2026/01/31 のログ
エレイ > やがてカーテンが開き、客が現れれば男は笑顔で迎え入れ──
ご案内:「九頭竜の水浴び場 マッサージ室」からエレイさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 ヴァリエール伯爵家邸宅」にヴァンさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 ヴァリエール伯爵家邸宅」にナイトさんが現れました。
ヴァン > 『聖騎士様がお呼びだそうよ。貴賓室に向かうように』

メイド長が少女に告げた後、メイド何名かがメイド長に聞こえぬよう忍び笑いをしている。
いつもは勉強をしているのか疑いの視線が向けられていたのだが、今回は少し違う。何かありそうだ。
普段通りに振舞うのは控えた方が良いかもしれない。

貴賓室の扉を開けると、正面奥に銀髪の男がいた。壁に凭れ掛かっていて、顔を上げて少女を見遣る。
二人の間にある椅子に座るように伝えながら、男の視線が一瞬逸れた。少女の死角、ソファーのあたり。
室内にもう一人、本来ならば別の場所にいるべきはずの人物の存在を嗅覚や聴覚で感じ取れるだろうか。

ナイト > この屋敷のメイド達が呼ぶ“聖騎士様”と言えば、その人間は一人しかいない。
呼び出されることは毎度のことなので構わないのだが、意地悪メイドのニヤついた顔には引っ掛かりを覚え、眉間に皺を寄せる。
『なんでアンタばっかり!』と嫉妬交じりでやっかまれ、噛みつかれるならまだしも。
あれはまるで雇い主(旦那様)へナイトの失敗を告げ口しに行くときの顔ではないか。
何となく、気が重い。貴賓室へ向かう足取りも重く、扉をノックするのに少しばかりの勇気が必要だった。

「ナイト・ブラックフォード、呼び出しに応じ参上いたしました」

軽く扉をノックして、名を告げてから開く。
いつもなら挨拶と同時に扉を開け放っているのだから、かなり慎重になっているようにも見えるだろう。
部屋の中には呼び出した張本人である男が立っている。
そして、その奥にいるだろう嗅ぎ慣れた雇い主の臭いが漂っている方へと視線を向けて、小さく息を吐くと、堂々と胸を張り部屋の奥、二人の顔が良く見えるだろう椅子の前で足を進める。

「……で、私にお話があるのはどちらかしら?」

カツンッ、とブーツが床を叩いて止まり、サファイアの瞳が二人のそれぞれ一瞥する。
壁に背を預ける聖騎士とは異なり、ゆったりと深くソファに腰掛け足を組む黒髪の男――ヴァリエール伯爵は琥珀色の瞳を細め告げる。

『用件は一つだ。そう緊張することはない、まずは掛け給え』

穏やかに淡々と話す顔に笑みは無く、琥珀は向かいに立つ男へ目配せをする。
詳細の説明は男に任せると言うことだろうか。

ヴァン > 伯爵からの目配せを受けると、男は嘆息してから話し出す。執務室でいいだろうに、と小さくぼやいた。
男は再度席に掛けるよう告げながら、二人の視界に無理なく入る場所へと歩きだす。咳払いしてから話し始める。

「ミス・ブラックフォード、よく来てくれた。私のもとで従士として学んで四か月、だいぶ良くなってきたと思う。
そこで、自分に帯同できるに足るか伯爵は試験をしたいそうだ。だが、私は時期尚早だと考えている。
とはいえ君の困難に立ち向かう前向きな姿勢を私も伯爵も知っている。私の一存で延期とすることに君も納得し難いだろう。
私が持っている情報を提示するから、そのうえで判断してほしい」

“ミス・ブラックフォード”? “私”? 普段と別人だ。悪いものを食べたか、頭でも打ったのだろうか。
伯爵が隣にいるから、普段とは違う喋り方なのだろうか。

「……なぁアンリ、いつも通りでいいか? いいよな?
――俺が難色を示す理由は、アンリが指定したのが“剣会(つるぎかい)”だからだ。あぁ、正式名称はなんと言ったかな……忘れた。
一定以上の階級と勤務年数がある騎士・軍人だけが参加できる夜会だ。俺達は王都部会、王都とその周辺在住の者が所属している。
王城で開かれるし、お偉いさんもそれなりに来る。――俺を嫌っている連中も。
俺は“剣会”にはもう十年以上参加していない。皆が楽しくわいわいやっている場を、赴いてわざわざぶち壊しにすることもないしな」

