2025/06/29 のログ
ご案内:「平民地区 廃神社」にキタさんが現れました。
キタ > 高い陽、木々や建物が作る影は最小限になる時刻。
平民地区の端の端。木々のトンネルの先にある朽ちた参道と其の奥の廃神社。
木々のトンネルの先に何かがある、それを示すのは清涼な水の流れる水路の存在程度。
その源たる手水舎の前、小動物や鳥が遊んだ柄杓を治す巫女の姿。

「ふふ──、いつもお転婆で、元気な事。」

その水を飲んだり、行水をしたりその結果であるから咎める事も対策を講じるという意図も無い。
褐色の肌、その指先を冷たい水に浸して軽く揺らす度に湧く事で生まれる波紋と弄る波紋が重なり小さな波となる。

小さな日陰にもなるその場所は、涼をとるにはもってこい。柱も屋根も朽ちかけた社殿が視界に入るから、雰囲気も別の意味で、涼を与えよう。

ご案内:「平民地区 廃神社」にプシュケさんが現れました。
プシュケ > 平民地区は、学院帰りに通る地区であり、王族の身でありながら興味本位であちこちへとふらふら散歩しがちの少女。
今日はふと気になった方へと歩いて行ったら偶然この廃神社に着いてしまった、という訳だった。

「……ふぅん。水の音。打ち捨てられているわけではなさそう?」

そんなことをつぶやきながら、ゆっくりと敷地内へと足を踏み入れていけば、程なくお互いを視認することになるだろうか。

少し不躾に、じぃっ、と巫女服の女性を見つめているが、暫し見つめた後に、不思議そうに首がゆっくりと傾げられた。

とはいえ、見た目はどう見ても人間の形をしているがゆえに、今少し、会話距離まで近づいてから軽くひざを折り礼を向けて

「ごきげんよう。この神社の方?」

鈴のなるような声で問いを向けた。

キタ > 柄杓はすべてが等間隔に並び替えられ、覗き込む水の底、色とりどりの玉砂利も美しく映えていた。
そんな水との触れ合いに聞こえてきたのは水と、木々の騒めき以外の所々抜け落ちた石畳とその合間から生える草を踏みしめる音──。

濡れた指先を軽く払い音と、視線の方向へと身体を向ける。そこに見えた金色の童の姿、それが膝を折った後、問うてくる声に深く腰を折り一礼を。

「ええ、この場所の手入れを任されております。『キタ』と申します。」

一礼し、上げる頭。サラサラと流れる銀髪が首元に流れ柔和な笑顔を金色の童へと向けた。
しかして、こんな森の奥 童が一人遊びするにしてはあまり褒められた場所ではない、だから。少し心配そうな音を載せ、膝を折り、腰をかがめ、綺麗な碧を覗き込んだ。

「道迷いかしら? 昼間と言えど森の中、貴女のような幼子が足を向けるには危ういわ。」

大丈夫?そんな風に赤い瞳が揺れる。来客というのは何時でも、誰でも嬉しいものだが、
それでも心配が先に立つのは何よりも子供を大切にしてきた自身の存在、その根源の影響。

プシュケ > 自分の問いに返ってきた返事。
挨拶もきちんと帰ってくれば、ちょこん、と小さく頭を下げて。

「私はプシュケ。よろしくね、キタ。」

はじめて会った相手故に、自分も名乗る。
ただ、家名まで口にすれば色々と面倒なことになるかもしれないから、そこは伏せて。

が、程なく心配そうな様相を見せてくれば目を瞬かせつつ

「そう、かしら?この場所は、そこまで悪い感じには見えないのだけれど。
道には迷ってはいないわ。帰り道は分かってる。」

迷ってはおらず、自らの意思でここまでやってきたと語り向けて。
同時に今一度、至近でしっかりとキタを見つめる碧玉は、まるでその身を、その存在を見透かそうとしているかのよう。

「……キタ、貴女は、私には危険はない人。綺麗なアクアマリンブルー。でも、その奥底に少し黒いものが?
……でも、いいわ。私には優しくしてくれそうだから。」

何か不思議なことを紡いだものの、その心配は間違いなく自分に向けられていて、気になるものが自分に向けられることがないことを何かで察した様子だった。

「ねえ、キタ。もう少し、この場所の事を教えてくれる?
とても不思議な空気感。とても清涼に感じる気配。
本当にここは危険なの?とても気に入ってしまうほどに素敵な場所なのだけれど。」

