2026/02/22 のログ
■エレイ > やがてカーテンが開き、客が現れれば男は笑顔で迎え入れ──
ご案内:「九頭竜の水浴び場 マッサージ室」からエレイさんが去りました。
ご案内:「私邸」に影時さんが現れました。
ご案内:「私邸」に篝さんが現れました。
■影時 > 嵐が過ぎて、また嵐が来る。そう思わせるように、鼻腔の奥をふとむずつかせるものがある。
雨の気配だ。きっと夜は雨が降るだろう。そう思えば家路を急ぐ。
平民地区にある冒険者ギルドから、富裕地区とは言え平民地区に近い辺りにある我が城だ。
忍者の足で走れば、ひとっ走りであるはずの距離が――重い。
遠いではない。聊かではなく、重いのだ。何かを致命的に違えてしまったような悪寒に重い。
――馬鹿な、だ。
己は間違えない。己は正しい。故にその感情は気の迷いである、という論法は傲慢が過ぎる。
いずれ全て過ぎゆくものだ。すり抜けて往くのである。遠ざかるものである。
切り捨ててしまえばいい。酔狂だの数寄だと余計を背負い、あれこれ求めとするから、こうなるのだ。
歳を経るだけで悟れるなら苦労はしない。肉体に精神が引っ張られるから、と宣う手合いの気も分からなくもない。
昔は強かったのか。今は弱くなったのか。気がそぞろになっているうちに、気づけば。
「……着いたか」
鋳鉄の門扉が見える。その向こうにある煉瓦壁と庭の情景は、間違えようもない。
はた、と立ち止まる白い長羽織姿の男の家である。住まいである。
陽光に影を作る屋根のありようと、日差しの傾きに時間経過を悟りつつ、静かに門扉を開く。
軋む音は僅かに。いっ、ぽ、と。肩も揺らさず玄関までの距離を滑らかに埋め、鍵を取り出す。
差し込み、捻る動きは――この館に紐づけられた、小さな小さな家令は直ぐ知るところ。
「帰ったぞ」
扉を開きつつ、宣う声はきっと館の奥に居ても直ぐ、聞こえることだろう。
■篝 > 富裕地区の端に建つ一軒の洋館。その屋敷の居間には暖炉が備え付けられている。
その上で煌々と燃え続けるランプの明かりは、引っ越した日から一度として火を絶やしたことは無く、今日も明るく温かな灯火を宿す。
今日は休日と言うこともあり、午前中から自室や居間の掃除をして、皆が使うシーツやタオルも洗濯し、昼を越えれば乾いたものを順に取り込みソファに置く。
取り込んだばかりの洗濯物の山に埋もれる小さな家令のリスは、鼻をひくつかせながらもぞもぞと仕上がり具合を確認しているようだった。
娘はその様子を眺めながら、最後のタオルを片手に居間へと戻る。
パチパチと小さな音を立てて燃える暖炉の温かいこと。
少しずつ春に近づいているとはいえ、やはりまだ暖炉の火は欠かせないようだ。
「クロジロウ。洗濯物、畳むの……お手伝い、出来る?」
声に応じてシーツの隙間からすぽんと顔を出した家令は、少し考えた後、片手を上げて返した。
果たして人間の言葉は何処まで彼らに伝わっているのだろう……。
一番小さなタオルを家令に託し、その隣でせっせと真っ白なシーツを畳む。
山を半分ほど畳み終えた時だった。
隣の家令が耳と尾を立て玄関の方へと振り返る。
娘がそれに続いて振り返ると、扉の開く音と共に聞き慣れた師の声が響いた。
何処か疲れが伺えるその声に、小さな毛玉と顔を見合わせ瞬きを一度。
畳みかけだったシーツを置いて立ち上がり、玄関の方へと一人と遅れて一匹が向かう。
