2025/09/13 のログ
ご案内:「九頭竜山脈・山中某所」に篝さんが現れました。
ご案内:「九頭竜山脈・山中某所」に影時さんが現れました。
■篝 > 九頭竜山脈の某所、とある山中にて――。
冒険者ギルドで請け負った採取依頼は少々珍しいものだそうで、少し遠出をすることになった。
目的のものを入手できたのは日が傾き出そうという頃。
茜色に染まる空を見上げ告げられた『今晩は此処で野営をする』との師の言葉に従い、それぞれで準備を整える。
適当に獣を狩って来る役と、近場に生えていた食えそうな野草やキノコを木の枝と一緒に集めてくる役に分かれた。
娘が言いつけられたのは後者であり、運良く早く済ませられた分、余った時間で火を起こし、師の帰りを待つ。
「……んなぁー。お腹、空いた……」
すっかり日は沈み、黄色い月が反対側から昇って来る。
それをぼんやり見上げながら呟く声は小さく、どこか悲し気に風に浚われ消えていく。
空腹の切なさを感じられるのも、満たされ満腹になる充実を知ってしまったからに他ならない。
物思いに耽って溜息を吐く少女が思うのは、恋や将来への不安ではなく、ただただ今宵の飯のことであった。
■影時 > ――懸案が全て片付いた、と思うのは早計ではあるが、何は無くとも腹が減る。
仕方がない。それが摂理だ。善かろうが悪しかろうが、この空の下に立つものは生きていれば腹が減る。
現状の住処たる宿の維持費は保証されているが、それ以外の諸費用は働くことで得られるもの。
であれば、現状がどうであれ、懸念がどうであれ、働くほかない。
その為の手段のひとつが、学院の教師、ないし家庭教師業の合間に、冒険者として依頼を請け負うことである。
冒険者ギルドに立ち寄った際、偶々貼りだされたものを直ぐに引っ掴んだ仕事だ。
受諾可能となるランクは中級ランク。九頭竜山脈某所、かつてミレー族の隠れ里らしき遺構がある奥に自生するものの採取である。
単に採って帰るだけならお使いも同然、と言えないのは当然ながら所以がある。
この時期、道中に散見し出す猛獣、ないし魔獣の存在。その手の脅威と相対し、生存できるだけの能力が求められる。
「――――待たせたな。」
山中に分け入ったものは二人。その内の片割れは依頼を受諾した者として、その能力を満たしている。
小さく呟かれた声を聞きつけたのだろうか。そのタイミングで声を放つものが、起こされた火の照り返しの中に現れる。
足元の茂みも衣擦れも含め、がさつかせずに歩くのは黒装束に鈍色の胴鎧を付け、柿渋色の羽織を纏った長躯の男。
その手に持つものは、小さな獣。野兎だ。狩った後は解体して下処理をしたのだろう。
毛皮も頭も内臓も除き、供養がてら埋めた有様は、ただそれだけを見れば順然たる食肉のそれだ。
そんな森の生き物に同情げに耳を伏せ、男の左右の肩に乗った二匹の毛玉が前足を合わせる仕草を見せる。
それを横目にしつつ、分担前に火の傍に用意しておいた石積みの上へと手にした獲物を置いてゆく。
採取してきたもの入れる籠や水入れのバケツと共に、細かく切り分けるためのまな板を用意しておいたのだ。
バケツに毛玉の片割れが魔法で浄化した川の水を溜め、それを柄杓で掬って手を洗う。その後、慣れた手つきで下拵えに掛かろうか。
■篝 > 草を踏む音もほとんどさせることなく声で帰還を告げる。
この気配の薄さ、身のこなしからくる音の少なさにも慣れてきた弟子は、パタリと頭の上の耳を揺らして振り返る。
向かった時と同じ姿で掠り傷一つなく、新鮮な色をした獣の肉を携え戻った師へと歩み寄り。
「……お帰りなさいませ。獲物は無事見つかったようで。何よりです。
此方も支度は出来ています、どうぞ」
肉の方へ視線を向けて形や大きさから、兎かそれに近いものだと当たりを付け、程よく身の引き締まった足や背だった部分をみていると、待ちきれずに白い尾がゆらゆらと揺れてしまう。
ふと、男の肩の上で手を合わせ祈る二匹を不思議そうに見やり、パチパチと何度か瞬きをして。
捕食者に怯える小動物の同胞としての哀れみか……。弱肉強食の世界で生きる獣が何故にと意外に思ったが、師がそう仕込んだのかとも考えてみる。
