2025/08/11 のログ
ご案内:「タナール丘陵」に枢樹雨さんが現れました。
■枢樹雨 > 魔の気配色濃い、タナール丘陵。
沈みゆく夕陽により染まる時刻でありながら、九頭竜山脈の方面から忍び寄る厚い雨雲がそれを遮っている。
遠目に臨める砦を今この時に制しているのは、人間か魔族か。
どちらにせよ、直近数日間で入れ替わりがあったと伺える。
青々と草葉茂る季節であるはずが、散々に踏み荒らされ緑伺えぬ一帯。
埋葬されることなく、腐敗を待つばかりの幾人かの死骸。
不要とされたか、欠け折れたいくつかの武器。
それは、争いの痕跡。
其処に、佇む者がいる。
深い黒の着物に身を包み、生暖かい風に長い黒の髪を揺らす女。
死骸に気を害す様子もなく、悲しみ祈りを捧げるでもなく、素足で血濡れた土を踏む。
いったいいつ現れたのか、どこからやって来たのか、目にした者は誰もいない。
しかし、気配に気が付いた者はいた。
野犬か、魔獣か。
死骸を喰らいにやって来た数匹が、獲物奪われると歯茎と鋭い牙を露わに唸りをあげている。
少しでも刺激すれば、飛び掛かりそうな気配。
それを察した上でか、それとも察せぬ故か、女は一歩を踏み出す。
その瞬間、後ろ足で地を蹴り、大きな口を広げて女へと襲いかかる数匹。
鋭く尖る牙が、女の白く柔らかそうな肌に嚙みつこうとした―――、その時。
ドサッ―――
何か、重さのある物が地面へと落ちる音。
それは、獣の頭。女に襲い掛かった数匹と、それを見る数匹。
この場に居た獣すべての頭が地に転がり、そして頭失った胴体から、遅れて血飛沫が飛び散る。
獣の血が土を汚し、女の黒い着物に染み込んでいく。
勢いの良い血飛沫は女の頬へも手を伸ばす。
何を語ることもなく閉じられた薄い唇が、その口角が、ほんの僅か持ち上がって。