2025/12/07 のログ
ご案内:「メグメール(喜びヶ原)/女男爵の村」にヴァンさんが現れました。
ご案内:「メグメール(喜びヶ原)/女男爵の村」にナイトさんが現れました。
■ヴァン > 一週間前のこと。
『来週、三日間同行してもらう。もちろん伯爵は了解済みだ。ある貴族が催す狩猟会に参加する。
この時期を野戦で過ごせるような格好で来てくれ』
そう切り出して、銀髪の男は通信装置ごしに話し始めた。
向かうのは王都から馬車で半日、喜びヶ原にある“女男爵”が治める村。
本格的な冬を迎える前に、村周辺から危険を取り除くことが狩猟会の目的だ。
熊や猪のような野生生物、ゴブリンや山賊のような王国民の敵が“狩り”の対象となる。
女男爵とその村は安全を手に入れる。参加者は他の貴族と繋がりを作ったり、腕試しだったり、単なる息抜きだったり……。
女男爵が爵位を継いだ5年前から毎年続いているのだという。
『夜は親睦を深める食事会があるが、王都の夜会と違って参加者はせいぜい子爵だし、なにより屋外だ。練習にはおあつらえ向きだ』
男のメインはこの食事会らしい。礼儀作法に疑問の残る少女を、まずは気楽な場から慣れさせようという魂胆のようだ。
そうして、当日。
旅商人の馬車に乗せてもらい、揺られること半日と少し。目的地の村が見えてきた。
畑の間に伸びる道を進むうち、馬車に乗っているヴァンに気付いたのか手を振る村人がぽつぽつとみられる。
「会場は北の平原だったな……商人さん、ここらへんで下りるよ。
ナイト嬢、準備はいいかい? 何か聞きたいことがあるなら歩きがてら話そう」
■ナイト > 狩猟会とは良く言ったものね。
それが、この誘いを受けた時の少女の第一声だった。
野生の獣や魔物から、同族の山賊までひっくるめて狩猟と言うのだから、血気盛んこの上ない会となるだろう。
そう考えると、いつものようなメイド服で参加するのは悪目立ちになりそうで、仕方なく、服の相談を主である伯爵へ申し出てみれば、当日はきっと天気が荒れるだろうから雨具を持参しろと軽く鼻で嗤われた。
そんな経緯で、貴族御用達の仕立て屋から小遣いを叩いて買ったフォーマルな騎士服に身を包み、馬車に揺られて目的の地へと運ばれる。
彼を今後人前でなんと呼ぶべきかと考えていれば、短い馬車の旅などあっと言う間に終わりを迎えて。
流れる田舎道の景色に、ぽつぽつと人が見えるようになってくる。
「……手、振ってるわよ。返さないの?」
窓の外へ向けて愛想良く小さく手を振り返しつつ、催促する様に声を掛けてその顔を覗き込む。
「――はいはい、こっちはいつでもOKよ」
軽く肩を竦め、視線をまた窓の外へとやり、馬車が止まるまでに聞くべきことを頭の中でまとめ。
そうして、揺れが止まり地に足を下ろせば大きく両手を上げて、ぐぐぐっと伸びをする。
「ん~~っ! ……はぁっ、疲れたぁ」
■ヴァン > 初めてみる少女の姿に物珍しそうな視線を向けたものの、服装について言及することはなかった。
茶化すのは論外として、似合っていると褒めるのも違和感を覚える。いい服だ、と述べるに留めた。
通信装置とそれを隠す装身具を持っているか確認した後に王都を出発する。
「身近に感じてくれるのは良いのか悪いのか……」
御者である旅商人に視線を向けるが、不思議そうな視線を返される。挨拶が己に向けられたものだとようやく男は気付いたようだ。
苦笑しながらも、促されるままに手を振ってみせる。手を振り返された農民たちは皆にこにことしている。
平民が貴族に挨拶をする際には帽子をとって頭を軽く下げるのが普通だ。
その区分がわかり辛い王都ならともかく、農村ではあまり見ない光景といえるだろう。
――そもそも、普通の貴族は旅商人の馬車に相乗りなどしないが。
馬車から下りる。馬車の向かう先には農村があり、高台にやや堅牢な石造りの建物がある。あれが領主の館だろう。
男は小麦畑と休耕地の間に伸びる細い道を歩く。
「今日は食事会の後は眠るだけだ。テントと毛布は先方で用意してもらってるから、屋内ほど快適じゃないが寝られる筈だ。
明日は日の出と共に狩りを始める。他の者達の支援をするか、俺達単独でいるかわからない大物を狙うか……。