否、仕込んだというより、この二匹が真似て覚えたという方がしっくりくるなと考えを改め、一人納得して頷き、視線を真ん中の男へと戻す。
「先生、何を作りますか? ……何か、手伝うことは?」
小動物達が器用に魔法を使う姿を見るのはこれで二度目、治癒以外も仕えたのかと驚きつつ、手を洗い調理に取り掛かろうという横で、様子を伺いつつ問いかける。
とは言え、料理の経験などなく、手伝えるのは簡単な火力の調整くらいしかできないわけだが。
摘んできた野草やキノコは籠の中、すぐに取り出せるよう調理場の傍に置いている。
図鑑で見て覚えたものを中心に採取して集めたが、中には間違えて毒のあるものも混じっているかもしれない。
そこも含め、危険なものは師が取り除き食える料理に仕上げてくれるだろう。
■影時 > 「おう、ただいま戻った。……そっちも首尾は上場といった所だなぁァ。善哉善哉。
罠を仕掛ける前に、運良く兎と遭ってな? 咄嗟に仕留めた」
忍びないし暗殺者、あるいは盗賊。そのどれもに共通する技能は気配を隠し、足音を忍ばせる技であろう。
戻ったと声をかけるのは、待ち受けるものが身内であり、弟子であるとに認識するが故に。
ほれ、と掲げてみせる手のものを、期待一杯な処だろうか。尻尾を揺らす様を見つつ、ぴょいと二匹の毛玉が弟子の肩に飛び移るのを認める。
親分にして飼い主が此れから行う作業を邪魔しないため、といった所だろう。
そうして先程、不思議そうに見やっていた弟子の顔を左右の肩に陣取るシマリスとモモンガが、こてんと首を傾げ見る。
――実のところ、飼い主として二匹の毛玉に仕込んだ芸というものは無い。
不思議に賢く、同種より力ある個体だ。自ずと真似、覚えたという認識の方が正しい。
「スゥプの元、があるからなあ……細かく刻んで、ざっと煮て汁物よろしく仕上げてみるか。
先に兎を捌いて、もう少し細かくして炒め、煮てアクを取りたい。頼めるか?」
毛玉の片割れは少し前に、“浄水”の魔法を魔導書に授けてもらった。此れのあるなしはとても大きい。
飲み水は水源を選び、掬うか集めて濃し、煮沸する。その手順を大幅に圧縮できるのだ。
奇麗な水は調理だけではなく洗浄にも使える。驚くさまを見れば、シマリスがふふーんと魔導書を掲げて尻尾を振る。
授けてくれた学院の先生にとても感謝、と言わんばかりだ。それを見つつ小さく笑い、早速解体の作業を始める。
腰の雑嚢から包丁を数本入れた布巻きを出して拡げ、一本を抜きだす。それで兎を切り分ける。
――肉を切り開き、取り除けていない骨を切り離し、剥がして。火が通り易くするように肉を細かく切る。
それが済めば手と包丁を再び洗い、取り出す鍋を火にかける。
油を入れて熱し、そこに細かく刻んだ肉を入れて炒め、色づいたら水を淹れる。煮立てば浮かぶアクを都度除く。
火加減は薪を都度追加したり、離したりで調整する。その合間の手伝いを弟子に頼みたい。
ほれ、と用意した杓子を弟子に差しだそう。野草もキノコも細かく刻むのだが、有毒無毒の区別をつけなければならない。
■篝 > 「それは幸運でしたね。……兎にとっては、災難ですが」
経緯に軽く相槌を打ち、兎の心中を思うと手を合わせた二匹の心中に重なる。
しかし、悪戯に弄ばれることもなく楽に死ねて、誰かの血肉となって役立てるのだから、まだこの兎は運が良いとも言える。
本当に運が無い者と言うのは、死ぬより酷い目に合った上に、何の結果も残さず、誰に知られることもなく無駄死にする者のことだ。
そうはなりたくないと思う。これは百人中百人が頷くことだろう。
師の肩から小柄の肩へ、身軽に跳んで渡ってきた二匹をそれぞれ見やり、首を傾げるのにつられて娘も緩く頭を傾けた。
魔法を披露して見せたシマリスの得意げな様子から、得意な魔法か、新しく覚えた便利な魔法なのだろうと解釈し、尾を揺らして自慢する毛玉の小さな頭を人差し指で軽く撫でて褒めて。
猫はゆらゆらと尾を揺らしながら、テキパキと進む調理の傍ら話す師の話をよく聞いて頷き返す。
「承りました。お任せください」
