2026/02/24 のログ
影時 > 「俺が認識している符術ってぇのは、記した式と原動力として篭めた氣やら魔力やらに基づいて働くもんだ。
 故に例えば、起動の念を送ることで、爆発を起こす符を拵えられるわけでな。
 
 ははは、見たいか見たいか。……大技だからなぁ。機会(とき)があれば、その時に、な?
 人の念とは弱いように見えて、募ればがらりと変わる。
 恨と怨は燃えるが如く極まり易いが故に、強念に変じ得る。そんなもんは買わないに限るが……」
 
符術は色々と出来ることが広がる分、取り扱いが難しい。
忍具を拵える延長のように己が里で発達したが、今はどうだろうか。進んだのか衰えたのやら。
“拵える”がキモなだけに、深めようとするとあれやこれやと物入りになる。
今でこそトゥルネソル商会経由で仕入れているが、不可解なことに術を描く紙も羊皮紙ではとんとノリが悪かった。
興味津々、とばかりに尾が揺れる有様を視界に収めつつ、伝授するか否か――悩む。

今の手持ちをより深めるか、あれもあるこれもあると広げるべきか。
それもまた、長らえてのことだ。極めるも深めるも生きていて初めて為し得ること。
甘っちょろいと謗られても、仕方がない。今は契約に対する方策を模索しつつ、見守るとしよう。

「ああ。……むむ、こりゃまた深く考えさせてくれるなぁおい。よくよく吟味して答えなきゃならんな」

問題の応接室は己も何度か使うが、わざわざ茶を出してくれたかどうかは――先方次第だったか。
ない訳ではない。だが、依頼者が淹れて出してくれるというのは、考えてみると初めてだったような気もする。
弟子が宣う言葉にぴくと眉を上げ、どうだったかと脳裏にあの茶の味を思いだしてみようと試みる。
恐らく、大丈夫だ。比較については、ケーキで口の中を整えつつ、答えを出すことになりそうだ。
その前にも先ず、手紙に続けてマキモノ、もとい、巻物の内容も確かめる必要がある。
とたとたそわそわ騒ぐ三匹に何やってるんだ、と目配せしつつ、持ってきたサイドテーブルに広げるは――。

「………――草書だな。それは間違いない。読め、なくもなかろうが、だいぶ癖があるか、……か?
 
 んで、これが火之神様、か。……祈ってる、と思えるのは分かるが。こっちのは、なんだ?罪人、悪人をくべている図かね」
 
どういたしまして、と弟子に頷きつつ、広げられる巻物、絵巻に神妙な顔つきで目線を落とす。
異国とはいっても己にとっては故郷のそれに、恐らくは相違あるまい。
描かれる後光を背負っているような人の姿は、確かに神のよう。祈られるのもそれを裏付ける。
気にかかるのは、大小二人の誰かが火に捧げられ、くべられるような情景。巻物は思った以上に長く、先が多そうだ。
時間がある時に床を掃いて、シートでも広げた上に転がし広げる等も必要だろう。
そう思いながら息を吐き、椅子に座り直す。紅茶のカップを取り上げ、喉を潤しつつ、ごごごごごそそそそ、とする情景に、ほ、と息を吐く。
全く以て、三匹は本能通りである。入れる場所があれば入りたい。遊びたい。
わーい!とばかりに横倒しの紙袋に尻尾が出たり、入ったり。彼らだけは、実にマイペースであった。

> 「ふむ……魔道具の中にも、常時発動型でないものがあると聞きます。魔力を注いで初めて動くもの、それと同じですね。
 スクロールのように、開けば勝手に起動する、誰でも使える便利なものとは違う。修行が必要なものです。

 ん! その機会が来るのは良いか悪いかはわかりませんが、楽しみにしています。
 ……はい。恨みを買わぬように、常に忍んで……頑張ります」

頭の中で魔道具に置き換え、今まで見たことのあるものにあてはめながら納得して首肯する。
師の言う符術は勉学的な面と、実戦で使うための技術面、両方を磨き上げて初めてものになる類の術だろう。
今すぐに教えてくれと駄々を捏ねるつもりは無い。とりあえず、次に進むには今出されている課題を合格してからだ。
男も娘も、恨みを買うだけのことを過去に起こしている。
道端で過去の同業者にまた絡まれるようなことがないとも言い切れない。
思いもよらぬところで、と言う可能性も考えると、今後も認識阻害の術は外出時には必須だと胸中で改めて思うのだった。

「どちらが美味しいと答えても構いません。先生の味の好みを知りたいだけなので」

そう難しく考える必要は無いと軽く声を掛けながら、そろそろ冷めて飲み頃になった紅茶を手に取る。
念のため息を吹きかけ冷ましつつ、コクリと一口飲んで納得の味に小さく頷いた。
続けて、パンケーキをフォークで切って齧りつつ、巻物を隣で眺める。

「……! 先生、読めますかっ。では……あの、翻訳を……時間が掛かってもいいので、お願いしたい……のですが。
 はい、神様です。んー……それは、よくわかりませんが、大きさが違うから……大人と子供ではないでしょうか?

