2026/01/12 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」にヴァンさんが現れました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」にナイトさんが現れました。
■ヴァン > 「ワイバーンに天国があるかは知らんが、二匹とも同じ場所に行くだろう。すぐに会えるさ」
天国か地獄か、あるいは別の何かか。そう考えることで罪悪感を背負わないことにしている。気にするなとばかりに少女に告げた。
傷は最小限、という言葉を少女が復唱したことで、男の思惑は伝わったかと一人頷く。
ソロ討伐と同じように魔物の姿を正面に捉える。少女がどこにいるか探す必要はない。ゴーグルの隅に表示されるミニマップは、近距離であればゴブリン大以上の生体反応を補足する。識別コードが埋め込まれた男の聖印やラインメタル製装備は同士討ちの危険性を減らし、作戦を円滑にする効果を持つ。
少女がいる位置は確か遮蔽物があった気がする。男にしか気付いた様子がないワイバーンの不意を打つには最高の位置取りだ。彼女が持つ弓は短弓だった。十分射程内だし、熟練者ならば数秒に一発の割合で射撃が可能な代物だ。以前雑談で話した時は弓の扱いにかなりの自信があるようだったから、ワイバーンが逆鱗を晒したなら数発は叩き込めるだろう。
「よし、食いついたな……」
男は宙を駆けながら、ワイバーンの目を睨む。無防備な逆鱗が十分晒された――と思った矢先。
ぐらり、魔物の頭部が揺らぐと共に苦悶の声があがる。視界を横切ったのは矢というより雷だった。男の位置からは傷口は見えないが、普通は矢一本が逆鱗に刺さったくらいでここまでワイバーンは呻かない。おそらく致命傷だろう。
魔物の頭部を視界に入れつつ、立射する少女の姿が視界内に入る。長弓と化した得物が握られていた。思わず賞賛の言葉を呟く。
<いい腕だ>
男の予想通り、魔物は傷口を隠すように頭から首にかけてを地面に平行にした。首の上に着地した男はすぐにワイバーンの長い首の真ん中に両脚を巻き付ける。太腿に魔物の硬い鱗の感触を感じる。背筋に棘を持つ種ではこうはいかなかった。竜騎士が騎乗する時はもっと下、首の付け根あたりに翼が邪魔にならないように跨るのだろう。
ワイバーンは少女にも気付いたようだが、奇妙なことに彼女から背を向け、巣へと歩き始めた。それと同時に首を大きく上下左右に振って男を引きはがそうとする。死のロデオに臆する様子もなく、男は両膝で魔物の首を押さえつける。裸馬に乗るのと似た要領だ。
唇をきゅっと引き締めながら刀を両手で握る――また刀身が変化している。野太刀と呼ばれる長さだ。やや前傾姿勢となり、顔は動かさず、上半身を捻って野太刀を高く右側に掲げ、そのまま左へと振りぬく。二秒ほどして、ワイバーンの頭部が自由落下を始めた。
<対象沈黙>
10mの巨体がどさりと前に倒れ伏すと共に、男は馬乗りにしていた首から下りた。ひとまず二体二の乱戦にならなかったことは幸いだ。ミニマップを見る限り巣に生体反応、つまり卵もありそうだ。他には男と少女の間にもう一つ、高い位置にいて高度を下げて少女へと――
<正面頭上に敵!>
言いながら振り返ると、かなり高い位置から急降下してくるワイバーンが見えた。羽音は聞こえなかった。遠方で上空に上がり、滑空する要領で襲い掛かってきたのだろうか。今戦った個体より大きい。15mくらいか?
体当たりして少女を地面とサンドイッチするつもりのようだ。少女のことだ、警告を発するより先に気付いただろうが……
■ナイト > ワイバーンの断末魔が響き渡る中、機械越しに称賛の声を受信する。
思わず漏れたその言葉に少女は気分を良くして、口角が上がるのを抑えきれずにふふんっと自慢げに鼻を鳴らす。
ぐらり、ぐらりと不安定に重い頭を揺らし血を流すワイバーン。低く地と水平になった頭の上へ、軽やかに降り立つ姿を確認すれば、もう一矢を放つための準備へと取り掛かる。
狙い通り致命傷を与えたし、止めを刺すのは彼の役目だ。次の一手を用意するのは万が一の追撃のため。
そして――
大きな得物相手に身体全体を使い、脚で捕らえた首を斬り落とすのは迷いない一刀両断の刃。心なしか彼が持っていた刀が大きくなったようにも見えたが、気のせい……では無いだろう。
刃が振り抜かれてから、少しの間を空けて傾いた頭がゆっくりと、スローモーションのように落ちて行き。
ド、シーンッ…………。
落ちる頭と共に地面へ沈んだ巨体が、軽く地面を揺らし地響きを立てた。
『お見事』
少女はその一部始終を見届けて嬉しそうに呟く。本当は手放しで拍手でも送れれば良かったのだが、残念ながらまだ狩りの途中だ。全てが終わるまで気を抜いてはならない。