「先生、お帰りなさいませ。お早いお帰りで――」
羽織姿の男の姿を視界に入れた瞬間、チクリと首に小さな痛みが走った。
何だろうかと手を伸ばして見たが、蟲の類は近くにはいないようで、はてと首を傾げる。
男が娘の方へ視線を向けていたならば、その首に白い蛇が巻き付き牙を立てる姿を目にしただろう。
蛇は魔術によって生み出された呪いのようなもの。瞬く間に消え、まるで見間違いであったかのように跡形もない。
■影時 > この館には暖炉がある。夏は兎も角として、それが据えられた場は人が集まる場である。
その暖炉を縁取るマントルピースの上に置かれたランプの明かりは、家主と小さな家令の働きで絶えない。
家令の働きといっても、そろそろ火が消えそうと誰かに知らせるだけだ。
彼には手があっても、人間の手ではない。器用であっても齧歯類の腕力、爪力では無理なものは無理だ。
そんな小さな家令の名はクロジロウ。天然無垢健康優良のシマリス――の姿を模した、式紙、使い魔の類である。
時折外に出ては天候の様子と、干された洗濯物の状態を確認し、休んでいる主の同居人に取り込み時を教える。
他の先達と同じように、取り込まれる洗濯物にダイブしたくなる衝動を堪え……きれない。
ムリなものは無理。部屋の暖かさがあれば、式紙の癖にうとうとして温かい寝床が欲しくなる衝動にかられる。
小さなお鼻をひくひくさせ、おひさまの匂いを堪能して、もぞっ、と。
シーツの海を泳いだ先で顔を出した処にかかる声に、ぱちくり。思案してぴょこと手を挙げる。
小さなものなら、どうにか、こうにか。よいせ、よいせ、と。……畳んだ後の仕上げはくちゃ、となるのはご愛敬。
そんなときに、耳をぴくり。暴れたりしないのは正規の鍵で、然るべきものが玄関を開けてるから。
ただ、どうだろう。小さな毛玉の脳裏に見える飼い主の顔と気配が、特に後者がいつになく乱れている。
「……嗚呼、ただいま帰った。――篝。話がある。渡すものもあるが、……――――!」
扉を閉じ、鍵をかける。腰に差した刀を鞘ごと外し、一息ついた処に見えてくるのは一人と一匹の姿。
その姿を正しく正視しなければならない。隠し事はなしだ。下手な隠し事が致命を招くことはあってはならない。
だが、時はどうやら既に遅かったらしい。小柄の娘の首に巻きつく白い蛇の如き幻視。
この手の縛り、ビジョン、イメージについては、覚えがない訳ではない。
近しいものを見た、対峙したと云う方が恐らくは正しい。
荒れたとは言え故郷の帝が座す都にて、古来より飛び交った呪詛のそれに似てはいないだろうか。
「篝の首に白い蛇が巻き付き、牙を立てたように見えた。……覚えは、あるか?」
切迫じみた面持ちで右手を伸ばし、弟子の首筋に触れ、覗きながら氣を起こす。氣を篭める。
両目に氣が宿り、赤く強く輝く。指先に篭めれば、見得ざるもの、有り得ざるものも触れられるかのよう。
弟子の受け答え、応答を確かめれば、一先ずは吐息と共に居間へと向かうとしようか。
■篝 > 娘の後をてってけついてくる働き者の家令は、追いつけばその勢いのまま娘のスカートに跳んでよじよじ。
器用に登って娘が手を当てる反対の肩に到着すれば一呼吸つく。
はて、と不思議そうに首を捻る娘を真似て、一緒になって首を傾げた。
師はまだ夕方前だと言うのに、もう既に大層お疲れの様子。冒険者ギルドで何かあったのだろうか?
