2025/08/15 のログ
■エレイ > やがてカーテンが開き、客が姿を現せば男は笑顔で迎え入れ──
ご案内:「九頭竜の水浴び場 マッサージ室」からエレイさんが去りました。
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」にジーベックさんが現れました。
■ジーベック > 燦々と注がれる日差しに海面がぎらぎらと照り返している。
只でさえ暑いというのに余計に暑い昼日中の港湾都市の船着き場。
ベタ凪。
潮風でべたつくことはないが一時の涼も得られないわ、船も多くが出向できないわ、で、
船着き場には人気がかなり多い、マッチョも多い、人の熱気でこれまた尚の事暑苦しい。
「あ゛ー。たまらんなこれは……」
王国内を行き来する客船、外国を渡り歩く商船などなど堅気に混じって並んでいるのは真っ当じゃないやつばらども。
こんなところでやらかす奴等でないとはいえども、さりとて関わり合いになりたくない奴等、海賊だ。
今その海賊船に一人取り残されて甲板でパラソル立てて寝そべり椅子に寝っ転がってヘバッているのが船長。
船員達とのじゃんけん大会に負けてしまって船番させられている。
船長特権でなかったことにしようと粘ったのだが駄目だった……。
「はぁ~~~……ぉん? ああ、ブランコの兄貴らも寄ってんのか、なんか冒険してきたらしぃなぁ羨ましいなぁ……」
ふと見遣れば遠くはないが近くもない位置に、部下でも手下でもないが仲間や親友でもない関係者の船が窺えた。
まぁ気が向いたら挨拶でも行くとして噂話で聞いた冒険譚に心底羨ましげな台詞やら溜息やら零しつつ、ぐったり。暑い。
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」に睡蓮さんが現れました。
■睡蓮 > 眩い陽射し。直接天光を見れば射抜かれるのはむしろ己の双眼だろう。
焼けつく熱を感じるのは港街特有の潮風が肌をひりつかせるからか。
喧騒と賑わいは、異国の言葉も交えてより華やかに響く。
波止場に連なる船舶も、それぞれの特徴を有しながら、整然と並ぶ姿は壮観だった。
人いきれから隔絶するような場所で、ふわ、と薫るのは水と、瑞々しい花の香り。
人ではないから、人が作る垣根の意味もあまり意味はなさない。
賊も官も、それにとっては等しく。
ただ、甲板に咲いた花が珍しく、かつ面白かったから降りてみたのだった。
「……はて、さて、干物志願者か何かなのかな」
問いかける声音は面白がっている。
しゃら、と尖った耳を彩る装飾が揺れ。
文字通り浮世の悩みからは切り離されたような様子の女。
ぶつぶつ唸っているから生きてはいるんだろうな、なんて思いながら。
しかし相手方からしてみればきっと恐らく己の方が部外者で、闖入者で、胡散臭いのはまちがいなかった。
北帝国の装束は羅紗を重ねた夏仕様の薄物ではあるが、王国風の夏の装いとは程遠いし、なにより女はこの盛夏の中汗一つ浮かばせずに悠然としているのだった。
■ジーベック > 「マッチョの干物なんて誰が買うのよ、いや待てよ?
