2026/01/17 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区/宿屋兼酒場『ザ・タバーン』」にヴァンさんが現れました。
ヴァン > 『ザ・タバーン』一階。日付が変わる頃合い。
酒場にいるのは二人だけ。カウンター席にほど近いテーブルに座る銀髪の男と、カウンター内でグラスを磨く黒髪眼鏡の女。
銀髪の男は机上にテーブルゲームの盤と駒を置いている。ジョッキはあるが雑に置かれている様子から、空のようだ。
女は紙煙草のような筒状のものを咥えたまま、うっかりしていたとばかりにカウンターから出て玄関へと向かった。
宿をとる者のために玄関の鍵は閉めていないが、酒場の営業は先程終了したところだ。

『酒場閉店の看板出すん忘れとったわ』

男はその背中を一瞥しながら、そろそろ眠る時間かとぼんやりと考える。
先程仮眠をとったため、あまり眠くはない。とはいえ、目の前のパズル以外特にやることもないが。

ご案内:「王都マグメール 平民地区/宿屋兼酒場『ザ・タバーン』」にさんが現れました。
> 眼鏡の彼女がドアを開けようと手を伸ばしたのとほぼ同時に、その客は酒場へと足を踏み入れる。
がらんと静まり返った店内を見渡し、テーブル席に男が腰かけているのを認めれば一度動きを止めて。
少し遅れて彼女の方へと視線を向ける。

「……まだ、営業してる?」

問いかける声は男とも女とも子供とも老人ともつかない、認識阻害特有の奇妙な声であり、淡々とした口調は機械的でもあった。
店員の返答次第では場を改める必要があるか。未だ謎の多い男相手に、個室での対談は避けたい。
少し迷うが、男の方も此方に気付くようなら日を改める必要は――否、逃げることはきっと出来ないだろう。
あちらがまだ、直筆の手紙に拘っているかは定かではない。会話を断られた時の次の策を頭の中で巡らせながら、緋色の瞳は深く被ったフードの中で煌々と輝き燃える――。


店の玄関で立ち止まる小柄な人物は所謂分身。囮である。
その後に続いて、陽炎を纏い姿を消した本体が扉が閉まりきる前に店の中へと滑り込み、気配を殺して店の角へと身を潜める。

黒髪眼鏡 > 黒髪の女は小柄を覚えていたのか、にこやかに笑いかける。

『おー、篝ちゃんやーん。久しぶりー。火ぃ落としてもうたんやけど、サンドイッチとかやったら作るでー』

ただ一度だけ――少なくともこの店主がいる時にはだが――訪問しただけの小柄に、しかも前回とは装いもまるで違う姿にも関わらず、やけに馴れ馴れしい態度で接する。以前、この酒場で同席した男は少女の名をほとんど呼ばなかったが、耳ざとく聞かれていたのだろうか。
迎えの言葉も、次の言葉も少女にとっては耳を疑うかもしれない。

『んー、せやけど……篝ちゃんその体調で飲食はできるん? お店にお金落とさへん人はさすがに入れられへんから……。
あとは“お連れさん”は飲食できへんみたいやけどどないするん? 心当たりないんやったら掃除しとくけど。
一緒に入れたいんやったら、入店料一人百ゴルドもろとくで。前払いやし、釣りは出さへんけどええやんな?』

刹那、眼鏡の奥の瞳から輝きが消えた。嘘やごまかしを許さない銭の亡者の目。――この女、カタギではない。
裏稼業に手を染めていた者特有の目。同業、という言葉が少女の脳裏をよぎるかもしれない。
少女へと出した掌にいくら握らせるかによって、女の動きは変わるだろう。
少女についている監視の目を断つことすら軽々とやってのけそうだ。

> 彼女の第一声を聞いて、小柄は男にばかり向けていた目を彼女にも向け直すことになる。

「――っ! …………食事は、不要。時間外の営業分、上乗せして……酒代を……」

たった一度見ただけの相手を覚えていること自体は、接客業を生業とする者なら理解できなくはない。
名前を知っていることも、聞き耳を立てていたり、知人が酒の席の世間話として話していたと言う可能性も否定はできない。
だが、それは何の術も掛けていない時の話だ。今も、以前も、この店に来た時は認識阻害の術を使っていた。
ただの酒場の店員に見破られるほど、小柄の密偵として、暗殺者としての腕は落ちていない。……はずだ。
想定外の流れに戸惑い混乱する頭で短く声を返すが、続いて彼女の口から出た言葉で、混乱は深まり頭の中で警報(アラート)が鳴り響く。

そこが化物の巣窟とも知らずに、一匹だけだと乗り込んでみれば中には恐ろしい怪物共がごろごろと。
冒険者達の間でたまに語られるモンスターハウスが、こんな王都に平然とあると言う恐ろしさよ。
隠遁、分身、そして“連れ”。彼女の目には、いったいどこまで見えているのか……。