目が合うなり、ハッとしたような顔をして、焦りの滲む面持ちで此方へと手を伸ばす。
「んぅ。白い蛇、ですか? んー……―― ああ、あります。
……なるほど、理解しました」
触れる手は拒まず、添えていた手を下ろし蛇に噛まれたらしい首を診せる。
そこには血は出ていないが、確かに蛇に噛まれたような痕があり、幻覚では無かったと確信を持たせるだろう。
師の問いかけに、娘は暫く考え込んだ後、思い当たるものがあったようで頷き、何を察したか納得してもう一度深く頷く。
特に驚きも、怯えもしていない。いつも通り、淡々とした抑揚のない受け答えである。
奥へ向かう師の後を追う前に、急いで台所でお湯を沸かしお茶の用意だけ整えて。少し遅れて居間へと戻る。
ソファの上にはまだ畳みかけのシーツが数枚と、畳み終えたタオルとシーツが並んで置かれ、その隣に少し乱れているが畳まれた小さなタオルが一枚。
畳み終えたものはまとめてバスケットの下に入れ、まだのものをその上に投げ入れ座るスペースを確保した。
お湯が沸くまでもう暫く掛かる。その間に、ソファに座って話を進めよう。
「白い蛇と言えば、元主様の使う契約魔術に関連するものでしょう。
以前、契約を違反した者が罰を受けるのを見たことがあります。
……今は特に、巻き付いているような感じはありませんね」
思い当たることがあるとは言ったが、己が知っていることもそう多くはない。
心当たりはあるが、違反したと言う意味では特に覚えがない以上、その謎はこれから師から語られるだろうと予測して、話が切り出されるのを待つ。
■影時 > 人間との足幅、歩幅の差なんて、走って飛びついてしまえば何のその。
今、飼い主の肩上にもぞもぞと出てきた二匹の毛玉たちが得た知見、教訓のようなものである。
特に人混みを行き交う時なら、寄らば大樹とばかりに飼い主の肩の上に居れば色々諸々心配ない。
心配といえば、強い匂いを放つ飼い主、親分の有様だ。
匂いと云っても現実的な臭さ、悪臭の類ではない。他者が抱く感情を云わば匂いのように知覚している――らしい。
そんな彼らも、目撃者である。後輩の家令に尻尾を立てて挨拶するのもそこそこに、びびく!と。
二匹の合わせて四つの目も、見た。蛇、としか言いようがない。彼らにとっては恐ろしい生き物のビジョン。
慌てて襟巻の中に潜ってしまうのも、さもありなん。
「…………そー、か。此れは、俺の手抜かりだな。
釈然のしなさこそあれ、一先ずケリがついたと云う時点で気が抜けたのが、ある種致命的だったか」
急にすまん、と。触れた手で残る痕を労わるように撫で、嘆息と共に手を放そう。
ここでずっと立ち続けてもいられない。話を、しなければならない。一先ずは居間の方に向かう。
居間の入口に据えられた掲示板に記された己が予定を消し、その傍に置き場的に据えた低い卓に羽織を脱ぎ置く。
刀を一先ずそこに立てかければ、腰裏に付けた雑嚢はそのままにソファの方に向かおう。
散らばるものは、どうやら乾いた洗濯物を畳んでいる最中であった、という処だろう。
「成る程。白い蛇、かァ。俺の故郷だと吉兆、神使とかみてぇな扱いだったが、斯くの如くだと何とも言えねぇや。
――まず、云うとな。……ナイトと会った。
俺が請けた依頼の出し主が、例の手紙の宛先であった。……匂いで感づかれた。気づかれた」
ソファに座る。深く深く、座る。しゅるりと襟巻を解けば、隠れていた二匹が飛び出していく。
首裏を背凭れに埋めつつ天井を見上げて、止める。
身体を起こし、弟子の方を改めて見据えながら口を開く。短くも要点を述べる姿をテーブルに飛び上る二匹、否、三匹が見詰めて。
■篝 > ひょっこり顔を出した毛玉二匹と出会えば、三匹一緒に尻尾を立てていつも通りの挨拶……のはずが、何を見たか、怯えて脱兎のごとく襟巻の中に隠れる姿にキョトンである。
主とその弟子の話を聞いている中で、蛇と言う単語が聞こえれば同じく、びびくっ!と。
警戒してそわそわと辺りを見渡しもしたか。
そんな式紙をよそに話は進む。
「んー……。
う? 手抜かり? 致命的? は、はぁ……」
軽く撫で摩る手の感触に目を閉じて、ついゴロゴロと喉が鳴りそうになるのを堪えつつ。
失敗を悔いて落ち込んでいる様子に同声を掛けるべきか、困惑して言葉に迷う。
元主とは、互いにもう会うことも無いと別れたきり、顔も見なければ連絡も無い。問題は解決したと思っていたが。
一通りの準備を終えてから、ソファに隣り合い座って話を聞く。
どっしりと深く腰掛け、背まで預けて天井を仰ぐ。肉体的な疲労感と言うよりも、精神的な疲れが色濃く見える。
「えっと……蛇が神聖かどうかは存じませんが、あの蛇は契約を遵守させる番人であると認識しています。
……ああ、それで。それは私も迂闊でした。ナイトに手紙を送れば、それで終わると思っていましたので……。
まさか、そう動くとは……。予想外です」
襟巻から飛び出して来た二匹が、テーブルの一匹と並び此方を見る。
視線に気付けば、暗赤もこちらを見つめ真面目な顔で事の経緯を娘に語る。
