2025/07/14 のログ
ご案内:「貧民地区 廃墟群」に枢樹雨さんが現れました。
■枢樹雨 > 貧民地区でも城壁にほど近い区画。
かつて平民地区の様に栄えていたのだろう、そんな名残を感じさせる広場跡。
朽ちた石造りの商家や民家に囲まれた其処はぽっかりと円形に広がっている。
その中央に在る、直径5mほどの噴水。
周りの建物と同じく朽ちた石造りの其れを、静かに見つめる仄暗い蒼がある。
長い濡羽色の前髪の隙間から覗く蒼は、どこか虚ろ。
水枯れた広場のシンボルを憐れむように、白魚のような手が瓦礫を撫でる。
『待てども、待てども、独りきり―――』
雫が落ちるように、広場跡へと広がる声。
鼓膜へと届けば身体の芯がヒヤリと冷えるような、不思議な声音。
瓦礫撫でた手が、その指が、熱感じさせない爪先が、噴水の中央へと向けられると、
夏の夜とは思えぬ冷気が周囲へと広がる。
気が付けば其処は、他の場所とは隔絶された空間となっていて。
『貴方の声が聴こえない。貴方の気配を感じられない。』
声の雫が更に落とされ、広がる波紋。
…と、同時、瓦礫の山でしかなかった場所から水の流れる涼やかな音が溢れてくる。
小川のせせらぎのような、湧き水が小さな小さな滝となって伝い落ちるような。
其処は、噴水の中央。指先が示す先。
そして指の先がナニカを呼ぶように折り曲げられると、水枯れたはずの噴水から、
瓦礫の山でしかなかった場所から、一筋の水が噴き出し周囲を濡らして。
『どうして―――』
虚ろな蒼の双眸は噴き出した水の先を視線で追うが、紡ぐ声音は冷ややかに嘆くまま。
湧き水のように冷たく澄んだ水は瓦礫の山から噴き出し続け、2mほどの高さで重力に負けて地へと弧を描く。
地へと落ちた水は飛び跳ね周囲を、そして浴衣の裾を遠慮なく濡らしていき。
■枢樹雨 > 虚ろな双眸と同じく、虚ろな存在感。
跳ねる飛沫が浴衣の裾を濡らすことで、其処に在ることを現実たらしめている。
しかしそれを見る者が、認識する者がいなければ、正しく在るとは言えぬ存在。
指先が再び小さく揺れると、噴き出していた水がまるで意思を持ったかのように蠢き、
重力に反して宙に渦巻き、周囲へと霧雨のように水を散らす。
降り注ぐ水に鬼角が艶めき、濡羽色の髪がゆっくりと湿っていく。
日中に陽光で熱された地面を冷ますように、止めどなく降り注ぐ。
そうしていつしか消える水。
まるで初めから存在しなかったかのように、地面には水溜まりすらも残っていない。
一瞬で蒸発してしまったかのように、痕跡すらも残らない。
そして其処に在った浴衣の女ももう居ない。
蒸気となって消えたかのように、纏う冷気と共に忽然と消え失せて―――。
ご案内:「貧民地区 廃墟群」から枢樹雨さんが去りました。