2025/12/12 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原)/女男爵の村」にヴァンさんが現れました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原)/女男爵の村」にナイトさんが現れました。
■ヴァン > この銀髪男、女心の機微に聡い方ではないが、それでも膨れっ面になりそうな少女を見れば『何か間違えた』ことぐらいは悟る。
とはいえ正解がわからない以上、無闇な行動は危険だ。良かれと思ってより深い沼に嵌まるよりは現状維持がいい。
『ヴァン……念のために言うけれど。天幕の中で毛布に包まるのは毎年貴方がやっているような、焚火を背に眠るのより寒いわよ』
担当区域の話が終わった後、女男爵は心配するように再考を促す。予想外の言葉だったのか、男の動きが止まった。
時間をかけて周囲の天幕に視線を巡らせた後、口を開こうとする男を制して女男爵が重ねて告げる。
『保温の魔導具は天幕の中に置いたけど、十分ではないわ。毛布もそんなに予備はないし』
「……ふむ。背中をあわせていた方が暖かく眠れそうだな。え……さっきの使用人がもう戻ってきてる。早すぎるだろう。
ナイト嬢、使用人の力仕事を無下にするのも悪い。すまないが、隣で寝てもらえるか?」
男の視線の先には、一仕事終えたとばかりににこやかな顔で三人に頭を下げる筋骨隆々の使用人がいた。
息抜きで風邪をひくのも馬鹿らしい。北方生まれの少女は寒さに強いだろうから、判断は任せることにしよう。
いざとなれば例年と同じように焚火の前で眠ればいい。
男が従士関連の話題について避けるような表情をすると、してやったりという表情を女男爵は浮かべる。
しかし、それ以上踏み込むような発言はしなかった。
『ヴァンが従士にするだけナイトさんは強い、私にはそれで十分よ』
そうまとめられ、女男爵との挨拶は終わった。
――――。
「からかうで構わないぞ。本当にヤバい時は俺はちゃんと言う。
剣術でも実践の前に先輩や同期の動きを見て学ぶステップがあるだろう。その段階だ。
そうだな。爵位や役職はそれ自体が敬称になるから様付けはいらないが、騎士爵、って言い方も大仰だ。
…………『ヴァリエール伯の命により、従士を務めている』。俺の従士をしている、ってのは見ればわかる状況だ。どうだ?」
女男爵との挨拶を終えて自分たちの天幕の前へと移動する間、少女の独り言を男は聞き逃さなかった。
少女とは身分を意識しない、気安い関係ができている。様付けをしにくい、というのはもっともな意見といえた。
少女がやりやすい方法を男なりに考え、言いやすいであろうフレーズを口にする。
■ナイト > 狼は鼻も利くが、同じくらい優秀な耳を持っている。
人に化けていても十分耳の良い少女は、一歩離れ、背を向けていても、彼と彼女の会話は当然のように聞こえていた。
早々に仕事を片付けた使用人の姿が見えると、隠しきれない喜色が頬を緩ませ、尾が出ていたなら上機嫌にパタパタと揺らしていたことだろう。
男に名を呼ばれてくるりと振り返れば、腰に両手を当てて胸を張り。
「そ、そうっ! まぁ、もう準備もしてしまったのだから、しょうがないわねっ!
