2026/03/15 のログ
■影時 > 「それがいい。同種に何度も勝ったって、いずれも“今回は”が頭に付く。……汝、油断することなかれ、だ。
成る程。まぁ、切っ掛けは承知した。そういう入門の仕方もアリだろうよ。
依頼は依頼、だ。これ以上は深入りしようもない。上手ーくやってくれたら御の字、と思っとく位よ」
迷宮で相対するなら、事前に同様の依頼、縛りを得ていない限り、手持ちの札の悉くは斬れよう。
ただ、隙を見抜いてカウンターを決め、致命の一撃を見舞うというのは間違いなく難度が上がるのは疑いない。
牙を魔導具の素材にしたり、毛皮を今弟子が身に着けてるような防具、装具にする需要はあるにしても、それに目を晦ませると元も子もなくなる。
単身でまともに相手にしないに限る。気を抜ける類ではない、と改めて弟子に釘を刺しておこう。
その上で、続く話を聞く。もう少し深く踏み込……めなくとも、得心を得るにはたる内容だと一息する。
あとはどう教えるかを思えば、納品後の獣の骸の行方から興味は移る。元々狩人もこの地域には多い。腕の立つ職人にも伝手があるだろう、と。
「かもしれん。かもしれんが……こればっかりは、実際に夏になってみねぇと分からねェなあ。
元より、常時顕現しっぱなしを越えて、制限付きでも自律出来る式紙は初めてなもんでな。
……変わり者、というか流行りの格好に敏感だそうだがね。鍛冶の方は、ぁー……あっちは、あっちで口が悪い」
式紙を作るなら、シマリスよりも猛禽の方が元々の頻度としては多かった。
偵察や連絡の手段、夜に使役するなら夜間の暗視の手段ともして。それがモデルがあるからとはいえ、こう、である。
元々のモデルが良かったからね!とばかりに、ふんぞり返る毛玉の片割れの図が脳裏に何故か浮かび上がる。
忠実に真似過ぎたというのは間違いない位に疑いない。ブラッシングしても抜け毛がないのは良いこととは思うが。
さて、そんな毛玉の新顔に服を誂えてくれる人物は……そこまで変わり者であろうか?
貴族の生まれで、冒険者であり、富裕地区に小さくも店を持つ時点でも確かにそうかもしれないが、はてさて。
困惑と言えば寧ろもう一人。刀鍛冶の方がより困惑しそうだ。実際に引き合わせた際、どうなるやら……。
一抹の不安を覚えつつ、風呂に入る約束を固め頷く。
いつまでにギルドに帰還せよ、という縛りはない。納品書に記載される日時より常識的な範囲で帰参すれば、問題はあるまい。
「…………あー、前に与えてたあれ、か。そうかそうか。
俺が思い描いてたのは、篝が使う青い炎――神火。
あれを形態はどうあれ、もう少し扱いやすく、負担が少ない方向に出来ねぇか、という点だ」
そして、問題の話を聞く。尻尾に手櫛をかけていれば跳ねるさまに目を落とし、そっと離しながら言葉の先を促す。
あの時は先日思わぬ形で手に入った絵巻が無かった状態で、夢想し思考実験混じりの課題として課したものだ。
赤い炎が常用、青い炎が代償ありきの必殺ならば、白い炎はその中間。神の加護なく一点集中的に出し得る、為し得る火力と。
「然り然り。……復習も兼ねてよく勉強と見得る。誉めてやろう。とても偉いぞ。
氣と魂云々まで踏み込んじまうと、あれこれ厄介だからなぁ。理由はどうあれ、一端止まるのも良いことだ。
……ク、ククはは。良い処までいったなぁ。其処まで推論を推し進めてきたか。
目の付け所は、良いと思うぞ。――そこで篝、如何にして鉱石を鉄から取り出すか知っているかね?
