2025/08/24 のログ
影時 > 人を殺すなら、殺される覚悟をせよ――なんて説教臭い話をして、そうしようと思う凶手がどれだけ居るやら。
実際、強敵との戦いを愉しみ、嗜む癖を持つ己が、そんな禅問答じみたことが出来ている保証はない。
徒党を組まずに単身で遣ってくるような手合いでないなら、実力の差、力量の差があるなら、結果を押し付けるだけだ。

――だからこうなる。

忍者に関する与太話、噂話は幾つもある。その内の幾つかは事実、可能と云える事項である。
流儀や技等、実現させるための所以にこそ左右されるが、氣の運行による肉体強化は無手の技を飛躍的に威力を高める。
己にとっては、此れが最大の破壊を引き出す手段ではない。
氣の流入量次第でもう少し威力はこそ増せるが、旋回半径、リーチの長さを加算できる刀を使うことが最大の威力となる。
だが、それでも、此れ位は出来てナンボとも嘯こうか。武具を持たずして人を殺せるのが、練達者の証と。

「――ふ、っ……」

手刀に纏わり付く血糊は、氣の巡りに従っておのずと振り払われる。五指には何も残らない。
文字通りに手折り、転がす死体を一瞥し、続く撃意を肌感覚を以て拾う。
挟み撃つ。否、駄目押しがてら三方向から撃ち詰めるつもりであろうか。そう察しつつ、先ずは左から迫るものを認める。
一体多数の基礎は一人で複数を同時に受け持つのではなく、一対一の連続に落とし込むことにある。
目配せで意を汲むのは見事だが、汲む、という処にこそ認識の隙がある。そこに己が身をするりと滑り込ませよう。

細く息を吐きつつ、袈裟切りに打ち込んでくる相手の剣の柄頭を右手で掴み、振り下ろしの勢いのままに腕力任せで引っ張る。
振り下ろしという重力方向に対して自然な動作のベクトルを変えれば、自ずと態勢を崩すことができる。
横薙ぎに剣を振る相手に振り回す動きで差し向ければ、生きた盾に出来る。斬られて悲鳴を上げる肉盾である。
銃口を認めれば、こてりと首を傾げる動きで射線から狙いを反らし、通り過ぎる弾丸の衝撃波に、閉口したように口元を枉げる。

「火守のは、無理に全員仕留めなくともいい。……先に痺れさせた奴ら以外は、用済み同然だ」

覆面の下より、感情を然程篭めることなく響かす声は冷淡。一応、追手は獲物の名を知っていてもそれをそのまま呼ぶ気はない。
何事にも細かな万一を想定し、盗賊ギルドでの通り名を以て呼びつつ、右手で装束の隠しを漁る。
隠しから取り出してみせるのは、薄刃の星状。奇妙に剃刀のように薄く研ぎ澄まされた手裏剣である。
氣を篭めて擲つなら、易く零れそうな利刃とて、重々しい刃物の如く敵を切り裂き、肉に埋まることができる。
横薙ぎに斬られ、よろめく肉盾の首を左手で持ちつつ、右手を振り上げ、振り下ろす動きで二連続で手裏剣を擲つ。

小銃持ちが次弾装填、ないし予備の銃を用意する前に額に白刃を突き立て。
ちら、と視線を遣り、小柄の姿を逃がさじと追いかける姿に掠めるようにもう一枚を放つ。
後者は当たらず、仕留めきれなくともいい。当たらぬなら幾らでも撃つ。だが、怯みを見せた敵を獲物が逃さぬ道理はあるまい。

> やり慣れた連携も、阿吽の呼吸でなければ隙は出来る。達人はそれを見逃さない。
左から斬りかかった男は思うように刃を振れず驚愕で目を見開きながら、仲間の刃によって血飛沫を上げる。
流石と言うべきか、非道と言うべきか、斬った側は肉壁を使われた事には目を瞠ったが、仲間を切ったことへの罪悪感や躊躇と言うものは無く。速やかにその肉盾の命を刈り取り追撃に移ろうとした。

小銃使いは性格に狙いを定め弾丸を放つも、その射線を読まれ苦虫を噛む。闇の中、響き続ける断末魔の悲鳴の傍で暗赤が不気味に光り、低く語る声は底冷えするほどに冷淡。
更に後退し次弾をこめる最中、闇の中を飛ぶ刃が他の者の間をすり抜け…… ――トスッ。と、軽い音を立てて小銃使いの額に突き刺さる。
刺さった勢いのままに後ろへと仰向けで倒れ込む姿に、残った者は小さく悲鳴を上げた。

