2025/11/19 のログ
ご案内:「冒険者ギルド 訓練場」に篝さんが現れました。
■篝 > 今日の分の仕事を終え、日が傾き出すより早く冒険者ギルドまで戻り、受付にて一通りの手続きを済ませ。
報酬受け取りまでの待ち時間含め、微妙に余ってしまった時間をどう潰そうかと考えていると、受付嬢がこんなことを言った。
『ギルド併設のお食事処で休憩も良いですが、夕食にはまだ早い時間ですよね。
あ、そうだ。もし、予定が空いていらっしゃるなら訓練場に行ってみてはいかがでしょうか?
今日は利用者も少なめなので空いてると思いますよ』
――訓練場。
ギルドの近くに、冒険者向けの訓練場があると話には聞いたことがある。
連携を確認するためにパーティーで利用する者や、駆け出し冒険者がベテランからアドバイスを求めて顔を出すとか、受付、食堂の次によく人で賑わっている場所と言う認識だ。
人目を避けてほとんど受付にしかよらず、稀に食堂に顔を出す程度にしかギルドに寄りつかなかったので、今まで行く機会が無かったが……。
少し迷った末に、勧めに応じて訓練場へと足を向ければ。
待っていたのは学院の運動場とまではいかないが、広々とした土地に打ち込み用の丸太や、小さな池など、それなりに充実した訓練スペースが用意されていた。
「…………静か」
平時であれば、もっと人で賑わっているのだろう。
だが、時間帯が良かったのか、タイミングの問題か。利用者はまばらで静かなものだ。
中の様子を伺いつつ、見学がてら見て回ろう。
■篝 > 最初に見えたのは剣士や戦士向けの一角。
木剣を手に素振りをする剣士見習いが一人、二人。
そこから腕を上げただろう一人前の剣士は真剣な面持ちで丸太に向けて斬りかかり、バッサリと真っ二つに斬って見せる。
これが小鬼や鬼であっても、きっと結果は変わらないだろう見事な太刀筋だった。
実際に敵を前にして平常心を保てるかと言う問題はあるが、それは実戦で経験を積み身に着けるしかないものだ。
二人の見習いが、いつかあの剣士のようにと憧れの目を向けているのが心地よいらしい剣士は、二人に背を向け密かに浮かべた笑みを隠していた――。
次に足を向けた先は案山子がポツポツと並ぶ魔法や弓の訓練をする場所。
そこには、若い魔法使いと、三角帽子を被る色香漂う魔女が話しているのが見えた。
小柄はフードで隠した三角の耳を澄ませ、遠くから二人の様子を観察する。
師弟か、先輩後輩の関係か。
魔女が若い魔法使いに茶々を入れながらアドバイスをしているようで、魔女は宙に浮く箒に腰掛けながら楽し気に魔法使いを揶揄ったり、自慢げに蘊蓄を語ったり。
魔法使いの方も口をへの字に曲げて不貞腐れた顔をしているが、魔女とのやり取りを楽しんでいるようにも見えた。
魔法や魔術の知識はないので、二人の話声は聞き取れてもその意味までは分からず。
残念ながら防壁の張り方について話し合っていることくらいしか小柄には理解できなかった。
こっそりと学院の授業に交じる回数を増やせば、魔法は使えずとも知識は身に着けることが出来るだろうか……。
「……んなぁー」
気の抜けた声を吐息交じりに吐き出して。白い耳をパタパタ。緋色をパチリと瞬かせ。
誰もいない池の傍まで来ると一休み。此処も訓練用のものらしく、池の中には魚一匹泳いでいない。
■篝 > 夏の終わりから始めた水上を歩く訓練は、以前に比べれば上達はしたと思う。
師や姉弟子のように自由に歩くにはまだまだ遠いが、数歩ゆっくりと歩む時間くらいは立っていられるようになった。
教えの通り、手の表面に氣を薄く纏い水の球を保つ訓練も続けている。此方は歩くよりは楽だけれど、集中力が必要なので何時間も続けると疲れてしまう。
最低限の氣で、最大限の効果を引き出す。
氣の量がそう多くない己にとって、これは身体に沁みつくまで徹底して覚えなければいけない事だ。
繊細なコントロールを意識せず出来るようになれば、身体強化、敵の感知、色々な面で役に立つ。……多分。
神火は極力使うなと師に命じられた以上、また氣の節約に悩まされる現状に戻って来たわけで。
命令に従う以上、これはずっと付いて回る問題になるだろう。
「…………、」
命を燃やし、命を奪い、神に捧げて奉る。それが火守である。そう、父からは教わった。
人の、動物の、魔物の命を奪う。人の命を奪うことは、人の理から外れる悪とされる行為である。
それは理解している。理解した上で、暗殺者として主の命令に従い命を奪う。
悪であろうと、正義であろうと、殺しは殺し。褒められようと、裁かれようと、同じだ。
命の価値も同じ。どう生き、どう燃やすか。
細く長く生きるか。派手に潔く生きて終わるか。どちらも人生は人生。
ならば、打ち上げ花火のようにパッと咲いて、散って消えるのも良いと思っていた。
……今も、思っている。夜空に咲いた花火はとても綺麗だから、花火のような一生も悪くないと。
これを口にすれば、あまり良い顔をされぬことは理解しているので、胸に抱くのみと決めているけれど。
「……んぅ」
物思いに耽、水面に映る緋色の瞳がフードの影から此方を覗いている。
これからまた冷え込むようになると、水辺の訓練は屋敷の風呂場を使うべきだろうか。
それとも、凍えぬよう気を引き締めるべく、外で行うべきか、悩みどころである。
■篝 > 水面に浮くコツは、蓮の葉をイメージすると良いと言う。
蓮は接地面積を広げて重みを分散し、葉の下に空気を溜めて浮いている。浮力である。
――と、植物の図鑑には記されていた。
水上に浮くには、氣を足の裏に集中して、重力と同じだけの力で押し返す……と言うが、この力加減がまた難しい。
悩みつつ首を捻りながら水面に指先で触れて、その冷たさに足先から耳と尾の先まで震えが走った。寒い。
「うー。……いっそ、手印を用いる術の一つとして昇華させてしまえれば――……でも、それじゃ意味ない?」
うー、うー。唸って冷えた指先を袖の中に引っ込め、視線は水面から足元、そして晴れ晴れとした青空へと向けられる。
空を行く白い鳥の群れが日差しを遮り通り過ぎていく。
「……、空。飛ぶと楽しいって……」
ポツリ呟き思い出すのは竜の娘の言葉。空を飛べない猫は、暫くぼんやりと空を眺めた後、また足元を見て考え込む。
師から与えられた課題は2つ。その内の一つは、新しい術の開発――。
どんな術を望むかが最初の一歩。誰かの模倣ではない、己が望むもの。
師が魅せてくれた煌き輝く鋭い刃。とても美しい黄金の輪。
造るなら、あんなキレイな術が良い。己に馴染みのある、好きなものだとイメージもしやすくて尚良いだろう。
師が使う氣を糸のように操る術のように、色々な使い方が出来る術だときっと便利だろう。
願うなら、姉弟子のように空を飛ぶまでは出来なくとも、空に一歩近づけるような術は、きっと楽しい……と、思う。