幸いなことに、眼鏡の彼女が望むのは血肉ではなく金銭だと言う。緊張して止まっていた呼吸をゆっくりと吐き。
金を持っていない分身では払えないので、渋々、陽炎の術を解いて姿を現し、大人しく懐から財布を取り出す。

「……ん。これで良い?」

言葉少なく、彼女の掌の上で財布を逆さにすれば、ジャラジャラと零れ落ちる銭の音。
四百、いや五百は乗ったか。ポケットに残した銀貨二枚以外、手持ちのほぼ全てを彼女に差し出す。
下手に逆らうより、この場では味方につける方が良いと判断したが……どうだろう。
彼女の金への執着がどれほどのものかは賭けである。

黒髪眼鏡 > 『顔と名前を覚えるんは飲食業の基本のキやらからな。うちも店やって……何年やっけ。とにかく、それくらいは身についてるで。
せやったら、宿泊ってことにするわ。百ゴルドな』

にこにこと笑いながら、少女をしっかり覚えていると話す。一見もっともらしく聞こえるが、認識阻害の術を破る程のものだろうか。
ふふ、と女は笑って種明かしをする。

『あの子が女の子と一対一でそれなりの時間話し込むなんて、あの子が冒険者になってから初めて見たからなぁ。印象に残ってん。
まいどー……で? 食事は何もいらんの? 温かいお茶ぐらいやったら出すで?』

あの子とは、片目の男のことだろう。確かにこの店主と彼は気安い関係のように見えた。
それでも声色は違うし、今着ている服は前回より体系が隠しやすいものだ。同一人と見破るには根拠が弱い。
術を解き少女自身が出てきても、女は顔色一つ変えなかった。普通は驚いたり、欺かれていたことを怒ったりするものだ。
硬貨を受け取った手に広げ、もう片手の親指と人差し指で拾っては中指から小指に作ったスペースに入れる。視線は少女に向けたまま。
勘定の確認が終わると小さな袋へじゃらりと小銭を入れた。
傀儡を呼び込む事態になっても女は静観を決め込むだろう。そうでなければ、召喚した途端に排除しかねない。
面倒くさい、降ってわいた第三勢力。金を口に突っ込んでおけば黙るというわかりやすい点だけが良い。

客と認識してから、女の動きは早かった。室内へ少女を招いた後、ぱたりと酒場の看板を閉店へと変える。
そして、少女に本当に飲食不要かと尋ねた。外はあまり風がなく、比較的過ごしやすくはあるがそれでも冬の夜だ。

テーブル席に座っていた男は入店する少女の姿を見た後、テーブルの上へと視線を移した。
少女に気付いていないのか興味がないのか、あるいはそう装っているだけなのかはわからない。

> にこやかに彼女は言うが、その言葉は取って付けた言い訳のように聞こえ、到底信用できる答えでは無かった。
ここでそれを言及する必要も無いので、口は閉じたまま小さく首肯を返すのみで留める。
誰も不用意に藪を突いて蛇を出したくはない。

「…………カイルス、そこまで女にモテない……? ……不憫。
 ……ん。お茶……は、もらう。……ナッツも、少し欲しい」

知人と彼女はそんなに気心が知れた仲なのだろうか……。
先ほどの冷え切った目、そして此方の術をあっさりと看破したこと、そして暗殺者ギルドに所属する知人と深い関りがある……。
確証は無いが、彼女自身も裏の家業に通じるものなのかもしれない。そう念頭に置いて、警戒は緩めずにいなければ。
真面目な顔で知人の女っ気の無さを哀れみつつ、変に何も口にしないのも提供してくれる彼女に悪い気がして、ぽつり、ぽつりと前言を撤回してツマミも頼んで。

彼女の手に乗せた貨幣がきっちりと全て数えられ、金属の擦れ合う音を立てながら小袋の中へと収められる。
小柄は金に執着がない。働くことこそに意味があり、金は生活できる分だけで良い。
それに、金は吐き出すべき時には惜しまず出せと、そう師から教わった故、今回は正しく金を遣えたとさえ思っている。
彼女と言う想定外の勢力がこれで目を瞑ってくれるなら、安いくらいだ。
店へはいることを改めて許され、客として足を踏み入れる。
此方へ一瞬だけ向いた碧眼はすぐに逸らされる。あちらが小柄に興味が無かろうと、小柄はそれを気に止めずに男が腰かけるテーブルの前へと進み。