……ちょっと面白い……好事家なら珍品として収集するかも……」
パラソルで遮って日陰を作っても、たまに気持ちの良い風が吹いても傍に氷たっぷりの麦酒を置いてたまに飲っても暑いものは暑い。
普段羽織っている上着も、着けている手袋も靴も穿いているズボンもしまいにゃ脱いでパンツ一丁。
乱雑にぽいぽい、ではなく、丁寧に畳んで傍に置きつつの両手を枕にぐったりとくたびれていた折。
「おん?」
掛かった声に、掌を持ち上げて右に左にゆるりゆるりと振ってはみたがよく考えると何か商売になりそうな気が……。
何てそこまでしたところで閉じていた瞳を持ち上げて金瞳を巡らせてみれば異国の装束を纏う女を一人見つけた。
「誰ぇ?」
テロップを登ってきた音も甲板を叩く音もなく、まるで最初からそこに居たかのような自然体ぶりが逆に不自然な。
冬山に積もる雪より真白い肌と髪色は茹だるような暑さに汗の玉の一雫も浮かべず涼しげであるのもまた不自然な。
妙な女。
曲者! と、手近の得物を引っ掴むべきところだが……どうにもまともなものじゃない、己とは別の意味でまともじゃなさそうだから下手に手出しするのも憚られる。別に今のところ悪さしているわけでもないようだし。一応、得物に一瞥くれて位置を確認しながらの、改めて女へ視線を寄越してから首を傾げる。
■睡蓮 > 「………偉丈夫は、働かせた方が金を生みそうだがなア?」
蒐集家。肉体にこだわりのある蒐集家なら、なくはないのかな、とも思うが。
その場合どこぞの奴隷市に連れてゆく方が金子にはなりそうだ。
男の言葉に調子を合わせるように、面白がる声音は悪乗りしている。
日陰ではあっても、水分補給をしていようとも、熱いものは熱いのだと文字通り体現している姿。
とりあえず、不審な人物に誰何の声を上げる程度にはまだ理性が残ってたらしい。
きちんと畳まれた衣服や、手の届くところに置かれた男の得物。
存外に几帳面そうだなあ、とか暢気に考えながら。
水かにはうーん?と首を傾ける。
陽の光を弾くような白い髪がさら、とその仕草に揺れた。
「私は私だというほかはないが───、まあ悪さしに来たわけじゃあないさ。
散歩だよ、散歩。」
すい、と手にした長煙管が空を指し。
そこから降りてきたのだと人を喰ったような言葉を紡ぐ。
それが真実であれ、虚言であれ、男に何ら不都合を寄与する言葉ではない。
己の様子についても、ひとまずは静観してくれるらしい態度に、満足そうに鷹揚に頷いた。
悪さ一つしてるわけでもないのに、ひとくくりに追い出しにかかる官よりは話が通じそうだとこちらも感じてはいる。
だからつらりと言葉を重ねる。
煙管から燻る煙は、煙草のそれというわけでなく。
かといって寺院のような抹香でもない。自然の、水と花を濃くしたような涼やかさを仄かにもたらしている。
「並んだ船がゆらゆらと、浮花のようで面白かった」
■ジーベック > 「在庫処分の時とかにいいんじゃないか?
作る手間暇と費用が売値に見合うかどうかだがそのあたりは実際掛け合ってみないとな」
木乃伊とかいったか。人体の干物のこと。王国ではあまり普及していないが北方や西の果てに確か……。
云々知識やら金勘定やらをしはじめて顎に手を添えるのも程々にしながら手を伸ばすのは手近の、得物、
ではなく麦酒が入ったグラスを素通りして麦酒の入った瓶の方を引っ掴む。
氷がたっぷり詰まったアイスバケットから氷をトングで一つ二つ三つ四つとたっぷり自分のそれとは違うグラスに入れてから麦酒をそこへと注いで、レモンの輪切りを一絞りしてから、
「ん」
空からやってきたという女へと差し出す。
「アイデア料だ」
実際それを商売にするかどうかは兎角として考えもしなかった選択を候補にしてくれたお礼である。
人様の船に侵入してきた件を水に流しても余りあるから船長自ら酌をしては、取れと杯と手を揺らし。
「しかし海賊船にお散歩たぁ不用心な、天使……天女? 違うな。何て言ったか。東の言葉で……仙か?