ありゃただ火にくべれば良いってものじゃなくてな。鞴で絶え間なく風を送り、“効率よく”燃えるよう促すのよ。
だから、繰り返し言おう。目の付け所は、良い」
さて、と。直ぐ傍にある人肌は恋しいが、惜しさを抱きながら弟子の両脇を抱え、そっと脇に下ろそう。
弟子が求める話の内容を思えば、幾つか脳裏に浮かぶものがありはする。即興で編めるかどうか。
のっそりと立ち上がり、その場をうろうろするように動きながら、思考を巡らそう。
「金剛砂輪剣か。確かにありゃ屑とは言え、宝石のかけらを拵えてる。詰まりは頑丈な性質を持つ鉱物、だ。
その論で行くなら、燃焼を動かす気を――酸素を集めるに特化した術を、紡ぐ方が好かろうなぁ……。
こうで、こうで、……で、こう、なら、どうだね?」
言いつつ閃いた、編み上がったらしい。弟子に身体を向けつつ、手印を幾つか切ってみせる。
喚起ずる五行の流れは木生火。木は燃え火を生じむが、その添え物、燃焼を促すものなら、風も当て嵌まるとも言える。
鞴が生む風もまた然り。その風の流れを選り分ける。純粋な酸素、とは言わずとも火勢を増すに足ろう、風の流れを己が回りに紡ぎあげてゆく。
渦巻く流れが任意の気体をさらに選り分け、視線を向ける中空の一角に靄よろしく凝らせる。
考えなしに閉所で使えば、酸素不足で昏倒を起こすかもしれないが――少なくとも今いる場所ならば、その心配はない。
■篝 > よくよく言い聞かせ、いざと言う時頭から抜け落ちぬようにと、刷り込むが如く言われたことは記憶とは別に心の片隅に刻まれるものだ。
娘は師の言うことをよく聞き、常に変化、特例は起きうると覚えて念頭に置くことを心得る。
慣れぬ嘘の代わりに誤魔化しに使った方便は納得を得られたらしい。深く追及されなければ内心で密かに安堵もする。
件の毛皮、その他諸々の行方については、村に帰ってすぐにわかることでもない。またいつか、近くを通ることでもあれば、どうなったかと立ちより出来栄えを見るのも良いだろう。
「夏までに、また一段と存在感が増していそうな気もします。……毛が生え変わるか、楽しみですね。
流行りに敏感なのは、職業柄と言うやつでしょうか。それとも趣味?
口が悪い。……だけで、悪人ではない……ですよね。先生が好んで付き合いを持つ方、ですので」
鷹や鳶の使い魔を偵察に使うことはよくあるそうだ。
空からの索敵、同じく偵察に使わされた使い魔を狩ったりもできる点が良いと、冒険者が話しているのを聞いたことがある。
今のところ師が使う式はシマリス以外見た覚えがないので知らないが、符術を得意とするなら他にも式紙の型はあるのだろう。
愛くるしいことが前面に押し出されている家令が時間を経てどう変わっていくのやら、楽しみと期待を込めて頷いた。
服を仕立て、術も組み込む職人のこと、もともとファッションには拘りが強そうである。その経歴を聞けば、随分自由なご令嬢がいるものだと驚くのは否めない。
もう一方の職人の方に関しては、最初に出てくる感想がそれかと叱られまいか、内心不安がよぎる。師が武器を任せているのだから、口が悪いだけで中身は立派な鍛冶師なのだろう。多分。
言葉に迷いながら確認するように尋ねつつ、あまり深くは聞くまいとも思うのだった。
――さて、話は変わり、相談事である。
行き詰った課題について尋ねていると、ふと、師は学院でもこんな風に生徒に教えているのだろうかと考えたりもする。
それを余計なことと今は隅に追いやって、真面目な顔で話を続けた。
「神火の使い方……。己で考え新しい方法を試す、にも……。
失敗した時、一人で対処できない可能性を考えると、少し不安です……。
それに、現状もそこまで負担とも思いませんが……」
そう言えば、言い渡されたのはあの場――青い焔が揺れる彼岸の地――だったか。
師の思惑と少々ずれて着地する形になったのだと言われて気付く。深く考え迷走したせいで、始点を忘れることは間々あることか。
仮に、この娘が一人で白い火に見合う対価を見つけ出したとする。そうすれば、青い火を身に着けた時と同様、仮説を相談する前にその場で試していたかもしれない。
冷静に判断し、立ち止まることができている今はいいが、閃き思いつけばすぐに実践してしまう浅はかなところは、大きな失敗をするまできっと懲りることはないのだろう。
そう考えれば答えを見つけられなかったことは幸運と言えるかもしれない。
「……! 偉い……。お褒めの言葉、恐悦至極。とても、喜ばしい……です。
ん。鉄の取り出し方? 鉄は、鉄鉱石を溶かせば良いのでは無いのですか?
