2025/07/11 のログ
■睡蓮 > 水面に花が浮く。
さらさらと、流れ揺蕩い、また何処へかと流れてゆく水の音に混じるように、しゃら、と鎖が揺れる音。
瑞々しく薫る花の香りが、濃く淡く。
棚引く細い白煙は、浮き花の上を渡るように躍る女の腰に揺れる香炉から零れて広がる。
描かれる波紋が連なり細波となって湖面を揺らすも、それ以上のさざめきはなく。
表着も襦裙の裾も、水に沈み濡れるわけでもなく。
ひらひらと、領巾が流れ。軽い身ごなしは、そこが湖面であることを忘れさせるよう。
舞う様な動きは、けれどそれが独特の歩法であり。術式の一部であることを知っているのは───
恐らくは同じ北方帝国に属する術者くらいだろう。
もとよりそこは帝国に連なる霊峰の狭間。どことも知れない『洞』に生まれた夢幻の場所。
泡沫に消えるその場所で、香を燻らせ、一時の憩いを文字通り遊ぶ。
薫香の細い煙がゆるりと揺蕩い一種の結界を成せば──己にとって面倒なものはよっては来るまい。
来たところでどう、ということはないのだろうが、涼を遊ぶのに不要なものは少ないほうがいい。
己の名と同じ、浮き花の上に佇めば、ひらり、舞っていた袖や裳裾が自然下がる。
裳裾の端がほんの少し水面を潜る程度でゆらりと揺蕩いを見せる中。
心地よい清水の香りに、月の眸を瞼で隠した。
「────楼でも築きゃ、一献やれたんだろうがな。」
面倒、なんてズボラな声音が水音に混じる。
木陰があれば、それが屋根。
水面に浮かぶ木っ端があればそれが舟。
それでよかろうさ、と花の上に居場所を決めて、すい、と足を引き上げた。
さしずめここは花の褥かあるいは椅子。
中途半端に身を浮かせ、半跏に足をぶらつかせ。
■睡蓮 > 何処とも知れぬ場所から、見知らぬ所へと流れてゆく水の音。
静かに薫る花の香りを楽しみながら、ふかりと煙管の煙を流して───。
束の間に開いたその場所を独り楽しんでいた。
ご案内:「何処かの仙境」から睡蓮さんが去りました。