キタ > 元気な挨拶。礼の仕方も堂に入っている。
きっと両親の教育その賜物なのだろう。自然と表情は緩み破顔する。

道にも迷っておらず、となれば幼少期特有の好奇心。危うさを孕む行動原理にハラハラしつつも咎めるでなく理解を示す。

「なら、良かったわ。
 ──そうね、この場所まで辿り着ければ私が守ってあげられるけれど。
 道を外れてしまったら……。」

獣や魔物の類、或いは悪人の類が隠れる場所としても適していようから。
此方が覗き込むのと同じように、覗き返される。そうして紡がれてゆく言葉に、
すこしだけキョトン、としたような表情を浮かべてから小さく銀髪が流れるようにして首が傾いだ。

「童は未来。この先を照らす光ですもの……。」

大人は、否──母は誰の子であっても優しく、厳しくなければならない。
そう──誰の子であったとしても。それが、羨む正妻の、その家の正当な嫡子であっても。
優しい微笑、その赤い色の奥にある黒いもの。どうやらそれを見透かす事が出来るらしい童の様子、そして新たな問いかけに膝を、腰を伸ばす。

そして、視線を朽ちた本殿へ向けながら腕を伸ばして白衣の裾が童の顔に影を作る様に翳す。

「私が知っているのは、唯……、この場所がずっと昔から、誰も拒まずに受け入れ、守ってきたという事だけ……。
  迷い子も、逃げ隠れする悪人も善人も、許されぬ逢瀬の果ての恋人達も。」

だから、人ならざる、人智を超えた何かが、自らを此処へ遣わしたのだと。誰に頼まれるでもなく、気づけば自らも此処に在った。
見た目通りの小さな童であれば、半分も伝わらないだろう、どこか茫洋とした語り口。
その理由は、この場とは似ても似つかない──。

「嗚呼……金色の君。 貴女は真っ直ぐに帰るべきよ。
  貴女には見えたのでしょう?人ならざるモノが、それが何時だって優しいとは限らなくてよ。」

少しだけ、寂しそうに、それでもハッキリと伝えるのは疼く怨念の
『子を愛したい』
その怨念。それが歪んだ形で向かった末路など碌な事にはならないのだから。

シュルシュル、と童へと背を向けたまま口元から舌先が伸びる。腰元まで伸びたそれがチラチラと、きっと童の視界にも収まる事だろう。
普通の子供であればそれだけで、悲鳴を上げて逃げるだろうから十分だろう。

いい子だった。だからこそ、やはりこの場が気に入って何度も会うような事はゆくゆく、危険を招くとも思う。自らの手で、舌で……。だから──。

プシュケ > 自分の好奇心からの邂逅にも理解を示してくれる相手。
ただ頭ごなしに叱るでもなく、ただ理屈をこねるでもなく。
気持ちとして寄り添って、その上で危険があると伝える様子。

その心根は優しいものとも感じられ、が故に、どこか懐きつつあるような様相をも見せるのだろうか。

が、彼女と一度近しくなった距離がまた離れる。
少し残念さや寂しさも感じるものの、立ち上がったキタの姿をただ見つめ、紡ぐ言葉をただ聞いてから。

「なんでも受け入れる森……善意も悪意もすべて受け入れてしまうのね。
でも、余程不思議な結界が張っていなければどこもそういう所だと思うわ。」

この森は確かに隠れやすいだろう。
だが、この森でなくても悪意が隠れることはある。
特にこの国、この街であれば安全な場所などほとんど存在しえないのだ。

そして、まっすぐ帰るべきと告げる彼女の言葉。
でも、その身、その気配から感じるものはその言葉と同一とは思えずに。
いや、同一の部分もあれど、違う部分もそれとなく感じる。

そんな中、視界に入る不思議な、奇妙な赤。
それが何であるかは当初は察することが出来なかったが、それが伸びた舌であると認識すれば、一瞬驚きの表情が浮かぶ。
けれど、同時にプシュケの瞳は、色々なものが見え過ぎる瞳は、いくつもの情報を少女に与える。

故に、暫しキタを見つめた後で、彼女の方へと近づいた後で、ぎゅっ、とその身に抱き着いた。

「……キタ、私は貴女にここで出会えてよかったと思っているわ。
貴女にとっての『お友達』は、もしかしたらとても複雑なものになってしまうのかもしれないけれど
それでも私はこうしてあなたに触れられるもの。
そして、私は貴女がただ怖いだけの存在だとは思えないわ。
……だから、私は貴女を怖がらない。
貴女が私を押しのけたいのなら、そう言って。そう動いて。
そうされたのなら、私はここから離れてもう二度と近づかないと約束する。

