2025/11/09 のログ
ご案内:「私邸」に影時さんが現れました。
ご案内:「私邸」にさんが現れました。
ご案内:「私邸」にラファルさんが現れました。
影時 > ――ここしばらく、富裕地区の端、平民地区に近い場所に建てられた館で槌音が響き続けていた。
煉瓦壁と尖った塔屋が目を引く立派な館だ。

しかし、主から手放された館に、トゥルネソル商会から派遣された職人たちが手を入れる。
新たな主が望み、希望した諸々と取り入れるための改築作業だ。
相当期間手入れされず、罅割れすらもあった煉瓦壁やスレート屋根のクリーニングと補修。
借金難に陥った元主から少しでも取り立てるため、豪奢な家財を粗方売り払った内部の手入れ。
新たな所有者の希望による大きい物から、細かに至るまでの増改築。
おっと。忘れてはいけない。魔術によるセキュリティ、様々な魔導機械の入れ替え、新調も念入りに。
元主たる貴族は、新鋭気鋭の芸術家を自称する天才気取りの放蕩者だったらしい。
先見の明があると見える要素はそのままに、一部は手を加えて改善を図り。
余剰、無駄、見栄が交じったものは削って取り除き、使えるものは再利用して――出来上がり。

そうして改築が成った館にきょう、新たな所有者が弟子を伴って居を構える。
ひとりと二匹で住むには広く。二人加えてもまだまだ広い。上には上があるが、それでも広い館だ。
この地を手にするために必要だったのは動機、そして契約。
迷宮の深い処に潜り生還できる技量に加え、雇い主の厚遇が無ければ、後者は成らなかった。
朝、長く世話になった宿を主人に挨拶をして辞し、荷物を纏めて向かう。
荷物はすべて魔法の鞄の中。日が高く上った時間帯に玄関を開き、その初めての日――やることは何か。

「……乾杯――」

――宴会であった。真っ先に宴会だって?否、やるべきことはきっちり済ませた後だ。
要求をすべて満たしているかの見分、確認。
掃除にトゥルネソル商会に頼んで運んでもらった家財の据え付けに、食材の搬入等、と。
そうでなければ明日が過ごせない。明日の、明後日の、先の先の備えと目算、予定を踏まえた上で、宴と洒落込もう。
煉瓦壁の館は大きく、広い。そこで今宵行うは宴席は館の居間ではない。二階のバルコニーで行う。
そこに料理の数々と酒を運び込む。瀟洒な手摺が囲う露天に椅子、折り畳み式の机を持ち込む。
広げられた料理は野菜よりも肉多め。酒は色々。麦酒から出し惜しみしていた甕酒、シュレーゲル卿からの祝い酒たるワインまで。
好きなものを呑んで良いし、別の好みがあれば持ち込んでも全く変わらない。

己は、当然甕酒。浄めた真新しい杯に注ぎ、掲げて音頭を取ろう。

> 思い立ったら吉日と言う言葉があるが、師の酔狂染みた思いつきは当分先の未来であると思っていた。
思っていたのだが……。

数か月も経たぬ内に、居を構え宿暮らしからこんなにも立派は屋敷の主となろうとは。
あまりの現実感の無さに、『引っ越す先が決まったぞ』と知らされた時には師を眺めて十数秒は呆けてしまったものだ。
まぁ、その引っ越しを急ぐ原因を作ってしまった弟子は、素直に頷き住処を移すに至ったわけだが。

隅とは言えども富裕地区、そこに連なる屋敷である。
リフォーム前の寂れ具合を知らないが故に、見事な煉瓦壁や新品の諸々、こだわり抜かれた改築後の造りに圧倒されて、幾ら借金したのか聞き出すのが恐ろしくて未だ聞かずにいる。
宿にしては広い借り暮らしの住まいから、更に広いこの屋敷へと移り思うのは一つ。

(……広くて、落ち着かない)

である。
慣れない屋敷で、まだ自分の定位置が決まらないことが不安な様子の白猫だ。
バルコニーに用意された席にちょこんと腰かけて、辺りに視線を彷徨わせながら耳と尾を忙しなく動かし。
乾杯の音頭が聞こえると慌ててグラスを掲げた。

