2026/01/08 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」にヴァンさんが現れました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原) 自然地帯」にナイトさんが現れました。
ヴァン > 平原を歩む二人の姿がある。銀髪の男は詰襟に打刀、背負い袋といった出で立ち。鎧を身に着けず、極めて軽装だ。
バンダナの代わりにゴーグルが額の位置にあるくらいで、王都での姿とさして変わらない。
同行の少女が疲れないか気遣いつつ――気遣われつつかもしれないが――歩いてきたが、丘の前で立ち止まる。

時刻はまだ午前中。ふとした瞬間に吐く息が白いと気付く寒さは、冬の訪れをすぐ傍に感じさせる。
日の出後に女男爵が狩猟会の開始を宣言した後、三時間ほど歩いただろうか。
村から街道を西に進み、目撃証言があった地点から平原を北上し、今二人の目の前には丘陵地帯が広がっている。
視界を遮るものは点在する密集した木々ぐらいなので、高い丘に上れば遠くまで見通せるだろう。

「まず、ワイバーンの巣を探そう。とりあえずは目の前の丘を上って周囲を見渡してみるか。ワイバーンの姿が見えれば御の字だ。
あと、巣の近くには食べカスや排泄物があるから匂いでわかると聞くが……俺は結構近づかないとわからなかったな。
あぁ、そうそう。ナイト嬢は『それくらい知っている』と思う事もあるだろうが、念の為確認させてくれ」

少女の五感は人間より優れている。遠くの巣を視認したり、丘に隠れた巣を匂いで感知したりできないかと男は期待していた。
難しければ、ワイバーンによる襲撃跡をはじめとして、魔物の痕跡を探すことになる。藁の中の針を探すよりはマシといったところか。

その後、ワイバーンの生態について語る。少女の故郷、あるいは訪れた地で呼ばれていた物と王国のそれが一致するかの確認だ。
いわく、全長約10m、翼開長もほぼ同じ。ドラゴンの頭と蝙蝠の翼、鳥の脚が特徴的な二足歩行の爬虫類といったところ。肉食性。
卵の頃から人が育てると馬と同等程度の知性を持ちうるため、騎士が騎乗したり物の輸送などに使われることがある。
語り終えた後に、確認するように問うた。

「ナイト嬢は単独でワイバーンとやりあえる、って理解でいいか?」

ナイト > 狩猟会当日。天気は良好、風は少し強いがこの程度なら支障はない。
前夜の貴族皆々様との顔合わせによる疲労は、一晩寝ればすっかり消えて、いつもの通りの威勢の良い狼娘であった。
冬の寒さも慣れたもので、数時間歩き詰めても息が上がった様子は無く、日が昇るにつれて気分も上がって来たのか足取りも軽く平原を行く。
緩やかな傾斜から見えるだだっ広い景色の中で、此れと言って目に見えて怪しいものは見当たらない。
尋ねる声に振り返り。

「こんな平原でもワイバーンって住みつくもんなのね。天敵がいないからかしら?
 んー……。んー。風があるせいで臭いが流されちゃってる。だいたいの方角くらいしかわからないわ」

目を閉じて臭いを探ろうと、クンクンと鼻を鳴らして見るが明確に巣の場所を言い当てるには難しいようで。
眉間に皺を寄せながら、大体の方角――北東方面を親指で示して告げる。
ワイバーンの生態について語るなら頷いたり、少し驚いたりと反応を返す。

「10m前後か、けっこう大きめね。形はヴァンの言うのとほぼほぼ同じ、竜種だけど火を吹いたりはしなかったわ。
 もっぱら、(うち)では食用としてしか見てなかったからアレだけど、ワイバーンってそんなに頭良かったのね……。そんなに賢いなら、ペットにしても良いかも。

 ――ええ、もちろん。ワイバーンくらいなら一人で狩れるわ。朝飯前ってやつよ。……じきに昼だけど」

色々と考えを巡らせつつ、巣に卵でもあれば持ち帰ろうと密かに考えたりもしつつ。
腕前を問う声には「当然!」と薄い胸を張って、背負った弓と腰に下げた剣を一瞥し、ニッと犬歯を見せて笑った。
しかし、ふと……。

