2025/12/14 のログ
> 「それはそれで、売り込み文句としては頭に残る良い宣伝になるかと。
 ……以前に比べ、仕事以外のことも、少しだけ考えるようになりました。
 道具の整備をする時、今日の夕食が何だろうと気が逸れる……こともあります。
 理想的な暗殺者には不要なもの……と、思いますが、こう言うものが先生の言う余裕や遊びなのだと、多少は理解しています。

 う? うー……んー……。さぁ?
 暗殺者を殺す暗殺者なら、常に命を狙われている重要人物……或いは、恨みの渦中で生きる危険人物の護衛となりますね。
 それはそれで、やりがいはありそう……」

また揶揄って茶化す師をフイッと躱して受け流し、また尻尾を振るう。先ほどよりも大きく撓らせる様は、いじける一歩手前の有様である。
ほんの少しの間を空けて問いかけられた言葉には、振り返ってキョトンと目を丸め。
ぼんやりと天井を見上げて考え込み、じっくりと時間を掛けてから、コテンと首を傾げて見せた。
はぐらかすと言うより、本当に知らないのだろう。父親のことを思い出そうにも、記憶にあるのは賭け試合で戦う姿や仕事道具を磨く姿ばかりで、他の火守の事を聞く機会は終ぞなく。
あの彼岸の縁に現れた幽鬼たちはと言えば、皆既にこの世のものでは無く、極まって彼方側へと渡った者ばかりである。必然、暗殺者であろうと拘り極まっている娘と同等かそれ以上だろう。

また新たな暗殺者としての道を示そうとするなら、以外にも肯定的な反応を返す。
問題はそんな人物存在するのかと言う所だが。

「先生を納得させるのは、至極困難……。
 むぅ……。暗殺者として売り込むようなことを働くにしても、依頼が無ければ動きようがありません。
 後ろ暗い仕事……ではありませんが、タナール砦を赤く染める手柄でも立てればよろしいのでしょうか……?
 上手く出来れば、この挑戦権の暗殺が達成できなくても暗殺者ギルドから声は掛かる? それ以外からでも、声が掛かるなら……良い傾向?」

続けて迷走し始め、至った解答はまた師の待ったが入りそうな内容だが、これもまた良い案だと自信ありげに頷いて。

「ん、使い潰す駒……なら、可能性はあります。でも、そうなるように指図をするのはきっと別の人間。
 直接駒を動かさずに、指し手を裏から操る……。結果、関与しても影すら見せない。
 伯爵様はそう言う指し方をします。悟らせず、一つ策が潰れても、予備の策が常にある。堅実な手です。
 私はあまり相手にはしたくない……です」

これまで命じられ働いてきたアレやコレや、シュレーゲル卿邸宅襲撃の件含め、思い返せば気付く点が色々とあるようで。
話す内にゆるゆると耳と尾がヘタレてしなしなと元気をなくしていき、口を閉ざしてしまった顔は何とも言えない、辟易とした憂鬱さが色濃く出ていた。

「目立っている自覚はあったのですね。
 印象が強く残る……と、先生様に名前、人相が冒険者や教師として知れ渡っていれば……うん。

 私としては棚から牡丹餅? またとない幸運、と考えましたが。
 簡単に、鵜呑みにしない。少し、調べてから……結論は出します」

娘の方は一先ず納得はしたようで、今一度言葉にしてから、此れで良い?と問うようにチラリと男の顔を覗き込む。
知人とターゲット(仮)の関係性は未だ不明な点は多く、肩を竦めて「よくわからない」と首を傾げた。

「――……夜に眠れるなら、それはもう十分かと」

黒板に記された内容を見ても、其れ以外は否定することも無い。
喉を鳴らして嗤う師は何処か楽しそうに見えて、このまま暗殺のターゲットを盗られはしないかと、少しひやりとした。