うー……。ふいご……? 風を送る道具……。ああ、あれが鞴。理解しました。風を送って、飛ばして初めて鉄が取れる……なるほど」
褒められ、機嫌よく笑うのを見れば、つられて尻尾をぴんと立て、表情こそほとんど変わりないが尾の先を小さく震わせながら歓喜する。
鉄を加工する工程は見たことは無く、知識もうろ覚えなようで今一わかっていないようだった。
鞴と呼ばれる道具にも聞きなじみは無く。どのような役割を果たすか聞いて、ようやっとうろ覚えの記憶から当てはまる道具を引っ張り出し、感心したように深く頷く。
話が進み、抱えられて隣に降ろされると、つい名残り惜しんで絡みに行きたがる白い尾を片手で捕まえて。
隣が立ち上がるのを見てから、慌ててその後に続き立ち上がる。
「――はい、それが出来れば瞬間的ですが火力は増すと思います。先生……」
出来ますか? と続く言葉は押し留め、師の技量、術の幅の広さを信じて、思考が結論を導き出すまでの時間を静かに待つ。
そして、そう時間もかからずに、此方へ向けられた手に視線を落とし、緋色の瞳へ氣を集中させる。順番に組まれる手印と身体を流れる氣の道筋を瞬時に記憶する。
その印が意味することは、火に関わる所だけは読み取れたが、他の部分は娘が知らない形であった。これが風遁、五行で言えば木遁に類する流れを汲んだものだろう。
鞴が鉄に不要な不純物を吹き飛ばすように、この風が火を強く燃やすために必要な酸素を集め、それ以外を除去する働きを担う――はず。
手の動きが止まり、顔を上げて師を見れば暗赤の視線はさらに上、中空へと向いていた。
それを追って見上げれば、靄ようなものが一か所に漂っているのがわかる。空気に含まれる要素は目で見てわかるものではないが、おそらく、アレがそう。酸素を集めたものなのだろう。
「成功、ですか? ……火を、入れてみても良いですか?」
興味深そうに中空を見上げたまま、どの程度の効果があるのか興味を惹かれ、うずうずと身体と尾を揺らしながら伺ってみる。
洞窟の中で爆発するようなことになれば悲惨だが、そこまでの惨事にはならないと思いたい。
■影時 > 「どう、だろうなァ。こればっかりは勝手に弄るでもなし。様子を見る他無いな。
流行にうるさくなるのは、どっちも、だろうさ。
流行りの“でざいん”を人形の服に落とし込んで欲しいとか注文が来たらば、出来ませぬじゃあ商売になるまい。
ああ。兎に角口は悪いが、悪人じゃあない。……でなけりゃ付き合いが長く続かねえさ」
例の虎の遺骸、毛皮などの行方は、さておく。此れはもし近くを通りがかった時にでも見に行けば事足りよう。
問題はその次。数日単位ではなくそれを遥かに超える長期間に対応したハイエンド式紙は、どこまでオリジナルに迫っているか。
そんな研究課題でも生じそうな位に、弄り回した。故に一つ言えることがある。
一度喪失したら同じものは作れない。そんな確信がある。名付けているのは意味がある。それ程の一個体であるから。
そうでないノーマル式紙なら、型は幾つもある。出番を魔法の雑嚢の中で待ちつつ待機している。
そんな先輩含め不思議なものとしか言いようなものが、服を着ることで個性をより主張し出す不可思議さは、思うとくすぐったさもある。
芸風は違うとはいえ、裁縫師も鍛冶師も我がなければ仕事になるまい。後は会っての楽しみ、としておこうか。
「まぁ、そんなときの為の教師、だ。
それにな。受け継いだものにばかり固執するのも、考えものだ。
如何なる道、理で術が成り立つか。……――最初から俺が教えたなら、其処を押さえてこそ確かな理解が生まれる」
今ならば、未解読とはいえ件の絵巻もある。若しかすればいつぞや垣間見た青い炎の領域も乗っている可能性もある。
とはいえ以前化した課題の肝は、寿命や魂ではなく、現状の氣力をより効率よく活用できる方向であるべきだろう。
例えばより一点突破の術。或いは消えざる地獄の焔。
最終的な結果は全て弟子の心次第だが、赤い炎よりも火力が高いものであるべき、というのは前提条件。
「はっはっは。そりゃ良かった。