「平原に住んでるワイバーンってどんな巣を作るのかしら?」

竜と言えば暗い穴倉や山岳の高所に巣を作るのが少女の常識。
この辺りの竜はどうなのかと首を傾げて今度は此方から質問を投げかける。

ヴァン > 軽やかに歩く少女へ羨まし気な視線を向けつつ歩く。
日々の運動で体力を維持しているものの、男の本業は図書館の司書だ。適度な休息をとることを提案するのは男の方だった。

「この先が丘になっているから、棲んでいるとしたらそのあたりだろう。
方角がわかるだけでも助かる。うろうろ彷徨うのは大変だからな……」

少女に言われて人差し指を舐め、ぴっと立てる。歩行中は感じなかったが、確かに風が吹いていて、時々風向きが変わる。
少女が驚く様子に、事前に話しておいてよかったと内心安堵した。

「そうだな、ブレスはない。全長は頭から尻尾の先までの長さだから、牛を五、六頭並べたぐらいか?
国によってはドラゴンナイト、ってのがいるが。実際に騎乗するのはワイバーンだったりすることが多い」

狩猟対象としか見ていなければ、そこまで大きさを意識することもないだろうか。他の動物でたとえてみるが、伝わるかどうか。
一人で狩れるという言葉に対してはただ頷くのみ。

「鳥の巣を想像してくれれば、だいたい合ってる。違うのは使うのが枝じゃなくて幹ってことぐらいだ。
丘のワイバーンは山から追い出された個体だ、と聞くが……獲物が近くに多いからか、大型になるのかもな」

丘の上や崖の下など、比較的見つかり辛い所に居を構える。探すとしたらそのあたりだと告げて丘を上り始める。
数分かけて丘を上りきると、さっと視界が開けた。人の手が入らぬ景色を目に、男は小さく感嘆の声をあげる。

「これは……すごいな。水さえあれば村ができていてもおかしくない場所だ。
畑向きのなだらかな丘、広そうな森……」

ワイバーンの存在を示すものを探す。空はどんよりとしていて、分厚い雲が陽光を遮っている他は何もない。
森の向こう、丘の陰……死角は多いし、あまりに遠いと男には視認できない。ワイバーンの巣は直径が持ち主の体長と同じ程度だ。
ゴーグルを額から下し、こつこつとこめかみを指で叩いた。ゴーグルは様々な情報を視野に映し出し、望遠などの機能も持つ。

「あれは……? どういうことだ?」

先程少女が示していた方向、北東方面徒歩十分ほどの距離に不自然な円を見つける。
丘の下に鳥の巣状のものがあるが、空だ。そこから然程遠くない場所に同じようなものがある。
どことなく新しく、そして倍くらい大きく見えるのは錯覚だろうか。そちらはやや高台にあるため、巣の中身を見降ろすことができない。
頭をよぎった嫌な予感を己の中で弄びつつ、同じものが見えるかを少女に確認する。

ナイト > 育って来た環境や種族的な面を抜いても、騎士の鍛錬とメイド業を両立させているフィジカルの化身だ。体力勝負で少女に勝てる者は、それと同等の化物となる。
適度な休息をと言われれば、特に不満を言うことも無く少女は従うだろう。兵団に所属している時などもそうだった。誰かに言われるまで止まることなく突っ走ってしまうが故に、一度も部下を持たせてもらえなかった。

「そっか、丘の上……か。もう少し近付けばもっとはっきりわかるから」

静かに相槌を打ち、少し考える仕草をして視線は北東の方を向く。

「ふーん、尻尾まで含めてね。……大きく立派な獲物でも今日は食べるための狩りじゃない、と。
 ちょっと残念だけど、帰ったら美味しい食事があるそうだし。そこは我慢するわ。
 ドラゴンナイト……! 何よそのカッコイイ響き、わくわくするじゃないっ!」

