2025/07/30 のログ
ご案内:「平民地区 古物店」に枢樹雨さんが現れました。
枢樹雨 > 平民地区の片隅に、ひっそりと看板を掲げる店があった。
手入れされることもなくずっと其処に在るのか、汚れ掠れて読めない店名。
既に店を閉めているのかとも思ったが、開店している旨を記した掛け看板も存在していた。

雨垂れこびり付いた窓から覗き込む店内。
夜闇照らす灯りの存在確認できれば、改めて入口の前に立ち、扉をそっと押し開ける。
飲食店の様に、来客に対する店員の挨拶はない。
しかし入店を拒む声もないのだから、妖怪はカラリと下駄を鳴らし、店内へと敷居を跨ぐ。

まず鼻腔擽るのは、埃と湿気が混ざったような匂い。
店内は入り口からすべてを見渡すことが出来ず、かといって広いと言うわけではない。
狭い店内に統一されていない棚がいくつも並び、その棚には雑多に古物品が並び、視界を遮っている。
背後でギィ…と鈍い音鳴らしながら扉が閉まると、妖怪は店内を歩きだす。

人の歩くスペースが狭く、その為天井の照明以外にもあちこちに古臭いランプが置かれ、けれど薄暗さ拭えぬ店。
匂いと相まって、人の気配がないに等しいのも頷ける。
しかし妖怪にとってはどうにも心地良いこの場所。
長い前髪に隠れた蒼の双眸に好奇心を乗せて、用途もわからない様々な品を物色し始めて。

枢樹雨 > 棚に並ぶ品は多種多様。
魔導機械と思わしきものや、液状の何かが入っている瓶、何を模しているのか判らぬ置物に、絵画なども置いてある。
棚のない場所には古書が床に直接平積みされており、うっかり肘でもぶつけたら雪崩を起こしそうなほど。
気紛れに手を伸ばし触れてみれば、半分くらいの確立で指先に埃が付着する。
しかし妖怪は気を害した様子もなく、むしろ好奇心擽られる様子でじっくりと店内を歩く。

次いで手に取ったのは、暗い赤の宝石を乗せたペンダント。
高価な石であればそれなりに値が張りそうなのに、ケースに入れられることもないそれは埃被っている。
親指で宝石の表面擦れば、傍のランプの明かりを反射して鈍く光る赤。
血を思わせるその色と己の蒼、しばし見つめ合い。

「………匂う、」

零れた呟き。同時にスンと鳴る鼻。
ペンダントの細いチェーンを人差し指にひっかけ、己の視線の高さで赤の石を揺らしてみる。
香ったのは、血。その見目に違わぬ、血の香り。
静かに双眸細めると、ペンダントをもとの位置へと戻し。

枢樹雨 > 次いで目に留まったのは、棚に戻したばかりのペンダントと似た、しかしはまる石が透き通る桃色のブレスレット。
同じ職人が作ったのだろうか、石を囲む銀の意匠が酷似しており、自然と手が伸びた。
持ち上げてみれば、それもまた傍のランプの明かりを受け、揺らめくような光を見せる。
同時に香ったのは、先とはまるで違う甘い香り。
再びスンと鼻を鳴らすと、桃色の石を覗き込み。

「なんだろう…、ジャムのような、くりぃむのような…」

甘さにも様々ある。
今嗅覚刺激するそれが何に近い匂いなのか、肉体を得てから知った様々なものを思い出してみるも、ピタリと当て嵌まるものが浮かばない。
首傾げ、ペンダントでしたように視線の高さで石を揺らしてみれば、先ほどの赤の石と違い、透かした向こう側が見える桃色の石。
自然とその桃色の視界を楽しんで。

枢樹雨 > そうしてゆっくりと古物品を眺め触れた妖怪は、満足気に店を後にして――…。
ご案内:「平民地区 古物店」から枢樹雨さんが去りました。