2025/11/24 のログ
ご案内:「乗合馬車」に篝さんが現れました。
■篝 > ――贄を捧げ、神の寵愛に応えよ。
まだ……。
まだ。
まだ、足りぬ。
焔を灯し肉を焼け。屍の血肉を啜り、喉を潤し腹を満たせ。
御霊を捧げ、祈り続けよ。
懸けまくも畏き火之迦具土神に加護乞い願い奉れ――。
「――……ん、ぅ」
揺れる馬車の中、見たのは夢か現実か。
薄く開いた瞳に映ったのは、日差しを受けて眠る厳つい顔の傭兵達で。
朧げな記憶はそれを奇妙な夢と片付け、眠たげな眼をこすりながら視線は窓の外へと向けられた。
■篝 > 遺跡から脱出できたのは予定より五日後のこと。
そこから王都へ戻るまでの道のりも時間が掛かるかと思われたが、幸運なことにタナール砦から王都へ帰る一団が乗る馬車に巡り合い、同乗させてもらえたお陰で楽に戻ることが出来そうだった。
彼らは賑やかで、砦の戦況は人間側へ傾いたままであることが伺えた。
これが敗戦帰りの一団であったなら、お通夜のように静まり返り、荒れる者も多かっただろう。
返り血と煤と砂埃に塗れた薄汚れた白猫では、同乗をお断りされるかもれないし、慰み者にされる可能性も考え警戒していたが、案外彼らは気の良い奴らで親身に心配してくれる者がほとんどだった。
中には、幾らか払えば快く傷を治療してくれる者もいて、本当に幸運だったと改めて思う。
『おいおい酷ぇなこりゃ、もう無理じゃねぇか?』と戦士が言った千切れかけの左腕も、今は添え木をしてもらって、ポーションと治癒術の併用で無数の噛み痕含めほとんど目立たなくなった。
『傷は塞がったけど、折れた骨と神経は安定するまで時間が掛かるから、あと三日は安静にね』
そう言って苦笑する治癒術師の言葉にホッと息をつくと、『脅かして悪かったな』と戦士は豪快に笑った。
引き裂かれてボロボロになってしまった黒装束までは直しようが無く、隙間から肌が見え隠れしていたが、これも王都に戻るまでの辛抱。
幸いハーフマントは頑丈だったので無傷に近く、顔やミレーの特徴を隠すことは出来る。
……仮に見られたとしても、この一団なら悪いようにしないのではないか。
そう思ってしまうくらいには、彼らは良い人間達だった。
今は揺り籠に揺られて眠る子供のように、スヤスヤと……――
否。ゴゴゴゴゴ、ぐーぐーぐごご……、と鼾を立てる面々と共に過ごす穏やかな道中。
布で首から吊り下げた左手が、馬車の揺れに合わせてゆらゆらと揺れる。
ご案内:「乗合馬車」から篝さんが去りました。