2025/11/30 のログ
> 秘められた竜の力のなんかるか、その片鱗の一部が垣間見えることがあったなら彼女を警戒し距離を保つこともしただろうが、それを知らない今は普通のご令嬢、兼、師の雇い主として礼儀を持って扱える。
このまま何も知らない方が猫は幸せかもしれない。

「……リス様は先生の雇い主であらせられますので。
 はい、承知いたしました。常識を説いて聞かせる所存です。……ラファルは嫌がる、かもですが」

少女の事を良く知るものが聞けば、お前が常識を?教わる側じゃなくて?と尋ね返されるが、ツッコミを入れられるほど少女を知る者はこの場にはいない。
姉弟子の姉からのお願いとあらば、当然聞き入れ、真面目に頷き心得る。
子供な姉弟子は嫌がるかもしれないが、根気強く諭して聞かせる決心は今した。言葉にして誓ったのだから違えるつもりはない。

「はい。是非、お願い致します。
 鑑定……は、ギルドで受けましたが、魔道具に関してはまだです。
 高額な鑑定比でなければ、手持ちの分でお支払いできると考えます。

 ――職人の仲介、は……んと……仲介料次第です。
 んー……毛皮は武器、ではない……ですか。じゃあ、魔道具……? うー……」

トゥルネソル商会の店で見てもらえるとなれば、ひと安心して小さく息を吐いた。
招かれる手に誘われるままに扉を潜り、彼女の後について進んで行く。
縦にも大きければ、勿論他も広々としているもので。
一流の商店に入ることは今まで貴族の下で働いてきた身なれどそう経験は無く。
少し緊張しながらすれ違う従業員達を目で追って、歩みが遅れそうになるとパタパタと速足で後を追い、部屋に辿り着くまでそれを繰り返す。

リス > 竜の力、竜の目は、生まれつきの能力であり、リスにとっては秘密にするものでは無かった。
 生まれつきある力だし、リス達トゥルネソルにとっては、当然の事。
 ラファルも、同じ力があるのだ。
 普通の事なので、聞かれなければ言わない、その程度の、事なのだ。

「雇い主と言っても、雇用契約、お金を払って、行ってもらっている、なのよ。
 偉いわけでは無いわ?

 ええ、お願いします。
 嫌がるとしても……ね?
 ラファルは、竜の気質が大きい、純粋な竜の娘だから。」

 彼女が常識が無いという事は分からない、というか、それ以上にラファルの方が常識を無い。
 ラファルは常識を知っていても、常識なんて知らんと、人の世ではなく、竜の世に生きているのだ。
 そんなラファルに、篝が常識を教えてくれるというなら、リスは心強い、と微笑みを零して見せるのだ。
 有難い、と。

 篝を連れて、リスはトゥルネソル商会へと戻って行く。
 店員は、人竜だけではなく、ミレーの奴隷が店員として働いている。
 ミレーの奴隷も、ここで職業訓練をして、貴族に売れるようにしているのだ。

「そうですね……。
 であれば、魔道具に関しての鑑定費は、此方です。

 仲介料と言うのは有りませんわ、そもそも、紹介をするだけ。
 貴女の望みを伝えて、ドワーフさんたちが金額を決めるので。

 毛皮は……基本的には、金属に劣りますので。
 金属を超える毛皮と言うのは、本当にレアリティが高いのですわね。」

 解説をしながら、リスは、一階の事務室へ、篝を連れていく。
 魔道具への鑑定料金に関しては、一般的な料金。
 特殊に値引きをしていないのは、身内だから、と割引をするのは、値段やサービスに対する冒涜だから。
 それでも、彼女の稼ぎなら十分に払える金額だから。

 そして、鑑定してほしい魔道具は、どれでしょうか?と、首を傾ぐ

> 「契約のもと、師が雇い主と決めた方であれば敬うのは当然のことかと。
 ……雇い主は労働力と時間を買って給金を支払う。
 互いの役目を十分に果たし契約を違えぬ限りは従い、敬うべきと考えます。

 ……はい、リス様」

主が自らを“偉くない”などと言うことは珍しい。奇特と言っても過言ではない。
流石に本人を前にはっきりと言葉にはしなかったが、ジッと彼女を見据える緋色は真っ直ぐに、何処か観察染みていた。
これも竜の感性の違いと言う奴だろうか……。

