾を揺らせば、とととん、とたんっと、三つの毛玉が降って来る。
両肩に乗る二匹が頬に鼻を押し当てて、もこもこふわふわの毛並みが押し寄せる。

「ん……。わぅっ! う? うー……くすぐったい……、もふもふが、いっぱい……」

右を見ても左を見てももふもふ。ついでに、頭の上に乗ったらしい最後の一匹の黒い毛玉もきっともふもふだろう。
頭を撫でてもらう心地良さとはまた違う、小さく柔らかな温もりに目を細め、一緒になってすりすりと擦り合わせ。

「……はい、先生。承知いたしました。
 クロジロウ……も、よろしく?」

別格扱いの問題はさておき、師に言い渡された言いつけを胸に、しかと頷き承る。
同じく命じられた黒い毛玉が、引き上げて行った二匹に変わって右の肩に乗り、黒い大きな瞳を輝かせるお目付け役に挨拶をした。
好奇心旺盛すぎる二匹と同様、この新入りもベースがベースなだけに外の世界には興味があるのだろう。
王都の中限定だが、色々なものを一緒に見て回るのも少し楽しみだ。

小休憩を終え、梱包作業へと戻る師を眺めながらお茶を啜る。
本当は手伝いたいが、此れは贈り物だ。師がその手で最後まで丁寧に包むことに意味がある。
己も出来上がった其れを受け取る時の気持ちを想像して、また嬉しい気持ちが溢れて来るので、きっと間違ってはいないはず。
うん、と一人合点で頷きながら、此方は此方で姉弟子の為に用意したホッとチョコレートボムの箱にリボンを掛けて、こそこそと準備をしつつ。

そうして、暫くして呼ぶ声に顔を上げれば、綺麗にラッピングされたアイシングクッキーが差し出される。
娘はそれを嬉しそうに尾をパタパタと振りながら、大切に、両手で受け取り。

「影時先生、ありがとうございます」

薄く笑みを浮かべ、プレゼントを胸に抱きながら心より礼を告げる。

影時 > 手慰み同然の処から、いったいどこまで腕が上がるかどうかは――未知数としておこう。
手作りの菓子を多く振る舞う、なんてことは初めてだ。だから可能ならば感想、反応は欲しい。
名の知れた店と張り合うなんてバカバカしくとも、続けていけばレパートリーは増える。
経験の蓄積は、全くの初心者を教導、導くにも役立つ。来年とかは、弟子を巻き込んでみるのも良いだろう。

「結構結構。と云うか、ベーコンがまさに燻製の代表格だなぁ。“ちぃず”も出来るってェのは初耳だが。
 燃料で香り付けが変わる、影響される点で云えば、ウィスキーもまさに近しいとも云えるな。
 ……? と、作り方含むガイドなら、その辺りの本も書斎にあるから、好きに読むといい」
 
物の好きずきにも絡むことだ。知識の有無を問い質すことに、何も意味はない。
気になったならばそれを知ろうとすることに、己は助力を惜しまない。それが師匠を名乗る者の務めだ。
高価な酒、と聞いて何か思うことがあったのだろうか?
そう思う、感じる有様に何かありそうだな、とばかりに目を細め、蔵書のことも思い出す。
酒造りは錬金術の発展にも寄与する要素ががあるもの。厳密な作り方はなくとも、知識の保管、補填には役立つ。

「篝の尻尾も耳ももふもふだろうに、と。
 ……クロジロウは与えた役目の関係上、ヒテンとスクナのようには王都の外に連れ出せねえ。
 そこは済まんが、併せてよろしく頼まぁ」
 