 ――あむ。んぐ……、うー……甘さ、控えめ……少しお酒の風味がする」

真剣な面持ちで巻物を観察する様子に期待を込め、読める可能性があると知れば声を弾ませた。
が、すぐに気持ちを抑え、控えめに男の顔色を伺いながら頼みごとをおずおずと口にする。
問題の絵については、聞かれれば少し考え込んで首を捻り、悩みながら答える。それが正解かどうかも、この文字を読み解くことが出来ればわかるだろう。

真面目な師の傍らで、ごそごそがさがさっ、楽しそうに出たり入ったりと紙袋で遊び回る三匹と、まったりケーキとお茶に舌鼓を打つ弟子。
愛らしく楽しそうな三匹を見守りながら、喜んでくれて何よりだと薄く笑みを浮かべた。

影時 > 「然り然り。勿論造りはそれぞれだが、俺の場合は大体そういう類のもの、だ。
 導火線を引いた火薬宜しくなる奴もあるにしたって、いざという時に逆用されたら溜まったもんじゃあない。
 
 気分転換がてら、次の仕事は大掛かりな奴でも探しておくか……。
 常になンてのは大仰だが、胸襟を開くべき相手はよくよく見ること、だ。それと……」
 
……あれらの動向も目についたら、報告してくれ、と。囁くように零す。
符術はいずれでいい。以前出した課題の成果と、他のあれこれの仕上がりを見極め、幅を出したい時にで良いだろう。
年月の積み重ねが深みと幅を増すなら、若い時分に詰め込み過ぎても逆に持て余す。
手持ちの手札をよく高め、磨き上げるのもまた、修行のうちだろう。
講釈をしながら、気に掛けるべきも思う。あれらと云うのは最早他でもない。彼ら、のことだ。
今回の経験、事例を以って、広く思えた街も存外に狭い、ということが身に沁みた。故に何か目につくこともあるかもしれない。

「分かった分かった。ちゃんと比較したうえで答えてやるから、な?」

耳と尻尾通りの猫舌な弟子とは違い、熱いうちに呑む。呑める。
味慣れた風味と濃さを舌鼓を打ちつつ、喉を湿らせ、一息。……こっちの方かね、と。小さく馴染みある味に呟きながら。

「…………ああ。ぜーんぶ纏めて、にゃ恐らく時間が掛かろうが、読んだ上で書き出せるだろうよ。
 分かった。改めて入れ物も見繕ったうえで、預かろう。
 そういう見方も、あるか。……親子を、火に捧げる、といった具合……いや、後だ後。
 
 今は、こっちだ。――ははぁ、酒漬けの干し葡萄ときたか。オトナの味ってェ奴だな……」
 
如何に解釈するべきか読み解くべきか。絵だけを見るのでは抽象的が過ぎる。文字書きの書き出しと翻訳が必要だろう。
己にはそれが出来る。出来るに足る知識が頭の中に入っている。ボリュームたっぷりだが、為せるだろう。
解釈を深めるは後回しにして、丁寧な手つきで巻物を巻き直して、紐をかけて。
臨時の遊び場と化した紙袋に和みつつ、ケーキに手を出そう。
フォークで切り出し、含む味は己好みな方。芳醇な匂いは酒気も漂わせるが、この位ならば酩酊はするまい。
気にかかる事項は抱えながら、先刻の蛇やら、手紙で伝えられた内容やら、認識すべきことを話し合いつつ――このひと時を過ごそう。

> 逆用されるとは考えていなかった。
最近めっきり取り出さないので頭から抜けていたが、爆薬、火薬の類を多く扱う者なら、当然忌避すべきことである。
それは確かに困る、と目を瞠り。
耳打ちされた指令には、声にせず、静かに一度だけ頷く。
あれらと呼ばれる者たちのことも、それ以外も、何か不審な動きがあれば……。
そう思う反面、不用意に不安を煽るようなことにはならぬよう、細心の注意を払わねばと思う。

お茶の感想はじっくり悩んで、比べてもらって結構。
どんな様子か気になるが、気にしないふりをして手紙を仕舞い、服を抱えて、本を乗せ。
そうしていると、小さく呟く声を聞いた。

「――……っ! ……ん」

しかと聞いたその呟きに、また耳と尾を真っ直ぐに立て、尾の先を小さく震わせ歓喜しながら、澄ます顔で一声だけを返す。

「はい、急ぐものでも無いので、気が向いた時にでも進めていただければ。影時先生、よろしくお願いします。
 絵だけで判断するには、この絵は簡素が過ぎます……。

 うん、ちょっと苦い。でも、やっぱり甘い……。お茶にも合う。ラファルの口にも合えば良いのですが……」

絵巻としては画家が描いたものでは無いだろう。絵心はあるが、この国の絵画に比べれば簡素過ぎて、けして褒め称えるような絵では無いと娘は思う。
きっと、重要なのは文字の方なのだろう。多分。
巻物はそのまま師に託し、解読、管理も含めお願いすることにした。

少し大人の味がするパウンドケーキは、師の口には合ったようだが、はたして姉弟子はどうか。
夕飯の後で振舞う時を想像しながら、カップを傾け口に残るほろ苦い甘味を押し流すのだった――。

ご案内:「私邸」から影時さんが去りました。
ご案内:「私邸」からさんが去りました。