「……対話を所望する。……取引、とも言う。如何か?」

前置きなく、はっきりと告げる。この場には店員と、男と小柄の三人だけだ。
自分が話しかけられているとは思わなかった、などと言う戯言は通らない。

ヴァン > 小柄に対して、女は気にも留めずべらべらと喋る。

『顔はえぇんやけど、言葉選びとか雰囲気があかんなアレは。頼れる冒険者仲間のお兄さんにはなれるけど、男女の関係にはならんやろ。
まいどー。宿代から引いとくわ。席はカウンターかその近くにしてくれる? 奥の方は照明代がもったいないから』

辛辣なのか擁護しているのかわからない言葉の後、座ってもらいたい席の範囲を指で示す。
照明は魔導灯のようだ。出ていく金額も減らしたいあたり、吝嗇家でもあるらしい。
ともあれ、想定外の第一関門は突破したようだ。


黒装束がカウンターのスツールに腰かけるでもなく、宿の部屋に入るでもなく、テーブルの対面に立つと視線をあげる。
対話、取引という言葉に不思議そうに眉を顰める。

「君は……? …………あぁー……」

ややあって、間延びした声で呟く。思い出すのに時間がかかったらしい。先程の玄関でのやりとりは男には聞こえていなかったようだ。
顎に手をあてて、何度か頷く。小柄と出会った時の格好は双方前回と大差ない。

「初めて会ったのは十月の頭頃、冒険者ギルドでだったかな。久しぶり。えぇと、篝さん、だったっけ。取引……?」

この店で少女の背後を通った時は認識阻害の術が効いていたか、単に記憶がないのだろう。
穏やかに微笑んでみせる。問いかける姿は、ご近所さんから相談を受ける気の良いおじさんのようにも見える。

以前会った時、男を蛇蝎の如く嫌う様子を隠しもしなかった少女が取引という単語を口にすることに首を傾げる。
相手を立たせておくのも悪いと思ったのか、テーブルゲームの駒と盤を隣のテーブルへと片づけ、座るように告げた。

「取引……取引ね。代価と条件を提示してもらえるかな」

取り付く島もない、ということはないらしい。第二関門も突破できそうだ。

> 「……承知した」

仲が良い……のだろう。多分。親しいが故の、と言うやつだ。多分。
彼女が上げる知人への評価が概ね同じなことに少し親近感がわきそうになるが、今はこんなところで話を弾ませている場合ではない。
店の意向に従うのも問題は無い。小柄が用があるのはカウンター傍の席に腰掛けた、あの男なのだから。

気の抜けた男の様子を見ても、これも演技なのではないかと疑う視線は厳しいまま、真っ直ぐに見据えて対峙する。
少し言葉に間が開いてから、思い出したように語るなら自己紹介も必要ないだろう。
テーブルの上に広げられた遊戯盤には見覚えがある。チェスに似た異国の戦略ゲームだと、前の主が言っていた。
ルールが特殊故、遊ぶ者が少なく、気まぐれに相手をしろと命じられ覚えたが終ぞ一度も勝てずに終わった。
少しの懐かしさも今は記憶の隅に押しやって、冷ややかに燃える緋色は警戒を続ける。

この男が初対面の時に放った脅しの言葉を小柄はしっかりと記憶しているのだ。
いかに善人ぶった顔を見せようとも、元主と同じ、その中身は冷淡で合理的な人間である――そう、認識している。

「――求めるのは、此方の問に偽らず応えること。報酬は、お前が望む通りの手紙を此方が認める」

男の向かいの席へ、腰掛けながら手短に用件を述べる。
席に着くとフードの暗がりの中でもぞもぞと這い廻る小さな気配が一つ。ぐるりと回って首元から顔を出した小動物は茶黒のシマリスだった。
首輪代わりに巻かれた黒いスカーフを揺らしながら、小さなお目付け役は、したっ!と机の上に降り立ち、小柄に背を向けて男と向かい合う。

ヴァン > 黒髪の店主は相席をする小柄を見て首を傾げた。非難めいた視線を男へと向けるが、男は笑って否定する。
ナッツ類と温かいお茶を出して、カウンターの奥へと戻っていった。この独特な香りは蕎麦だろうか。
蕎麦の実は安い。焙煎する手間を含めたとしても、紅茶やコーヒーよりもはるかに安上がりなのだろう。

「ふむ……偽らず答える? 俺は情報屋じゃないんだが、まぁいいだろう。
あー、それならこいつの出番か? タイミング良すぎだろ……。――この国は『二千年』の歴史がある。この国はマグメール王国という」

独り言をいくつか呟いた後、紫色をした趣味の悪い蝋燭を取り出して燭台に立て、火をつける。続いて言葉を連ねた。
不思議なことに二千年という言葉を男が紡いだ時、ジッという音がして火は青色に変わった。すぐに赤色に戻る。

「この蝋燭は≪嘘感知(センス・ライ)≫の魔法を共有できる代物だ。半径2m程度でされた発言の嘘を感知すると炎が青くなる。
俺が正直に話したとして、その裏取りをするだろうし、手間だろ? かといって腹の探り合いみたいな下らんことはしたくない。
だからこれを使う。借金のカタに入手したんだが、持て余していてな。丁度いい」