牛で例えられると余計に凶悪な魔物と言うより、美味しそうな獲物としての見方が強くなる。
前もって食用として持ち帰るわけでは無いと聞かされているので、惜しみながらもそこは堪えて。
目に見えてがっかりしていた少女だが、男が口にした職業には心を擽られ、ぱぁっとやる気を取り戻した。
小説に出てきそうなカッコイイ騎士の称号に憧れて、ますます卵を本気で持ち帰ろうと画策し始めそうだ。

「ふむ……、巣の形状は私が見たことあるのと同じみたい。こんな開けた場所であんなの作ったら、攻撃してくれって言ってるようなもんだけど。
 この辺って本当に平和よね。追い出された劣等種が平然と生き残るんだから」

つくづく、王国周辺の穏やかな環境に呆れさえも抱きながら、そうは言ってもワイバーンなんてものに住みつかれては堪ったものではない民草の為、害獣駆除を行うこと自体は賛成なので。
ぼやきながら丘を上がってみれば、広がる雄大な景色に隣から感嘆の声が漏れる。
少女はその顔を横目で見て、どこか嬉しそうに頬を緩め。

「そうね。井戸でも掘ってみれば、意外と湧き水が眠ってるかもしれないわよ。
 開拓するには……少し、危険が多いかもしれないけど」

見下ろす景色の中で、最初に目が向くのはワイバーンの巣らしき円状の囲い。
しかし、そこに獲物の姿は無い。よく目を凝らしてみても、そこに親も雛の姿も見当たらず、何かが棲んでいる気配が感じられなかった。
男が呟く戸惑いの声に少し視線を上げ、そこにもう一つの巣を認めれば、その大きさに少女の口元は笑み、サファイアの瞳は獣の眼光の如くギラリと光る。

「これはこれは、予想以上の大物かしら……」

行儀悪く舌なめずりをするなり、背負っていた弓を下ろしてすぐさま臨戦態勢へと入るべく支度を始める。

ヴァン > 「……あ、言ってなかったか。山賊やゴブリンはただ地面に埋めるが、食べられる獲物は村まで運んで加工するぞ。
もったいないし、死骸を放置したら別の魔物を呼び寄せるおそれがあるからな。夕飯には間に合わないと思うが……。
……パラディンの方が格好いいと思うんだけどなぁ」

馬の代わりにドラゴンやワイバーンといった飛竜種に騎乗する騎士。高い機動力、そして空中移動という強みを持つ花形の兵種だ。
馬以上に金喰い虫である飛竜種と共にあるため、資産に余裕がある貴族しかなれない。
興味津々な表情に、自然と口がいじけるように窄まった。神の加護を得て戦う聖騎士は、小説ならば竜騎士に匹敵する人気だ。

「そう。さっきナイト嬢が言っていたように、その地域では天敵がいない頂点捕食者という訳さ。
魔物も動物と大して変わらん。同種で争いあうと種族自体が絶滅に近づくとわかっているのかも」

立ち止まり、口元に手をあてて何やら考え込む素振り。しばらく唸っていたが、意を決して歩き始めた。
どちらにせよ、数分は歩かねば矢の射程範囲にも収まらないし、獲物を確認することもできない。

「急成長して巣が手狭になったから作り直した……? いや、さすがに大きさが倍の個体がいるとは思いたくないな。
昔どこかで超大型の討伐記録を読んだが、その個体は数か月に渡り王国兵の食料を運ぶ荷馬車を襲い、物資を掠め取って成長していた。
このあたりで荷馬車が襲われたという話は聞かないし、急成長するほどこのあたりの動物が豊富とも思えない。
となると、巣が倍の大きさってことは――たぶんだが、(つがい)だ。
二匹ともいたら片方が巣を出るまで待とう。一匹だったら速やかに殺して、旦那だか妻だかの帰りを待つ」

ただ殺すだけならば二匹いようがさほど問題ではない。目的地へ向かい嵐のように暴れればいい。しかし、男には考えがあった。
歩調を緩めないまま、作戦――とも言えない方針を少女へと話す。

