2026/03/16 のログ
アムリタ > カウンター越しに、店主の手元をぼんやりと眺めていた。
酒瓶を見上げ、少し考え込む様子から察するに。どうやら本当に即席らしい。

「あ、ほんっとうに悩まなくても良いわよ。何なら適当でも良かったのに――。」

そう言いかけたところで、カウンターの向こうでは小さな鍋が取り出される。
程なくして火のつく音、甘く暖かな香りが立ち昇り鼻腔を擽られる。
少しだけ身を乗り出す。その香りだけでじんわりと身体が温まりそうだったから。
その間にも手早く作られる軽食。素朴だけど手心が感じられる食事だった。

「……良い香り。温めるだけで全然違うわね。
 これなら、スープが無くても十分ねぇ。……ん。」

まずは、ホットワインを口へ運ぶ。
甘さと香辛料の温かさが喉を通り、冷えていた体に染みわたるのを感じた。
思わず目をうっとりと細めて、嚥下した後に安堵の息が唇から零れた。
それからサンドイッチに手を伸ばし、一口齧る。
空腹だった所為か、思った以上に美味しくて笑みがこぼれる。

「たまたまだけどねぇ。タイミングを読まれたみたいに一気に来るのは勘弁して欲しいわ。
 ――ああ、この服装?……魔力の回復を促す為なのよ。
 大気中にも微量の魔力が含まれているから、効率を上げるとなるとどうしてもねえ。」

店主の言葉を聞くと、少し肩をすくめた。
好き好んで露出度が高めな衣装を着けてるわけでは無いのだと。
其処は少しだけ強調しようか。

アードルフ > 「それを、自分が言われても、はいそうですか。って適当な物は出せないだろ?」

扱う商材は想像もつかないけれど、自らが納品に出向くものであれば適当と言われてもそう扱えないだろうと軽く笑い。
とりあえずは満足してもらえたような様子にほっと胸を撫で下ろしてみせた。

「この時期の口開けにはホットカクテル、体温を高めてスパイスで味覚を引出し食欲を高める。
 んで、腹に少し物が入ったら甘めで少し強い酒、飲み易くて酔いやすい。
 最後はまぁ、また暖かく甘いミルクベースで体温を更に高めるのも、意識刈り取るレディキラーでも、ってのが定石だからな。」

冗談めかして、所謂女を堕とすための酒の運びの解説と共に、それは注意喚起にもなるのだろう。
食事の邪魔はしないように、自らも中へ納めた酒樽に腰を下ろしては、食べる様子を眺めていて。

「ま、そんなもんよな。一気に忙しくなってそれっきり閑古鳥なんてよくある話だ。
 成程ねぇ……、色々と大変なんだな魔術師さんってのも。」

在る種存在そのものが魔、である自身からすればその苦労は想像することしか出来ず。
それを労う様、グラスが空き始めた頃に、また問うのだろう。
『どういう酒が、好みだ?』と。

アムリタ > 「―――……あー。それは確かに。
 確かに、自分が手掛けたものを適当でいいって言われたら、逆に困るわねぇ。」

くすりと笑みながらホットワインをもう一口。
喉の奥へ流れ込む甘い温もりに、肩の力がまた少し抜ける。
頬に朱が滲みだすだろうか、未だ其処まで酔いが回っている訳ではないが、
顔に出やすい性質なのは一目瞭然だろう――。

「へぇ……じゃあ、つまり今のこれって。
 最初の準備運動ってこと?……だって、女を酔わせて堕とす定石だなんて、
 さらっという物だから身構えちゃうじゃない。」

とはいえ、言葉の調子は軽いもの。寧ろ、面白がっているようだった。
ほろ酔い気分もあってか、スツールの下では無意識にすらりとした脚を組んで。
店主の口ぶりと暖かな食事で、疲れも今は何処やら。

「でもまあ……、こういう飲み方を教えてくれる人の店なら、安心して任せられそうね。
 今度はきちんと営業中の所をお邪魔させてもらおうかしら。」

結局のところ出来る範囲は限られているのだ、一人ならば。
其れに関しては魔術も店の経営も、関係はない。
――話し込む頃合いには、すっかり店主へ気を許していた。
暫しの逡巡の後、カクテルのお代わりをするくらいには。

「……そぉねえ。まだ夜風が冷たいから。
 帰ってからも長く暖かさが続く様な飲み物だと有難いかしら?

