2025/08/29 のログ
ご案内:「王都マグメール 城壁外」にヴァンさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 城壁外」にナイトさんが現れました。
ヴァン > ヴァンがナイトに宛てた手紙は簡潔なものだった。

『以下の日時、指定の場所に来られたし。
戦闘の可能性があるため、十分に武装して来るように』

時間と場所。それ以上の情報はない。手違いで届かずに読めなかった、ということもできるだろうが、
教官であり、主とほぼ対等な立場の人間からの手紙を無視するのは、主からの覚えが悪くなるだろう。
何と戦うのか……一番肝心ともいえることが書かれていなかった。あの男らしいといえば、らしい。


王都を囲う城壁の外、鐘が鳴るまでに街に入りそびれた者が使う宿は繁盛していた。陽は落ちたが、まだ明るさが残る頃合い。
屋外に雑に置かれた簡素な木製のテーブルと椅子で出来た酒場を、松明の灯が柔らかく照らす。酒やさいころ博打に盛り上がる人々。
その喧騒から少し離れた所に一つぽつんと席があり、銀髪の男が座っていた。いつものラフな格好。

少女を待つ間、男は飲んでいたようだ。ナイトの姿を認めると木製のジョッキを女中へと渡して手を振った。
これまで少女はこの男の不機嫌そうな顔を一度も見たことがないが、今日は特にゴキゲンのようだ。

「おー、ちゃんときたな。偉い偉い。……今日はプレゼントをあげようと思ってな。
訓練も一通り終わったから、今後俺が伯爵の屋敷を訪れるのは月一くらいになる。
手合わせをする機会もなくなるだろうから――最後にそこで、真剣勝負(ガチ)でやりあうのはどうかな、と。
決闘というほど格式ばったものじゃない。気が乗らないなら、ここで酒を飲むのでもいいが」

少しだけ口調が間延びしている。多少なりとも酔っているのだろうか。
そこで、という言葉と共に遥か遠くまで広がる平原を指さす。誰にも迷惑がかからないだろう広々とした空間。

ナイト > 手紙を受け取り、最初に目に飛び込んできたのは“戦闘”と“武装”の文字。
少女がそこに来ることを当然と信じて疑わないのか、詳しいことは一切書かれていないことに呆れもしたが、
らしいと言えば、らしい。そう納得しつつ、文句の一つでも言ってやろうと少女は苛立ちながら手紙を握りつぶした――。

呼び出されたのは街の外。城壁の外側が見える酒場だった。
賑わいからはずれた場所に独りポツンと腰掛ける男。ひらひら手を振る姿を碧眼で捉えると、迷いなく歩みを進め目の前で立ち止まる。
足は肩幅に開き、仁王立ちで両手を腰に当てて、顎を少し上げて心なしか相手を見下ろす様にした。

「無視したら後が怖いから、しょーがなくね。
 プレゼント? またお茶の誘い? それとも酒かしら?」

いつもより上機嫌な様子にフンッと鼻を鳴らして、褒められても嬉しくないわよって顔をしながら用件を聞く。
一通り内容を聞き終えてから、指さされた平原をチラリと横目で見て。

「――……ふーん。あっそ。
 別に、アンタの顔を毎週見るのも飽きてきてたから、私は丁度良いけど。
 いいわ、乗ってあげる。私、売られた喧嘩は全部買うって決めてるの。
 それにアンタには泥を付けられたままだったしね、汚名返上の機会と思ってそのプレゼント受け取ってあげる」

短くも長い訓練の中で、少女の喧嘩っ早さと好戦的な性格は矯正できなかったらしい。
二ッと犬歯の見える勝気な笑みを浮かべ、望むところだと応えれば、剣の柄を片手で軽く叩き平原の方へと足を踏み出す。

「……。負けた後で、『酒に酔ってたから』なんてみっともないこと、ぬかすんじゃないわよ?」

相手へ向ける挑発は最後まで忘れずに。

ヴァン > 「宮仕えは辛いねぇ……」

後が怖い、の怖い先は男よりも主だろう。この男、「デートに誘ったんだけどふられたんだよー」ぐらい主に言いかねない。
厄介なのが、男は雑談めいて気にしていなかったとしても主がそうとは限らないという点だ。

