2025/12/08 のログ
ご案内:「道具店『満印伝者』」にネクラリスさんが現れました。
■ネクラリス > (むぎゅう)
全方位にひしめく人と人との間隔がまた一段狭くなり、もう遠慮して隙間を空けるなんて事が出来ない押し合いへし合い。
それでも居合わせる人々は声一つ上げる事無く、気まずそうにパーソナルスペースの保持に努めていた。
平民地区の外れに位置する道具店『満印伝者』は、冒険者向けの魔術付与された商品を扱う界隈の名店である。
『燃料要らずの消えないランタン』『収納された物を腐食させない容器』など、
冒険者でなくとも欲しくなりそうな商品は命を預けるに足る確かな品質で、それだけに値段もめっぽう高い。
しかし店主がやたらと拘りの強い人物で『型落ち品は必ず処分する』と決めているため、
弟子達の必死の説得により『新商品の発売前には投げ売りセールが開催される』のが恒例となっていた。
工房に併設された販売スペースは前後に細長い構造で、
入口から入った客は奥へ奥へと進み出口の窓口で商品と代金を交換して外に出る。
客が多いならセール日だけは受け渡しを屋外にするとか整理券を配るとか工夫すれば良さそうなものだし、
それでなくても超満員になるくらいなら外まで並べば良いものを、
ここでも偏屈な店主の拘りにより
『お客様を外で待たせるなんてとんでもねぇ【絶対に】中に入ってもらえ、外で並ぶやつなんざ客じゃねぇ』
という訳で、店の外では通行人を装う待機客がウロウロしながら、
入口にわずかな隙間が出来次第突撃してくるという修羅場が展開されていた。
そして販売スペース内部においても『お客様にはお買い物に集中して頂きてぇ』という店主の想いにより
『私語厳禁』というルールが敷かれている。
どれくらい厳禁なのかというと、誰かの足を踏んでしまった時に小声で『失礼、ごめんなさい』くらいはギリ許容されるが、
『おい踏んだぞ!謝れ!』はNG。
そして違反が発生すると臍を曲げた店主が即刻店仕舞い、在庫をお焚き上げしてしまったという逸話があり
荒くれの冒険者達もここでは肩を狭くしてお行儀よく順番を待つのだ。
なお『ムカついたからもう買えなくてもいいので喧嘩してやる!』は通用しない。
店主の拘りは布告した事にしか発揮されず、販売スペースの静粛さえ維持されれば発生したトラブルについては我関せずである。
NGによる店仕舞い後、店先にて原因と思しき人物がリンチされるのは稀によくある事で、
ホントかウソかそうした伝説により参加者達の行動は一定に制限されていた。
しかしそうなると、今度はスリや痴漢が横行する。
(むっぎゅうっ)
「――っふぎゅふっ…… ふぐっ…… ふっ ふひひ……♡」
また一段と切迫する人の密度に、筋力で弾き返す力のない小娘は小さく呻き声を上げ、しかしちょっと楽しそう。
本来ならこんな人混みに参加するなんて冗談ではないが。
お一人様一点限りの大人気セール品は転売すればちょっとしたお小遣い。
もちろんそれだけではこんな苦行に耐えられないけれど――
本日は位置取りバッチリ、胸が気になる『あなた』に密着♡するベストポジションである。
外出するからには肉襦袢着用で、ふくよかな乳房が押し付けられている『あなた』は女性に油断しているだろうか。
しかしこちらのお股には形成済みの模造男根。
とはいえここまでの用意は無駄になるかもしれないが、ヤル気マンマンの痴漢予備軍。
こんなアグレッシブさを発揮できる事はまず無いが、秘密さわさわ作品から仕入れた間違った予備知識と、
このセール会場におけるささやかな成功体験が危機管理をバグらせてしまっていた。
まずは従える童貞霊達によるフェザータッチから、標的がガチギレしてこないヤれる子であるか否かを確認したい。
ガタンゴトン、と店舗が揺れた。
頻繁におとずれるこの振動は併設された工房からのもので、販売スペースにはご丁寧に吊り革も用意されている。
――ところでヤル気マンマンなのはこちらの都合。
肉襦袢は生身の肉体と遜色ないクオリティで男好きする体型を演出しており
『あなた』はこちらの後方、あるいは他のどこかに居てもおかしくないのだが。
■ネクラリス > (ぎゅっ ぎゅうっ ぎゅぎゅっ ぎゅううっ ぎゅぎゅぎゅぎゅみちみちみちっ……)
「――ふぁっ!? ん゛っっ ぉお゛っ…… ちょっ ムリッ むっ ぃきっ ぃ きっ…… っっっ~~~゛゛゛」
危機感覚えるレベルのすし詰めに、慌てた時にはもう遅い。
ぎちぎちぎちぎち高まる圧力は、跳ねのけられなければ呼吸困難をもたらして――
幸い、白目向いて泡拭いて倒れるスペースも無く運ばれていくのはトラブルには含まれなかった。
適当なところで気付いてもらえたなら、
オーディエンスに運ばれるロックスターよろしく人混みの上を手ベルトコンベアで排出される。
ご案内:「道具店『満印伝者』」からネクラリスさんが去りました。