「作戦は大きく二つ。俺が囮となって、ナイト嬢が弓で急所を射抜くのが一つ。ナイト嬢が正面きって戦って俺が後方支援するのが一つ。
どちらも俺は『束縛』の魔法を使って、飛行を封じる。飛ばれて逃げられたら大変だし、俺はろくに攻撃ができなくなる。
左手で印を組んで集中を維持するから、攻撃力は落ちると思ってくれ。
あと、巣には宝が眠っていることも多い。巣から引き出して戦うことになる」

どちらも少女が討伐の功労者になる作戦だ。
獲物の傷を見れば、どんな武器でできたのか――つまり、誰の攻撃によるものか熟練の戦士は判別できる。
少女がワイバーン狩りが単独で出来る実力者であると、この狩りを通じて参加者に知らしめたいというのが男の思惑だろう。
獲物の傷が少なければそれだけ見事な狩りだと見做されるし、魔物から剥ぎ取れる素材も良い状態になるから値段が上がる。

数分後、腰を落としながら大型の巣の近くへと辿り着いた。
男の言った通り、10mほどのワイバーンがとぐろを巻くようにして巣の中央に鎮座している。
男は魔導通信具を通じて、どちらの作戦でいくかを少女に問うた。

ナイト > 「そうなの? じゃあ後で捌いてもらえるわね!
 半端な死骸は確かに寄せることになるけど、ドラゴンとか上位種の魔物になると下手な魔術よりよっぽど強い魔物避けになるわよ。里の入口に竜の骨で作ったオブジェとかあると、威厳が出るでしょ。

 ――? ……なぁに、ヴァンってばいじけてるの? ふふっ、意外とかわいい所あるじゃない。
 はいはい、聖騎士(パラディン)も立派な誉れよね。カッコイイ、カッコイイ」

故郷を思い出しながら人差し指を立てて例を口にして。
竜を倒して食うのも良いが、今はもうどちらかと言うと使役する方に興味が向いていた。
竜と共に空を縦横無尽に駆け抜け敵を討つ。字面だけでときめくのだから、きっと実際に目にして、自分も同じように空を飛べば少女はもっと目を輝かせてはしゃぐだろう。
しかし、隣の彼の不満げな面を見れば、にやりと意地悪く目を細めて楽し気に揶揄い、隠しきれない笑みを堪えながら、うんうんと頷き宥めた。

さて、遊んでいられるのも此処までか。
一つ息をついて真面目な顔を作ると纏う空気も変わる。
弦を掛けてピンと張り、矢は番えずに左手に弓を抱えて先を行く彼の後を追い歩き出す。
少女の弓は自前の特注品であり、視界に捉えた獲物はどれだけ離れていようと撃ち抜くと言われるものだった。
現状はまだ獲物の姿が見えないので弓引くことはしないが、その相手が視界に入ればすぐにでも嚆矢を放てるよう指先に魔力を集める。

「番? 親子じゃなくて? ……雄と雌でこんなに体格が違うものなの?
 んー……でも、そっか。縄張り争って追い出したなら、相手の巣をそのまま残しておくとも思えないし。
 二匹かぁ。……少し可哀そうかもしれないけど、このまま放置したらここら一帯竜の住処になっちゃうかもしれないものね。
 なんか、その言い方だと私達が強盗に入ろうとしてるみたいに聞こえるわよ」

人聞き悪い。そう言ってジト目を向けるが、巣に溜め込まれているかもしれないお宝まで狙っている以上、否定も出来ないわけで。

「――は? 何言ってるのよ。私も勿論やるけど、そっちも攻撃主体に決まってるでしょ?
 見渡す限り雲も無い。此処なら隠れる場所も無いんだから、どんなに高く飛んでも必ず私が射貫いて落としてあげるわよ。
 ヴァンは落ちた獲物に止めを刺す。……そっちの方が楽しくない?」