「乾杯……」

小さな声で師の声に続き、軽い麦酒の注がれたグラスを傾け一口だけ含む。
ちらり、姉弟子の様子はどうだろうかと横目で見やり。

ラファル > 「―――じゅるり。」

 目を輝かせるのは幼女(ドラゴン)
 様々な食べ物、様々な飲み物それらは、確かな素材に確かな技術で作られたものである。
 お酒だって一級品。
 家のできたお祝いに、沢山持ってこられた樽。
 麦酒に、火酒に、ワインに、スピリタスに。
 いろいろな種類の酒。
 お肉だって古今東西の色々なお肉がある。
 ちゃんとラファルだって考えて、山脈から魔猪を2~3匹狩って持ってきた。
 たっぷりと身の締まっている、美味しくて、滋養のあるお肉だ。

 それらを焼いて、塩振って、胡椒を付けた上に、特性のタレを付けた、照り焼きにして。
 山のように盛られたさらに食料に食い物。
 ああ、パライソはここにあった、とばかりに、目を輝かせている。

 ラファルは元々、家に関しては―――。どうでも良かったりする。
 それこそ、自宅である、トゥルネソルの姉妹の家、竜の巣にだって殆ど無いのだ。
 その辺で野宿したりその辺で転がってたり、その辺で穴を掘って居たり。

 野生の獣と同じような生活をしているのがラファルだ。
 ここに居るのも、師匠と妹弟子が居てごはんがあるから、という程度。

「かんぱーい!」

 ラファルは当然とばかりに焼酒(ブランデー)を右手に。
 左に骨付き肉を手にし、ごつっと、小さな樽の様なジョッキをぶつける。
 大丈夫、ちゃんと飲めるので。

 ごっごっごっごっごっ、と一気に飲み干して。

 ぷっはぁ、と酒精の混じったブレス(酒くせぇ息)を吐き出す。

影時 > 思い立ったが吉日とはよく言ったもの。
物件を確かめ、数日のうちに盛り込みたい仕様、要素を纏め、依頼して契約を交わし――思った以上に早くカタチになった。
或る武将が成した一夜の城作りもかくや、だ。だが、短くも十分な時間として作られた其処は己が城として得心できる。
元の所有者が残した匂いも埃も何もかもは拭い去られ、色々と真新しい匂いが満ちるのは大変気分が良い。

それにだ。弟子の片割れと違い、こういう屋敷、館の暮らしが初めて、というわけではない。故に緊張とは無縁。
宿暮らしになる前はシュレーゲル侯爵の屋敷に食客として厄介になっていた。当時の感覚と今のそれは大変近しい。
しかし、その時点で将来的に“こうなる”というのは予測していなかった。考えてもいなかった。
頼ってみるは力あるもの、財あるもの、といった所だろう。その代償は――なに、のんびり支払っていけばいい。
自分らしくも華々しく始めてみるとして、実際の所の課題というのは、恐らくここ数日で洗い出せることだろう。

掃除と洗濯は宿暮らしでも生活環境の維持のために行うが、前者の規模感が違う。
それに加えて、少なくとも朝の食事は自分達で作る必要があるだろう。

「嗚呼美味ぇ美味ぇ。篝も吞め呑め。……寝床も変わったから、不安かね?」

取り敢えず、生活環境の変化は間違いなく大きい。寝具も安く雑――とは真逆。
冒険者は身体が資本だ。それを休めるためのものは、程度はあってもこだわればこだわる程良い。
ただ、落ち着けるかどうかは、今日明日は大いに違和感等がるかもしれない。
落ち着かなげな白猫の方に目をやり、酒杯を片手にそう問いかけてみつつ、香ばしい匂いを嗅ぐ。

「ラファルは……色々持ってきてくれたなァ。
 食べきれなかったら、仕舞えて温め直せる場があるのは心強い限りだ。
 冷蔵室の方に、火を入れようがなかった奴は放り込んだから、肉は今しばらくイケそうだな」
 