猫耳猫尻尾もふもふの白猫に、齧歯類三匹が集る風景。
冬毛が着衣を膨らませてまんまる。お腹の毛はもこもこふわふわ。併せてまんまるもこもこふわふわ。
大変和やかな風景を今暫し見守っていれば、挨拶にお目付け役にして家令シマリスが、こくこくと小さく頷いて見せる。
己が使い魔、式紙である一方で、ただ単純に術者の思惟に準ずるものではない。
術という縛りはあっても好奇心を小さな躰に秘めた、一個の存在である。故によく見守り、よく好奇心を満たすことだろう。
そして、一人と三匹の目を受けつつ、貰った座り猫をチョコレートボンボンの傍に置き、飼い主は贈り物の梱包を始める。
共に住まう弟子達の分から始めて、残りを包む作業もあるが、何にせよ自分がやってこそ意味がある行為。

「――――改めてこちらこそ、だ。俺の方こそ有難うな」

ラッピングしたクッキーの箱を手渡し、大事に抱く有様に目尻を下げながら頷けば、肩上でぴょこぴょこ。
毛玉が跳ねる。弟子の方の毛玉も躍る。自分たちの分はないのか、とも見得て苦笑しながら、残る梱包を始めようか。
竜モチーフのクッキーは、一番弟子含むトゥルネソル家の分。
だか、中身は可能な限り一様にはしない。チョコレートのかけらを散らしたもの、ワンポイントに干し果実を乗せたもの。
姉妹たちで食べ比べ、めいたことも出来ればいい――と願いつつ、次にやるならより手のかかるものも考えようか。

そう思いながら、包んでいこう。事が済めば焦げクッキーが食べられるかどうかも試しつつ、夕餉近くまでお茶を愉しんだことだろう――。

> 「ベーコンも、燻製ですか? あの香りも、そうなのですね……。
 ん? うん。チーズとか、卵とか、塩とか調味料にも……色々匂いがつけられると聞きました。
 おー……。ウィスキーは燻製と似てる。覚えた。はい、今日寝る前に本をお借りします」

酒場のマスターが時々話す拘りの一品ネタから学んだ知識だが、味は確かだと頷いて。
塩やソース、醤油などにも香りがつけられると言うのだから、驚いた記憶である。
此方の内心を見透かすような視線には目を合わせられず、そっぽを向いていたが、知識を与えてくれると言う声にはちゃっかり返事をする。現金なものだ。

「自分のもふもふと、人のもふもふはまた違います。三匹とも、手入れされた良い毛並み……冬毛は至高の触り心地。
 心得ました。離れすぎないように気を付ける。クロジロウも、私がうっかりしそうな時は教えて?」

まんまるもこもこ度合いで言うなら、無論毛玉三匹の方が密度的にも上である。
毛並みの良さだけで言うなら、娘も負けてはいないと自負できるが、それはそれ。
和む一時の戯れの後、残った黒いシマリスと見つめ合い、互いに確認し合うように頷いた。
見た目は完璧に二匹と同じ動物にしか見えないが、その実態は式紙である。
主の目となり耳となる。以前と同じままなら、主である師が気を向ければこの愛くるしい目と耳で感じ取った事象は筒抜けとなるのだろう。
なに、街中で悪さを働くつもりは無い故、気負うことも、警戒することもとくにはないのだ。

「うん……っ」

大切なプレゼントを胸に抱き、優し気な暗赤の瞳を見上げては笑みを深める。
飛び跳ね躍る毛玉たちの慌ただしさには少し驚いたが、求め欲するものに気付けば、後で市場に行って焼き栗を買って来ようと密かに思う。
彼ら三匹も大事な仲間。己と同じ、親愛なる居候である。

師が残りの皆の分を放送している間に、弟子はまた寒空の下に戻って買い出しをして。
帰って来ればまた一段落したところに潜り込み、温かいお茶と、少し焦げたクッキーも芳ばしいと喜んで食べるだろう。
勿論、三匹には甘い焼き栗をご馳走して、仲良く午後のお茶会を楽しもう。

ご案内:「私邸」からさんが去りました。
ご案内:「私邸」から影時さんが去りました。