2025/08/05 のログ
ご案内:「平民地区 大通り」に枢樹雨さんが現れました。
枢樹雨 > 気紛れに実体化してみれば、いつになく照りつける夏の陽光。
肌に纏わりつくような湿気に再び霊体へ戻ろうかとも思うも、興味惹くものを見つけてしまってはそうも行かない。
長い前髪の隙間から捉えたのは、通り沿いに暖簾垂らすひとつの屋台。
購入を待つ人々が数名集まっており、繁盛ぶりを伺わせる。

カラリ――。

白木の下駄を鳴らし、妖怪もその人々の中に加われば、しばらくして目的のものを手に入れる。
それは細い木の串に刺された、爽やかな黄色の果実。
暑い地域が原産のパイナップルという果物だと、店主が教えてくれた。
飾られていたそれは硬そうな皮に包まれていたと言うのに、その中身は柔らかく瑞々しい姿。
なんとその果実が、魔導機械により凍っているのだ。

妖怪からしてみれば驚きの食べ物。
かつ、この暑さの中においてはじつに心惹かれる食べ物。
涼呼ぶ噴水の縁へと腰掛ければ、早速黄色の果実に齧りつき。

「っ―――」

まず、冷たい。
薄い唇に、舌先に、ひやりと伝わる冷たさ。
そして歯を立ててみれば、じゅわりと滲む甘味と酸味。
凍っていると言っても実際の氷のように硬いわけでもなく、この暑さにほど良く溶けて歯を受け止める。
しかし奥の方は半溶けの状態なのか、口に含めば口腔内全体を冷やしてくれる。

小ぶりな口による控えめなひと口をゆっくりと咀嚼し飲み込んだ妖怪は、機嫌良くそっとため息を落とし。

枢樹雨 > 「美味しい…」

満足気な呟きひとつ。
抑揚なく感情薄い声音ではあるが、前髪に隠れた双眸は浸るように閉じられている。
改めて手元の冷やしパインを見下ろせば、じぃ…と注視する妖怪。
初めて見る果実の形を、色を、鼻腔擽る香りをまじまじと確認しては、再び齧りつく。

…と、今度は少し歯ごたえのある食感。
凍っているのとは違う、果実に時折在る芯のような感触。
先ほどよりも少し顎に力を込めてそれを噛み切れば、再び咀嚼し飲み込んで。

「こっちの方が、好き…」

誰に聞かせるでもない、小さな呟き。
そうしてゆっくりと味わっていれば、当然溶け始める凍った果実。
表面に張り付いていた結露の氷が、齧りついた際の果汁、棒を伝って指を濡らすと、慌てて両手を持ち上げ、口元に寄せて果汁を舐め取り、そのまま棒刺さるパインの付け根も軽く啜り。

枢樹雨 > これが冷やし菓子の弊害か。
止む無しと食べる速度を上げれば、みるみるうちに減っていく瑞々しい果実。
残った細い棒をゆらゆらと左右に揺らし、名残惜しそうに眺めては、体内へと落ちた冷たさもまたみるみるうちに儚く消えていくのを感じる。
思わず零れるため息。それは先の機嫌良いものとは別の色合い。

見上げる陽光は相変わらずじりじりと地面を焼き、暑さ緩む気配はない。
立ち上がった妖怪は屋台横に置かれたごみ箱に棒を捨て、カラコロと下駄を鳴らしながら大通りの日陰を歩き離れていって――…。

ご案内:「平民地区 大通り」から枢樹雨さんが去りました。