2025/08/11 のログ
> 「祭りに浮かれて足を掬われる……ようなことは、先生であればないとは思いますが。
 ……さぁ。私には、わかりかねます。主様がそこまで徹底する理由……んー、他の密偵への見せしめ、とか?
 主様が依頼書を出して、少しでも労力を私の為に使ってくださったことが、私は……少し、喜ばしく思います。

 ん? んー……。専属の騎士団はお持ちですが、その中に聖騎士と呼ばれる人物には心当たりがありません。
 外部の人物、であると想定します。
 それは――…… 申し訳、ありません。黙秘します」

わざわざ言葉にして忠告するまでもないと思うが、言わずにはいられないこともある。
主が何を考えているか、想像はいくつかできても断定するには至らない。
この数年、後ろ暗い仕事を休みなく任されて来たので、その中に知られては拙いものがある可能性も考えられるが、逆に心当たりが多すぎて此れとは言い難い。
元飼い猫としては、死んだものと主に忘れられるより、どんな形であれ覚えていてもらえて、ただの駒にここまで主が気を向けてくれることを嬉しく感じてしまう。
馬鹿めと、師にはまた呆れられてしまうかもしれないが、それが娘の素直な感想だった。

続く問いには首を横に振り、最後は重く口を閉ざし緋色を伏せて逸らす。
相変わらず、主については口を割るつもりは無いようで、頑なに秘密を守り続けていた。
猫の忠義は師もわかりきっているようで、無理強いはせず他を当たると言う。
その言葉にホッと胸をなでおろし、顔を上げ。

「氣を纏わせたら、苦無が名刀の如き斬れ味になる……と。興味深いです。ん、約束。
 そっちの、火の化学? 錬金? の本も興味深い。楽しみにします」

名刀でも達人技の石斬りを、苦無でやって見せるとは。
嘘ではないのだろうが、実際に目で見るまではにわかには……である。
火の絡繰り、参考書含めて諸々楽しみが増えていく。ゆるりと尾をくねらせながら、サクッと緑の山を崩して掬い。

「うんー。んっ! 徹底してる……。これも本格的、ですか?

 くぅ~……キーンってする。頭、痛い……けど、美味しい。ので、人気になりそうなのは、同意です。
 ――ああ、でも売れすぎるとなかなか食べられなくなる……。それは、惜しい……。難儀です」

抹茶の甘くもほろ苦いシロップも、アイスと一緒に食べるとまろやかさが増して、一層美味しく。
また餡子のずっしりとした重厚な甘みも、抹茶との相性が最高。
米神を左の人差し指で押さえつつ、まったり、のんびり、カキ氷を休みなく食べ進めていく。
あっと言う間に半分が消えて、そろそろ山が溶けだし雪崩が起きて来る。
傾く山をスプーンで皿から零れないように崩しながら、しゃく、しゃくっと美味しくいただいて。

影時 > 「まぁなァ。出てくるかわからない、だが、出てきたら嗤えるもの――という具合か。
 そういう肩書のものなんて、物語の英雄に対する、という印象が先立つンだがね。この国だとどういう扱いだろうな。
 
 ……喜ぶな喜ぶな。見せしめにしちゃぁ、何と言うか器量が狭い印象が俺には凄いんだが。
 ああ、分かった分かった。まだそんな具合だと思ったよ。
 細々と積み上げて、答えを云わずにはいられねえようにするほか、無ェかやっぱり」
 
言わずにおくより、忌憚なく言ってくれる方が有難い。言うまでもないものとお互いに早合点するよりずっと良い。
気になる誰かが第三者的、雇われ的な立ち位置であろうという共通認識を抱いたうえで、思う。考える。
当人に尋問(インタビュー)できればとは思うが、それが為せないなら、情報を積み上げ、織り上げて道筋を描くほかない。
娘には不本意な自由かもしれないが、少なくとも余計な干渉なく好きなように好きに生きるに、厄介事は埋めるべきで。
それが容易くないことは、呆れ混じりに見遣る口を閉ざす有様に改めて思う。
どう埋めるか。どう手がかりを掴むか。暗殺者ギルドに痕跡がもしあるなら、其処を攻める方が早そうだ。