油断こそ一番の敵。狩りで最も危険なのは、獲物を倒したその瞬間。漁夫の利を狙うものや、潜んでいたもう一匹が牙を剥いてくることはよくあることだ。
獲物が沈黙しても、けしてすぐに息を吐いてはならない。常に警戒を怠ることなかれ、とは耳が痛くなるほど聞かされた言葉である。
少女には、彼のように便利な魔道具は無いが、代わりによく利く鼻と目、そして猟犬の勘がある。
遥か彼方より飛来する番の片割れが来ることを、彼の声が響くより一瞬早く察知して、顔と矢を向けるのは警告とほぼ同時。
事前に指先へ集中させた魔力を矢に変え、急降下するワイバーンに素早く狙いを定める。
「――チッ」
だが、射出までの時間が短く、矢は先ほどの威力には届かないだろう。これでは硬質な鱗を剥がせず肉を裂くには至らない。
少女は小さく舌打ちを漏らし、目の前に飛び込んで来る巨体を転がって躱す。
その間に長弓はまた姿を変えて元の短弓へ戻り、頬を掠める鉤爪を見送りながら、すれ違いざまに空を斬る翼へ向けて、一本、二本、三本、と溜め込んだ力を分けて続けざまに矢を放つ。
威力は落ちるが、薄い翼なら穴を開ける程度の効果はあるだろう。
転がった勢いのままに地を駆け走る姿は猟犬らしく、立ち止ることなく地を駆け敵の出方を見る。此方に注意が向いているなら、今度はこちらが囮になる方が良いだろうか。
『ヴァン……っ、どうする?』
問いかける少女の声にはまだ余裕はありそうで、切迫した様子はない。
15m越えのワイバーンも少女にとっては“たまに見かける美味しいご馳走”くらいの認識なのだろう。
■ヴァン > たった今斃した個体を一瞥する。逆鱗の一撃の後に切断、前者が致命傷だということは中堅以上の騎士ならば理解できるだろう。ひとまず、この個体を討伐した名誉は少女のものとなることに異論を挟む者はいなさそうだ。少女から入る声には笑い声で返した。
<ナイト!?>
少女が転がって回避した後、先程とは比べ物にならぬ地響きと土埃があがる。何本か短弓形態になった弓で射撃をしていたが、翼ではそこまでの痛手にはならないだろう。多少の穴であれば無理矢理羽ばたいて飛んでいくが、その様子はなかった。
魔物の個体差はあっても、種族が同じならば対処法は変わらない。おそらくこのワイバーンは死ぬまで戦うだろう。人間ならば子供を抱えて逃げるという選択肢もあるだろうが、この魔物は抱える手を持たない。さりとて見捨てて逃げるということもしない。縄張りに侵入したものは排除する、非常にシンプルな習性だ。
おそらく男が巣に――卵を目指して走れば、魔物は少女に構わず男を追いかけてくるだろう。人間なら隙を晒す格好となるが、ワイバーンの背中は概ね硬い。防御力も先程の個体より大型な分高いだろう。となると――。
<頭部付近を狙え。白兵か射撃かは任せる――倒しても構わんぞ>
そう言うや否や、≪身体強化≫で脚力を強化し野太刀を肩に担いで走り出す。魔物はこちらを見ていないが、脚と尻尾で地面の振動を感知し、男の接近を知るだろう。尻尾の一撃をかいくぐって、次の有効打を考える。
しかし、大きい。男一人の力でなく、道具の力にも頼るべきか。
ワイバーンは翼と脚を使って立ち上がるが、猜疑心が強いのか鎌首をもたげ、逆鱗を見せずに少女を探す。どしどしと音を立てて近づき、噛みつきを試みた。避けられたならば首を振って、あるいは一歩踏み出して頭をぶつけようとする。先程の個体より戦い慣れているようだ。
男が魔物の攻撃圏内に入るまで、十五秒ほどかかりそうだった。
■ナイト > 『――っ、……平気よ』
名を呼ぶ声に返事をしようとすれば、振り返る竜の尾が地を凪払い、丸太も岩も明後日の方へと蹴散らかされる。
咄嗟に跳んで躱していなければ少女も向こうの林まで吹き飛ばされていただろう。
気を抜けない状況ではあるが、命の危機を感じる程ではない。
これが毒竜などの状態異常持ちだったなら、いくら頑健怪力の少女でも冷や汗をかくが、敵にそう言った片鱗は今のところ見えない。
厄介なのは、ワイバーンが死を覚悟している点だ。追い詰められた獣は想像以上の力を発揮することもある。
番を殺され我を失ったのかとも思ったが、どうもそれだけではないことを感じ、視線は彼の方――正確には、巣の方へと視線を向ける。
……子供を守るため、か。
番を引き裂くのも罪悪感があるが、子を守ろうとする親を討つと言うのは更に重い。
ますます気分が乗らなくなってくるけれど、これも平和に領民が暮らすためだと割り切る。
短く息を吐き、届く声に薄く笑みを浮かべ。
『軽く言ってくれるわね。後で文句言うんじゃないわよ……』