それに、獲物を狩る前に自分たちが冬眠するわけにはいかないものっ。
私はともかく、そっちは耐え切れないかもしれないし。
――本当、本っ当ぉに! 仕方ないから、隣で寝てあげる!」
言い訳がましく“仕方なく”と口では言っているが、喜色満面の溌剌とした笑顔だった。
偉そうに言い切ると、ふふんっとまた鼻を鳴らして、仕事の出来る使用人を心の中で褒めつつ。
「……?」
女男爵の言葉を素直に受け取って良いのか、少し引っかかりを覚えながらも、まとめられてしまえば追及することも無く。
彼女は去り、二人天幕へと移動する。
その最中、呟いた自嘲染みた呟きまで拾われては目を瞠り、少しの沈黙を挟んでからツンと口を尖らせた。
「……アドバイスどーも。
そうね。長ったらしい挨拶を覚えるのも苦手だし、とりあえず、その言い方を借りておくわ。
さて、他はどんな感じなのかしらね……」
敬称に様を付けなくて良いことは素直に勉強になったので、首肯だけを返して勧められた自己紹介を一先ずこの場では借りることにする。
そして、詮索を避けるように先に天幕を捲って軽く中の様子を確かめようと見渡した。
形だけと言っても、たった一言、“様”と付けるだけでずっと遠いもののように感じてしまう。それ故の抵抗感が少女の中にあった。
それも慣れてしまえば違和感も消え、言葉に詰まることも無くなるだろうが、慣れるまではまだ暫く時間が掛かりそうだ。
■ヴァン > 少女の言葉に対して男は苦笑い、女男爵は微笑を浮かべる。
「王都暮らしが長いから、冬の寒さには慣れたつもりだが……日の出まで眠れるに越したことはないな」
仕方なく、という言葉には大人しく甘えておくことにした。
この季節は雲も風も少なく、朝方は地の底からよく冷え込む。背中を焚火で焙っていても、自然と夜明け前に意識は覚醒する。
簡易寝台を使って隣に人がいるならば、室内ほどではないにせよ寒さで目が覚めることはあるまい。
「……昔、色々とあってな。俺についてこれる奴じゃなきゃ従士にしない、と言ったことがある。
そんな能力がある奴はそういないし、俺の来歴を知ったうえでなろう、ってのも少ない」
女男爵は文字通り、少女が戦力になることを期待していた。それ以上の意図は男には掴めなかった。
「君に話題がふられることもそうそうないだろうから、静かに騎士や従士を観察しておくとよい。
もし何か迷うことがあったら、通信具で相談してくれ」
天幕の中は簡素なものだ。
木材と板、毛布等を組み合わせたベッドが真ん中に置かれている。枕が二つくっついているのは使用人の配慮だろうか。
天幕の真ん中を通る桁にランタンの形をした魔導灯が吊るされていて、柔らかな光を放っている。
仄かに暖かいのは、入り口近くに保温具が置かれているからか。
左右には木製の簡素な台が置かれている。服や荷物を地面に置かないで済むようにしているのだろう。
様付けを好まない理由は、男にはよくわからない。
男が立派な振る舞いをし、少女に接するならば自然とつくのかもしれないが――そんな未来は想像できなかった。
老人、夫婦、中年騎士と、入れ替わり立ち代わり挨拶にくる。
狩猟会の最初期のメンバーだからかはわからないが、この一団の中で男は上から二番目、女男爵の次くらいの立場らしい。
何名かと挨拶をしているうちに、騎士達がいつ頃から参加しはじめたかがわかってくる。
初参加の者達は露骨に堅苦しい挨拶をする。女男爵の知己とはいえ男の悪名も耳にしているから、接し方がわからないのだろう。
古参のメンバーになればなるほど、フランクな挨拶が交わされ、男もそれに応えていた。
噂に聞く悪名と男の狩場での振る舞い、双方を天秤にかけてどちらを信じるかを決めているようだ。
挨拶が途切れると、男は少女に視線をやった。何かわからないこと、聞きたいことはないか、といったような視線。
■ナイト > 男の苦笑いももう見慣れたもので、噛みつくこともなく、同意と取れる言葉まで聞こえれば満足げに頷いていた。