でも、ほんの少しでも触れられてよかったと思ってくれるなら、
また、キタが優しい時を探して来てもいいかしら?
私はそうしたいと思っているんだもの。」

少女は知己を得、また会いたいと思いを告げる。
けれど、彼女を苦しめてしまうのならば、彼女のためも考えようと。

キタ > 童との逢瀬は、間違いなく心地のいいものだった。だからこそ、綺麗な赤のままでは居られない。そういった恐怖が鎌首を擡げる。
少し寂し気に双眸が細くなり、一つだけゆっくり吐息を長く吐きだしてから己が胸に手を当てて気を落ち着けようと。

「──ッ……。」

追い返すつもりだった。悲鳴を上げて、この場所は魔物の住む森だと、子供が伝聞で噂を広め近づく童が少しでも減る。
その方がお互いのためだろう。その時は本当にそう思っていたのだ。

だから、見せつけた舌、だというのに……この子は。 
抱き着かれてしまえば、言葉なんてそう簡単には出てこない。
嬉しい──、でも──、ありがとう──、ダメ──。

もし童が上を見上げたとしたら、柔和な笑みを浮かべていた優し気な顔が喜色に、苦悶に、様々変わる様子を見る事が出来たかもしれない。
シュルル、と舌が浅く出入りを繰り返す度に波打ち、それは心の内の動揺を表す様でもあって……。

「金色の君── 貴女は悪い子。 どうして、私をこんなに困らせるのかしら……。」

まるで拒絶するかのような言葉と共に、長く伸ばされていた舌がまた、何事も無かったかのように仕舞われる。
そうして、腰へと抱き着くその腕を細い指が掴むと緩めて離す。

「悪い子には、何を言ってもいう事を聞いてくれない。それは私、十分承知しているわ。
  いつだって、勝手で──心配だって届かないの──。」

そうして、解けた腕の中で、童と向かい合うように身体を回せば、今度は此方から腕を伸ばす。
優しく、金色の髪を撫で、透くように指先を絡めながら白衣の胸元へとその頭部を掻き抱くのだった。

柔らかく、甘い香りと共に受け入れたのは童の我儘──、だけでない、物の怪の我儘でもあっただろう。
だから、胸の中の童へ、これだけは守って、約束──と。

「夜には来ない事。森の前で私の名を呼ぶこと。 ──この事は、誰にも、言わない事。」

そこまで、優しく紡いでから長く長くため息を零す。そして自然と伸びた舌がまだ動揺を示すように震え、
落ち着こうとするようその金色を撫でる手が少し髪に引っかかると童の顔を、見上げるよう促す事となっただろうか。
そこには、最初の余裕も柔和な雰囲気もない、ありのままの女の表情があったろう。困ったようで、本当にうれしそうな。

プシュケ > 抱き着いて、思いのたけを言葉にして、ただただその思いだけで抱き続けて。
この間は、決して他を見ようとはしていなかった。
ただ、彼女に抱き着いて、彼女の衣を感じて、彼女の香りを感じて。
もし、拒否された時にはそれだけでも覚えたままに帰ろうと。

でも、紡がれた言葉は意外なもの。
言葉の意味だけを取れば、拒絶ととれるものだが、その声色と動き、熱や気配は別の事を指し示していて。

「……ごめんなさい、キタ。私は悪い子だわ。
でも、悪い子なりに考えたの。私を心配してくれるキタと、今ここでサヨナラしてはダメだって。」

その言葉の後、向かい合うような体勢に変わり、お互いに優しく抱き合うような姿勢に。
どこか嬉しそうな、安堵したような表情となった少女は、今一度、しっかり抱きついて。

「ありがとう、キタ。……うん、約束は守る、よ。
夜には絶対に、来ません。森の前で必ず、キタの事を呼びます。そして、この場所の事も、キタの事も、私だけの秘密。
決して誰にも言いません。」

はっきりとした口調で約束をして、そして促されるままに顔を上げれば、ありのままの彼女の表情を目の当たりにして。

「……ようやく見れた。うん、とっても綺麗よ、キタ。私にとって、その表情の貴女が、一番綺麗。一番好き!」

ありのままの姿だからこそ、か。
一番綺麗だと、心からの言葉を紡いで、満面の笑みで伸びた舌を見てもなお、まるでそれも個性だというかのような、
恐怖ではなく受け入れの心根を示しながら、はっきりとそう言いきったのだった。