アードルフ > 「なぁに、あくまで一般論。それに、堅苦しい仕事の話ばかりじゃ気も抜けないだろう。
 それに、魔術師ってのは妙な耐性があったりなかったりで、
 市井の女とはまた違うだろうしな。魅力はあるがメンドクサイ、ってなもんだ。」

ククッと喉の奥を震わせて笑う。中には自らの身体で効果を確かめるものや、
試し過ぎて耐性のついたもの、保護魔術等様々で。

「そうだなぁ、っても、魅力的な君を堕としに来た客が奢る酒には遠慮しないから、それは覚悟で来てくれよ。」

そこは商売も絡む。飲み易く強い酒だろうが、それこそ混ぜ物をする酒だって提供するのが路地裏の酒場というもの。
揶揄するように、遊びなれていないならば注意するよう促しながらも、向けられた注文はある程度想定していたようで……。

「これは、飲みすぎ厳禁だし、こっちの気に弱かったら、途中でやめときな。」

そう、紡ぐとまた別の鍋を火に掛け始める。そして先ほどと同じように葡萄酒を鍋に注いでから、
砂糖、カカオパウダーなどを混ぜてゆく。最後に少量の乳を混ぜ合わせたものを厚手のグラスカップへ注げば。

「ホットチョコレートワイン。ゆっくり、啜りながら飲まないと刺しよは火傷する。」

そう、告げて目の前に湯気の立つカップを置く。トロミの強いその液体はきっと舌に長い余韻の甘さを、
口内だけでなく喉、そしてお腹の中まで温める事となるだろう。
ただし、少量とはいえ興奮作用の強いこの世界の豆に、アルコールが掛け合わされているから、
体温の上がり具合は折り紙付きと言った所。

「甘さの余韻も長く続くから、まぁ帰るまではきっと、持つだろーさ。」

アムリタ > 「ふふふっ……ひっどい言い方ね。確かにひと手間掛ける必要はあるわね。
 一般市民と比べたら面倒なのは否定しないわぁ。」

カップを持ち上げつつ小さく噴き出した。
確かに魔術師、特に薬学なんかに通じている魔女なんかは、
薬も魔術も自分の体で試すことは珍しくないのだから。
掛けている防護魔法なんかも、一つ一つ解除するにも手筈がいる。
そして、彼が冗談めかして言った堕としに来た客の話には、少しだけ眉を上げた。

「驕りの酒、ねぇ……其れは其れで、悪い話ではないけれど――。
 前置きしてくれるって事は、くれぐれも注意するようにって意味ね?」

路地裏の酒場らしい会話だ。実際にそういう都合のいい店だとの事か。
薬物の耐性こそはあれど、酔い潰されて前後不覚になるのはどうしようもない。
つまりは、その可能性もあると承知して店に来いという事だろう。

やがて新しい鍋が火にかけられ、甘い香りがゆっくりと広がっていく。
カカオの香りを感じ取った瞬間、目許が自然とほころんでいく。

「あ、それ面白そうねえ。ホットチョコレートワインって。
 聞いたことはあったけれど、呑むのは初めてかもしれないわ。」

差し出されたカップを受け取って。
黒の水面を覗き込み仄かに揺れる様から、確かにとろみはありそうだ。
ふっと微笑んで、慎重に一口だけ啜る。舌の上に広がるチョコレートの風味と、ワインの奥行き。
舌触り、通り抜ける酒精が喉へと落ちていった。

「確かにこれ、危ないお酒ねぇ。美味しくて止め時が分からなくなりそう。
 でも、身体は確かに温まるわ。……ええと、店主さん。
 これ、あなたの中の定石の――どの段階だったりする?」

小首を傾げつつ問うのは、彼の持つであろう知識。

アードルフ > 「しかし、まぁそういう面倒くさいのが好きな奴も居るから世の中は面白い。
 ま、別に酔いの席でお互いが同意してんなら構わないんだけどな。どうにもそうでない奴が居るのも事実なもんで、
 そういう奴程金払いが良いから困ったもんだ。」

金には勝てん、と冗談めかして笑いながら、問いかけには頷いて注意するよう促し。
とはいえ、それもまた大人の楽しみ方である、そういう側面を否定するものでもない、それを好む輩がいるのは男女変わらないのだから。

「まぁ、俺もこういうタイミングでなきゃ出さないな。
 食後、眠るまでの暖かさ、んで女性。 
 あと素直にフレッシュな材料がない。ってこっち都合だ。」

最後は肩を竦めながら冗談めかして見せ、たっぷりと時間をかけて味わう様子を眺めながら、
ふと、問われた言葉に、口角を吊り上げて見せ。

「アードルフ。アードなりドルフなりそのままなり、好きに呼ぶといい。
 そうさなぁ……、でもそれを口にするのは野暮だからな。」

そう、あえて言葉を濁せば、足元の冷蔵庫から一切れチョコレートを取り出して見せて、
目の前で割ると一つは自分の口元に、
反対側を彼女の口元へと身を少し乗り出して差し出して見せた。
一口大のそれは色が黒に近い程濃く、そして……