「そうか……俺は逆に、ツンツンした所も可愛げがあるなと思えてきたとこだったんだが。
よし、なら行くか。100m……もう少し距離をとった方がいいかな……。
ここにした理由を言っておこう。何回か立ち合ったが……お嬢ちゃんは“全力”、出せてないだろ?
屋敷の敷地内なんだから当然だ。設備や備品が壊れたり、同僚が怪我をするおそれがあっては抑制(セーブ)せざるを得ない」

よ、っと言って立ち上がり、歩き出す。比較的しっかりした足取り。鞄がないことを除けば普段通りの格好。
理由は最もなものに聞こえる。これまでの会話から、味方を巻き込みかねない技を有していると男は判断したようだった。
思い出したように付け加える。

「ルールは単純。相手が降参の宣言をするか、意識を失う等で戦闘不能にさせたら勝ちだ。
そうそう、勝負には賞品がないとな。勝ったら何でも要求するがいい。負けたなら、次の日没まで同衾してもらう。
サービスだ、俺の武器もお嬢ちゃんが選ぶといい。ノーマルのカタナか、ハードの剣と盾か。
…………酒に酔った相手なら、騎士様なら簡単に一ひねりできるよな?」

お嬢ちゃんというくせに、そんな相手に身体を要求してきている。前回は冗談だったが、今回は本気らしい。
ノーマル・ハードというのは強さの指針のつもりなのだろう。どうやら剣と盾の方が自信があるようだ。
刀は腰に提げているが、剣も盾も見当たらない。収納魔術か何かで取り出すのだろうか。
無防備な背中を見せながら、時折振り返る。もうそろそろ宿から十分な距離がとれそうだ。
挑発に対する軽口は相変わらず。

ナイト > 主の存在は枷でもあるが、強みにもなる。後ろ盾と言う意味と、騎士としての在り方を決定づける意味で。
守る者の為であれば騎士は誇りをもって剣を振るい、その身を捧げて盾となる。一騎当千にもなりうる。
この少女(狂犬)もまた、誇り高き騎士の一人である。

「は、はぁ!? 何よ、ツンツンって。また馬鹿にして!
 ……ったく。はいはい、100mね。

 ――……お気遣いどーも。確かに、周りに気を使わないで戦えるのは嬉しいけど。
 アンタに場所を指定されると、前もって罠とか仕掛けてないか……ちょっと不安だわ」

声を張り上げ、ぶつくさと文句を垂れながら後に続く。
酔っているように見えて、案外平気だったのか。後ろから見る限り、男の歩みはしっかりとしていた。
図星を突かれて目を丸めては、ムスッと口を尖らせる。
あの手合わせの時、抑えていても他の兵を何人か巻き込んだことは相手も見ている。
同じ戦場に立つ最低限さえできず足を引っ張る者は弱者とふるい落とし、邪魔だ、仲間とは思っていない言葉と態度で示したのは、正直に言えば今でも自分は間違っていないと思っている。
警備をする上で多くの兵、駒を配置することが重要だと学んだので理解はしているが。

そして、もう一つ。目つぶしをして若い兵士の反感を買っていたことを思い出す。
まさか真剣勝負と言っているのに、そんな卑怯な真似はしない……はず。
不安が一瞬顔を出した。

「ルールはわかったわ。……賞品、も。
 ん~……ウ゛ゥ゛ー……。要は勝てばいいのよね、勝てば。
 よしっ! 私が勝ったら――後で考えるから、震えて覚悟しときなさいっ!

 む。アンタ、本当良い性格してるわね。そう言い方して、私がどっちを選ぶかなんて、聞かなくてもわかるでしょ?
 剣と盾。構えなさい。捻り潰して噛み殺してあげるから」

最初は男の出した要求を冗談かとも思ったが、ふざけているのは軽口部分だけで。
少女の表情は渋くなり、赤くなり、随分と悩んでいたようだが、最後は楽観的に思考を放棄した。
何処にも見当たらない武器が何処から出て来るやら、遠くなった宿から視線を男へ移し、右手で鞘から剣を抜き放つ。
少女の今日の武装は剣と短弓。剣は腰に、弓は背に背負う。