最終日は帰るだけだ。行きよりは楽だから、一日休みがあると思えばいい」
視線の先に平原があり、テントや焚火といった野営地でおなじみのものが見える。
歩いて数分といったところだろうか。質問を二つ三つしてしまえば、二人の足ならすぐ到着できるだろう。
■ナイト > 民に好かれる君主は良いものだ。貴族や騎士へ対する風当たりが悪くないのは、きっとこの土地を収めている領主がそれだけ民に愛され信頼されている証とも言える。
礼儀作法なんて知らないだろう田舎の平民にいちいち目くじらを立てて、やれ礼儀がなっていないだの、馴れ馴れしいだのと文句を言うより、愛想良く手を振ってやる方が何倍も好感度が上がるに決まっている。
促してようやく自分に向けられたものだと気付いたらしい彼が手を振り返すのを見て、満足げにふふんっと鼻を鳴らした。
馬鹿馬鹿しいと相手にしない貴族が多いなか、苦笑交じりながらも応じてくれるところが彼の良い点だ。
乗合馬車に乗って来る平民に近い視点を持った騎士貴族。親しみが持てるからこそ、彼らもこうして手を振り歓迎してくれているのだろう。
馬車を降りて伸びを一つすれば、ひんやりと冷たい冬の空気を肺いっぱいに吸い込み深呼吸。
続けてくるりと辺りを見渡し、地形や周辺の建物をざっと頭に入れてから、彼の後ろを一歩遅れて歩き出す。
「そう、じゃあ夕食後は明日の作戦会議ね。どうせなら、とびっきり大きいのを狩りにいきましょうっ!
本格的な狩りなんて久しぶりだから、今から楽しみだわ」
秋に刈り取られたらしい小麦畑の様子に目をやりながら、いつに無く上機嫌に声を弾ませ、心なしか足取りも軽く。
ルンルン気分で野営地へ向けてスキップまでしてしまいそうである。
野営地に既に他の騎士が来ていたなら、やはり『場違いなお嬢さんが来たな』などと笑われるかもしれない。
「ねぇ、この狩猟会って毎年してるものなの? 前にも参加したことあるの?」
参加経験があるなら、彼が村人に手を振られていたことも納得がいく。
初めてなら、それはそれで他の者をわっと驚かせるような獲物を捕まえられるように、意気込むつもりで尋ねる。
■ヴァン > 少女の中で好感度が上がっているとは露知らず――この選択をした理由を思い返していた。
諸事情により馬や馬車を借りるという選択肢を選べない。乗合馬車は他の同乗者に多大な気を使わせることになる。
伯爵や馬車組合から御者ごと借りる手もあったが――屋敷内でどんな噂が立つかわからないし、長時間二人きりなのは少女が好まないだろう。
結果として、無難な手段に決めた。旅商人やその家族と雑談したり、仮眠をとったりと自由にできる。何より安い。
「とびきり大きいか……村の西、街道から北側の空に大きな姿を見た、という噂があるとさっき商人が言っていたな。
ドラゴンはさすがにないとして……ワイバーンかグリフィンか」
噂に根拠を求めるのも難しいことだが、村の西側は街道を外れると小高い丘や崖などがある。魔物が巣を作るには良い環境だ。
村に悪影響が出るかも含めて検討するべきか。後で少女には周辺地図(ヴァン謹製)を見せるとしよう。
「5年前からだ。最初は俺含めて騎士5人程度の小さな集まりだったが、少しづつ増えている。
……あぁ、俺は毎年参加している。人を伴っては今年が初めてだがな。
いつもは他の騎士が伴う従士を支援することが多い。こんなことで怪我をしたら大変だし、翌年の開催にも響く」
毎年決まった時期に顔を出すならば、一部の村人から覚えられていても不思議ではない。
村人にとってみれば、宴会用の食事をちょこっと供出するだけで危険を排除してくれる領主様のご友人なのだ。挨拶くらいするだろう。
「今年は……初めて見るのが二人か三人か」
普段は何もないだろう平原では、既に宴席が始まっていた。まだ夕方だが、すぐに陽は落ち暗くなってしまう。
いくつか木製テーブルが並べられ、所々に熱源と照明、場合によっては調理器具を兼ねた焚火がある。
夏では時々見かける風景ではあるが、晩秋に行われるのはやや季節違いだろう。
騎士――と一くくりにするには、参加者にあまり統一性はなかった。