バルコニーにごとごとと並べられているものは、料理だけではない。瓶に飽き足らず酒樽も多くある。
その上で、肉類の主役でどん、と鎮座しておわしますは猪肉の焼き物。
鶏、牛もある。つまみにいい燻製肉の薄切りもある。挟んで食べるにもいいパンもしっかり。
それらとは別に、この館の住人?たるシマリスとモモンガにも、きょうは山盛りのナッツに茹で鶏、野菜、果物も出している。
二匹が猛烈な勢いで食べて、ナマモノ以外は溜める!と云わんばかりに袋に詰め込むのを横目に、幼女へと声を出す。

ぷはぁ、と酒の吐息をキメる有様は、見慣れない者にとっては非現実的が過ぎる。
とは言え、呑めば喰いたくなるもの。己も酒杯を置き、皿に肉やら野菜やらを盛ってがっつがっつ。ああ、美味い。

> 本能のままに生きる自由奔放な野生児。妹弟子から姉弟子に抱いた印象は、顔を合わせる度に確信へと変わって行った。
当然のように反対の手に握りしめられた骨付き肉が妙に様になっているので、不思議なことに幼女の飲酒も様になっている。

龍は酒と財宝を好むと言う噂は、酒においては確かだったようで。
小さな体には大きすぎる小樽のようなジョッキを一気に飲み干す様は蟒蛇の名を欲しいままにするだろう。
酒と料理を堪能しているいつも通り自由な姉弟子の様子にどこか安心感を覚え、ちびちびと酒を飲む。

不意に名を呼ばれれば視線を師に向け、グラスを一度テーブルに置く。

「いえ、飲み過ぎると後が怖いのでほどほどにします。……片付けも、弟子の仕事と考えますので。

 ――っ、…………それは、……少し、だけ。
 ですが、問題ありません。早く慣れるように努めます」

酒に強い二人に比べ、人並みであると自覚はある。
先日のように酔いつぶれては仕事ができないと首を横に振り、自重して今日はあの酒には手を出してはいない。
続いて問う声にはパチリと緋色を瞬かせ、次第に伏せて逸れた先にはフライドポテトの山。
そこに手を伸ばし、一本摘まんでサクサクと噛みしめた。
姉弟子が取ってきた猪肉は、年長者であり師である男が一番最初に手を付けるべき。と、真面目に思っているのだろう。
その他にも並ぶ数々の料理。肉に野菜に果物に。
三人と二匹だけではもったいないと思うくらいの豪勢なパーティーである。

「……ラファル、今日はちゃんと服を着てて偉い。
 肉も沢山、捕ってこれて偉い。ん」

うんうんと頷きながら、相槌がてらに姉弟子の働きを褒めつつポテトをもう一本。

ラファル > 師匠が何かをやっているのは、知っている。
 というか、その場に居たのだ、ふてくされて寝てはいたが。
 なので、この場所に関することは知っていたので、ラファルには驚きはなかった。
 それに、元々、ラファルはお嬢様と分類される存在だ。
 トゥルネソル商会は大金持ちの照会だからこそ、お金は有り余る。
 自宅だって、ここよりも大きな場所なのだ、ラファルの性格で寄り付かないだけなのだ。

「あいっ。ししょーが、いっこくいちじょーの主になったんだから。
 お祝い、は必要でしょー!」

 それくらいの常識というか、そう言うのは持っている。
 だから、と、イイながらも、自分で持ってきた魔猪と樽の酒は、自分でぐびりぐびりしている。
 他の物も色々とあるけれど、まあ、中で一番のとなると、魔猪である。
 三匹はさすがに多すぎただろうか?
 否、ドラゴンからすれば、これぐらいでも足りない位なのだ、と。

「んー。篝ちゃんも、巣はきちんとしたほうが良いよー?
 寝やすくするのだーいじ。」

 まだ、屋敷に慣れてないという彼女、ヒテンマルとスクナマルに同意をするように言って見せる。
 間違ったことは言ってないだろうが感覚的に獣だ。
 ヒテンマルスクナマルと同じ思考回路で物を言いながら、骨付き肉を骨ごとバリぼり。