伯爵の同意を得る前に男は普段の話し方へと変わる。一対一で話す時は、どちらとも堅苦しくない、フランクな接し方をしているのだ。
胸元から取り出した手紙を親指と人差し指で摘まんでひらひらとさせる。話から察するに、男宛の招待状らしい。
男は自嘲気味に笑っている。年配の騎士からは特に嫌われている、という自覚があるようだ。
もっとも、普段の男の振る舞いをみたら好きになるか、嫌いになるかの二通りだろう。

「君が騎士になった時期を考えると、今年初めて招待状が来ると思う。昨年も来てたかもしれないが……」

ある時期での階級・年数を集計して判断されるので、届いていたかどうかは男にもわからない。伯爵に目を向ける。

ナイト > 二人に勧められ、警戒しながら浅く椅子に腰かけ耳を傾ける。
いつになく堅苦しい形式ばった話し方は彼らしくない。
指導役として初めて屋敷に来た時よりも真面目腐った振舞が気になって、話が半分くらいしか頭に入ってこなかった。
この口調がずっと続くとか……。げんなりと目に見えて嫌そうな顔をしているのが相手にも伝わったのだろうか。
伯爵へ軽く断りを入れてから、男はいつもの調子戻った。

伯爵はと言えば、騎士として、貴族としての振舞を見せようとする友人の姿を高みの見物で眺めていた。
ここでもっともらしい理由を付けて、威厳を持たねば駄目だと言ったところで、相手は何だかんだと理由を付けて躱すのが目に見えているので、あえて口は挟まず、軽く相槌程度に頷いて返した。

一通り話を聞き終えた少女は、なるほど、と腕組みをして考え込んだ。
剣会。名前くらいは聞いたことがあるが、実際にその誘いが少女のもとに届いたことは無かった。
チラリと横目で主を見れば、にこりと、口元だけ嗤った品の良い愛想笑いが返される。
つまり、招待状は届いていたが先に主の手で握りつぶされていたのだろう。
別に、騎士同士の夜会なんて、そこまで興味もないので構わないのだけれど。

「……用件はわかったわ。
 ヴァン――……様が、私を気遣ってくださっていることもね」

悩む時間はそう長くはなく、数秒の沈黙の後に少女は口を開く。
口元には自信に満ちた負けず嫌いの笑顔を浮かべ、フンッと鼻を鳴らして顎を上げる。

「でも、旦那様はこの四カ月の私を見て、問題ないと判断されたのでしょう? なら、私は騎士としてその期待に応えるべきだわ。
 ヴァンも覚悟を決めて、貴方の教えられる出来る限りを私に仕込むつもりで全力できて。
 夜会までに足りない部分を補って、私や貴方の事を軽んじてる馬鹿共に目にもの見せてあげるから!
 二人とも、楽しみにしてなさい!」

少女は、売られた喧嘩は買う主義である。
夜会の招待状もまた、それに分類される括りにあるらしい。
自信たっぷりに啖呵を切った少女は目に闘志を燃やし、立ち上がり薄い胸を張る。

プライドの高い少女のこと、主の前で期待されていると感じれば、信頼に応えようとするのは想像に易い。
こうなることを見越していた伯爵は、そうかそうかと頷いて、男の方へもニコリと口だけの笑みを向けて。

『そう言うわけだ、来年まで待つなどと言わず、今年の夜会でお前の成果を見せてくれ。ヴァン』

ヴァン > 少女とその雇用主の言葉に対して、苦虫を嚙み潰して耐えたような表情をする。

「――もちろん、君を気遣っている」

剣会で騒ぎが起こるとしたら、その渦中にいるのは少女ではなくきっと男の方だ。過去のトラブルに少女を巻き込みたくはない。
剣会について友人は畑違いであまり知らない。考え直すことは期待していないが、釘は刺しておこう。