もし舌に触れたならば、甘味の殆どない純粋な豆の味が伝わるだろう。
それは飲むものをより進ませるのと同時に、より濃度の濃い、それこそ媚薬の体を成す程で──。

「帰った後、一人じゃ寂しくなる。位じゃねぇかな。」

そう意地悪く笑うのだろう。

アムリタ > 「確かに――……世の中、ほんっっっっとにいろんな人がいるものねぇ。
 ……まあでも、お互いに納得してるなら、其れは其れとしての夜の楽しみ方でしょうけど。
 ――でも忠告有り難う。とりあえず、酔わない為に対策はしておかなきゃ。
 ふふふ、貴方みたいに色々と出す物を考えてくれる所ってなかなかないし。」

一拍だけ、留める。比較的穏やかな声でそう言いながら、視線を少しだけ横へ流した。
路地裏の酒場という場所が持つ空気を改めて味わうように。
――カカオとワインの香りを前に甘さだけでは終わらない何かがあることを、
静かに仄めかされているようだった。

「……アードルフ、ね。……じゃあ、アードで良いかしら、呼びやすいし。
 私はアムリタ。特に略されるような名前じゃないけれど好きに呼んで頂戴。」

改めて名を交わす。
程なくして、分け与えられる、黒い板の様なモノ。
チョコレートの塊が、ぱきりと小気味いい音を立てて割られる。
きょとんと、最初こそその様子を見詰めていたが、料理や酒に使うものではないらしく、
彼が口に含む様子から――つられて此方も身を乗り出して、思わず食んでしまうのだ。

「……んんんんっ……!?」

甘いものだという先入観からか、其れは殆ど甘味は無く――。
寧ろ苦み、風味、身体が火照るくらいの衝撃があった。
思わず口直しにホットチョコレートを何口も含み、流し込むように全て飲み干してしまえば。
続く男の言葉に――……体中の血が沸騰しそうな程の昂揚感が雪崩れ込んできた。

「ちょ、ちょっと~~~……っ、もう。
 そんな事言って……眠れなくなったら、どうしてくれるのよ……ッ!」

アードルフ > 「アムリタね。まぁ他の客の前じゃ呼んだら刺されそうだからそこは姉さんなりで呼ぶが勘弁してくれ。」

そう冗談めかして笑いながらも、齧った瞬間流石に違和感と衝撃があったことが推測できる。
慌てて飲み干す様子に楽し気にケラケラと笑いながら、
自らはその味に慣れているのか舌の上で溶かし嚥下してゆく。

「ん? だって、アムリタが聞いてきたんだろ。定石でどこまでか、って……。
 だから──」

口角を吊り上げ、ニィ、と意地の悪い笑みを浮かべると、その場でパチリ、指を鳴らして見せる。
店に灯っていた明かりが落ち、窓から差し込む路地裏の薄明かりが辛うじて視界を照らす。
そこで彼女も、男が魔術を使える事を知るのだろう、それもより純度の高いものとして、使い方自体は児戯にも等しい物だけれど。

その闇の中を音もなく、するりと移動すればそんな彼女の背後へと、まるで影を渡るかのように。
その耳元へと。

「アムリタ、君を犯す。そういう段階だ──。」

そう、囁いて指先が背中をつぅ、と撫で下ろした。
囁かれた声は、先ほどまでの明るく粗雑な言葉のトーンから一転して、
甘く低く、まるで舐めるかのようにゆっくりと、紡がれた。

アムリタ > 指の鳴る音と共に灯りが落ちる――店の空気が、すっと変わった。
路地裏から差し込むわずかな薄明かりだけが、カウンターの輪郭をぼんやりと浮かび上がらせている。
油断大敵。まさにそんな言葉が脳裏を過った。

濃くなる魔力の気配。
驚くほど素直で癖のない流れ方。男が只の店主ではないことを魔女は漸く理解する。
背後で気配が滑り、まるで影が移動するように音もなく。
そして耳元に落ちてくる何処か、甘さを含んだ低い声の響き。

「―――……ッ、や、っ……!」

声をあげた所でもう遅い。
此処の空間だけが切り離されてしまったような感覚。
叫んだところで誰にも届かない、そんな確信にも似た予感が胸を過る。

大きく開いた背中、そこを撫でおろしていく男の指先が酷く熱い。
背骨の線に沿って奔るモノに肌が泡立つその様を、感じ取れたか。
その細かな震えを、きっと彼は見逃さないのだろう。

せわしなくはあったけれど、平穏に一日を終えられると思っていた矢先。
魔女の”不運”は最後の最後に牙を剥いたのだった――。

ご案内:「王都マグメール 平民地区 路地裏酒場」からアードルフさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 路地裏酒場」からアムリタさんが去りました。