差し出された杓子を受け取り、鍋の前に立ち浮いてくる灰汁を真剣な眼差しで見極め、丁寧に取り除いていく。
肉が煮えて来ると良い匂いが立ち昇り、ますますお腹が空いてくる。
早く出来ないものか、まだか、まだかとスンスン鼻を鳴らし、尾だけでなく身体も揺れて、はたから見れば楽しげな様子であるが、本人は真剣そのもの。
「…………スープ、兎肉……の、入った、スープ……っ」
少し味見してみたい欲に駆られるが、それはいけないことだからと我慢して。
こっそり味見しようにも、こんなアツアツのスープじゃ舌を火傷するので諦めた、と言うのも理由にあったが、それは言わないことにする。
出来上がりまでの間、大人しく鍋の面倒を見て。ふと――
「……先生、ここは集落か何かだったのでしょうか……。寂れてかなり放置されていたように、見えましたが」
周囲の景色を改めて見渡しながら尋ねた。
夕刻、依頼の品を入手したのは此処より少し先の深い所で。少し引き返して戻ったここで野営することとなった。
昼間にも思ったことだが、此処はかなり寂れ自然に帰りつつあるが、僅かに人がいた痕跡らしきものが残っている。
かなり前に集落でもあったのではないかと、依頼書の詳細を聞いていなかったなりに、観察して予想した。
■影時 > 「……いやはや全く、な。せめて残さず食べて供養としよう」
此れが猪や熊等、大きな生き物だったら色々と手間であった。
保存の効果も付いた魔法の雑嚢なら全部突っ込めるとはいっても、後々の事を考えると最低限の処理は必要だ。
もとより、それをやってしまうと雑嚢の中を寝床、隠れ家とする毛玉達から非常に顰蹙を買うのである。
まっことむつかしい。その点、今宵の食事に兎が舞い込んできてくれたのは幸福であった。
そんな兎にとっては災難であったろうが。人間の価値観で大変恐縮だが、しっかりと食べてこその供養であろう。
もっとも――小柄の肩へと飛び移った二匹にとっては、食肉はメインではない。
動物性たんぱく質は偶に摂るにしても、今日はその時ではないらしい。いつもの種やら野菜やらを貰うつもりでいる。
もう少し夜が深くなれば、明かりが要る。その時は、相方のモモンガが授かった光の出番だ。
撫でられて、でれでれするように尻尾を撓らせるシマリスを見つつ、モモンガがぺたんぱたんと尻尾を動かす。
「おう、頼む。……火の傍に、軽く掘ってるからそこに捨てる感じで良い。
――嵩増しついでに、乾燥野菜も入れとくか。でー、あとは……、こっちは危ねぇ奴だな……」
いずれ、それも早めに料理は覚えさせた方が良いかもしれない。揺れる尾に釣られ、身体を揺らす様を横目にふと思う。と
将来的に宿から家を買って移るとした場合、ひとつ確定的事項が生じる。最低でも朝食は誰かが作らないといけない、ということだ。
宿暮らしの朝食ないし夕飯は宿任せで済むのであるが、二人ないし三人暮らしとなれば、料理番が要る。
高確率で男にそのお鉢が回ってくるに相違ない。その時に備え、いずれその内と思いつつも、諸々こなすさまは慣れたもの。
アク等を突っ込む先に、と開けた地面の穴を指さし、雑嚢から乾燥野菜と固形の出汁を入れた袋とを取り出す。
それを傍に置けば、野草と茸の確認と選別、カットの作業を始める。可食の可否を認め、有毒のキノコは別途選り分ける。
毒キノコは雑嚢に放り込めば、後は兎に角刻む。細かく刻む。細かければ火の通りが早い。
事が済めば、乾燥野菜と一緒にアク取りが進んだ鍋に放り込んで煮立たせ、次いで固形の出汁を入れ更に煮立たせながら。
「……嗚呼、気づいたか。又聞きの受け売りだが、あれはどうもミレー族の集落跡のようでな。」
ふと、響く声に応える。近くにありありと見える程の遺構があれば、気にもなるだろう。
山中のさらに奥にある里、だったものだ。年月の経過が見えるが、まだ自然に帰り切るにはもう少しかかる。
何故、こうなったかは――深く考えだすときりがない。
野草に戻った乾燥野菜と茸も入れば、味も匂いも深さを増す。適宜味見をして、スパイスと塩を入れて味を調整すれば出来上がりだ。
丼程ではないが、やや大きめの椀を雑嚢から出し、具材多めの汁をよそい、匙を添えて弟子に差しだそう。