2025/09/14 のログ
ご案内:「平民地区 公園」に枢樹雨さんが現れました。
■枢樹雨 > 陽が沈み、秋の気配が色濃くなる夜の公園。
囲む木々が、涼やかな風にざわざわと揺れる最中。
カラ―――
硬質でありながら柔らかさのある音がひとつ、響く。
手入れの行き届いていない、石造りの遊歩道。
ひび割れ、欠け、土台の土が覗き、雑草の生える小道。
其処を踏む、白木の履物。道の途中に、不意に現れた其れ。
見る目がないからと、人ならざる振る舞いを隠すことなく姿現した妖怪。
軽い足取りでベンチの方へと歩いていくその手には、小振りな酒瓶と透明なグラス。
石造りの遊歩道とは違い、壊れた様子はない木製ベンチに腰を下ろすと、鬼角隠す白絹が揺れる。
そしてグラスの中に入った砕かれた氷達も腰掛けた拍子にぶつかり合い、軽やかな音鳴らして。
「あ、」
氷が零れてしまうかもと、慌てて胸元に引き寄せたグラス。
大きめに砕かれた氷はグラスから飛び出る様子もなく、ほ…と安堵の息零せば、開栓した瓶の中身をグラスの中へと注いでいく。
深い琥珀色のお酒。鼻先寄せれば、酸味と甘味が合わさったフルーティーな香りが鼻腔を満たす。
長い前髪の下、仄暗い蒼の双眸が期限良さそうに細められると、グラスを口元へと寄せ、少しだけ傾けて。
■枢樹雨 > 口内に広がる芳醇な味わい。氷が溶ける前の、殊更に強い酒精。
薄い唇からグラスを離すと共にそっと吐息零せば、グラスを月明りに透かすようにして。
「良いものを、買えた。」
淡々と、抑揚のない声音。
それでも満足気な気配が、月明り透かす琥珀に向けられている。
もうひと口、林檎香るブランデーを味わうと、一度座面に置かれるグラス。
空いた両手で小振りな瓶の栓をしなおせば、左手からにじみ出る黒靄がその瓶を包み込む。
数秒後、霧散した黒靄。妖怪の手に瓶は存在しない。
妖怪自身も瓶はないものと認識しているのだろう、両手でグラスを持ち直し、夜闇の中での一人飲みの時間へと浸り。
■枢樹雨 > 氷によって冷やされたお酒と、外気との差が、グラスの表面に結露を生み出す。
口元でグラス傾ければその結露がグラスの底から落ち、青磁色の着物の布に、ひと時の染みを残す。
そうして気が付けば、グラス傾けても唇を越えて喉焼く酒精が届かなくなる。
再び月明りに透かしたグラス。
溶けて角の丸くなった氷同士が滑りぶつかり、カラリと音鳴らす。
其処に深い琥珀色は無くて。
「……もう、無い。」
静寂の中に落ちる、小さな声。
其処に重なる、風が木々揺らす音。
その音に、そして強い酒精に浸るように、瞼を閉じる。
それと同時に、存在が揺らぐ。
ベンチに腰掛けるひとつの肉体が、薄れていく。
見ている誰かが居たのなら、たった一度の瞬きの一瞬。
その一瞬の内に、ベンチに腰掛ける女の姿は無くなっていた―――…。
ご案内:「平民地区 公園」から枢樹雨さんが去りました。