秘匿の禁を破ったことは蛇が現れたことから理解していた。そして、師の口が堅く、無暗に契約に触れるような行いをしないこともわかっていた。
止むにを得ない理由あってのこととして、その理由とは何か。と考えていた。
だが、事実は想像の斜め上。手紙を出してあしらえたと思っていた元同僚が、予想外の動きを見せたことに、流石の娘も動じて眉根を寄せ、小さく溜息を吐く。
「……ナイトの事です、問い詰め無理矢理聞き出されたのでしょう。
影時先生、元同僚が申し訳ありません……」
額に手を添え俯きながら、しおしおと尻尾と耳を下げた。
■影時 > そりゃあ毛玉。シマリスとモモンガ。樹上に居ようとも地上に居ようとも、怖いものは怖いのである。
寧ろ本能的ともいえる。その本能も反映されている式紙でも、それは同じ。
ここが若し屋外であったなら、二匹は慌てて毛並みの中に隠したミニ魔導書も構えてみせたか。
「……手抜かり、だ。
契約に気をつけろと云う側が、弟子の交わしたものを把握してなかったのは、腹ァ切りたくなる程の失態よ」
安楽にソファで弟子を己が太腿を枕に寝させて、喉やら尾の付け根やらを擽っていれば良いなら、そうもした。
しかし、此度垣間見たものがその程度で祓えるなら、除けるならば苦労はしない。
契約内容を知っていれば、少なくない知識で解析、解呪、掻い潜る等の研究にも打ち込めたことだろう。
己が蓄えた忍術の知識にも、その手のものはある。趣味でなくとも知らなければならないこともある。
故郷で相対した敵は、何も忍者や侍だけではない。悪法師、呪術師といった類も居た。
行使する式紙の術も、そうした経験、陰陽術の知識等にも基づくもの。里で蓄えた全てを己は知る。
アップデート、更新もされぬまま、初めて見た異国、異邦の術式に張り合いうるかどうかは、……さて。
「まぁ、俺の認識では、だ。……山一つ挟むだけで、認識が異なるなんて、珍しかァないことを俺は知っている。
乙女心ってぇよりは友情って奴、なのかねぇ。篝が思ってた以上の、な?
……駆け落ちとかなんだかの下りが、悪かったのかどうかは、兎も角、もう会えねえ誰かから手紙が届いた。
であるなら、その返事を送れない筈があるまい、か。事の動機は、そんな具合なんだろう」
卓上に並ぶ二匹と一匹が、気づかわしげな目で見やり、思わしげな仕草で尻尾をゆらり、ゆらり。
依頼主の口から知った名が出た時は、とぼけた。毛玉達もありありと明瞭な素振りを見せなかった。
よりそれ以前の段階で。依頼主が名乗った段階で、脱兎をキメるべきだったか。否、もう時は既に遅い。
「……気にするな。気持ちは、まぁ分からんでもないのは、確かにあった。
彼奴らに宿を襲われた点こそ云うのは避けたが、凡その流れ、要点を喋る羽目になってしまった。
件の聖騎士のことも……知ってたみてぇだな。まあ、色々と関わりはあるようだった。
何か、荷物を置いてったが……嗚呼、篝よ、契約に反した奴が罰を受けるのを見た、と云ったな。具体的にはどうか分かるか?」
しおしおと耳と尻尾をしならせる有様にゆるりと首を振り、そうだ、と。腰に付けたままの雑嚢を漁る。
物を取り出すのは難しくない。対象を脳裏に浮かべつつ、鞄を開いて手を入れ、引っ張り出せば良い。
三匹の毛玉達の傍に、中身は改めていない紙袋を置きながら、今後に関わる疑問の一つを問う。
■篝 > 「それは……。禁については説明がされていたので、口にする必要は無いかと説明を怠りました。
先生が腹を斬るなら、私も隣でそれに倣わねばなりません」
けして穏やかな心地ではない話なだけに、互いに顔を突き合わせ真面目である。
一通り話が済んでお茶を飲んで一服した後なら、少しはまったりすることも出来るだろうが、まだまだそれは遠そうだ。
自責の念で首でも締まっていそうな物言いに、弟子はお互いに責があると言う。
解呪の方法があるかどうかは定かではない。そもそも、この契約は呪いのようであって呪いではないのだ。
互いに了承の上で結ばれた契りは、下手な呪いよりも解くのは難しかろう。
仮に解けたとして、それが術者に伝わる恐れもある。意図的に契約を破棄したとなれば、相手がどんな手を打って来るかわからないと言うのも怖い所だ。
「ん……。はぁ、友情……。私には難しいものですが……そうですか。
そこまで固執されるほど、深い関係では無いと思っていました。少し、認識を改めます。
会うにしろ、手紙にしろ、ヴァリエールと関係のある者と接触するのは危険を伴うので、あまり我儘を言わなければよいのですが」
最初は暗赤を見つめ返事をしていたが、ゆーらゆらと、揺れる尻尾が視界の端でチラついて。
ついつい、目線がそちらに引っ張られそうになり、そわそわと行ったり来たりを繰り返し。
「お気遣いありがとうございます。
そうですか、要点のみ……と言うと、元主様の命と、私の仕事……そのあたりでしょうか。
聖騎士からも、ナイトとは関りがあると聞いてはいました。反応から見て、多少は気心の知れた仲だと判断します。
んー。……ナイトの性格を考えると、色々と知れば憤慨して元主様に怒鳴り込みに行きそうな気がしますが……大丈夫、でしょうか?