 お酒をぐびーっ。ぷはーっ。てな感じである。
 抑々、人間と体のつくりが違うので、酒とかは、本当に強いのだろう。

「うーん、篝ちゃんは、ヒツジとか、鹿とか、そっちの方がよかった?」

 魔猪では大きすぎるだろうか。
 そんな一寸ずれた思考で首を傾ぐ。
 フライドポテトに手を伸ばし、サクサク齧りながら、野菜も良いね!とか言う始末。

影時 > 一番弟子の癖、生態は十分に承知している。部屋は与えたが、ちゃんと寝床にしてくれるかどうか。
野生動物そのままの穴居的な生態だから、だけではない。
そもそもこの地域にはトゥルネソル家のお屋敷もある。一時的な巣穴、巣箱よろしく使ってくれれば良い。
野宿よりもこの家が“いい”と云える理由を提示するとすれば、雨宿りと獲物を放り込める冷蔵設備の完備。
下見に来た際、雇い主の後についていた弟子がふてくされていたのを宥めつつ、――きっちり要件として挙げた。
同じものならばより大規模にトゥルネソル家のお屋敷にもあろう。だが、あるのとないのでは大違い。

冒険者の仕事として、採取狩猟じみたこともやる。
その際採れた肉、野菜、魚介類等々を使える状態にしておきたいなら、最終的に然るべき場所に収める。
個人的に集め、溜める、ないし貰う酒だって、魔法の鞄の中に放りっぱなしではいられない。

「然様か。まぁ、篝は其れで良いさ。
 ……多分、ニ、三日は色々とやってみて問題があるかどうか、試すことになろうしなぁ。
 片付けなら、あんまり気にするな。俺もやる。――やらなきゃ明日の朝が間違いなくやべぇ。
 
 俺は直ぐには眠れねぇかもなあ。沈むような寝床に転がるってのは、どうにも慣れん」
 
如何にも白猫らしい言の葉に口の端を緩めつつ、酒量の自重に問題ないと頷こう。
己も酔いつぶれはしないとしても、寝る前に最低でも片付けはしなければいけない。
食べ残しがあれば、屋外に出しておくのは決していいことではない。揚げ芋(フライドポテト)の山を見れば、数切れ己が皿に取っておこう。
肉の合間に食べつつ、寝床の問題を思い返す。己が部屋が――どすぅん、とばかりに置かれた広い寝台。アレに慣れるかどうかが問題だ。

「有難うよ、ラファル。一国一城ってのは言い過ぎだが、己が城と云うには間違いない。
 だが、三匹はさーすがに俺も直ぐには食い切れねぇなぁ……早速冷蔵室が役立ってくれて良かったよ。
 そっちの酒、俺にもくれるかね?」
 
そんな我が城に根付いてくれることを小さなドラゴンに願いつつ、呑み終えた杯から別のカップに持ち帰る。
幼女がぐびぐびしている酒を己にも、と願いながら、周囲を見る。
つい先日までは見なかった風景だ。今宵、此処で生じる声、部屋に灯る灯火の奇異さをご近所さまは如何に思っているやら。
まぁ、いい。最終的な決め手は宿を拠点にした防衛戦よりも、周囲の住人を盾にもしうる籠城戦も今なら想定できる。
そうはならないことを願いながら、足を動かせば――卓の下に置いていたものが、ごとり、と爪先に当たる。

「……あー、ラファル、篝。落ち着いたら頼みてぇことがあるんだが、良いかね?」

杯と皿を卓に置き、足に当たったものを取り上げ、卓に載せる。
何の変哲もないランプだ。魔導機械やマジックアイテムの明かりが多いこの館では出番がない筈の、油を燃料にしたもの。

> これからの数日は慣れるまでの試運転といったところか。
自由気ままな姉弟子が常にいるとは思わないが、一人増えることには間違いない。
色々とルールを設ける必要もあるだろう。