なんにしてもあんまりおすすめぁしねぇぞ。しかも美人だ。イヤだろ、コ゚ツいヤローがちんぽおっ勃てて舌舐めずりして近付いて来たら」
そう、眼の前の美人は、雰囲気が浮世離れし過ぎているがそのあたりを一旦無視して置いておくと恐ろしいほどの美人。
そういう雰囲気とか力量とかわからないような野郎が彼女を見たら放おって置く筈はない。強姦出来るかどうかは別。
『俺はわかるからしませんけどね』等と頷きながら、天から来ただの何だのも喉も肩も揺らして笑って。
時折煙って香る、煙草葉が燃える匂いでもない、香草のそれでもなければ薬品臭くもない不可思議な匂いの煙管へ目線がいき……
「変わった匂いだ、嗅いだ事のねぇ匂い、つってもあんた自体かなりの物珍しさだが……そっちからするとこっちが物珍しいのか。
まあゆっくりしていくといいさ。大したもてなしは出来ねぇがうちの野郎どもが帰ってくるまでもうちょい時間はある」
■睡蓮 > 「趣味のよろしい話だな。さては奴隷商だったか?」
そうは見えないが。
うだってはいるものの、男自身の見事な体躯。……図らずも下着一枚だからこそよくわかるのが何とも言い難いのだが。
その肉体は飾りではないのだろう、というのが携えている獲物と合わせて理解はできる。
軽口めいた言葉を交わしていると、おもむろに差し出されたグラス。
たっぷりの氷で冷やされた麦酒。香りづけのレモンがさわやかな香りで誘った。
「は、は、は」
律義だなあ、と笑う声音は、からりとした笑い声。
促すように揺さぶられるグラスを分かったわかった、と白い指先がつかんで抜き取る。
そのままグイ、と一口呷れば、美味しそうに金色の眼が笑みに細められた、
はふ、と喉ごしに対して零れる吐息。
此処が海賊船だという言葉には、改めて近くで艤装を確認したら違いは分かるが。ふむ、と改めて頷いた。
「船はあまり身近で見ないからな。違いなど分からん…が。ご明察。
………───煙になって天に上るまでさ」
己の身の上について言い当てるのにはさして驚きもしないのは、隠してもいないから。
海賊というには面倒見のいい言葉に、さては良い奴かお前、と向ける眼差し。
ヒトデナシ、の安否なんてそれこそ人が慮ってもいいことはないだろう。
違いの分かる男、らしいのには薄く唇を笑ませたまま、グラスを呷った。
己の香についての言及にはしかり、と頷く。
「お前たちは海辺のものだろう。霊山の最奥にある源泉と、その畔に咲く花の香りは縁が薄かろう。
……私の廠には他のもあるが───……宣伝代わりに一つやろう」
気付けや匂いけし、虫よけくらいにはなるかなあ、といい加減な言葉と共に。
こう袋から取り出すのは飴のような形状のものをひとつ。
酒の礼代わりにピンと弾いて相手の眼前に投げ渡す。
使用法は?と問われるなら、香と同じ、と応じるだろう。
胡散臭い仙の誂えを使うかどうかは相手次第。
■ジーベック > 「その真似事は偶~~~~~……に、な。
面倒事ばっかりだから余程困っていないと手は出さない商売さ、在庫処分の話しかり」
絞り込まれた体躯――
野太い首に分厚い胸板、肩。鳩尾付近から割れて八つに区分けされた腹筋に肉食動物さながらの腿や分厚い爪。
彼女の視線がまじまじとあちらこちらに注がれているのに気付けば『ふふん』なんて得意気な顔をして見せる。
得物は、剣。この肉体から繰り出される撃はさぞ剛剣だろうと伺わせた。
「うめぇだろ?
ジョッキにストレートでもいいがこうして氷いっぱい入れて冷やしまくってレモンで酸味入れんの好きでな」
麦の苦みが檸檬の酸味でまろやかになるし香りもよく炭酸が弾ける心地が冷えでより増すちょいと変わった飲り方。
受け取られれば、華奢な見目のわりには飲み方が思ったより豪快で、喉と肩とがまた笑気で二度三度と揺れながら、
気に入ったらしい様相に首肯。
天へと向いた煙管に釣られて視線は持ち上がるが眩しくって眉がひそまり目も細まる。
「その“天”に行くために長~~~……い修行とやらをするんだよ、どこだかで聞いたよ、ご苦労なこった。
そういうのぁ俗世にゃあんま関わらんと聞いたがあんたはそうでもないし酒の美味さも解る。
結構な変わり者ってとこか?」
一緒だと己を指して笑った。
イイヤツには手を右に左に。イイヤツなんかじゃ到底無い、変わり者なだけ。
その手が差し出されてきた棒切飴にそっくりなものをひょいと受け取って……
危うく飴かと思って齧りそうになってしまったが香だと聞いて机に置いた。
「あっぶね。いや。なんか。ちょっと甘い匂いもするし飴ちゃんかと……。
なるほどそんなとこは出歩かんもんだから覚えのねえ匂いだわな」
使用法を聞けば、香と同じというから香炉に入れて焚くらしい。……どっかにあったな……どこだったっけか、どこにしまったっけか? と思い出を探りつつも見つけ次第試してみると頷きがまた一つ。怪しげな人物から貰った嗅ぎ覚えのない香なんて使うべきじゃないが彼女はあんまりにも雰囲気が人間と違うからこそ逆に信頼できるものである。
■睡蓮 > 自身が改めて向けた視線に得意げなのにそうか見せたがりか、と納得した。
己はその性質ではないが──いわゆる芸術家であれば、彼を題材に腕を振るうのもやぶさかではないだろう。
……あー、剣舞眺めながら一献するのはアリだな、と、剣に視線を添え一考。
武骨な実用剣眺めながら思うことではないのかもしれないが。
「舌が痺れる。いい意味でな
────この眩さの中で、この冷たさと、刺激と、味わいは良い」
笑みを交わしながら。グラスを揺らすと氷の涼やかな音が耳を楽しませ。
こういう飲み方するものじゃなかったか?と問うような視線。
もとより嫌いな方ではないというのも大きいが。
「苦労ね……誰もかれも、どこかに行き着くには道筋ってものがいるだろう?