影時 > 「……ほほう。良い傾向じゃァないか。理想な暗殺者、とやらより大事なものだ。捨て去ってくれるなよ。
 
 実績と云うのは下手な売り文句より雄弁に実力を物語る。
 そうそう、そんな感じにな。シュレーゲル卿の護衛を俺がやった時と同じ要領と云えば、より分かり易いかね?
 暗殺者という句で直ぐに浮かぶ活かし方として、賞金稼ぎの道も存外有りかもしれんか」
 
揶揄りたくもなる。皮肉りたくもなる。噂になれば尾鰭も付く。
かの一族はこんな者ばかりか、という疑念すら湧くのも仕方なかろうとも思う位に。
その真偽、真相を確かめるために、一番弟子の力を借りて故郷に飛んでみた処で――さて、どこまで掴めるやら。
全ての答え、ないし指針を示し得る諸々は鬼籍、彼岸の向こうに渡ってしまっているのだから。
今口にしたものとて、代替、代償行為となるかは、己をして不足と思わざるを得ない。
いっそ諦めて、放流してしまう方が早いのでは、という匙を投げる心理も、過ぎる程に。

「ははは、世間様のまっとうな親も同じ位には思うんじゃあないかねぇきっと。
 ――依頼が無けりゃ動かないのもどうか、とも思うがね。
 タナール砦? 何だお前、あそこに行ったのかね。その手柄は立てられたにしても、暗殺者より武人の方の誉れが勝るぞ恐らく。
 
 あんまり言いたかァないが、な。
 どこそこのギルドの依頼の動きを察知して、先んじて手柄を奪う位の事を重ねなければ、な。
 それすら渋るなら、禍根が残ってでもお前が聞きたくない言葉を云わなきゃならんか。
 世情の動き次第で先細る、取り締まられることもあり得る。
 先行きの疑わしさだけを云えば、存在否定が容易な暗殺技能者の集まりとは、冒険者の将来よりも儚かろう」
 
その考えは実に迷走が過ぎる。良くも悪くも聞き馴染みのある句が出たことで、ぴくと眉を揺らす。
よもや、と顔を歪めつつ猫の目を見つめ、暗殺技能者として注視されよう要件の例を思い浮かべる。
戦乱の世、ならばまだしも。一応の平穏、安定がある情勢では、暗殺者なんてものは珍重以前に使い潰しされかねない。
その実例はもう挙げるまでもないだろう。其れでも未だ、尚も、と願うさまに、如何に言葉を贈るべきか。

「やはりそんな采配、差配を遣りかねん、か。
 ……気が進まんがその方向性も、別途裏取りしなきゃならんかねえ。
 
 如何にもな恰好をしていれば、兵法者を気取るにも丁度よくてなァ。……人を隠すには人の中、だ。
 後はちょちょいのちょい、と付け髭なり化粧なりとかで、風体を変えてしまえば、存外ばれぬものよ。
 
 仮に聖騎士の意向、であるなら、どの面と心境の元にそうしたか、というのが気に掛かる。
 取り敢えずの関係性、それが齎した結果は知れたが、その辺りがどうにも解せんままだ。
 手紙は、後で返してやる。下手に触れねえように大き目の封筒もやるから、入れて鞄の中にしまっとけ」
 
優れた指し手、策士ならやはりそのくらいはやってのけよう、か。
思い当たる節があり過ぎて、尻尾と耳をへたらせる様に苦笑を滲ませ、己の普段着にも意味がある旨を告げよう。
仕入れの経路は確立されているとはいえ、ただ着慣れているだけで選ぶのみではない。
肌色が気になるなら化粧で隠せば、わざわざ術で偽装するよりも易く他者を欺けることを、経験上よく知る。
一先ず、今回の件については、結論は先送りで――問題ない。
覗き込む眼差しに頷きつつ、念のため手製の術符を封筒に擬したうえで魔封じとしよう。

「ははは、気に病んでばっかりもいられねぇからなあ。さて、茶ぁでも入れ直すか――」

盗賊ギルドを介して調べる、ばかりでも芳しくはあるまい。
今暫くの間は、弟子の回りに視点を確保し、見守る/監視を重視した方が良いかもしれない。
そう思いつつ、書き込みを残した黒板を卓上に放り出し、立ち上がろう。
話していれば喉も乾いた。茶でも入れ直して、気を取り直すのも良いだろう――。