嫌がるとしても説き伏せて良いと許可が出れば、相わかったと深く首肯を返して言質取ったりと心中で呟いたとか。
野性味あふれる竜の娘になんと説けば受け入れられるか、思考が早速そっちへ傾きそうになるのを堪え、鑑定と買取査定へと意識を引っ張り戻し。

すれ違う中に竜の血の混じった者がいるのは当然として、ミレーの姿もいくつか見えた。
そう言えば、師から職のカバーとして雇い主の下で学ぶと言う提案をされていたことを思い出す。
あの時は己で答えを出せず保留となったが、もしかすれば己もここに加わっていたのかもしれない。
あくまで仮定の話だ。冒険者と暗殺者と言うニ足の草鞋に加え、盗賊ギルドの仕事もある今は、そちらに手を出す余裕は……まだない。

「仲介料を請求しないのですか? そう、ですか……。此方は喜ばしいですか……。

 なるほど……毛皮なりの丈夫さはありますが、金属を通さないほどの強度は確かにありません。
 代わりに、火に強く、また真冬に暖を取るのにも最適と考えます。

 ――此方がその魔道具になります。
 討伐したゴブリンが所持していたものです。旧く、迷宮に潜っただろう冒険者の遺品である……と考えます」

毛皮の下りは、大きな火虎を討ち取った時の事を思い出しながら、あの毛皮は温かそうだったと頷いて。
耐熱性が高いのは火を扱う者にとって、身に着ける上で非常に重要な項目でもある。故に、加工できると嬉しかったが……そこは職人との相談になるだろう。

その他諸々、溶岩ゴーレムのコアや、地竜の鱗・牙・骨・爪等々。素材の方は後々広げて見せるとして。

到着した事務室を軽く見渡してから、マジックバッグの中に手を差し入れてガサゴソ、ガサゴソ。
そうして取り出したのは古びた琥珀色の宝石が嵌められた指輪だった。

リス > 「ええ、篝さんの言う通り。
 笠木様のお時間を、労働力を、私がお金で買わせてもらっている。
 契約とは、対等な約束なのよ。
 敬ってもらう、を契約に居れるなら、それでもいいとは思うけど。
 そんな契約はしてないしね。

 がっつり、言っちゃって!」

 そう。
 契約は、お互い同意のもとで結ぶ約束だ、だからこそ対等。
 彼女は、貴族と奴隷の契約と言う物を、差のあるものだけしか知らないのだろう。
 労働契約は、対等な相手でも、行えるのだ、と。

 あと、ラファルの事に関しては、もう全力でグーで言っちゃって、と言質を。
 ドラゴンだし、殴っても壊れないでしょ、という程度。
 実際に壊れないだろうし。

「だって、紹介するだけ、だから。
 気に入られて、仕事をしてもらえるかどうかは、篝さんのお話と。
 其処の素材の質、だもの。」

 まあ、トゥルネソルの紹介というなら、やってもらえるだろう。
 あまり失礼な言動が無ければ大丈夫。
 紹介料をケチって、今後の顧客を無くすならば、其処は融通しても良いだろう。

「それなら、やっぱり、私の見立てで言うなら、その毛皮は、服為りマント為り、靴や手袋にするとよさそうですわね。
 冬の寒さで、指がかじかむというのは、大変でしょうから。

 ふむふむ、成程。
 琥珀……のリング。
 それでは、鑑定いたしますね。」

 そう言いながら、リスはリングを手にしてみせる。
 そして、空色の竜眼で、魔力を、価値を見やり、商人の知識に当てはめていく。

> 「……対等。影時先生とリス様は、そのように契約していらっしゃるのですね。
 それはそれとして、私はリス様のことはリス様とお呼びするのが自然かと思いました……。先生の雇い主、主様であるならば」

師と彼女の契約の詳細は知らないが、対等の関係を良しとし契約したならば部外者が口を挟むものではない。
そこは心得ている聞き分けと線引きの上手い猫である。
立場を弁え一歩引くあまり、自然と頭が下がってしまうのも仕方ないことだ。
師を“先生”と呼んでいることも、そうしろと命じられたから。命令が無ければ主様と呼んでいただろうし、認識としては師であると同時に主である。
その主の雇い主を敬い礼儀をもってお呼びするのは自然、至極当然なことだと生真面目な抑揚のない声で頑なに言うのだった。