男の提案を迷うことなく一蹴する。相手の思惑など知らぬ少女は功労者などと言うものには興味がないらしく、如何にこの狩りを二人で楽しむかと言うことしか考えていないようだ。
通常であれば安全性を確保して罠を張り、或いは彼が提案したように拘束魔法を掛けるのだろうが、互いの実力をある程度理解しているが故に信頼がゴリ押ししている。

やがて見えた大きな巣の中に、とぐろを巻いて羽を休めるワイバーンの姿を認める。
指先に溜め込んでいた魔力を添えて、弓を引き搾れば線を引いたように光の矢が現れて。
一応、上官である男の判断を待ち、じぃっとサファイアが男を見る。それは「良し」の声を待つ猟犬のようでもあった。

ヴァン > 「……そうなのか? 冒険者ギルドで討伐依頼を受ける時はたいてい死骸も引き取るから、そんな効果があるとは知らなかったな」

確かに村に大型獣の骸骨があれば、魔物は近づくまい。人間も「ここでは大人しくしよう」と思うだろう。
少し、いやかなり蛮族の村っぽさが出てしまうのが欠点だ。
聖騎士は竜騎士に比べると絶対数が多いし、なるのも簡単だ。何より竜を持たない竜騎士はいないが、聖でない聖騎士は腐るほどいる。
少女が楽しそうにしているので、これ以上何か言っても傷を広げるだけだろう。敵わないなと笑う。

「あー……いや、多分丘の下にある巣は前の住処だな。配偶者と出会って大きな巣を作った、って所だと思う。大きい方が新しいだろ?
棲んでいるのは二匹揃って大きい方だろう。――そういうことだ。一帯を食い尽くしたら、街道へ、そして村へと向かってくる。
魔物どもにとってみたら似たようなものさ。飛び込んできた餌にみえるのは一瞬のことだ」

強盗めいている、という口調は否定しない。山賊は奴隷商に売り飛ばすし、ゴブリンの巣を掃除する際は赤子に至るまで皆殺しだ。
とはいえそんな話をして少女の気分が良くなるとも思えないので黙っておくことにする。

「あんまり傷つけると買いたたかれるんだよな……わかったが、拘束魔法は使わせてくれ、ソロ討伐する時も使ってるから」

まるで商人のような物言いをするが、ここで言い争っても何にもならない。
ワイバーンを正面に捉え、魔導通信を開始する。魔物は人の言葉を理解しないから声かけで良いのだが、あれば使ってみたいのが人情だ。


<状況開始。俺は正面から叩く。逆鱗が見えたら撃て>

男はいつの間にかゴーグルをかけている。フルフェイスヘルメットのように少し視界が狭まりそうに見えるが杞憂のようだ。
通信は簡潔で、どこか軍や特殊部隊を思わせる。
体表は硬い緑色の鱗に覆われている。鈍器で叩きのめすか斧などで断ち切る、目や逆鱗といった急所を貫くのが飛竜種討伐のセオリーだ。
もちろん、そんなセオリーを無視する、できる者達が例外的にいる。少女が男を信頼するように、男も少女を信頼していた。
すらりと抜いた打刀は、形こそ違うものの刀身は以前少女が見た時と同じように漆黒だ。魔物が二人に気付き、立ち上がる。

「…………≪拘束(バインド)≫!」

身を沈めると共に両手を広げるように大きく翼を広げ飛行を始めようとしたワイバーンが、雷に打たれたように動きを止める。
数秒してからだらりと翼を下げた後、猪のように男へと突進してきた。男は左手で組んだ印を解く。
ワイバーンが飛べることに気付くまで時間がかかる筈だ。飛ぶ予備動作を確認したらまた魔法を使えばよい。
ばくん、と噛みつこうとした顎を、左に身を捻って躱す。

<ヴァン、交戦(エンゲージ)

通信をしつつ男の身体が宙に浮く。魔法でできた土の塊を空中に固定し、階段のように上っていく。蹴られた土弾はさらさらと崩れた。
男はどうやらワイバーンの長い首を攻撃対象としたようだった。ワイバーンは目の前の獲物を追い――喉元の逆鱗を晒す。