2025/08/19 のログ
■アメデオ > 男娼、という仕事は気力も体力も使う。
まして夜に働く仕事ならば、夜の街こそ通常営業。
体調にまつわることは、町の病院よりも、深夜の診療所の方が便利であった。
客のいない時間を見計らい、そこへ向かう。安堵した顔のどこかの母親とすれ違う。
白いシャツを薄い体に羽織った、少年と青年のちょうど間の、赤毛の人。店の前に中を伺い。
「先生、夜分失礼致します。また、護符とポーションを少しいただきたいんですけど…寝てるかな…」
■射干 > 扉の開く音に身体が慣れているのか目は開き扉の方を向く。その扉を開けた主と、掛けられる声に眉根を少し寄せたのは──。
「君、勘違いしてもらっては困るよ。 ウチはお店じゃぁないんだ。」
臀部に張り付いた白衣を払いながら立ち上がる。時折居る、薬だけくれという手合いと勘違いしたのだろう。硬い表情のまま診察室の扉の前で彼を眺める。
「主な症状は何だい。これから一発キメるからとかいう理由だったらお断りだよ。」
とりあえず、診察室の中へと入るように促す。釘を刺したのは彼がまだ若そうに見えたから。
診療所がどういう場所かを知らずとも仕方の無い、と。
先にチェアに腰を下ろしてから、彼へも背凭れのない丸椅子をすすめて。
■アメデオ > 「ああ、ええと。」
色ごとのプロの割に、バツの悪そうな顔をした。
そして長いまつ毛を伏せて、頬をかいた。
「…失礼します。」
勧められた椅子に座り、ぱち、と目を開けると先生に今夜の要件を告げる。
「実は…お客様に引っ掻かれてしまって」
シャツの腕をまくると、白い肌に薔薇色の浅い傷跡が数条。
「あとは…ええと、あと、は…。疲労回復のポーションを予報してもらえると、助かるかなって…」
もう一つ、口に出せない理由がある。
夜の街を帰る時、働く先生のその姿を見て、
(きれいな人だなぁ…)
と、心が動いてしまって。
きっとそんな手合いはたくさんいるのだろうけど、その根底の理由はそんなあどけないものを隠していた。
お店のお客様でもなく、たまたまその姿を見た、人に。
お店でもないここでは、少年の素顔がのぞいてしまう。言葉の端々に、そして彼の年齢から、疲労回復の薬はまだそこまでいらないことが透けて見えている…
■射干 > 彼を座らせた後、シャツの内側に刻まれた傷跡を確認する。
薄手の手袋を付けてから彼の手首を支え、もう一方の手がその傷跡を確認する。
幸いといってはなんだが浅いもの、とはいえ瘡蓋次第では跡が長く残る可能性も捨てきれはしなかった。
デスクの中から消毒液を取り出すと、清潔な布地に押し当てて──。
「先ずは瘡蓋の部分を綺麗にしてやらないとね。 染みるけど男の子だ──我慢出来るだろう?」
そう、紡ぎガーゼで毛羽立った瘡蓋を溶かしこそいでゆく。
それが傷口に触れればじくじくと染みる痛みはどうしても生まれて。
「客に引っかかれて、疲労回復が欲しいって、君はあれかい?夜の子かい。」
この時間にそもそも診療所を訪れる事自体がそれを物語っているから。
傷口の消毒を終えた後に、その傷を覆う程の大きな符を取り出して、張り付けた。
しっかりと張り付けるために身を乗り出したために、彼の握っていたか、広げていたか、その手に柔らかな布地に覆われた膨らみが乗った。
それも張り終えれば束の間離れてしまうけれど。
そのまま立ち上がり棚に向かうと、冷やしてある棚の中から一瓶、一口サイズの小さな小瓶を手にして。
「飲むなら、どうしても疲れが取れないと思った朝に飲むんだよ。夜に飲んでも苦情は受け付けないからね。」
腰に手を当てて見下ろす。彼の腕の傷に張り付いた符は曲げ伸ばししても外れない程に密着していた。その符にもう一度触れてから。
傷が治れば勝手にはがれる旨を伝えて。
■アメデオ > 我慢、できる。
しっかりと、アメデオはうなづいた。
「そうなんです。歓楽街のプリプリっていうところで働いています。熱が入ってくると、つい爪を立ててしまうお客様もいるので。…お店では、アメデオという名前です。」
秀でた眉をぴりり、と沁みる痛みにしかめて。それでも17歳、これくらいはなんでもなかった。
背術を受けている腕は仰向けに、手を上にむかって開いていた。
「あっ…」
わずかに目を広げた。先生の胸が手の上に、ふわり、と。
「…すみません」
女の子が恥じらう顔に少し似ている。女性を大切にしたい、という気持ちと、きれいな人に欲を向けてしまった自責に頬が染まる。
お仕事で、求められてその手にする時と、違う。
「…あっはい!もちろん、朝に飲みます。…実は、新人の時に、一度、夜に飲んだことがあって。大変でした。」
この世界に入ったばかりの頃であった。
腕に符が当てられたのを、感じる。沁みる傷跡に、痛みが薄れて柔らかいものが触れたのがわかる。
「ちゃんとついてますね、これなら今日はなんとかなりそうです!先生、ありがとうございます。」