そう。そして、それはそれとして、対等であるラファルにはガツンと歯に衣着せず言ってしまうのである。
暴力こそ振るわないが、正座して膝を突き合わせての説教、お小言に姉弟子はどんな反応をするやら。

「気に入られる……必要があるのですか? 金銭を支払うだけでは、駄目……?
 ん……、仕事を受けてもらえるように、努力……します」

言われなくとも余程な無礼は働かないし、値切もしない。
そんなのは師や雇い主の顔に泥を塗るも同じ行為である。気難しいドワーフに気に入られる仕事の持ち込み方は、その時までに勉強しておかねばと胸に留めつつ、話は流れ魔道具の鑑定へ。

「うん、服……コートにするとフワフワで気持ち良さそう。
 手袋も、とても暖かそうです。手甲にするのも良い……。迷います……。

 ――はい、どうぞ」

毛皮の使い道はファッションに詳しい者に知恵を借りるのも一つの道か。

さて、問題の指輪の方である。
彼女へ手渡して、どんな結果がが出るだろうと、密かに期待して。
ぎゅっと手を握りしめて鑑定結果を待つ。

リス > 鑑定結果

1・地属性強化
2・物理防御力強化
3・魔法封入・地属性攻撃魔法
4・魔法封入・地属性防御魔法
5・生命力強化
6・回復力強化
7・精霊封入・ノーム
8・地属性耐性
9・魔法防御力強化
10・アンバーコーティング(レア能力)己を、琥珀の輝で、包み込み 物理防御強化 魔法防御強化 地属性耐性を得る
[1d10+0→6+(+0)=6]
リス > 「商人の契約って、そう言う物なのですよ。
 お互いをお互いに尊重し合い、その上で、どの位の動きに、どのくらいの対価という風に、ね。

 ……うん、篝ちゃんの事をあまり知らないけど、笠木さんの雇い主、というだけで様と言うのもちょーっとちがうな、って。
 だって、篝ちゃんを雇ってるわけでは無いし。
 ラファルの姉というだけでしょうし。」

 うむむ、と様付は、余り好みでは無い。
 これでも根っからの、一般市民、平民なのだ、裕福とは関係ない。
 とはいえ、止めろ、と言う程嫌と言う訳でもないし、彼女の事を知らないから、強く言うのも可笑しいとおもう。
 なので、ここはひとつ。
 なぁなぁ、で済ませてしまおう、という事で。

「職人と言うのは、自分の仕事に誇りを持っている人は。
 えてして、お金だけでは動かないものですわ。
 その代り、彼らの【造りたい】を刺激するなら……喜んで作ってくれますわ。」

 人は色々いる、お金でする人もいれば、お金じゃないという人もいる。
 ドワーフは、お金よりも自分が作りたいと思えるものや、お酒などが良いだろう。
 その辺りはアドバイスするのはサービスだ。
 頑張ってくださいまし、とウインク一つ。

「この指輪は、魔法の道具、地属性の魔力が込められていて。
 癒しの力がありますわね、指にはめていると、自然と傷が治っていくもの、ですわ。」

 鑑定した結果、そういう指輪だという事を伝えるリス。
 琥珀と言うのは、地属性というだけではなく、植物でもある、なので、生命力に強く影響する触媒なのだろう。
 それを以て、自動回復の指輪という所なのだと思われる。
 年代から見ても、強力な回復の力を持っているものだと、大地の生命力を現わしてますわ、と伝えて返す。

> 商人の契約と言われると、そう言うものなのだと納得して首肯して理解を示し。
しかし、この呼び方はどうにも彼女にとってしっくり来ないものらしく、唸らせてしまう結果となった。

「……ぅ? んと……申し訳りません。」

平民であっても、大きな商会の娘が、それも竜の血を色濃く継いだ特別な娘が、様付で呼ばれ慣れていないとは思わずに。
何故、彼女が微妙な反応をしてしまうのかの真意も理解できずに首を傾げ、隠した耳が帽子の中で動きヘナヘナと萎れてぺたりと伏せてしまう。
正しい呼び方、彼女が良しとする呼び方を尋ねれば、きっと彼女は答えてくれるだろう。
それに素直に従い受け入れることも容易いが、それではきっと意味が無い。