> 「……はい、先生。
 ん……、迎撃の為の警護、ですね。守るより討ち取る方が得意ですが……それが仕事なら、まぁ。
 賞金稼ぎは駄目。優先順位が金に置き換わる、ので」

この返答も以前と同じ、娘の中に明確な決まり、線引きがあるようでそこだけは譲らず首を横に振る。
固執と言うべき極まった拘りようはいかんともしがたく、こりゃ駄目だと匙を投げて放り出さても仕方ない。
暗殺者が良いと我儘を散々言った口で、捨てないでと縋って鳴くのだから、つくづく我儘な猫だった。

「そうでしょうか……。真っ当……うーん……。
 暗殺者は私怨や欲で刃を振るいません。命でも狙われない限りは、ですが。
 ……だから、困りどころ。命令(依頼)が必要なのです。

 え……。武人、は……違う。それは困る。名が売れるのは、好ましくない……です」

真っ当な親がそうならば、我が父はどうなのか。考えては見たが、素直には頷けなくなるだけで言葉を濁し。
苦言を告げる言葉には概ね同意を示す。
暗殺者としての掟、矜持を守らんとすれば、師の言うようにせっせと自ら売り込みに行かねば仕事が無い。
飛び込み訪問で営業をかける暗殺者など誰が雇うか。そんな珍妙な話、落語にもなりやしない。
そう言えばば、タナール砦へ出かけたことも報告していなかったと思い出すも、それよりも困惑が勝ち、ふるふると首を横に振り「違う、そうじゃない」と繰り返すのだった。

言いたくないが、と前置きをして続く言葉には、ぴこんっと耳を跳ねさせ食いついて。
此方を見やる目をじーっと見つめ返し。

「なるほど。ギルドの仕事を察して先に片付ける。私を暗殺しようとした者達のように、ですね。
 平和なことは良いことですが、仕事が減るのは困ります……。
 乱世を、とは望みませんが……必要悪を許容するだけの暗がりは、残してもらいたいものです……」

師の故郷、そして祖先が生きた地が今どうなっているか考えたことは無かったが、少し思いを馳せる気にもなる。
表向きには大きな争いのないこの国のように、穏やかな暮らしをしているのだろうか。
敗して逃れた火守が、何故そうなったか知る由も無いが、平和な世で暗殺業が成り立たないが故であったなら、それは虚しさも覚えてしまう。
暗殺者として生きるなら、どのようにして形を変えてこの血を残すかも考えなければならないのか……。そう思うと溜息が零れた。
ああ、悩むことが多すぎる。くらくらとしてしまいそうだ。

心配性な師のこと、元主の動きを疑り用心するのは良いが、気疲れしてしまわないかが少し心配になる。

「言うまでもないとは思いますが、せっかく切れた縁を繋ぎ直すことの無いよう、深入りにはご注意ください。

 ん、其れは確かに……。屋敷で見た時、全然気付かなかった。
 先生がスーツを着ていると、ぼんやり道ですれ違っても気付かないことがありそうです……。
 それも変装術、と言うものですね。物理的な変装も、此処まで来れば術です。

 は、はい。承知しました。封筒に入れてマジックバッグにしまって保管、しますっ」

手紙が没収されずに済んだことにホッと胸をなでおろし、コクコクと三度大きく頷いて素直に返事をした。
魔封じがどのようなものかは、また実際に見た時に知るだろう。
部屋に戻ってこっそり開いてなどと言うつもりも無いのだ、封をされても支障はない。

お茶を淹れ直すと聞けば、

「はい、先生。お任せください」

先に急須を持ち上げてお湯を沸かしにかかる。
茶菓子を貰った分の仕事とでも思っているのだろう、生き生きと尾を揺らしながらせっせと働く。
その後ろ姿は、暗殺者よりも給仕係の方がきっとずっと似合っている――

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