「はい、先生。
 ――それは同意します。承知しました、片付けは今日の内に。やるなら皆でする。

 ……あー……ん、えと、申し訳ありません」

澄まし顔で淡々と頷き返すのは途中まで。寝床の話となるとぺたりと耳を伏せ、揺れていた尻尾も止まる。
師の部屋に転がり込んで以来、ベッドを占領してしまっている白猫である。
まさにお猫さま扱いで、部屋の主であった師は床で寝るはめになったのだから、申し訳なくもなる。

スーッと視線を逸らし隣を見れば、肉に齧りつく幼女がいる。
バリボリと、通常の食事では聞こえてこないような音が肉を頬張る幼女から聞こえているが、そこは突っ込んだら負けである。
見たまま、あるがままを雄大な心で受け――流すことが無心で生きるコツだ。
食べきれないほど沢山の猪肉も、この食べっぷりならすぐに無くなってしまいそうだなぁ……。と、ぼんやり考えながら、野生味溢れる三方の意見に首を傾げ。

「ス? 巣……。
 んー……寝床は、屋根と壁があって、安心して眠れるなら何処でも。倉庫でも良いです」

最初は美味く変換できなかったが、話の流れから住まい、寝床のことかと頷いて。
ポテトを齧りながら少し考えてみるも、答えは否定的だった。
宿で師の寝床であるベッドを譲られ柔らかい寝床に慣れてしまったが、それも今朝までのこと。
新居に移ればベッドは師のもの。己は多くは望まないと言う。

「ん? いえ、肉は何でも食べられる。兎も、豚も、猪も……美味。
 ……でも、先に先生が食べてから。
 ラファルも、先生に食べて欲しい……と思ってるかと。違った?」

ポテトが美味しいのは同意だ。魔猪が大きすぎるのも、まぁ同意する。
首を傾ぐ姉弟子に答えと共に問う。コテン、と同じ方向へ頭を傾け二人で首を傾げ合う形。

呼びかける師の声にピンと耳を立てて振り返り、頼みと言われれば内容も聞かずに。

「はい、命令ですね。伺います」

と、返事をする。

ラファル > ふてくされていた理由の一番は、なんというかあれだ。
 姉に良い様に使われていたのである、自分の住む所でもある場所なので、姉という生命体の横暴という奴だ。
 ここで寝泊まりすること自体が嫌という事はないし。
 便利な物を使う事ができるなら、それはそれでだ。

「あ、はーい。」

 くれというので、ラファルは空になった影時のジョッキに、ブランデーを注ぐ。
 蒸留された酒精が強く、芳醇な香りが部屋の中にふわりと沸き立って、消えていく。
 とはいえ、冬の空で寒くないように、風が吹き込まないようにしているのはラファルだったりもする。 

「なら、ここは、超、イイ巣になるじゃないかな?
 だって、雨も来ないし、風も来ないし、安全だよ!
 ふかふかのオフトゥンは、あったかいしね!日当たりもいいよ!」

 そう、この場所は平民地区と富裕地区の境目、どちらかと言えば富裕地区。
 王都マグメールの中でいうなら、一番安全な区画にあるともいえる。
 篝ちゃんの言う条件すべて当てはまってるね!と、さむずあっぷ。

「うん!そのために取ってきたんだし!
 でもね、みんなで一緒に食べて、美味しいねって言うのが、一番おいしいんだよ!」

 多分、彼女の感覚は、東方の感覚なのかもしれない。
 目上の人が最初に食べて、部下が後から食べるという感覚。
 しかし、ラファルはその辺りどーぶつだからか。
 みんなで笑いあって食べるのが良いんだと、主張。
 動物というか、トゥルネソルは、家族みんなで笑いあって食べるのだ。
 たまに、ラファルとシロナとかが、食べるものを競争して取り合ったりしたりして。
 拳骨を食らったりするのはご愛敬。

 そんな感じの、食べ方を提案してみる。

「えっと……なあに?」

 ふと、師匠のまじめな言葉に、きょろん、と首を影時の方に向けて、問いかける。

影時 > 何せ独り暮らしではない。集団生活だ。問題、課題は間違いなく出る。出ない方がおかしい。
住まわせるものが、真面目でも自由奔放でも関係ない。
個々の事情も何もかもをひっくるめて、一つ屋根のしたに抱え込むのだから。
……例えば、朝食は持ち回りにすべきかどうか。掃除の問題、夕飯についてはどうするか等々と。