「造りたい、と思わせる……誘い方、ですね。考えてみます」

おだてて褒めれば、その気になって造ってくれる扱いやすい者もいれば、天邪鬼で反対のことを言う者もいる。
職人気質の度合いと比例する様に、その乗せ方は難しくなって行く気がしてならない。
そんな相手も彼女の笑顔、ウインクまでサービスされては気分が乗ってあっと言う間に造り上げてしまう……猫の想像の中でも彼女はやり手だったようだ。
相手の好みに合わせた贈り物、特にドワーフは酒好きが多いとも聞くし、挨拶代わりに酒を勧めるのも交渉術の一つなのかもしれない。

「癒す力……なるほど、それは……いえ。
 買取については此方の魔道具は保留にして頂けますか?
 先生に相談をしてから、売るか、残すか、決めたい……ので。

 毛皮の素材に関しては、職人を紹介していただく方向でお願い致します。
 その他の買取は……んと、此方の素材を一部だけ手元に残して、それ以外は買取で」

さて、調べ終わった指輪の効果を聞き終えると、じっくりと琥珀の輝きを見下ろし……迷う。
彼女が教えてくれた効果や、古い品だが壊れていなかったこと、それなりに良い品であると知れば思うのだ。
売るには惜しい、かもしれない……と。
師が喜ぶかもしれないと思うとますます迷いは惜しいと思う気持ちに傾いて。
最終的には一度持ち帰ることにした。
魔物から取れた素材に関しても、特、地竜の素材は武器に加工できそうな具合であれば、これも師に指示を仰ぐつもりでいると言う。

「えっと……鑑定費用と、他に何かお支払い必要な物があれば……其れも含めてお支払いします。
 素材の買い取り金額から差し引いた金額を……教えて欲しい、です」

リス > 「そういう意味では、篝ちゃんとも対等。
 妹の友達、という所で、友達にもなれるのよ?」

 そんなに年齢の差もないんだし、とニコニコ笑いながら、言って見せる。
 竜の姫ではあるが、人の中で生きているなら、普通に人に恭順している。
 それに、竜も、様とか使わないし。
 なので、様とかも、気にしないで良いのよ、と伝えて見せた。

「ええ、ええ。
 職人だけに決まった話ではありませんが、ね。」

 そう、何事も。
 対面している相手に合った交渉をすればいい。
 ちゃんと相手の欲するものを提示できるなら、相手が納得できる条件が出せるなら、何とでもなる。
 それが商売だし、それが、人とのつながりなのだ。

「それは、篝ちゃんの物なんだし。
 好きにすればいいのよ、その指輪は、魔法の力も強いし、まだまだずっと壊れないわ。

 はい、承りました♪」

 そうして。
 鑑定の料金と、彼女が売却した素材の差額。
 それなり以上の金が篝の手元に戻るだろう。

 そして、とりあえず、一度目という事で。
 篝とリスは二人で店を出る。

 軽く食事をして、その後は、笠木さんの所に行くか、二人でラファルの教育にするのか。

 二人のみぞ、知る―――。

> 「……友達…………。友達……?」

微笑む彼女の言葉は、言葉として理解はできるが首を傾げてしまう。
彼女と己が対等だとは思っていないこと。
そして、姉弟子のことは、やはり友達と言うよりも同じ師に教えを乞う一種の仲間意識をもっていること。
友と言うものを持ったことも、必要だと感じたこともない故の困惑が色濃く呟きに出ていた。
価値観が違い過ぎて理解できないことは、思考を放棄することでうやむやにし、続く彼女の声に耳を傾けていた。

商人らしい価値観もまた己には無いもの。
彼女がその笑顔の裏に何を潜ませているのか考えることも無く、キョトンと目を丸め。

「……私の物。――ん、わかった……。
 指輪も、まだ壊れない……ですか。良かったです……。

 リス様、感謝いたします」

今日の会話で教えてもらったこと、鑑定、そして取引の成立に感謝し、同時に安堵してゆるゆると力が抜けて緊張も解けた。
その後は彼女の指示に従い支払いを済ませ、店を出れば食事に誘われ。
笑みの絶えぬ彼女の隣でも相変わらず無表情な猫は、食事の時だけはまた少し気を抜いてしまったりもして。
彼女の気の向くままに、時に意見を求められながら――

ご案内:「王都マグメール」からさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール」からリスさんが去りました。