抜け目なさそうな白髪の老人。朴訥そうな中年の男性。夫婦と思しき壮年の男女。
血気盛んそうな若い男に、華美な装飾を施した若い女。それぞれが従士を伴っていたり、いなかったり。
騎士として参加しているのは十名ほど、騎士一人につき従士が一、二名といったところだろうか。
「まずは女男爵に挨拶にいこう。長話はしない、顔見せだ。
それが終わったら俺に挨拶しに来る人達がいるから、彼等の従士を観察する。それが勉強になるだろう」
男が視線を向ける先には、セミロングの金髪で背丈は少女と同じくらい、シンプルな騎士服に身を包んだ女性がいる。
歳は少女と男の間くらいだろうか。彼女が女男爵なのだろう。
■ナイト > 彼は、色々と悪い噂も良い噂も絶えない騎士だが、仮にも主の数少ない友である。
そのような妙な噂など……――。立てない、とは言い切れないのが使用人達だ。真面目な者もいれば、あの嫌味たらしいメイド達のような者もいる。
そこまで気を使った彼の判断は正しいと言える。
何の下心もなく馬車の旅を楽しめたと言う点で、少女からも確実に評価は上がっているだろう。
「ワイバーンかぁ。アレ、焼くとけっこう美味しいのよね。ガッツリ食べたい時に丁度良いって言うか。
でも、今の季節だと脂のノリがいまいちかも……。
――って、食べる為じゃなかったわね。
どっちが獲物でも、餌が減って腹を空かせる前に、狩って数は減らしておいた方が良いわね」
魔物の名を聞いても、猪や鹿が出た程度の反応なのは魔族の国で育った者なら仕方ないこととして。
この狩りの意味合いからズレかけると、ギリギリでブレーキを踏んで、回れ右をして騎士として民草を守ると言う大義に舞い戻る。
作戦会議の際には、手製の地図は大変重宝するだろう。
「ふーん、思ったより最近のことなのね。
順調に交流会としての意味も強くなってるって事かしら……。
支援する方が良いなら、無理に大物を狙わなくても良いわよ? 来年、人が来なくなったら困るでしょ。
ここの領主とは親しいみたいだし、役割が決まってるなら例年通りにする方が良いんじゃないの?」
今年増えたらしい数人が誰かなのかはわからないが、一通り彼の視線を追って順番に目を向ける。
年齢層は基本的に高めで、若いのは自分を含めて一人、二人……。
なるほど、怪我の心配が出るのも頷ける面々だと頷きながら、気を使いチラリと横目で彼を見た。
「了解よ。まぁ、今日は大人しくしてるから、安心なさい。
私はお酒が入ったからって、急に殴りかかったりするほど短気じゃないもの。ちょっと挑発するくらいよ」
どこまで本気かわからない冗談を口にできる程度には余裕があるようで、肩を竦めてニヤリと犬歯を見せて笑い掛け。
促す言葉に従い、彼の後に続いて領主――女男爵のもとへと足を運んだ。
女男爵とは聞いていたが、思ったよりも若い。身なりは立派な女騎士だが、男とはどういう間柄なのか……。疑問が浮かぶ。
■ヴァン > 「ワイバーンは調理できるかわからんが、猪とか鹿とか、食えるものは明日の夕食に並ぶぞ。
人の生活圏を脅かさない限りは干渉したくないが――魔物から逃げて別の魔物が人里に現れたりするからな。難しいところだ」
狩って終わりではない。巣に溜め込まれたものは回収され、村の財政を潤すことになる。もちろん一部は狩った者が得られる。
肉や革など、魔物自体に価値がある場合もある。狩猟会は村の狩人では限界がある部分を担ってもいる。
「女男爵が継ぐ前は色々とごたごたしてて、周囲に手が回らなかったようだ。
それなんだが……去年きた夫婦の、奥さんの方が回復魔法の使い手でな。彼女と同行する一団は大丈夫だろう。
まぁ……そのあたりは自由にやるさ。あ、心配しているのは騎士ではなく従士の方だ。彼等は経験が浅いからな」
統一性があまりない騎士達に比べ、従士達は皆若い。この場に慣れている者もいれば、緊張が伝わってくる者もいる。
男騎士と少女従士、女騎士と男従士というように、異性の組み合わせが多くみえるのは、気のせいだろうか。
「一つ言っておく。じろじろ見られるかもしれないが、視線に気付いたらにこやかに礼をすること。
見る奴が下、見られたナイト嬢が上。格上の余裕を見せてやれ。……わざわざ同じ土俵に下りるなよ」