「元々特別製だが、氣を乗せることで真価を発揮する……みてぇな奴でもあるがね。
 良いとも。ちゃんと見せてやる。
 本はちと探さなきゃならねぇが、ゆっくり待っておいてくれや」
 
今使っている苦無は、知己の鍛冶師が試作品的に作ったものだが、共通理念がある。
鋼鉄の刃なら鉄を斬れてなんぼ、というようなもの。それが鋼鉄でも神秘的な金属でもなく、霊木の刃でも同じだから畏れ入る。
その点も踏まえて、宿部屋に帰れば言葉通りに実演してみせるだろう。刀を振り回しての試し切りより遣り易い。
本は流石に探す必要もあるから、待ってくれという必要はあるが、火薬造りの時にも都度講釈を垂れることだろう。

「本格的、というか……俺も知らねえ工夫もありそうだな。
 俺が故郷を出た後の何やら、とかも有った、とも思う方が妥当だな。こっちの氷菓子と合わせるとは思わなかった。
 ははは、溶けてもきっと美味いから、ゆっくり食べろ。逃げる食べ物じゃあない。
 
 ……店が畳まれない限りはまた、なんぼでも来れるだろうよ。またの愉しみは、幾つあっても良いもんだ」
 
文化が交われば、思いつきも生まれる。受け入れ難さを緩めるのも掛け合わせて尖らせるのも色々と。
濃厚なアイスクリームは保冷剤代わりでもあるのだろうか。
抹茶の苦みが利いたシロップ掛けの氷の味変を、アイスクリームと餡子でそれぞれ試しているうちに、ふっと消えてゆく。
もう一杯と思いたくなるが、食べ過ぎると頭が痛くなる。悩ましい。でもまた、機会があるなら、何度でも楽しめるものだ。
先に食べ終え、勘定を考えながら、弟子が食べ終えるまでのんびり待とう。

食べ終えて一息つけば、腹具合で持ち帰りかこの場で食べるかを考えつつ、先程の団子かわらび餅をのおかわりでもするとしよう。
後々に控える厄介事はどれだけ食べても晴れることはなくとも、それを忘れる位に今日の味わいは満足感があった。

> 「笑える場合と、笑えない場合が……。
 語り継がれる英雄が相手にする方が、先生は嬉しいのでは……?

 喜ぶのは、駄目ですか。むー……。ん……」

呆れ半分、諦め半分。怪物相手、英雄相手に嬉々として刃を振るい術を練る。そんな師の姿が目に浮かぶ。
止めても聞かない人ではあるが、引き際が分からぬ人でもない。
万が一の時は、この首を差し出してことが収まれば良いのだけれど……。
そんなことを思いながら、向こうも向こうで此方を良く理解している様子。
猫は口を閉ざしたまま、ふいっとそっぽを向いて部屋の隅を見るのだった。

「氣を乗せることが、前提の武器……珍しい。はい、承知しました。」

武器単体としても価値はあるが、正しい使い方をすればより効力は絶大と言うことか。
宿での実演と、本のこと。両方の意味で承諾を頷き示し。

「なりゅほろ……。んぐっ、……先生もわからない工夫。であれば、この味は、此処でしか食べらない。特別な甘味。
 アイスクリームとの相性は、とても良いです。味も、食感も、美味。
 んっ! ゆっくり、食べます。
 此処、また来たいです。夏以外……、秋、冬、春……。どんなものが並ぶか、興味があります」

溶けて少し水っぽくなった氷をアイスと混ぜつつ、掬って食べて、半分スープを飲んでいるようになったが、それもまた違った味わいで良い。
先に食べ終わってしまった向かいの皿が、窓から差し込む夏の日差しでキラリと光る。
娘は眩し気に緋色を細めながら、初めて食べる甘味の味をしかと記憶に刻み、まだ見ぬ季節の味に思いを馳せて。

帰り際、持ち帰りに何を頼むかで、またじっくりと悩むことは間違いなく。
二匹も食べられる団子にするか、それとも毛並みは粉で汚れてしまうが、ふるると揺れるわらび餅にするか。
最終的に、二匹の毛玉と猫で相談し、選ばれた甘味は何だったのやら――。

ご案内:「平民地区・甘味処~」からさんが去りました。
ご案内:「平民地区・甘味処~」から影時さんが去りました。