もしも夜中に寒さで震えるようなことがあれば、少しくらいなら自慢の毛並みに触れることもやぶさかではない、などと考えては照れくさくなって大きく頭を振って思考を散らし。
彼女と彼の関係は説明された以上のことは無いのだろう。
此方を見る視線は柔らかく、彼の語る言葉を否定しなかった。
言葉の応酬の末に半ば無理矢理従士の席に収まった少女としては、それほど特別なものとは思いもしなかっただけに、少し意外そうな顔をする。
「……私は戦場からの叩き上げだもの。多少の無理にもついて行けない腕前なら、騎士には成れてないわ。
アンt――……その、来歴とか噂程度でビビってたら、初対面で喧嘩なんて売らないし。
ま、ここは素直に褒められたと思っておくわよ」
彼女が女男爵としての地位につくまでの道のりもそう容易いものでは無かっただろうが、少女にも身一つで王国に渡り自身の力で騎士の称号を得たと言う自負がある。
女男爵の腕を見縊るつもりは無いが、戦力と言う意味合いでは誇るべきところは隠さず堂々と言い切り、調子づいてついうっかりと口を滑らせそうになると慌てて口に手を当てた。
これで隠せたつもりでいるが、口にしている内容は不敬そのものの生意気である自覚は無いのか、ケロリとした顔だった。
「――ええ、了解よ」
指示に首肯を返し、服の下にあるらしいチョーカーに軽く指を添えた。
天幕の中を見渡せば、当然のように真ん中のベッドへと視線が向く。
何を想像したのか、そわそわとして若干赤くなる頬を手で仰ぎ沈め、落ち着きを取り戻そうとするが中々そうもいかず。
尋ねて来る最初の一人、二人は一応話は聞いているが、心此処にあらずな状態での挨拶となった。
特に話を振られることも無く、形式的に先ほど教えられた言葉を口にするだけだったし、堅苦しい挨拶だったから頭に入ってこなかったと言うのも理由ではあるが……。
尋ねて来る相手の雰囲気が軽いものに変わった頃に、ようやく集中できるようになり、気心知れた互いの様子に少し目を細める。
そうこうして、一度来客が途切れると此方を見る碧眼と目が合った。
少女は肩を竦めて返し。
「……そうね、案外嫌われて無くて安心したわ。何を言われるかと思って、少し身構えてたけど、喧嘩腰なのが居なくて良かった」
■ヴァン > 「……単独での戦闘力なら、ナイト嬢はこの中で二番目に強い。俺の言う強さ、ってのはそれくらいのものだ。
――あの時は驚いたな。何か因縁でもあるのかと思ったよ」
男は脈絡なくそう切り出した。この場に集まった者は多くが騎士として――貴族として生まれたものだ。
戦だけに傾注しているわけにはいかない。女男爵の腕前について男は語らなかったが、少女に及ばないということだけは確かだ。
初対面の時のことを思い出し、男は軽く笑った。家族や知人に危害を加えられたとか、そういう相手かと身構えたものだ。
天幕の中を覗く少女、その背後から男も幕内へと視線を向ける。
周囲の安全は確保されているが、戦場では天幕ごと槍で貫かれたり、剣で切り裂かれることもある。
この季節は天幕ごしに冷気も忍び寄ることから、寝床を天幕の中心に配置するのは理にかなっているといえよう。
着替えや武器をすぐ手が届く場所に置いておけるのも便利だ。使用人の仕事に感心したように頷いていた。
男が冗談めかして言った通り、女男爵は顔が広いらしい。
騎士や従士の自己紹介、住む地域の話や仕事の話。今年は何を獲物とするか。他愛もない話の繰り返しだ。
面白いのは、気心が知れた騎士達は少女が男の友人ではなく従士だと知ると、露骨に見る目が変わったことだろうか。
先程男が自分で言っていた、『強くない者は従士にしない』という言葉は、相当なもののようだ。
「そこらへんは女男爵も把握してるさ。俺と同じ空気を吸っても大丈夫そうな人だけを選んで呼んでいるのだろう。
それに、こんな所で喧嘩してみろ。女男爵の面子を潰すことになる。小規模な貴族の集まりは、そういう人間関係の配慮が必要だ。
一方で、貴族に広く来場を呼びかけるような王宮でのイベントは大変だ。小さなことで火種はあっという間に炎上する」