ヴァン > 「褒めたつもりだったんだが……年頃の娘さんは難しいな。
ほう、そこに気付くとは。問題は、暗くなってきたから俺もどこにあるかわからない、ってとこだな」

罠を警戒する口ぶりにいい視点だと褒める。得意ではないが、草を結んだ転倒罠くらいなら男も作れる。
一対一の戦いでその隙は致命的だ。問題は、男も言う通り場所がわからないほど特徴がない草原が続いていることぐらいか。
その言い方を信じる限りでは罠はなさそうだが、男の発言を信用していいかは別の話だ。

座学の時に男は警告のように言った。「同士討ちは兵の死因で無視できない割合を占める」と。
少女がやったように味方を巻き込むことも、恨みを買って殺されることもあると。彼女が属していた騎士団は比較的緩いから見逃されたのだと。
卑怯な手については――観客がいてすら目潰しを行ったのだ。誰もいない場所なら尚更手段を選ばないだろう。
真剣勝負とは言ったが、正々堂々とは言っていない。そもそもこの男、あまり騎士らしくない。

「お嬢ちゃんの悪い癖だ。『話が違う、それなら帰る』ってのもできるのに。
わかっているが、それにほいほい乗ってくるお嬢ちゃんが不安になるんだよ。いつか痛い目を見るぞ。
ここらへんにするか」

勝てばいいという思考は嫌いではないが、これまでの手合わせで男の実力は理解している筈だ。
全力を出せるなら勝てると踏んでいるのか、あるいは己をそこまで大切にしていないのか。
いつか――といわず、数時間以内に痛い目をみせるつもりだが、口ではそう言っておいた。

歩いてきた方向を見遣る。宿が備えた松明の灯が見えるが、その程度だ。むこうからこちらは見えまい。
少女騎士から数歩離れる。茜色だった空は少しづつ藍色に変わってきているが、まだしっかりと相手を認識できる。

ヴァン > 長い吐息と共に雰囲気が変わった。先程までお嬢ちゃん呼ばわりしていた、軽口好きな男はどこかに消え去っている。
目だ。少し明るい青から、深夜のような深い青。虚ろなそれは視線が読み取れない――もちろん、思考も。

鯉口を切り、打刀を抜く。男が少女の前で己の武器を使うのは初めてだ。現れた黒い刀身は一目見ただけで異常だった。
打刀の鞘から出てきたそれは片手剣以外の何物でもない。鞘は――いつの間にか、片手剣のものになっている。
魔導機械ではない。魔剣妖刀の類なのかもしれない。

何事か唱えると、男の左肩を中心に黒い何かが突如現れた。収納魔術で取り出す様子と酷似している。
左手の黒いヒーターシールドは小型の傘くらいの大きさで、男の上半身から腰までを守れるようになっている。
盾に付属したベルトを右肩から首の付け根のあたりにかけて保持している。肩掛け鞄のようだ。
盾を離しても落下はせず、比較的スムーズに左手を使うことができる代物。
男は左半身を前に構えた。盾は男の上半身ほぼ全てと、その先にある剣を少女の視界から隠してしまう。

「ノーシス主教神殿騎士団特務部隊、“ブラッドシールド”副長。
聖騎士(パラディン)。ヴァン=シルバーブレイド」

少女は弓が得意だと言っていた。男と戦うと知らず、安全に置いておける場所もなかった。ただの重荷になるか、活用してくるか。
どちらにせよ距離を離す気はない。相手が構えると男はなめらかに近づいた。
盾の陰から刺突を三連撃。胴・腕・脚。目新しさはない。ただ速く、鋭いだけ。

「全身全霊でお相手いたそう」

ナイト > 夜目の利く少女にとっては、まだ暗闇とは言えない空の色を見上げ、罠についての言及はそれ以上しなかった。
問い詰めたところで、相手が素直に言うとも思えないし、無いものに気を散らし隙を作るより、その場その場で判断し適応した方が早い。
この判断は命を奪うような罠が仕掛けられていないことが前提だ。
真剣勝負でも、相手はそこまでを求めていないと踏んでいる。

