2025/11/10 のログ
■影時 > 「今日ばかりは、何でもかんでも最低限でも良かろうよ。
……風呂も良いなァ。湯張るのはま、明日だな。湯を浴びる位なら事足りようが、な」
月を見ながら寒空で酒を呷るのも良いが、物事には限度、限界がある。無理なものは無理だ。
夜遅くなっても皿洗いなどし出す小柄を見かけたら、それとなく止めておこう。
寝床を暫く貸していた、譲っていたのも長く引き摺られるのは困る。今から大事なのは未来だ。この先だ。
目的を達したら満足という人間は多いが、此れから始めるべきことはきっと多い。
撫でてみれば、くすぐったげに唸って見上げ、視線を逸らす姿が見える。
――姉弟子の手前、という処だろう。無理には続けず、そっと手を放して呑みかけのブランデーで喉を湿らす。
美味いがやはり強い酒だ。だが、香りも良い。酒蔵、酒棚もきっちりある。
呑まずにおいた樽も何もかも一緒くたに鞄に放り込まず、しっかと安置できるのは――きっと良い事だ。
「ぉぉ、察したか。……多分これだな?卿からの祝い酒だ。空けてみるか。篝も呑むだろう?これ。
同じ釜の飯、だ。ラファル。
昼は出かけてりゃ各々好きに買うにしても、朝と今みてえな夜はな。皆で同じものを食う。」
ワインと云えば、そうだ。卿からの贈り物を忘れていた。
夕刻頃、結果的に近くになった卿直々に馬車でお出ましになり、手渡されたものだ。良いものだぞ、と言っていたか。
ようじょの鼻の感覚は当てになる。ないにしてもあからさまな混ざりもの、毒の有無すら容易く看破できるだろう。
コルク抜きでぎこぎこと栓を抜き、奇麗なグラスを3つ用意して、それぞれに注ぐ。
注ぎつつ聞くのは助け舟を求める弟子の声。格言だか諺だかな言の葉を、さらりと口にしつつ頷く。
住まうは忍者二人暗殺者一人。歴戦の忍者、幼女な竜、火守の猫。
打って出る方がむしろ強いかもしれないが、結果として巡ってきたこの建物自体も守りが固い。
願わくば、その威力を発揮することが永劫ないよう、祈っておきたい。
「……よしよし、忝い忝い。
取り敢えず、居間の暖炉の上に飾っとくことにしよう。
こいつを絶やすことがないよう、続く先を守っていきたいものだ。
さて、篝が取り分けてくれたことだし、食うか。喰い切れなかったら明日の飯だな――」
家主として儚くもそんな祈りも、願いも込めつつ火種が灯り、風を受けて燃えたつ。
赤々と燃える小さな火を硝子の風除けを据え直してたランプが、ゆらゆらと闇を祓って燃え立つ。
営みが続く限り、此れを守り、絶やぬようにしたい。その光を見守るように小さな毛玉達が動きを止め、尾を揺らす。
ランプを大事そうに卓の真ん中に置き、ワイングラスを持ち上げよう。またしても乾杯よろしく掲げて。
■篝 > 「ん。シャワー……浴びて、キレイにしないと。新しい寝床に失礼、ですからね」
深酒をしている時は風呂に入るのは危険だと深く首肯し、でも身を清めることも大事だと続けた。
師の心配も知らずに、逆に師の身体を心配する弟子であった。
きっと、夜更けにこそこそ掃除をする様を止められれば、不満げに尾を揺らしながら渋々諦めるのだろう。
師の手が頭から離れると少しだけ名残惜しい気持ちが胸にあったが、ここはぐっと堪え。
幼女がよく効く鼻でブランデーの次はワインを勧め、放っておけば酒の飲み比べを始めそうな二人の雰囲気だった。
ほどほどの所で止めるべきだとは思いつつ、祝いの酒は良い酒だから、少し……一杯だけなら多少強い酒でも問題ないだろう。
などと緩んだ心が言い訳を並べ立てた。
グラスの麦酒を飲み終えたら次はどれにしようかと迷っていると声が掛かる。
「ワイン……。頂きます」
誰がもって来たワインか、夕刻の来客者思い出せばすぐにピンときた。
元暗殺のターゲットであった卿がここに来たと察した瞬間、あっと言う間に姿をくらませていた白猫である。
複雑な心境が未だ残るがワインに罪は無い。貴族の祝いの酒でも、味は変わらないと自分に言い聞かせながらグラスを差し出しワインを注いでもらいつつ、ラファルの話に頷き相槌を打つ。
「半径10キロ……キロ? 単位が……、ん……うん。万全っ」
単位がおかしいな? と首を傾げるが、まぁ竜はそう言うものなんだなぁー……と思考を放棄して受け入れた。
規格外の者は常識では測れない。風から様々な物を感じ取る高性能生体レーダーの精密さを知れば、もっと確信をもって安全と頷けるかもしれない。
しかし、そこまでせずともラファルにはもうかなりの信用を寄せていた。
分厚い壁、仕掛け部屋、魔法の脱出路、魔術による防衛システム。
貴族顔負けの安全対策がされていることを実感する日はきっと来ないだろうが、それで良いのだ。
龍の息吹を受けた火が煌々と揺らめき燃えるのを眺めながら、満足げに師の言葉に頷いてフォークを右手に、グラスは左手に。
「はい、先生。ラファルにも、ご馳走、感謝する。
――頂きます」
二人と共に食卓を囲み、同じ釜の“肉”を喰う。
きっと、こうして仲間意識と言う者が芽生えて行くのだろう。
美味しそうに猪の肉を頬張って、芳醇な香り漂うワインに舌鼓を打つ幸せを噛みしめながら、白猫は上機嫌に尾を揺らした。
■ラファル > 「?」
妹弟子と師匠の何か含みのあるやり取り。幼女は、不思議そうに首を傾いで見せる。
妹弟子の方が年上で、何かお姉さんぶっていて、それに甘えている幼女。
とりあえず、ラファルは首を傾いで、ブランデーを飲み。
次は、ワインにしようかな、と師匠が開いて注いでくれたグラスに手を伸ばす。
「あー。同じ釜の飯ー。うん、覚えたー!