小動物の姿を認めると、男の目が開いて口許が緩んだ。可愛いなぁ、といい歳をした男が呟くのは意外かもしれない。
自分の挙動を客観的に認識したのか、何度か咳ばらいをした後に最初のキリリとした顔に戻った。

「とはいえ、足りんな。前も言った通り、気持ちがこもらぬ文章なら要らない。それを取引材料にできると考えている所が気に入らん。
――明朝までに書いたなら、手紙を読ませてもらう。あることあること書かれると困るからな。問題なければ封をして俺が送る。
それとだ。武器、ハーフマント、バッグ。どれか一つ、そこのテーブルの上に置きたまえ。呑めないならお帰りいただこう」

以前話した事を考慮に入れぬ発言に落胆の色を隠さず告げる。懇意にしている女騎士に少女が手紙を書かなくても男は困らない。
手紙について条件を追加する。男の立場としてこの要求は妥当だろう。話はここからだ。男が女性に代価として要求するのはもっぱら身体だが、黒髪眼鏡(おしゃべりクソ女)の前でそれをやると後々厄介だ。狼娘に知れたら酷いことになる。この店で接触することを選んだ点で少女は幸運と言えるだろう。やむなく少女の格好を頭から爪先まで眺め、価値がありそうなものを男は口にした。覚悟のない者とは大きな取引をしない。覚悟を知るにはまずふっかけることだ。

> お茶と変わった香りのナッツを届けてくれた彼女に小さく首肯を返し、男の返答を待つ。
良い返事が聞ければ、細く息を吐き。

「それは知っている。ノーシス主教の騎士、ヴァン=シルバーブレイド。 ……?」

情報屋でないことなど当然知っている。一応、暗殺対象になり得る危険人物だ。名前や所属くらいは調べがついている。
不意に取り出されたものに警戒し身構えたが、武器ではなく蝋燭……。魔道具の類だろうか?
昔話でも始めそうな語り口で唱えられた言葉が呪文となって、蝋燭に火が灯る。見るからに怪しい見た目で、煙に毒でも仕込んであるのでは無いかと疑い目を眇め。

「……裏取りは、可能な範囲でするが。
 そちらの道具が如何な物でも、信用はできない。此方も道具を使う」

蝋燭の効果や手にした経緯はわかったが、それも嘘か本当かなど判断することは此方は出来ない。全てが嘘偽り、罠である可能性は拭えない。
とは言え、腹の探り合いなど、不器用で嘘がつけない小柄も端からするつもりも無い。
ではどうするかと言えば、男と同じだ。魔道具――契約のスクロールを使い、この場限りの簡易的な縛りを設ける。これは前の主が取引の場でよく使う戦法から学んだことだ。

小柄は鞄の中から二つのものを取り出す。一つはスクロール。もう一つは手紙。
スクロールの方を広げれば、男の方へ向けてテーブルに置き署名を求める。

「この場に置いて、互いに嘘、偽りなく応じる。簡易的な契約を結ぶことを所望する。
 結べば、此れを破棄するまで嘘がつけなくなる。……命の危険は無い。
 手紙が書き終わるまで、スクロールはお前の手元に置く」

それで良いか? と、尋ねてみるが、男の視線は目の前の小動物に向けられていて。
口元が緩むのを見るとシマリスを手で庇うように覆って引き寄せる。
愛らしい姿をしているが、この小動物はれっきとしたお目付け役。式神だ。その向こうにいる者の存在に気付かれたのでは、と嫌な想像をしてしまう。

「契約、取引に置いて、誠実さは何よりも重要視されるべきものである。
 お前が誠実に対応するなら、此方もそれに応じて返す。手紙も……心を込めて書け、と言うなら……そのように書く。
 ……元主様の不都合となる内容は書けない。すでに契約済み。ので、心配は無用。

 何故その3つ……。……っ、承知した」

あったままに書かれては困るとは、小柄が暗殺者としてヴァリエール家に召し抱えられていたことを相手も知っているから出た言葉なのだろう。
人質ならぬ物質に挙げられたのは小柄にとってはどれも大切なもので、一瞬迷うが、二つ返事で了承し、テーブルの上へ差し出すのは腰に下げていた双剣。

予想外の懐に痛い出費も、ある意味では幸運だったと言う事実を知らぬまま、小柄は準備が整うのを待ってから口を開く。
鞄から取り出したもう一つ、一通の手紙。それに見覚えがあるか、男の反応を確かめながら問う。

「――まず、先日の詫びとして、同胞(ブラザーフット)から此方へ挑戦権(これ)が届けられた。
 中に、お前の名がある。
 単刀直入に問う。何のつもりで、此れを寄越した?」