2025/08/10 のログ
ご案内:「貧民地区 夜市」にホウセンさんが現れました。
■ホウセン > 季節は巡る。
未だ盛夏の只中にあるような気がしてならないが、
もう少ししたら秋の足音が聞こえてくるのやもしれぬ。
そんな時期には、死者を祭る儀式が行われたりもする。
王国のど真ん中たる王都土着のものではないけれど、
方々から人や文物が流れ込んでいれば、風俗や進行もまた流入するもので。
貧民地区の街中がという一体感こそないものの、幾つかの区画に夜市が立つぐらいには馴染んでもいるのだろう。
そこに、ぴょっこりと顔を出している小さな人外は、いつもに比べたら違和感控え目。
それもその筈、お小遣いを握り締めた小童共が、
今日は特別とばかりにちょろちょろとそこいらを駆け回っているのだから。
「嗚呼、祭り故にはしゃぐのを責められるものでもありゃせんが、
折角の飴を土塗れにして困るのはお主じゃぞ。」
とんっと、薄っぺらい背中に軽量級の衝撃。
さもありなんといった風情で、お子様とお子様の衝突事故だ。
日頃、天上天下唯我独尊な妖仙とて、子供に対してはやや甘い風情は否めない。
地味ながらに目玉が飛び出る浴衣に、べとぉっと溶けかけの飴が引っ付いていても。
目くじらを立てて弁償だ等と喚き散らさないぐらいには。
気を付けるのじゃぞと、小さく手を振って見送ってやり、
自分は自分で散策の続き。
喫緊の課題ではないが、そろそろ支援している孤児院に何か土産でもという心持ちになっており。
さて、小童共が喜びそうなものは…と、暖色の明かりが照らす店先をチラリ。
■ホウセン > 贈り物なら、何も貧民地区で購入せずともよい。
平民地区で信用のおける店から手に入れても良いし、
富裕地区で孤児たちが目にすることもないような上等なものを仕入れても良い。
たまには見聞を広めるために、そういったものに触れさせるのも必要なことだ。
…というのは、妖仙とて知悉している。
けれども、身の丈に合わぬものばかりで埋め尽くすのも不健全だろうと。
それでは与えられる餌を、口を開けて待つばかりの非力な存在のままだ。
「店主よ、ちぃとばかり見させてもらうのじゃ。
なに、手荒には扱わぬから安んじて待つがよい。」
草履を履いた足が、とある店の前でぺたりと止まり。
店主に断りを入れてから、ちっちゃな手を伸ばす。
拾い上げたのは円筒状の玩具。
天辺にのぞき穴があり、底の方を光に向けながら内側を見よう。
中には色鮮やかな原色のきらめきがあり、それは筒を回すことで幾らでも紋様を変えて。
仕組みを知っていれば、とても原始的な構造なのだけれど。
宝石などという高価なものも、満天の星空なんて見られる場所を選ぶものも。
街中の孤児院の子供たちには手が届かぬもの。
「幼子には丁度良いかもしれぬのぅ。
というか、腕白坊主だと放り投げて遊びかねぬ。
色味は…これとこれじゃな。」
ふむふむと値踏みして、万華鏡を二本。
代金と引き換えに受け取り、浴衣の袂へと仕舞い込み。
■ホウセン > さて、ちびっ子層への土産は決まったが、年嵩の連中へは何を持ち込んだものか。
等と、サラサラの黒髪を揺らして考える側もお子様という風情。
むしろ、見た目の年齢にしろ背丈にしろ、こちらの方が年下で小さいまであり得る。
だからといって舐めて掛かられないのは、ひとえに人徳。
と言い切るには自惚れは強くない。
出資者であることを踏まえ、孤児院の運営側がよぉく言い聞かせているのが理由の大部分だろう。
とはいっても、制御不能なのがお子様の性質。
最上級の人形もかくやという綺麗な顔を見せると、何かにつけて引っ付かれ、もみくちゃにされるのが常で。
「……少しは大人しゅうなるようなものを見繕おうか。」
全くもって深刻な懸念ではない。
彼奴らとて悪意や敵意あってのことではない。
ただちょっと、折角整えてある髪がもじゃもじゃになるまで弄られたり、
加減を知らない取り合いに巻き込まれて、首ががくんがくんいわされたりするだけで。
ふらりと誘蛾灯に誘われるように、されど髪も服も暗いのに人目を惹く容姿は夜光蝶のように。
不注意ものやら酔漢やら、突発的な罠のような小童たちの疾走を避け。
通りの反対側で見出したのは、木彫りの笛だ。
よく見かける中をくりぬいた円筒状で、側面に音程を変える為の穴が開いているものではなく。
小鳥の形をした笛。
これまた試してみるかと、柔らかそうな唇に挟んで息を吹き入れたら。
ぴょろろ、ぴょろぴょろぴょろ…と、勝手に音の高低が上下して、
聞きようによっては小鳥のそれとそっくり。
これで心穏やかになる…とは欠片も考えていないけれど、木彫りのお手本にすれば没頭して大人しくなるかとか。
腕を組みながら小鳥の木笛を咥えたままの姿が、ちょっと滑稽なのには気付いていないよう。
■ホウセン > ぴょこ、ぴょこ、ぴょこと、唇の先で木彫りの小鳥が浮き沈み。
揺らして遊んでいる訳ではなく、日頃馴染んだ煙管を咥えた時の癖が出ているに過ぎない。
思案すること暫し。
「値の割には設えもしっかりしておるし、二つ…
嗚呼、きっと一つは分解して中身を調べようとするじゃろうから三つじゃな。
包まずともよい、直ぐに渡す故な。」
どちらかというと、このちんまい商人こそが対応年齢のど真ん中っぽいが。
客相手だからか、喉まで出かかった言葉を飲み込んだ気配もあり。
表面上は至極穏やかに取引が成立したことだろう。
「さて、彼奴らめ、言い付けを守らず夜更かししておったら…」
怪談噺の一つでもして、逆に一人で夜中に厠に行けなくしてやろうかと。
碌でもない思い付きをして、口元を緩めている辺り大人げない。
孤児院はここからさして遠くなく、大人も含めて全員が床に就くには暫しの時間的猶予もあろう。
ささやかな戦利品を手に入れた妖仙が、
土産を渡してから己が遊興の為に再び街に戻るのか。
それとも孤児たちに抱き枕にされて逃れられず朝を迎えるのか。
今のところ、明確な未来は見通せず――
ご案内:「貧民地区 夜市」からホウセンさんが去りました。