2025/12/08 のログ
ヴァン > 「この気候なら肉もすぐには傷まないから、燻製にするのが一番か。
――ただ追い払うだけだと、他の村が標的になるからな。魔物の気持ちは人間にはわからん」

仮に言語が通じたとしても、落とし所は見つからないだろう。

「その通りだ。騎士としても、従士に怪我をさせたとあっては預かっている面目がたたない。安全を最優先して考える……んだが。
どちらかというと、戦場でハイになる若者を窘めるのが難しくてな。上官の命令を無視して先走る奴、戦場でいなかったか?
長いつきあいの年長者より、余所者の警句が響く場面ってのは意外とあるんだ」

二人の話を聞いている男騎士はうんうんと頷く。その後どうやら別行動になるらしいと気付いたのか、神妙な顔になった。
騎士達が複数名で狩りをするならば警句を発する役割は男でなくてよい。男騎士は杯を片手に、知り合いに話をするようだった。


少女が何事か言ったかと、男は顔を向ける。
二人用のベッドにするのは、男女の仲だと公言するようなもの。一人用二つにしておくことで、男としては明言を避けたつもりだった。

「……辺境伯だと俺の親父になってしまう。ヴァンの従士でいい。それで? 西側ってのは……?」

諸々違和感を覚える点はあるものの、一点だけ明確に異なる所だけをフォローする。
男と少女のやりとりで、何の教育を頼まれたかは女男爵も察したようだった。
男から促され、女男爵は二人に任せたいといった地域の説明を始めた。

村の西側街道近くは平原が続き、北に向かうにつれ丘や崖が増え、見通しが悪い地形になる。
とはいえ街道からは数kmと距離があることから、野党や魔物が街道沿いを狙うには不向きな場所だ。
野生生物が繁殖するには恵まれた場所だが、それらを餌とする大型の魔物にとっても住み心地の良い所になる。
旅人や冒険者の噂が耳に入り、調べたいものの村の狩人の手には余る。そこで二人に任せたい――ということだった。
説明を終えて、女男爵は軽く溜息をついた後ワインで喉を潤した。

『それにしても、ヴァルキリーが従士をね。どういう風の吹き回しかしら?』
「しがらみってやつさ。君の場合は爵位の問題があった。
それと――女男爵といえど、言葉は慎んでいただきたい。もう剥奪された名だ」

どうやら目の前の女性は、この男に対し従士になりたいと申し出て、断られたようだ。
慈愛に満ちた表情に微かな、ティースプーン一杯程度の嫉妬が少女に向けられている。
耳慣れない単語を女男爵が口にしたのは、その発露だろう。男は露骨に呼ばれた名に眉を顰めた。
ふと、男は冒頭のやりとりを思い出す。

「俺達の天幕は――そこか。なら、その手前にあるテーブルにしよう。
これから皆が挨拶に来る。女男爵と違って俺は人気者じゃないからな。みな、長話はしないはずだ。
他の従士達の振る舞いを学んで、君に会う自己紹介を作り上げるといい」

テーブルが並ぶ野営地のような宴会場を囲むように天幕が輪を作っている。
その中でもひときわ大きいのが女男爵のものだろう。他の騎士達は馬車で来ているのか、各々が自身の天幕を用意している。
戦場で使うような数人が入れるものから、冒険者が使うテントに毛が生えたようなものまで。
男が指さしたのは女男爵の隣、二人用の天幕。おそらく入ると左右に屋外用のベッドがあるのだろう。

男が少女に教えようとする姿は珍しいのか、面白そうなものを見る目で女男爵は眺めている。

ナイト > 「あー……。確かに居るわね。初陣とか、丁度慣れてきたころとか特に。
 ふーん、そう言うもんか。ま、わかったわ」

話を聞けば思い当たることは大いにあって、なるほど確かにと頷かざるを得ない。
なにやら頻りに頷いている男騎士を横目で見ながら、軽く肩を竦めて、この話は此処までと区切った。

ベッド云々についても掘り返すことは無く、口をへの字に曲げていじけるだけだった。
妙な噂を避けるため、そう言うことは内密に。そう約束はしたが、勘違いから起きたことならば言い訳は幾らでも出来る。
薄い天幕の壁しかないテントでそう言うことをしたいわけでは無いが、引っ付いて眠るくらい期待をしてしまっていた乙女は、不満気に男を睨んだ後、プイッとそっぽを向いてしまった。

が、治すべき事、注意すべきことには耳を傾け、腕組みをしながら片目を開ける。

「え。ああ、そっか……。わかった」

貴族の爵位のあれこれ、肩書の多さや呼び方にまた頭を悩ませつつ、続く話を聞く。
彼女の言う西側の状態は、大物を狙いに行くにはぴったりらしい。
これは運が向いてきたと喜び笑みも戻って来たところで、また二人の会話に聞いたことの無い言葉が出てきて首を捻る。
良く知った仲らしい雰囲気は良しとして、少し棘と表現するようなものが混じっているように思えて、口は挟まないが視線は彼へと注がれる。
二人の少女に見つめられる色男の図は、羨ましいか、恐ろしいか。それは見る者次第だろう。

「もうっ、そう言うこと自分で言うの止めなさいよ。揶揄って良いのか慰めるべきかわかんなくなるでしょ。
 はーい。後ろで見学させてもらいますぅ。

 ……やっぱり、様つけなくちゃダメかしら」

示された天幕は並ぶ物の中では小さめだが、二人用なら十分なサイズで文句はない。
とりあえず一番の問題だった女男爵への挨拶が済んだことで肩の荷が下りたのか、いつもの調子を取り戻しつつ。
ポツリと呟いた独り言は自問自答。
ヴァンの従者と言えば良いと言われたが、それは当然呼び捨てではなく敬称を付けた上でのものだ。
呼び方一つで少し意地になってしまっている自分に気付くと、小さく息を吐いて後ろ頭を掻いた。

ご案内:「メグメール(喜びヶ原)/女男爵の村」からヴァンさんが去りました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原)/女男爵の村」からナイトさんが去りました。