まぁ、聞け聞け。鉱石から鉄を取り出すには、うんと高い温度が必要になる。
その為に鞴で常に風を送り込み、煤を払い、酸素を継続的に送り込むことが決め手となった」
製鉄の云々を細かく知る人間が、どれだけ居るやら。論じつついまいちよくわからない様子も止むをえまい。
とは言え、男にしては珍しいかもしれない。素直に弟子を褒めるという情景は。
社会科見学的なこともやれば、より理解できるだろうか? そう思いながら、一つの決め手となり得ることを述べよう。
風もまた炎を燃え立たす要素である、と。燃料と火付けがあるなら、その火勢を高めるのは後は外気であろう。
「…………出来はするが、嗚呼、こりゃァあれだな。一点集中型になろうな。
一定範囲の大気から酸素を集め、凝縮させて謂わば助燃材みてぇな下準備を、こうやって拵える。
応用次第で術者以外が吸う呼気から、酸素を奪い、昏倒をもたらすことにも使えなくもない。その逆もまた然り、だが。
帰ったら、改めて教える。……此れだけでも、厄介な術になりそうだなぁ……」
風を駆る、繰る術は一番弟子が奮う能力を真似たことで、洗練できた面が強い。
渦巻かせることで任意の成分を選り分けるというのは、良くも悪くも応用・転用が効く。
酸素を操ることの意味は、直接的な火力から見て副次的なものと見做すには、余りにも大き過ぎる。はたと気づき、表情が引き締まる中、見遣る。
中空の一点、酸素を異常に凝縮、集積させた一角が靄のように揺らめきながら、媒介に用いた氣を孕んで存在を示す。
「――ああ。即興にしては、うまく行った方だろう。……入れるなら、火種程度にしておけ。篝が思う以上に燃えるぞ」
ぽつ、と。うずうずげな姿を横目に告げよう。適当な枯れ枝に火をつけて突っ込めば、効果は明らか。盛大に燃えること疑いない。
■篝 > 家令がどのように変わっていこうと、今のままであれば悪い方には転ばないだろう。
故に、不用意に弄ること、作り直すようなことは師もすまい。あのシマリスの式紙は、既にあの屋敷に住む者にとって欠かせぬ仲間の一人となっているのだから。
それぞれ方向性の異なる職人二人についても、それ以上娘の方から聞くことはしなかった。
百聞は一見に如かず。ひとまず裁縫師の方は店に向かう予定もできたことだし、実際にこの目で見て、その我の強さと拘りの程を見ることとしよう。
「……ん。難しい、けど……承知いたしました。
歴代の火守が積み上げてきた術、解き明かすには時間は掛かりましょうが、もっと理解を深めて……。
先生が納得し、安心して許可を出せるように……頑張ります。
先生から教えてもらった術も、いろいろ……。使い方、工夫の仕方も考えてみる」
術が使えるようになればそれで終いではないと師は言う。人を真似ることは得意だが、独創性に欠ける弟子は少し困ったように返事に迷い、自信を持って頷くには至らないが努力は続けると答えた。
そして、師が教えてくれた術、見て学んで行く術の数々も、同じく理解を深めて新しい術へと発展させられるようにと言う。
口で言うには容易いことだ。これ以上は言葉ではなく、この先、未来の結果で成果を示そう。また偉いと師に褒めてもらえるように。
その結果が地獄の業火を纏うに至るか、はたまた異質な変化を経て予想とは異なる火を操ることになるか。それは誰にもまだわからない。
声を立てて笑う師は実に楽しそうだった。
火の扱いには長けても、人や建物を燃やす以外の使い道を知らない娘は、興味深そうに話す声に耳を傾け、ぴくぴくと頭の上の耳を揺らす。
「常に風を送る……。製鉄、鍛冶とは……思った以上に重労働なのですね。
……参考までに、少し、見てみたい気もします。屋敷の工房では、流石にそこまでは無理ですよね」
あまりにも師が楽しそうに話すからか、火に纏わることだからか、好奇心がくすぐられたようで前向きに話に食いつく。
屋敷にも工房はあるが、言うような高温の火を扱えるほどではないと理解しつつ、念のため確認をして。無理だと言われれば、町中にあるドワーフの工房にでも見学に行くか、それとも師の知人に頼んでみるべきかと考えるだろう。
