2026/01/14 のログ
ご案内:「酒場」に影時さんが現れました。
影時 > ――冷える夜だ。

冷える夜には温かいものを求める。胃から、臓腑を温めたがる。
王都平民地区、貧民地区にも近い地域に位置する或る酒場はそういった客でごった返す。
味は程々でも程々の値段、存外に嵩のあるメニューとは、兎角腹を満たしたい客にウケる。
一方で地域柄か、風体の悪い、薄汚れた客がやってくるのは、仕方がないだろう。
店は余程問題のある者でなければ、しっかりと代価を支払う限りは受け入れ、食事と、そして酒を提供する。

――だからか、ある意味都合がいい場所でもある。表社会と裏社会、その境目を生きる者にとっては。

「…………全く」

その必要があった者が独り、気づけば客足が少しずつ細りつつある夜の頃合いに、奥の席に座しながら杯を傾ける。
硝子の酒杯に満たされた酒の色は琥珀色。つん、と薫る酒精の匂いは強く、希釈しないとなれば猶更に強い。
だが、それをこの国では珍しい羽織袴の男が静かに、黙々を傾けて、嘆息交じりに椅子の背凭れを軋らせる。
得物と思しい黒鞘の刀を立てかけた卓に並ぶ皿の量は、一人分にしては多い。
ほんの数刻迄、対面の椅子に連れが居たのだ。如何にもな、フードを目深にかぶった風体の男とも女とも取れぬもの。

“連絡員”と名乗るもの。誰の連絡員かは――知れない。
だが、そんな名前で通る情報屋。奇妙な冒険のネタを拾い、人探し、情報の裏取り等、色々とやる。
夕飯を奢るついでに、幾つか頼んでいた情報を受け取り、追加の依頼を出した上で見送り、今に至る。

調べを付けるだけなら、今なら盗賊ギルドの伝手もある。しかし、昨今は幾つかの経路も踏まえ、情報の角度を上げなければならない。
そんなことが続く。続いている。出方によっては自分の生命だけでは済まない。方々に飛び火しかねない恐れもある。

影時 > 知り得たものは、伏せる。“連絡員”から受け取った内容は何気ない世間話に擬して、符牒的な遣り取りに留めた。
凡そのものは受け取った手紙の中。受け取り済みのそれは腰裏の雑嚢に収め、改めて確かめるとすれば館に戻った後のことか。
とはいえ、芳しくなかった、と思えるものは大いにある。

徹底的に確かめようとすれば、時間がかかるものまである始末。是非も無い。
……なお、此れはやるならば、遠くまで早く動ける手段があるものに任せる手もあるかもしれない。
どのような遠方でも、一跨ぎにしてしまえる手管は意外とある。その手に訴えるか? 

(……気取られそうなのが解せぬ上に、色々とまぁ気が乗らンなぁ……)

自分と、弟子と。そして毛玉たちと。取り巻く環境と状況は不可解ばかりがどうにも募る。
世の中思い通りにはならぬことばかりとは雖も、斯くも難いものであっただろうかとも思えば、解せぬことばかりが増える。
そうして神経を尖らせなければならない理由は、その不可解さがいつ牙を剥く理不尽と化すか分からないからだ。
不可解さの正体が、権力者と結びついた裏の者と仮定した場合、何かと厄介なものはない。
疑念が作る渦は、下手に首を突っ込むものを容易く捉え、奈落の底までと引き摺り込むかのよう。

「……下手に仕掛ければ、俺が殺されるどころか、色々でっち上げられる可能性もよくよく考慮すべきか」

ぼそり、と。口の中で零し、吐き出す息はどうにも重くなる。
知らぬとは厄介でさまざまな可能性をさながら妄想のように浮かべてくる。最悪の想定は如何様にも出来る。
下手な仕掛け方を遣った場合、己が吊るされる、腹を切らされることもありうる。それが狙いではないか?とすら思える程に。
そのお陰で、いまいち酒がまずい。否――酒の名誉のために云うなら、まずい訳ではない。気が重い事態が続くのがまずいのだ。