「食堂でやっても良かったが、今日ばっかりは外の風を浴びながら飲み食いしたかったからなあ。
 ……洗い物までは、まぁ、水に漬けとくだけでも違うだろう。
 
 ――なーに、気にするな。好き好んで寝床貸してやってたんだ。
 今日からは気兼ねなく、な? 何処でも眠れるにしても、隙間風もなく暖かなのが一番だ」
 
食器洗いまで出来る気力があるかどうか、でもあるだろう。
だが、この館の規模に応じて厨房も洗い場も大きい。大きいことはいいことだ。余裕たっぷりだから。
余裕たっぷりといえば二人に与える部屋もそうだろう。
規模は今までの宿よりやや小さく、水回りは共用にしても一人で使うにはきっと余裕があるに違いない。
寝床は――返してもらうのではなく、新しくなった。なってしまった。
くつくつと白猫の申し訳なさげな有様に笑い、食器を置いて明かした右手で猫耳の間の髪をわしわし撫でてみようか。

――そんな中、ばりばりぼりぼり聞こえてくる。
骨もなんもそのの喰いっぷりは当然ながら、丁寧に殻を剥いてぺいっと放りやる齧歯類の仕業ではない。
ようぢょの仕業である。視線が過った二匹は、あんなん無理でやんす……とばかりに、こわごわと小さい姿を見る。
その幼女から、酒を注いでもらうのは、こういう席だといつものこと。
気付けばすっかり冬めいた空の下、強くも芳醇な香り立つ酒をくい、くい、と。呷って。

「ああ美味ぇ。偶にはこっちもいいなあ……。肉も、美味い。
 こんな風に自前で焼けるようになるとは、思ってもみなかったなァ……」
 
つくづくも感慨深い。自衛的な目的込みでの引っ越し動機だったが、肉の塊を焼ける環境までは今までは無理だった。
だが、今ならできる。ドラゴンの弟子とは違い、生肉を消化して糧とするのは如何な己でも無理がある。
こんがりしっかり焼かなければ食えない。薪と材料があれば、今は出来る。なんぼできる。
加えて美味いと思えるのは独りではなく皆で糧を同じくするからこそ、だろう。
毎日は兎も角、週一回位は――必ず皆で喰う時間を設けるべきだろうか。自分たちの在り方を思うと、思う。

「命令と云う程仰々しくねぇぞう?
 ……記念、というかな。
 
 まず、篝よ。こいつに火ぃ灯してくれねえかね。青くない火でいい。
 で、ラファル。ふぅ、と。竜の息吹をほんのちょっと優しくかけてやってくれ。
 
 ――この館の門出の火だ」
 
二人それぞれの反応を見遣りつつ、酒と食を置いて卓上のランプを弄る。
真新しく煤も無い硝子細工の風除けを外し、予め注いだ油の残量と浸された芯を確かめる。
記念の火だ。玄関に掲げるか、自室に置くかは――また後で考える。
火の猫と。風の竜がそれぞれ居る。きっと良い火が息吹を受けて、煌々と灯ってくれるに違いない。

> 「……。先生が、それでよろしいのであれば。
 う。はい……。んぅー……っ」

確かに、今日を逃せば風は更に冬の気配を色濃く宿し、日が照っても外で食事をしようなんて気にはそうそうならないだろう。
最悪、食器洗いは明日に回してもと言う言葉に頷きはするが、真面目な娘はこっそりと残った片づけを引き受けるつもりでいる。
寝床を長いところ奪ってしまったことへの罪滅ぼしも兼ねてのことだ。
耳と視線を下げれば、おかしそうに笑う師の声を聞いてくすぐったそうに唸り、髪が乱れるのも気にせず大きな手で頭を撫でられるとジト目で見上げ、フイッとすぐに逸らされる。
姉弟子の前で、色々と気恥ずかしいものがあったのだろう。