少女の感想はもっともだと頷きつつも、そうならない理由を説明する。元々、少女の教育の場として連れてきたこともある。
万が一にもそういったリスクがあるなら、参加はしなかっただろう。
騎士は女男爵との関係があるし、従士たちは主たる騎士との繋がりがある。あまり勝手なことはできない。
それはもちろん、男自身にもあてはまることだ。今の所少女が火種にはならないと思っているが――。
「……あれ? いつの間にか人が少なくなってるな。
明日は早いから、もうみんな寝てるのか……ナイト嬢、わかるか?」
気付けば騎士や従士達の数は半分ほどになっている。焚火を囲んで女男爵や騎士達が酒盛りをしている姿が目立つぐらいだ。
男も一人でここに来ていたなら、昨年と同じようにジョッキを片手にその輪の中にいただろう。
夫婦や中年騎士など、はじめの頃に挨拶に来た者達はもう天幕の中のようだ。
男の耳では天幕の中の寝息やいびきなどは聞こえないが、聴覚の鋭い少女なら可能なのでは、と水を向ける。
眠るか、焚火の近くに向かうか。天幕に引っ込んだ者達がもう寝ているかどうかで決めるようだ。
もちろん、少女が旅の疲れを訴えたならばそれに従うだろうが。
■ナイト > こういう時に世辞を言う男ではないと知っているだけに、はっきりと口にされると少女もまんざらでもない様子だった。
とは言え、単独で見た時の評価だ。他の騎士や従士も協力し合えば少女を上回る可能性は大いにある。そこだけは肝に命じるくらいの謙虚さをもちつつ。
「そ、それは、自分の評判の悪さを恨みなさいよ」
ふと思い出したように言う男を横目で見ると、ばつが悪そうに眼を逸らして、ふんっと腕組みをする。
味方殺し、女癖が悪い等々の噂話に踊らされ、そんな悪党から学ぶことは無いと、悪人には何をしても許されると言う短絡で独善的な思考の下で吹っ掛けた喧嘩だ。
女癖の悪さだけは本当のことらしいが、どう考えてもやりすぎだったと今は思う。屋敷も酷く荒らしてしまったし。
思えばこれも、彼が来る前も同様に何人か外から来た上官をコテンパンに伸して追い返した結果、主が仕方なく打った手だったのだろう……。悔しいが、未だ一本もこの男から取れていない以上、主の采配は正しかったと言える。
少女の逸らした視線は何処か少し遠い所を見ていた。
尋ねてくる面々の中、男の噂を知り警戒していた年若い騎士は、男と少女の組み合わせを見てその衝撃に固まってしまっていた。
悪い噂が絶えない男のことはマークしていたが、まさか従士を連れて来るとは予想外。その上、その従士がヴァリエールの狂犬なのだから、心底言葉を選んでいたに違いない。誰も好き好んで厄介な相手に喧嘩を売りたくないのだ、普通は。
幸いなことに、少女の方は心此処にあらず。そうでなくても、相手の顔を見ても訓練で蹴散らした有象無象のことなど記憶にないので、尾でも踏まれない限り噛みつくことはないのだが……。
少女の事を知らない者は純粋に男が従士を連れていることに驚き、少女はその驚愕を心地よく感じながら、先ほど男が告げた褒め言葉を思い出しては上機嫌に笑顔を振りまいていた。
「ふーん、なるほどね。今回の狩猟会を最初の場に選んだ理由がよくわかったわ。
出来ればさっきの人達みたいにみんなフランクだとありがたいんだけど……、普通の夜会じゃそうもいかないわよね。
あー……考えただけでも堅っ苦しい!
――ん? そう言えば、そうね……。ちょっと待って」
これくらいなら我慢できるのに!と吠える少女だが、言われるとパチリと目を瞬かせ、直ぐに耳を澄ませる。
火の粉の弾ける音。ジョッキを鳴らす賑わい。そして――他所の静かな天幕。
器用に音を聞き分けて、遠く離れたその場から様子を伺い。
「……寝てる人もいるけど、まだ起きてる人もいるわね。
天幕に入て出てこないなら、もう休むつもりなんじゃないかしら?
付き合いも大切だとは思うけど、ほどほどにね。明日のことを考えればあまり深酒は勧めないわよ?」
ちらりと賑わう女男爵たちの様子に目をやり、どうするのかと問うように男を見た。