2026/02/07 のログ
影時 > 「そうだな。とは言え俺の場合だと、敵に手の内を見せない、悟らせぬ、という観点で頷いてしまう訳だがね。
 ……世と場所が変わり、遷ろえば物の道理も考え方すらも違う。異なってくる。
 平時で使うのも当然となり、方々に知れ渡っていくなら、フィリが云うようになろうなァ」
 
そうなるのが良いのが、悪いのかは――より後の時代、後の世にならなければ分からない。評価できない。
知識という宝を死蔵するよりは、その果てに誰からも忘れ去られるなら、それよりは良いとも言えなくもない。
己にはどうしても昔の経験、道理が判断基準の前提として先立ってくる。
だが、同時にここは己が生地ではないことも意識せずにはいられない。その意味でも、矢張り他所の土地である、とも。
必要は発展の基。圧倒的な利便を生む手管は、工夫と機密を織り交ぜながら、商売のタネとして世に広がる。

世は万事魔術、魔法の時代……となはらないのは、それを超える不条理、腕力もまたあり得るから、だろう。
術が発動する前に神速で間合いに入り、ないし、耐えきって打ち倒すフィジカルは魔のチカラだけでは成し得ぬ。
そうしたものが絡み合い、育み合って今のこの国の世が成り立ち、睦み合いにも及ぶ。
気付けばそんな在り方に慣れた、馴染んでしまったものだ。朱に交われば否応なく染まる。影響される。

「いや、そうはならンようにしている。……というのも、クロジロウの奴は別の用途で拵えたモンでなァ。
 式紙は俺の目であり、耳のように意のままになるものだが、分かる奴が見て悟られると困る以上、そうはならんようにした。
 何と云うかね。俺寄り、スクナ寄りという喩え方で云えば、スクナ寄りのモノよ。
 例えば、例えばだ。仮に俺がクロジロウの“眼”を借りて、フィリのスカートの中を覗こうとしても、十中八九従わんだろうなぁ」
 
お先に、という言葉に、おう、と頷きつつ、思案する有様に答える。
忍獣という使役される動物よりも簡便になるよう、陰陽術の術理を元に考案されたのが己が使う式紙の術だ。
己の練度なら、高名な術師には劣るにしても、分身の術の経験を踏まえ、高度な判断基準を備えたそれなりのものを作れる。
インスタント、使い捨てに出来るものではないが故に、燕尾服のような上着は氣や魔力の放散を防ぐ特別誂えでもあり。
少女が使う魔槌をまともに食らえば、潰れる――以前に存在が掻き消えてしまうのは疑いないが、最終的に術者そのものに成るものでもない。
モデルの在り方、知性に引っ張られている点は、大いにある。不埒な視点として使おうとするなら、その意図に逆らうこと疑いなく。

ナッツを齧る毛玉達を見つつ宣えば、三匹一様に半眼の呆れの色濃い眼差しは、実に己に似ていない。
まぁ、それはそれで、いい。……どうせ覗くなら、己が手か、羞恥を堪えさせながら捲り上げさせるに限ると思いつつ、ずぞぞ、と茶を呑み。

「……そこまで謙遜とも、控えめになることもあるまい。いずれは名代、とかみたくなるなら、な?
 色々骨を折らせてもらった分、俺の受け持ちで少しずつ返してくれればいいとなれば、寧ろ申し訳ない位だ。
 
 活躍もそうだが、末恐ろしい勢いだ。二人揃うとよりおっとろしい。
 ははは、心得た。じゃァまた近いうちにやるか冒険。
 寒い山に登るよりは帰りの術も付けつつ、迷宮巡りを考えてみても良いだろう……と、そうだ。これを渡しておくか」
 
烏滸がましい、とは思うまい。そう宣う理由もない。どんな風に成ってもいい。
この目で見てきた興味、嗜好の向かう先は、商会に携わる者にもなりうる萌芽を認めることも出来る。
さて、かの家の子女たちは色々だが、非凡な冒険者たる双子は一際、という印象がある。
二人揃った際の手合わせとなると――トゥルネソル家のお屋敷の庭で収めようとするのは、場を拵える必要すらあるだろう。
触発された、と見得る物言いに笑いつつ脳裏に幾つかの候補を浮かべ、おっと、と内心で手を打つ。
カップを卓に置き、腰裏の雑嚢に手を差し込み、ごそごそと漁れば、鍵を取り出す。

――この屋敷の玄関の鍵。

個室を与えると思えば、その鍵も足すが、まずはそれを少女の前のテーブルにことり、と置こう。

フィリ > 【継続させていただきます】
ご案内:「私邸」からフィリさんが去りました。
影時 > 【次回継続にて】
ご案内:「私邸」から影時さんが去りました。