姉弟子――幼女(ラファル)が無邪気に“安全”の太鼓判を押すと、キョトンと目を丸める。
雨風ばかりが危険の全てではない。
外敵から身を守ること、何にも怯えずに眠れることこそが求める安全だった。
なら、ここは確かに安全だ。己よりもずっと強い師と、頼もしい姉弟子がいるこの家なら安心できる。

「……そっか。ん……、うん。日当たりも……良い」

ほうっと息を吐き、少し肩の力が抜けて耳と尾も落ち着きゆるゆると下がる。
日当たりも良いと聞けば、尾の先が穏やかに揺れて喜色を纏う。
気を取り直してグラスを手に取りごくりと喉を鳴らして酒を飲み、酒気を纏った息を吐いて顔を上げ。

「みんなで……一緒に食べる? 一緒の方が、美味しい?
 んー……。わかった。一緒に食べる」

白猫の片親は東方の血を引くが、白猫自体は育ちはこの国、マグメールである。
その心得、在り方は東方の教えだからと言うわけでは無く、単純に『毒見以外で(目上)より先に食事を口にするのは、勧められない限りはするな』と、昔躾けられただけのこと。
だから、姉弟子がともに食事をすることを望むのであれば、素直に従い頷く。
こんがり焼かれた猪の肉を取り皿に分けて、一つは己の前に、もう一つは姉弟子の前に置いて。
師が置いた皿の上にも追加で肉を盛りつけつつ。

――さて、一緒に食べるその前にだ。

弟子二人は師に視線を向ける。そして、告げられた言葉に妹弟子は不思議そうにしながらも頷く。

「火をつける、承知いたしました」

卓上に置かれたランプ。それに目を向け、指輪を軽く擦り火花を起こせば氣を指先へ流しランプの芯へ。
門出の火……。この先を照らす為の火を灯す。

ラファル > ラファルは、影時先生に会う前の食事はすごかった。だって、鉄の剣だって、鉄の鎧だって、バリぼり食っている。
 ピンクの悪魔のごとく、何でもかんでも食べて飲んで吸っていた。
 その位、歯と胃が強い存在なのだ、ドラゴン(ラファル)は。

 そういえば、と。
 この家についていた竈、すっごくイイ火力が出ていたなぁ、と思い出す。
 魔猪を一体火あぶりにしていたが、イイ感じに焼けていたのだ。
 丸々一体焼いても問題ない、また使うのイイなぁ、と豚の丸焼きを作りたいなぁ、とか考えていたりする。
 
「ししょー。
 ワインもおいしーよ?すっごく葡萄が濃厚なの。」

 まだ、ワインは飲んでいないけれど。
 ブランデーを飲んでいるけれど、ワインの匂いをラファルは知覚する。
 ワインの評価には、匂いだってある。
 そういう部分の強いラファルだからの判断方法だ、コルクの奥にある芳醇な匂いさえも嗅ぎ分ける。
  
「半径10キロ程度なら、ボク敵が来るならわかるから!
 篝ちゃんだって、とっても強いんだから、師匠もいるし。
 万全だね!」

 空を飛ぶドラゴンだから、風の竜だからこそ、生体レーダーの様な感覚を持っている。
 この辺周囲に変なのが居れば大体発見できる、師匠が全力で隠れれば難しいが、そのレベルの存在でなければ。
 という意味で、守りに関してはとても安定するのである。
 確か、ここにはいろいろな防衛用の策があった。
 単純に強力な防御力の壁に、仕掛け部屋、脱出の為の魔法陣、とか。
 安全という意味でいうなら、これ以上ないくらいだと、ラファルは感じている。

「えーとなんていったっけ……?おなじおかまのめし?おなじなかまがめし?おなじなかまでめし?」

 なんか、そんな系の格言だか、ことわざだかがあったはずだけども。
 どうだっけ?と、ラファルは師匠に救いを求めるように問いかける。

「うん!」

 息を吸う。
 そして、竜の吐息を吐き出す。
 ラファルのドラゴンブレスは、ソニックブレス。竜の咆哮を吐息にしたものだ。
 本来は、形もなく、音を超えた速度で吐き出されるそれだけど。
 篝が作った焔に同調する様に氣を練り込んで、吹きかける。