うん、皆で同じご飯食べよー。」
大事な事だと思う。
みんなが忙しく、それぞれバラバラに生きているから。
だからこそ、一日一回は、みんなで一緒に食べたい。
生きていることを皆で寿ぐことができるから。
「時折、火をつけなおすのかな……?」
ラファルは、この焔の意味を理解していない様子。
それよりも、篝ちゃんが取り分けてくれた魔猪のお肉の方に気が向いている。
食べたいので、涎もたらーり。
「だって、それくらいわからないと、ぶつかるもん。」
ラファルのドラゴン形態の飛行速度は音速を超える。
伊達に風の竜では無いのだ、それが当然と言えるからこその、ドラゴンなのだ、と。
「わーい!いただきまーす❤」
ラファルは、差し出された更に嬉しそうに手を伸ばす。
それでも、ちゃんと他の二人が手を付けるまでは、我慢した。
ちゃんと我慢ができる、良い子。
頂きます、と言った瞬間に、しゅるり、と魔猪が消える。
もぐもぐもぐもぐもぐと、速攻食べ終わる。
おかわりーと、残す気はなさそうだ。
ご案内:「私邸」から篝さんが去りました。
■影時 > 「そこまで気合入れなくても良いがよう。
だが、清潔にしておくのは大変いいことだ。……そのためにも手ェかけたんだ。気兼ねなくやってくれ」
心底より疲れている時は、寝床は慈母のような顔つきで躰の重みを受け止めてくれるだろう。きっと。恐らく。
修羅場に望む時ばかりは致し方ないが、風呂はやはり毎日入っておきたいもの。そういうものだ。
薪や石炭を燃やす風呂釜ではなく、魔導機械で湯を沸かすという発想の設備がある。
火を使うのは大変なことだ。その点簡便な仕組み、やり方は少人数で住まう現状のこの家には大変都合がいい。
そうした有難みは、きっと明日から色々噛み締めることになるだろう。白猫の惜しげな気配を察しつつ、手を放す。
離した手が次に向かうは、呑みかけのブランデーのグラス。手の熱でふわりと立つ匂いを愉しみ、くいと飲み干す。
次の酒が待っている。妹弟子側にとっては思う処の有る出元だが、酒自体には罪はない。
何はともあれ、皆がグラスを掴んでくれる姿を見届ける。
「……最早ない、とは思いたいが油断はするなよ。
アブねェ時は速やかにトゥルネソルのお屋敷まで走れ。……な?」
風竜が音速超過で空を闊歩する。そのための感覚能力は急襲にも警戒にも足り得る。
とはいえ、だ。何が起こるか分からないのがこの世の中。思いもよらぬ不条理が起こり得る。
各々の肝に銘じるように告げよう。
また、己も不意の用事で留守にすることもあるだろう。その為にも都度都度館に式紙を飛ばすように心に決めて。
「付け直さんように油はちゃんと足すさな。
――……んじゃまあ、改めて。乾杯と、いただきます、だ――」
さて。歳をくっている分だけ、話が長くなってしまうというのどうやら本当にあるらしい。
白猫も幼女も自分が先に食べなければ、口を付けまい。
であるならば音頭を取って酒を呷り、肉に口を付けて先陣を切ろう。
もぐもぐもぐー、と。恐ろしい勢いで消えゆく分を都度都度つぎ足しつつ、食える限りを食って、明日への活力と為す。
そんな生活を見守る、新しい火を絶やさないための第一歩として――。
ご案内:「私邸」から影時さんが去りました。
ご案内:「私邸」からラファルさんが去りました。