お前たちの場合は海路か。まあ──そういうことだ。」
多くは語りはしない。ただ、単に己の道筋がそれだっただけだろうと肩を竦めた。
所謂妖仙との違いはさしてないのだから、たまには俗世を遊歩もするし、酒も飲む。
酒食についてはそれぞれの好みが反映されそうだが──人の容をとっているなら味覚はそう変わりはしないのだ。
それでは人の変わり者の厚意にただ笑う。
酒を交わし、言葉を交わして居心地が悪くないのだから機嫌が傾くことはない。
陽射しの中をゆるゆる揺蕩うのも眩しくて目が疲れるし。
「それこそ好事家に適当な箱に詰めて売りつけたら飲み代くらいにはなるんじゃないか?」
胡散臭い代物を、信じ込ませるには多少の話術は必要になるが、男の場合はそれに事欠くことはなさそうだ。
■ジーベック > マッチョという生き物は隙あらば見せる生態で云々彼女の納得に要らぬ補足を付け足しもする。
その自慢の肉体には汗の玉が幾つも浮かんでは滴って落ち筋骨の凹凸を凸凹となぞって流れていく。
ぱたぱたぱた、と手団扇しながら。
「だろ、だろ、作り方も簡単だ、気に入ったんなら塒でもやってみるといい。
夏には麦酒だとは誰が言ったか知らんが至言だね」
からころからころ。
グラスを揺らせば氷がグラスに氷にぶつかりながら麦酒を泳ぎ炭酸がその刺激でまた弾ける。
問う視線に、良い飲みっぷりと親指を立ててから、
己も呷れば喉仏を動かして杯を空けてはもう一杯と継ぎ足しつつの。
苦労を、道筋、海路と例えられてみれば目線が彼女から逸れては何事か考えるのも束の間、
『成る程なあ』なんて言っているから納得した様子。
不意に降って湧いた暇潰しの機会だがこれがまたどうして中々面白いと思うのは彼女と似たようなもの。
国内国外人種も問わぬ坩堝の王国にあっても坩堝の度合が尚混沌としたこの港湾都市でも、仙人は、珍品奇品、
雰囲気から人となりからがどうにも物珍しいから新鮮であるし今しがた渡してもらった香も嗅ぎ覚えは無いがいい匂い。
喉から口から上機嫌に笑気をしきり零して。
「飲み代にするにゃあ勿体ねえだろう、こりゃあ。
暫くぁこのまま楽しんでからそのうち焚いて楽しむとするさ」
こんな二度とは手に入らぬかもしれんものなら誰かが楽しむよりか己が楽しむの優先、と手を振りながらまた笑い、
「な。奥行こうぜ。船長室。色々あんだよ、酒。折角酒の好みが合う女見つけたんだ色々飲ましてみてぇ」
年代物のコニャックには飴ちゃん合わせると美味しいだとかそういう好みを色々押し付けてどういう反応するか見てみたい、と。
「酔っ払やしねぇだろ? 酔っ払ってもいいがそん時ゃ手ぇ出すけどなぁ、はっはっは!」
ぃよいしょ、なんて掛け声一つ上げれば寝そべり椅子から背中も尻も持ち上げて立ち上がる。
寝っ転がっていても上背があるのはわかったろうが立ち上がってみれば彼女との差は頭一つ以上あろうか。
それが冗談も零しながら衣類をひょいひょい纏めつつ、手招き。
■睡蓮 > 珠を結び、流れる汗。
……夏は暑そうだが、冬には強そうだな、という認識が追加された。
「塒にはさして面白いものがないのでな。───けれど覚えておこう。」
暑さも、寒さもさほど変わり映えがない。それは、暑さを楽しみつつも
熱を感じさせない女の様子と同じようにとらえどころはなく。
──けれどそれらは些末。