キタ > 「嗚呼──、悪い子だから……優しい子なのね。プシュケ。」

相手の事をしっかり考えられる。そして其のためにならどんなことでも厭わない。
ただのイイ子、では成りえない。だから愛さずにはいられない。

抱き着く身体を今度は腰を摺り寄せて、もっとと帯が邪魔をするだろうけれど互いに抱き締め合う。
君、ではない。しっかりと童の名を紡ぎ、愛おしそうに抱き締める腕にも力が入る。
そして、悪い子に有るまじき、しっかりと己との約束を復唱し守ると約束する姿に、また愛おしく谷間へぎゅっと抱きしめてから。

「優しい子……。プシュケ、貴女の成長……私にも見守らせて。
  ──きっと、本当に悪い子に育ちそうな気も、するけれどね?」

今時分から、既に物の怪を誑かし、いつ抱く腕を離したらいいか、離したくないけれど、
なんてそんなふうに思わせてしまうのだから、将来が末恐ろしい。

そんな童相手に、胸の鼓動が早鐘を打っているのはもう隠しようがないだろうから、『本当に困った子。』なんてうっとりした声と共に、だらしなく伸びた舌が彼女の髪に触れて、すぐ離れた。それは陽の傾きと共に湧き上がる物の怪の本能。

「さぁ、もうお帰りなさいプシュケ。 暗くなるまでここにいたら、
   食べてしまうかもしれないわ。本当に、嬉しかったから──」

冗談めかすように耳元で囁いてから、名残惜しそうに腕を解く。嬉しいからこそ、今宵その欲求を我慢する事は難しいと思われた。
そしてそれを見せてしまえば幻滅されるだろうから、
だから、優しい子。約束の通りに、シテ──と。

プシュケ > 彼女の腕が優しくて、彼女の感触が心地よくて、なかなか離れがたい所があったのだけれど、約束したことはしっかり守る、そう決めていたから、夜が近くなったことを伝えるキタの言葉に頷いて。

「……うん。今日は、帰るね。
次は明日、とかのわがままは言わない。
でも、キタが寂しくない程度には、また、来るね。
昼に、森の前でキタの事を呼んで、私一人で。」

今一度、再会の約束と、先程の約束を繰り返し。
それからようやくその腕を解いて、彼女から離れる。

「私もキタを困らせたくないもの。
暗くなってしまう前には、必ず帰る、ね。

今日はありがとう、キタ。また、今度。」

にっこり笑顔で彼女を見上げ、今一度、退去の挨拶をしてから、身をひるがえし歩いて家路へと。

ただ、先程の約束に、振り返ってはいけない、がなかったので、しばらく歩いては振り返り、姿が見えたら手を振って、を幾度か繰り返した後で、姿が完全に見えなくなったら、前だけを向いて、家路を急いだ。

今日は素敵なお友達が出来た。
でも、このお友達は私だけの秘密。
絶対に、誰にも教えない。

また二人の時が重なるのはいつの日か。
それでもまた、きっと穏やかな時であるのは間違いないだろう。

キタ > 本当に悪い子だった。本当に──、『諦めの』悪い子だった。
そして今まで出会ったどの童よりも、優しく、良い子だった。

元気な声と共に参道を抜けてゆく姿。其の後姿を最後まで見届けるように、一歩、また一歩と足が進んでしまっていた。
けれどその足を留めたのは振り返って手を振られたから。
胸元で手を振り返しながら、聞こえないだろう声で告げた。

「いつでも、いらして──」

きっと約束を破り夜来ることになってもこの言葉が免罪符になるだろうから。
それでも胸をざわつかせる寂寥、溜息は名残惜しさの表れで。
それを引き摺ったなら可愛い可愛い金色の君に笑われてしまうだろうから、
背筋を伸ばして落ち行く夕陽に向かって歩きはじめる。
その足取りは心なしか軽く、社殿の中からは笑う声が聞えた──

それはまた一つ。森から聞こえる笑い声、なんて怪談の一つに数えられてしまうのだろうが。心から、童と会えることを楽しみにしていた笑い声だった。

ご案内:「平民地区 廃神社」からプシュケさんが去りました。
ご案内:「平民地区 廃神社」からキタさんが去りました。