「助燃材。瞬間的に高めるためのもの……。一点集中で良いです。これなら、周囲への被害もある程度抑えられるかも。
う? 応用? ……なるほど。そういう使い方も、便利そうです。火遁より静かで、暗殺向きの術。
はい、影時先生。よろしくお願いします」
渦巻いて生まれる靄。酸素を搔き集めた目に見えぬ凶器。それを興味津々な様子で見上げ、ゆーらゆらと尾を揺らし、喜んで何度も頷いて見せる。
火遁を補助するために作ってもらった術ながら、別方向での使い方に気付いた様子の師の言葉を聞いて、それは重畳。一石二鳥と、更に機嫌をよくする元暗殺者であった。
火を灯して良いかと尋ねれば、注意しつつも許してもらえた。いそいそと、そこいらに落ちていた木の枝を拾い上げれば、火打指輪を擦り火をつけて、枯れ枝に燃え移れば火加減を確認しつつ。
「では、先生……参ります」
そう声をかけてから、中空へと火を放り投げ、空いた両手で念のため耳を塞ぎ。
それと同時に燃え上がる火力は想定以上か。期待通りの結果となれば、弟子は珍しく声を弾ませ、「先生凄い……っ!」と、興奮した様子で師を褒め称えることだろう。
きっと、休憩を終えて、山を下る最中もその興奮は暫く尾を引くのは間違いない。
■影時 > 「――ああ。今の篝には難しいかもしれンが、考えなしに使うよりはずっと良いこと、だ。
同時に、其れが真の意味で受け継ぐことにも繋がろうよ。最終的に自分なりに編纂出来るようになれば、なお良い」
許可は、まァその時にもよるか……と。この点ばかりは困ったように口の端を捩じる。
禁忌とするのは、主に術者の生命にかかわる要素が強過ぎる術辺りだろう。
その点、本来であれば青い炎の術も禁忌としたい。代価として捧げられる命ある敵が居た時のみこそ、辛うじて許せる点だ。
その上で備えなければならないこともある。命なき敵を相手取る際が特に分かりやすい。
己が何もしなければ、燃えて尽きるような生命を拾ったのだ。であるならば、無下に命を散らさぬ術もあっていい筈。
「おお、気づいたか。そうとも。……何昼夜も火を守り、風を送り込み、絶やさない。その果てにようやっと鉄を得られる。
製鉄のやり方は俺の故郷とこの国とでは大きく違おうが、根っこは同じの筈だ。
館の工房じゃァ、無理だなあ。どうしたって規模が足りん」
鍛冶の云々は忍びの里でも精錬は無理でも、商人から仕入れた鉄から道具を拵えた。
より良い刀含む武器は近隣の刀鍛冶に頼んだが、農具の類であれば大体は里の中で自製していたものだ。
だから、分かる。里を任務で離れ、各地を行き交う中でも得た知見でもある。
鉱石から精錬する工程なら、知己の刀鍛冶でもきっと得られよう。頼めば存外、見られそうだ。
「然様か。――結果としてそれでぴったりなら、何よりだ。
いずれこなれるにしても、大掛かりな術になるだろう。それならば一点に絞ってでも必殺を期すに限らぁなあ。
酸素の濃淡、分布を偏らせる術ってぇのは脅威となろうが、どのように身体に影響を与えるかは知っておくに越したことはない」
結果的にとは言え、実用性がなくもない新たな術を即興で編み上げた。忍術と論を裏付ける知識の理解があってこそ。
ただ、同時に色々と条件が付き纏う術でも在ろう。絡繰りを気付けば対抗されるし逆用される。
その問題点は医療的な意味も含め、館で座学の席でも開きながら注意深く教えておくにしよう。そう心に決める。
後は、先ずは実験だ。論を実証しなければ、この後に続かない。繋げられない。
着火の許可を頷いて示しながら、暫し固唾を呑みながら見守る。
術を解けば次第に霧散するが、酸素の集合域に投じられた枯れ枝に灯る火種を、赤々と激しく燃え上がらせよう。
興奮たっぷりに響く声に、よせやい、と照れた素振りを見せつつ、此処からどう結実するかに思いを馳せる。
休憩とその場で思う限りを告げた後、帰途がてら雪中行動のレッスンも怠らずやろう。
興奮ぶりにクレバスを踏み抜かないよう冷や冷やしながら、麓の村まで話し声は絶えず――。
ご案内:「雪山」から影時さんが去りました。
ご案内:「雪山」から篝さんが去りました。