「わかった。二人とも、まずこれを頭に入れておいてくれ。
剣会は他の夜会と多少、趣が異なっている。騎士・軍人が多いから権謀術数というより脳き……直接的な解決を好む者が多い。
それと、剣会は帯剣可能だ。武力で身を立ててきた連中だから得物は身体の一部といって過言ではない。
つまり、もし騒ぎがあったら藁小屋に火球(ファイアボール)をぶちこむようなもので、とても酷いことになる」

野蛮で嫌だよなぁ、とぼやく男に伯爵がなんとも言えない視線を向ける。直接的解決をしてきた男が何をのたまうか、という目。
もしかしたら伯爵が試したいのは少女だけではなく、男も含めてなのかもしれない。
それと共に、伯爵が少女への招待状を握り潰した理由も何となく推察できそうだ。

少女の言葉を聞いて伯爵へと視線を向ける。大丈夫と判断する機会があったのだろうか。
来客に対する振る舞い、日々の業務の過ごし方、同僚や直近の上司の言葉……顎に手をあてる。わからん。
二回目に少女が男を呼んだ時は呼び捨てだったが、伯爵は気付かなかったのかスルーしたのか表情が変わらない。


「そうだな……君は揶揄や非難に対し、真向から立ち向かう傾向がある。もちろん必要な資質だ、否定はしない。
ただ、夜会では軽くいなしたり、ユーモアを装って死角からチクリとやる事が求められる。これは君の主の十八番なんだが、まぁいい。
あとは……アンリ、これまでずっと夜会には一人で行っていたのか?」

負けず嫌いは良い点だが、過ぎれば厄介ごとを呼び込む羽目になる。平時の冷静さを少女には求めたいところだ。
以前カフェテリアで、貴族の会合などで伯爵の護衛をしたと少女は言っていた。それには夜会を含むのだろうか。
先日宿におしかけてきた人物を思い出す。友はあまり話題にしたくないだろうが、必要なことだ。

ナイト > 乗り気では無い様子の表情を見て、少女は片眉を上げ、伯爵は愛想笑いを浮かべる。
どちらも発言を取り消すつもりは無いらしい。
先に折れた彼が話し出す内容に二人で耳を傾けていたが、途中言葉に詰まったことで、一度顔を見合わせる。

(今、脳筋って言おうとした?)

(言い直しても然程意味は変わらんが……)

口は挟まず大人しく声が途切れるまではそのまま聞く体勢を貫く。
野蛮だなどと言っている本人が一番、と言うのは言葉にするまでもなく。裏で糸を引き盤上を操る伯爵とは対照的に、武力をもって問題を退けてきた男である。暗躍を得意とするようには未だ見えないが……。多少は歳を取って変わって来たか。
行方知らずとなった手駒(暗殺者)に追手を掛けるのを止めたことも、解せぬ所はあったものの、結果的には上手く収まってしまったが故に高く評価している。
何処までがこの男の計算だったのか、詳しく聞き出してやりたいものだ――。

伯爵にとって、この夜会は都合が良かった。
友の力、あり方を観察すると言う意味もあるが、一番はこの数か月の内に積りに積もった借りを清算する方法を悩んでの事。
他家へ暗殺を企て、大きな騒ぎを起こしてしまった尻ぬぐいに、この男の助言を聞き入れたのが一つ目の借り。
屋敷の警備の見直しや、兵士の訓練、その上この跳ねっ返りの狂犬を躾けられたのが二つ目の借り。数え始めればきりがない。
友人同士と言えども、貴族同士の関係はドライで利己主義にならざるを得ないことは良くあることだ。
ここらで上手く貸し借りの清算を行えれば、それは伯爵にとって非常に都合が良い。

狂犬に関しては、四カ月で多少なり改善が見えればそれで良し。
改善が見えずトラブルを起こすようなら、これ以上労力を割く必要は無いと判断して従士教育は切り上げさせるつもりでいる。
能力のある者には時間も金も掛ける意味があるが、そうでない者に慈悲をくれてやるつもりは、雇い主にはないらしい。