男の言葉は経験則から来るものらしく、普段曖昧な、相手の立場を否定しないような口ぶりが多い中で、珍しく断定口調だった。
男は挑発も留めておくように釘をさせたつもりだが、はてさて。
女男爵はヴァンの姿を認めると、嬉しそうに笑った。
少女騎士が付き従っていることと気付くと目を見開いて使用人を呼びよせ、何事かを指示しているようだった。
「ご無沙汰しております、女男爵。今年も良い狩りとなりますよう――」
『またからかって……同行者がいると聞いていたので一人用の簡易寝台を二つ用意していたのだけれど。
気付かなくてごめんなさい、すぐ二人用のものを手配します』
「……からかうのはお互い様のようだ。今のままでいいと使用人に伝えてくれ。
彼女はナイト・ブラックフォード。知己から教育を頼まれた、腕の立つ騎士だ」
男は左脚を伸ばし、頭を下げ、顎と右手を胸に。女男爵からの声ですぐ止めたが、丁寧な――頭に馬鹿がつく――お辞儀らしい。
『この村を治めている女男爵です、はじめまして。ヴァンには爵位を継ぐ時、手助けをしてもらったの。
大したおもてなしもできないけど、楽しんでね。――お二人には、村の西側を確認していただきたいと思っています』
男はおや、という表情をして少女を見る。どうやら他の騎士達とは別行動になるらしい。
もとより騎士達はめいめい好き勝手村の周辺を探索するのだが、今年は少々勝手が違うということか。
■ナイト > 「捌いて焼くだけなら私でも出来るけど、料理とまでは呼べないわねアレは……。
どうせ食べるなら美味しく調理してもらったものを食べる方が絶対良いわ。
動物も、魔物も、人間も、魔族も、上手くバランス取るしかないわよ。土地も食べ物も無限じゃないんだから」
増えすぎず、減りすぎず、バランスを取らなければ争い奪い合う戦争が始まってしまう。
難しいけれど必要なことだと、カラカラと明るく笑って言った。
それはそれとして、臨時収入は有り難い。すっかり痩せてしまった財布が腹を空かせて鳴いているのだ。遠慮なく稼がせていただこう。
「なるほどねぇ……。――ん? ああ、じゃあそこまでもう心配ないんだ。
だったら気兼ねなく大物狩りに行けるわねっ!良かったぁ。
従士のことは騎士に任せとけばいいわよ、そこまで含めて連れ歩いてるはずでしょ?
治療師がいるなら大丈夫よ。……多分」
緊張した面持ちの年若い面々の顔を見ても、少女はあっさりと、胸を張ってはっきりと言い切った。
それもまた小声ではなく能天気な大声で言うものだから、近くにいた者にも聞こえていたのだろう。
少女従士が恐る恐る男騎士に期待の視線を送り、騎士は此方をジロリと見るが、少女はその視線に気付いているくせに、ケロリとした態度だった。
少女にとっては当然のことを口にしただけで、悪びれる理由も無ければ、咎められるいわれもないのだ。
彼の忠告にもハイハイと頷いて、いわれた通り、にこやか――ニッと八重歯を見せる勝気な笑みを男騎士に向け、ふんっ、と勝ち誇ったように笑った。にこやかとはいったい……。
そうして、女男爵の前へ向かい、彼と彼女のやり取りを後ろから眺めていたが。
「やった。――ぇ、ちょっ……」
二人用にと気を遣ってくれる言葉に喜ぶも、間髪入れず断られてしまい。
(いや、なんでよっ! そこはお言葉に甘えなさいよ……っ!)
と心の中で何度も吠えているが、表には出さないようにぐっと堪えて、堪えて。
少女の視線は男の背中を刺すが如き鋭いものだった。
一つ咳払いをしてから、改めて彼女へ視線を向ける。同年代だが相手は男爵。礼儀、言葉遣いには気を付けて。
「ええ、初めまして。ご紹介にあずかりましたナイト・ブラックフォード……です。
普段はヴァリエール伯爵様の騎士をしています。
此度は、あー……えー。……シルバーブレイド辺境伯……様の従士として参りました。
はい。楽しませていただくわ……頂きます。ご丁寧にありがとうございます」
胸に手を当て、軽く頭を下げ、たどたどしい挨拶を終えると大きく息を吐く。
だが、彼女から言われた一言に、はて?と首を傾げて彼の顔を見やるが、どうやら彼方も今聞いたと言う顔をしていた。
一先ず二人の話に耳を傾けよう。