「うっさいわね、私は情けなく巻くような尻尾は持ち合わせてないだけよ。
 アンタこそ、いつまでも人のこと見下して足を掬われないように気を付けることね」

ああ言えばこう言う。負けじと生意気に言い返し、抜いた剣を右手に構え左足を一歩引く。
不要な力を一切込めない、自然な構えで相手の準備を待った。

一つ呼吸の間に男の雰囲気がガラリと変わる。
目がいつもとは違う虚ろなものになり、まるで人が変わったように纏う空気も違う。夏の温さを伴う風が、数度下がったように感じた。
今さっきまでそこに居た彼とは異なる男。
これが、この顔が、彼の素顔なのだろうか。

男が抜いた刀は、不思議なことにその形は片手剣となっていた。
それに少し目を瞠るが、どんな武器でも使いこなすと簡単に言ってのけた男には丁度良い武器だと笑い。
左肩に現れた黒い穴のような虚の中から取り出された盾を、左腕に装備するのを大人しく待つ。
懐かしい緊張感。戦場に立っている、その感覚に恐れや警戒ではなく高揚感が湧いてくる。
少女の口角は自然上がり、暗がりの中でギラギラと獰猛な獣としての色を強くする。

名乗りを上げる相手とは異なり、此方は応えることはない。
応える隙を与えてもらえなかったと言うのが正しいか。
名乗ると同時に此方へ近づく男。身体の大部分は盾に隠れ、剣が何処から襲い来るかもギリギリまで見せず。

「――ふふっ! ええ、全力で踊りましょうっ!」

放たれる鋭い三連撃。目にもとまらぬ速さの突きを、“人並外れた動体(獣の目)視力”を持つ少女は剣先で流し、掬い、最後は姿勢を屈め弾いていなす。
そして、下がった切っ先はくるりと旋回し、今度は男の脚元を狙い薙ぐ。

「まずは、素敵なステップを踏ませてあげる」

跳んで避けるなら一瞬でも空中で隙を晒すことになる。その隙を狙い、盾ごと叩き潰すような力任せの追撃を仕掛けよう。
避けないなら、その脚を叩き折る。少女の腕力が見た目通りでないことを男は十分に知っているだろう。

ヴァン > 見下しているつもりはないんだがな、とひとりごちる。
適切に対象を判断し、相応の対応をする。男としてはそのつもりであった。

少女の表情の変化を男の目は捉えているのか。おそらく焦点は合っていないだろう。
だが、少女が発する気配を感じ取ったか、男はにやりと唇の端を歪めていた。


三連撃は簡単にいなされる。戦いが始まって準備万端、疲労も何もない状態だ。これくらいはあしらってもらわねば困る。
足元への攻撃は理にかなったものだ。盾では防ぎきれない範囲への攻撃。
後ろにステップしたところで軌道上に足が残る。剣を踏みつけるなどという曲芸も不可能ではないが今ではない。
横薙ぎの攻撃に対して行ったのは――距離を詰め、盾で少女の身体を押した。シールドアタック、シールドバッシュといわれる技。
ダメージを与えることが目的ではない。身体を押すことで胴・腕の軌道は変わっていく。肩口にあたった結果、剣の軌道は盾の範囲内へと収まった。
盾が硬質な音を立てる。漆黒のそれは金属製のようだ。なぜか男は嬉しそうに笑う。

「俺の全力を引き出せるか……?」

男の戦い方は正統派なものといえた。盾で防ぎ、剣で斬り、刺す。
盾の死角から軌道を読ませず攻撃するのも、剣術の教本に載るぐらいには知られている技法だ。
ただそれを、先程までエールを飲んでいた者とは思えぬほどに鮮やかに繰り出している。
おそらく、鎧がない分素早い動きを可能にしているのだろう。手慣れた武器を使っているのも理由の一つか。

不審な点がある。男は少女の、武器や甲冑がある所を主に狙っている。
盾で武器や身体を押す時はその限りではないが、黒い剣の軌道は今の所、頭部などを狙ってきてはいない。
装甲の上からダメージを与えようというのか、意識を向けさせてから他の場所を狙うのか。

つかず離れず、白兵距離のまま。
男が繰り出したのは籠手への斬撃。刀身から力の波動を感じる。
剣で受ければその波動は刀身を離れ、その先にあるものに喰らいつくだろう。回避をしても切っ先の軌道上にいては同じことだ。