荷物? ……開けてもよろしいですか?
――あ、はい。拷問されているのを見張っていた際に。
一度目は警告で、体調を崩す程度ですが、二度目は身体に物理的な異変、三度目にその者は死にました」
荷物と聞けば萎れていた耳がピンと立ち、取り出された荷物に目を向ける。
手を伸ばしかけながら尋ねつつ、問われた事には見たままを伝える。
ヴァリエール家を知る貴族の間で囁かれる噂。“蛇の機嫌を三度損なえば血が途絶える。”とは、その契約の事を意味しているのだろう。
■影時 > 「……二人して片手落ち、か。――反省、だな。取り敢えず腹ァ切るのは、お互い無しにするか、な。
最早これ以上殊更に事を荒立てたいつもりは無ぇ、無いが。
呪詛、呪術の類について受け流し方以外にもより深く知っとくべきだったなこりゃ……」
起こってしまった、過ぎたことについては、致し方ない。
面倒な縛り、強制が生じる契約の類は、一つ屋根に住まう以上はぬかりないよう共有する等々。
そんな掟を今後定めていくのも必要だろう。そう思う。痛感せざるを得ない。
契約というのも物の見方、当事者同士の契りも他所から見れば、というこじつけじみた言い草も出来なくもない。
それよりは条項条文を明瞭とし、さながら神との契約を如何にするか、とばかりの神学者的解釈でも必要になり得るか。
自分ならば、契約を解かれたことを認識できる仕掛け、事項は――付加する。
毛玉を模した式紙を作ったときも、そうだ。何故そうなったかを認識するのはとても大事なことだ。
「難しいことじゃあるめェよ。気になるなら、俺の他の弟子がこの館に来た時にでも試せばいい。
手紙を出す際の取り決め、符牒については、定めておいた。
……あンの伯爵にも他の使用人にも聞くなということについては、念押しした。事が事、だからな」
そわそわ。ゆーらゆら。この場の空気に落ち着かなさげに、二匹と一匹が尻尾を揺らす。
居た堪れなさめいたものすら覚えているのだろう。併せて三匹が顔を向け合い、落ち着かないようにしている。
揺れる、揺れ続けるものがあるのは……猫故に気になるのは、是非も無い。
「単純な興味、好機がこうもなるたぁ、な。試さず聞かずして分からンとはいえ、真逆が過ぎた。
要点は、ああ、その通りだ。
さっきも言った通り、要点として伝え示した事項については、胸の内に収める点は了解を得た。
問題は、……だ。あんの聖騎士を今すぐ殴りに行く、とばかりに飛び出しちまったんだよなァ……。
――止められなかった。
荷物は、無論開けていい。俺の鼻にもこいつらの鼻に引っかからなかったから、中身は害があるものじゃあない筈だが。
……ふむ。三段階、か。――さっき俺が見たのは、一段階目と思いてェが、あ~。形代に付けて流せる類、じゃぁないよなあ……。」
荷物は勿論、問題ない。あからさまな火薬、劇薬なら刺激臭等の時点で気づく。二匹の鼻ならより明確。
その上で、聞いた内容を胸の前で腕組みし、吟味するように眉間に皺を刻み、腰裏の雑嚢に手を遣る。
がばり、とばかりに取り出すのは術符の束。短冊じみたものから切紙細工か、あたかも人の形のように切り出したものまで。
そのうちの一枚、ヒト型の術符を見る。呪詛除け、呪詛を受け流すために拵えた類のもの。