ふふ、と、男にしては角の取れた、柔らかい笑みをする。全てが終わって、先生の服装を改めてみる。
起伏を隠すことのない装い。うっすらとした色香、のようなもの。
こうして対面で見ると、少しづつ頭がいっぱいになる。それは仕事の時は見えなくなっている、異性への憧れ。
はっ、と息を吐くと
「…先生…?」
きれいです、と言おうとするけど、
「お名前を伺って、いいですか…?」
■射干 > 「成程ねぇ……。まぁ私はここがある以上、夜に歓楽街へ出かける方が稀だから、客になってはやれないけれど。」
悪いねぇ、なんて呟きながらも、処置を終えればひと段落。
彼が照れている様子と謝罪の言葉に首を傾がせるものの、胸が乗っていた事に気づいたのはその後。
「はは、痛いのを我慢出来たご褒美ってことにして置きなよ。
別に減るもんじゃないし。
って、ほんとうにもう、用法容量を守れないなら今度は診察拒否するからね。」
夜に飲んだともなれば、仕事が仕事なら有利に働く可能性もあろうが基本的には睡眠や急速に支障をきたすだろうから呆れたように息を吐いて。
それから、彼の後ろへとゆっくりまわると、座っている彼の頭部に、ニット生地以外なにも阻む物のない膨らみを載せる。
そうして彼が抵抗を見せないなら両腕を彼の胸元へと這わせて、軽く抱き締めてしまおう。
「……はは、アメデオ君。無理しなくていいよ。君ならわかるだろう?目は口ほどに物を言うって。 」
だから、彼がどこを見て、何を考えて、何を欲しているか、彼も仕事でそうであるように、その目は直接伝えずとも意思を伝える事が出来る。
だから載せた膨らみをそのまま首筋に当てて彼の頭部を挟み、そのまま唇を耳元へと寄せると。
「射干(ジャカ)だけど、先生でいいからね、別に。」
そう、囁いてからゆっくり、その膨らみは離れて行った。そして、その髪を軽く撫でてやりながら。
「興奮すると傷の治りに支障が出るからね。でも……、少しは君の渇きを癒せたかな?求められ続けるのも、大変だろう?」
そう、笑みを浮かべて、彼の背を叩けば立つように促す。
そろそろ、戻らなくていいのかい?と
■アメデオ > 夜、お客様で来ることはない。
それは当然。ここで来る人を癒すことが彼女の仕事なのだから。
「は、はい!」
年相応の下心を、勘弁してもらえたことに、赦しを感じた。
「あれについては、先輩方にキツく叱られました。後でツケを払うから、やめておけ、って…」
ぁっ…
浅く息を吸う、驚きの音。
頭に、優しく乗せられた二つの膨らみ。
春を売るものとして、それはあまりに青い。背中に、柔らかい体を感じる。
温かい血潮が、アメデオの足の方に降りていく。
それはごく自然で優しいタッチ。
それが幸運な色気であっても、自然な接触を与えられると、心が解けていく。
「…」
ああ、ああ。いけない。
首から頭に、血が脈打つ。お客様に求められ、胸で挟まれて揉まれた自分のモノににた、強い鼓動が首にも流れるなんて。
「じゃか、せんせい。」
何か美しい音楽でも聴いたように、陶然としていた。
「先生…」
ごめんなさい、と呟くと。
「すごく、綺麗です。」
名残惜しくて、その熟れた谷間を包むニットに、後頭部を、さりさり、とすりつけてしまう。
「…でも、それが僕の仕事ですから。」
少し寂しそうに微笑むその目が、湖面のように潤んでいる。
その言葉に堪らなくなって、そっと、先生の体に、両腕を回してハグをしてしまう。心を認めてもらえた嬉しさと、男の子であることを許された安堵と。
「…ありがとう。先生。」
愛情と、性と、その両方が向けられて、春を思う季節の心は、その両方に共通する動作を、してしまう。
アメデオの両足の間に、求めている証が固くなっている。先生のあやしい、香りを胸にそっと吸い込む。
「もうすこし、今夜は応えられると思う…」
それは、お客様に対してに聞こえる。
言葉の影に隠した、何か優しい女性的なものへの憧れ、あるいはもっと根源的な。それは先生に向けての告白であったのかもしれない。
「それじゃあ、行ってきます。先生もお身体に気をつけてください。」
頭を下げ、礼儀は正しく、体には春が来ている。来た時よりも、飛ぶように。歩く姿は元通り。
先生の優しさ、その心、たおやかな色香、を思うと、本当に今夜はいくつか仕事がこなせる。そんな確信を得た。
ご案内:「平民地区 診療所」からアメデオさんが去りました。
■射干 > 背後から抱きしめて、きっと自分の中に生まれた劣情を向けてしまって謝罪をしたのだろうか。
そんな風に思いながらも、彼が後頭部を摩るのも、その潤みを湛えた瞳のまま抱き着くのも、拒まずに両手でしつかり抱き締めて受け入れた。
礼儀正しく、去っていくその背中をしっかりと見送って。
「疲れたらまたおいで。」
そう、彼に届かないだろうエールを。 そうしてまた夜は過ぎてゆく。
ご案内:「平民地区 診療所」から射干さんが去りました。