無論、そんな主の思惑など知らずに、自信満々な少女はふふんっ♪と鼻を鳴らしてニッと笑みを浮かべた。

「承知したわ。嫌味は聞き慣れてるから、有象無象の雑魚どもが負け犬の遠吠えでもしてると思って聞き流すわ。
 ユーモア……は、正直あんまり自信ないけど、何か参考になりそうな本を一冊貸してくださる?」

その自信は何処から来るのか、日頃の性悪メイド達との応酬からか。
特に不安を感じることも無く、片目を閉じて肩を竦めて見せた。

『――ん? 嗚呼、夜会……では無いが、会合にはナイトを護衛として付けたことはある。幸い、無駄な話をするような場では無かったので、トラブルは無かったがね。
 それ以外は、良く躾けられたメイドが居たのでそれを伴うことはあったが、大概は一人だ。護衛を付けずに出歩いて叱られる年齢では無いと思っていたんだが、まったく、困ったものだ』

嘘は交えず当たり障りのない真実だけを告げ、軽口を叩いて琥珀の瞳は冷たく男を見据えた。
これ以上、余計なことは聞くなと言う牽制のつもりなのだろう。

ヴァン > 男の半生は暴力装置そのものだった。昔は奉ずる主教のため、今は己自身とその周囲を守るため。
暴力はより強大な暴力により、たやすくその正当性を失う。強くあり続ける――単純だが非現実的な道。

「そうか。日頃の生活で鍛え済みと。……まぁ、忍耐力を鍛える訓練ってのも思いつかないが。
よし、なら故郷から何冊か本を取り寄せるか。ユーモアはラインメタル発祥と言われるくらいだからね」

試験だと意識すれば多少の口撃など造作もないだろう。
ユーモアの本は……なかなか難しい。聖典や古典の引用、直近の出来事の比喩などがよく使われる。
話す者も聞く者も相応の知識を要求される。剣会の参加者の傾向からして、戦の史実や故事の本も併せて渡すべきだろうか。

「平時ならそうだが、あの時は貴族の間で暗殺だの何だの、色々あっただろう。いつの間にか沈静化していたが……。
転移(テレポート)>の指輪でも持っているならともかく、世相が今のように穏やかな状態が続くとは限らん。
護衛はつけられる状態にした方がいい」

冷たい視線を受け止め、そのまま見つめ返す。簡単な正論を言うに留めた。
歓迎せざる来訪者について伯爵は来訪があったことすら話さなかったが、会話でわかる。その正体も。
一度ある事は二度、三度がありうる。備えなかった愚か者に、友をさせたくない。
本人が気にしていない風なので収めているが、本来ならば土掘り返して根まで焼き尽くしている所だ。
しかし、その存在が今回は鍵になるかもしれない。

「――ふむ。アンリ、ナイトさんを借りるよ。少し確かめたいことがある。
――まずは、普段とは違う装いをすることも大事だな。服は騎士服から変えられないとして、だ。
髪をアップにしたり、結ってみるとか。装飾品をつけるというのもいいな。スカーフなんかがお勧めだ」

返事を聞かずに歩きだし、貴賓室を出る。これ以上を彼の前で言うのは憚られた。
夜会に護衛ではなく、参加者として赴く際のアドバイスをする。スカーフの下に魔導通信機をつけるように言っている。
しばらく歩いてから振り返り、声が届かないだろうことを確認してから少女に話しかける。

「ナイト嬢、伯爵が話していた『良く躾けられていたメイド』というのは君の友人だと思うのだが――彼女の性格を知りたい。
君が思い出してその子の振る舞いを真似るのもいいし、荷物があるならそこから俺も人となりを知れるかもしれない。
ナイト嬢が言う足りない部分、俺はさっき言った程度だと思っているが、見落としがあるかもしれないからね」

とはいえ、行方不明になって半年近く経つことになる。荷物はとっくに処分されているだろう。
伯爵がもう一人を伴っていた理由を少女が理解すれば、それは試験合格に近づくことになる。