あいた盃を埋める金色は互いの双眸の色身にも似る。
気持ちよく干して、楽しく面白く。
己の言葉は、この一時のそうした面白みからすれば益体もない言葉だぞ、と嘯いた。
人にもいろいろあるように、人でないものにもいろいろあるものだ。
互いに機嫌のよい時に出会えたのが僥倖なのだし。
「手順通り作ればできる、とまではいわないが。
───私の手すさびなれば、普及品とは言わないだろうなあ」
珍しさの基準はそれ位。
けれど己の香廠は気まぐれに、どこぞに軒を連ねることにはなるから手に入らないとまではいかないが。
楽しんでくれるというのであればそれを否定する気もない。
立ち上がれば偉丈夫と思っていたが予想以上に背の高い姿に見上げて。意外と大きかったな、と素直な感想。
それが自身の脱ぎ散らかしたものをまとめて、手招くのに。
ついでに面白い酒を見せてくれるというのだから拒む理由もない。
手招きに磊落に応じながら──
「そうさなあ、気分次第で付き合わなくもない」
それ位の気軽さで、煙のような女は男の招きに応じて扉を潜るのだろう。
■ジーベック > 夏場はこうして、日陰にいて半裸でいて冷たいもの口にして、尚日差しを浴びている人並に暑がって……
冬は。毛布にくるまって暖炉の傍から離れなくなっている姿を見掛ける事だろう。
曰く『筋肉は発熱するもんだが……脂肪がねえから保温ができねぇのよ……!!』。
言い訳しているその有様は冬に出会ったときのお楽しみである。
暑がりで寒がりからすると暑さも寒さもとんと縁が無い彼女は羨ましくもあるが彼女なりの悩みがあるらしい。
「何て言ったか? 北の諺であるだろ。えー。えー……隣の畑は……なんちゃら……」
木乃伊にせよ、仙にせよ諺にしろ、海賊風情とはいえ冒険野郎でもあるから意外と物を知っている面がちらほら。
然しうろ覚えも多いから正しくは『隣の芝生は青い』という言葉だとかは教わることになろうか。
そういった遣り取りもまた面白く可笑しく、たまたま出会った人でなし一名と人で無し一名の交流は続く。
「なら尚更売り物にするわけにゃあいかねぇやな?」
彼女の香廠に辿り着くには陸で生きていても稀というなら海に生きていると尚稀で今が何かの間違いでありさえするかのようだ。
棒状のそれをまた鼻先に寄せては最初は嗅ぎ慣れていないから何かと思ったものだがもうすっかり気に入った様子で。
それより気に入ったのはやはり彼女だ、おいでと手招きすればやって来てくれる足取りに、どうぞと自ら扉を開き。
「お? ……お~~~? っふはははは! こりゃぁ良い気分にさせて頷かせてみせんとなぁ!」
磊落に鷹揚に気楽に溢れた頷きに、立ち上がれば尚大きくなったシルエットをさらに大きく仰いでは大笑い。
扉の向こうは、船長室、私蔵の壁に酒がずらり、航路図が壁にべたりべたりと貼られた、
キャラック船だから船体はかなり大きいがそれにしたってやたらと広い気がするその部屋の秘密はその部屋の中で。
どんな秘密か、どんな遣り取りか、そしてさて肌まで交わしたかはさて二人のみの秘密――……
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」からジーベックさんが去りました。
ご案内:「港湾都市ダイラス 船着き場」から睡蓮さんが去りました。