彼がどう動くかを少女は知らない。知らないが、任された以上は期待に応えねばと、少しだけやる気が戻って来る。
とは言え、さてどうしたものか。弓を射るにも矢を練る時間が限られているから致命傷は狙えない。剣を抜いても良いが……。
――“傷は最小限で。”
うっかり忘れそうになっていた大前提を思い出す。
彼のように一撃で頭を落とせる自信は、悔しいが少女にはない。
「……ったく、しょうがないわね」
長い首と尾を振って巡らせ、ちょこまかと動き回っていた獲物が足を止めたのを見れば、ワイバーンは少女目掛けて突進し、大口を開け、鋭い牙を剥き出しにして襲い掛かる。
だが少女は足を止めたまま、手にしていた弓を手放し、腰を低く落として無手でワイバーンと向かい合う。
少女が見た目通りだったならただの自殺行為、無謀にしかならない。その勢いに弾き飛ばされるか、胴に食いつかれて丸のみになる未来もあったかもしれないが、現実は違う。
「―――フッ、グゥ……ッ!!! ウゥ゛ゥ……ッ、ッ!!」
少女は歯を食いしばり、襲い来る牙を右手で掴み、下顎を左腕で抑え、頭部を地へ押し込むようにして止めた。
ワイバーンを捕える少女の腕は人のものではない。鋭い爪と黒い毛皮に覆われた、獣人とは似て非なる強靭な魔狼の腕だ。
衝撃を受けても身体は一歩も下がらず、全て力づくで捻じ伏せる。巨体が小さな少女にぶつかった音とは思えぬ激突音が辺りに響き渡り、衝撃で地は罅割れるが体勢を崩すことは無く。ガシリと掴んだ牙を放さずに暴れる頭を力技で押さえ続ける。
舞い上がった砂埃りを暴れる翼が掻き消し、拘束を逃れようとのたうち尾が辺りの木を凪倒していく。
彼がここへ辿り着くまでの15秒。その時間程度であれば何とかはなるだろう。
■ヴァン > 嫌な音を立てながら亜竜の尻尾が振られると、障害物が軽々と吹き飛ばされる。ワイバーンは少女に向かって低く唸るが、咆哮は上げない。それにつられて寄ってくる者が友好的とは限らないからだ。
男は少女とは正反対に、何ら良心の呵責を感じていない様子なのが通信の声でわかる。相手が魔物だからなのか、それ以外でも同じ反応をするのか。
近づきながら、どこを狙うかを考える。首を刎ねられたのは弓の一撃で魔物の注意が逸れたからだ。今の状況では難しいし、何より一回り太い。動き回る対象の同一部位を正確に狙うのは極めて困難だ。となると頭部や脳への打撃がセオリーだが、同一部位を複数人で狙うのはタイミングを計る必要もある。攻撃可能な部位としては腕――翼の支柱にあたる部分か、太腿部とは対照的に細く見える脛部分か。
そう思っているうちに魔物は少女へと向かっていく。走る時間が増えた。攻撃の後、ワイバーンが噛みつき攻撃を行った後、不自然な体勢のままでいる。頭部が地面に――めり込んでる?
「何を……?」
迫る男に対し、尻尾が邪魔だとばかりに横薙ぎに振られる。跳躍して回避。着地狩りの心得があるのか往復ビンタのようにまた振られるが、こちらは先ほどと同じ土弾を空中に固定して二段ジャンプをして回避。亜竜の脚元へと着地した後、首元へと向かう。
野太刀を右肩に担ぎなおし、一度深呼吸。これなら――。
「<上出来だ>――刃・破・火・遁……!」
後に小さく呟いた声は、本来ならば少女には聞こえないだろう。男から少女への発信は念話が使われている。
ワイバーンの逆鱗の位置を目視すると、真向斬りで振り下ろす。その刀身が炎を纏ったのは少女にもはっきりと見えたが、その直前に男の背後に黒髪の少女が見えたのは幻覚か何かだろうか?
男の体格では先程より一回りも二回りも太い亜竜の首を斬り落とすことは不可能にも思えるが、男は全身のバネを使い叩き斬った。斬られたというのに血が出ない。しばらくワイバーンはばたばたともがいていたが、やがて動きを止めた。
<敵影なし――状況終了>
ふぅ、と男は溜息をつく。お疲れさん、と小さくねぎらいの声をかけた後、背負っていた鞄から花火を取り出し、空に打ち上げる。いくつかの色のものを何発か打ち上げていた。
「……あぁ、これは村まで運ぶのに馬車や人手がどれくらい必要かを示す合図さ。彼等が来るまでは待機だな。
……さっき、ワイバーンの頭を掴んでたか? これは、今晩の宴の主役はナイト嬢で間違いなさそうだ。みんなと仲良くしろよ。
あぁ、あと。言ってなかったが帰りは転移魔法を使う。いつ戻るかは君次第だ。他の騎士と親交を深めたければ明日の昼頃まで大丈夫だし、暖かい布団が恋しいなら今日の深夜にでも戻ることにしよう」
とはいえ、少女は三日間の予定で出向いているのだろう。今晩深夜に男の部屋に戻ったとして、どうなるかは少女自身わかりそうなものだ。それよりも、巣の中にある卵のことで一悶着おこるかもしれない。