そして、もう一つ。闇の中へと投げ放たれた刃のもう一方は、その更に奥、背を向け小柄を追う者へと向かう。
だが、それを阻む刃があった。臆しながらも鬼神へ挑む覚悟をした青年が白刃を弾いて落としたのだ。

――しかし、だ。
見る見る間に残るは片手に収まるだけ。
全滅の未来が濃厚になり始め焦りを覚える暗殺者たちの中には、こんなのは割に合わないと逃げ出そうとする者もとうとう現れる。
一人輪から抜け出し荒地の外へと走り出す者を、他の暗殺者は愚者を見る目で送り武器を構える。
そこからは、また一方的な蹂躙となるか。はたまた、死闘を演じられる者が紛れているか。
鬼神を愉しませられる者がいることを弟子は願う。


「……御意」

師の呼びかけに一言だけ返し、陽炎となった小柄は隠形を成す。
のこのこと追いかけてきた追っ手の様子を観察しながら、静かに片手印を組み気を巡らせ。
男の背後、肩に触れるかと言う距離で祈りの言葉を紡いだ。

「――……火之迦具土神に加護乞い願い奉る」

悲鳴もなく命を失った男が最後に見たものは、闇の中で燃える青い焔の揺れる光景――。

影時 > 連携をより効率よくかつ機能的にするとするなら、それこそ以心伝心となる位に鍛える他ない。
或いはほかの方法か。例えば、術者と同じ思考ができる分身が分りやすい。意思を通じて遅延なく動けるならより隙がない。
三方向からの攻め手は即席ながらも考え方、着眼点としては適切だが、処方が悪い。
殺気、敵意を察知出来るものを確実に仕留めたいとなれば、回避の余地もない飽和攻撃、ないし弾幕でなければ拙い。

「……講釈はせぬぞ。教えてやる義理もない」

小銃は弓よりも狙い易い分、見切りが容易い。弾道が重力に引かれるにしても、今から槍で其処を突く――みたいな意を拾える。
鉛弾ではなく、遺跡から発掘されたり、新造されたりする魔法銃等と呼ばれる類なら、勝手が変わったかもしれないが。
ぼそりと零す中、肉盾となった剣士の一人がじたばたと身じろぐ。その首を万力のような五指で捻って、黙らせて転がす。
改めて見るがいい。一方的な殺戮の場と化した修羅場に、遁走し出そうとする有様すら見える。

――逃すか? 否、否。 逃すものか。

死体の始末はつけるかどうか考えるにしろ、首謀者に対する教訓とは惨たらしければ惨たらしい程良い。
昔やったように、この者たちの首を刎ね、首魁の枕元にぬいぐるみよろしく進呈せしめてみようか。
そう考えながら、左右の五指を組む。手指を組み、瞬間的に印を組み、氣を走らせながら両手を突き出す。
刹那、“今の”弟子の緋の眼には見えるかもしれない。師の十本の指先から光のように迸る、極細の線に撚った氣が。
氣鋼念糸の術と呼ぶ術だ。それを遁走する一人の五体に絡みつかせ、ぐいっ、と手繰る。その有様は、糸繰り人形を操るかのよう。

……比喩ではない。逃げたものが身体を強張らせ、軋むような歪な動きで手にする得物を振り上げて、残る者達にぶつかってゆく。
忍法・生き傀儡。木偶人形を得物として操る流派の使い手の技に倣い、真似たとっておきのひとつ。
凄腕の人形遣いには見劣りする点は、真似た分だけ幾つかあろう。だが、彼ら相手に使う分については何ら不足なし。

そぉれ、と普段ならおどけた声も放つが、今はなく。だが、それは嫌でも目に留まる――。

「……! それは……」

青い焔。――まさか、至ったということか。

> 誘き出した一人を不意打ちで仕留めてしまえば、後は戦利品の大柄なナイフと小銭袋を手に戻ろうか。
骸はどうなったか。それについては、おいおい明かすとして。

戻れば逃げ出す者と、それを許さんと五指で手印を組む師の姿。そして、突き出された両の手から伸びる細い線。
闇の中で光って見えたそれが逃げ出した男の身体に巻き付き、捕えて操り人形とする。
そうして、己の意思と関係なしに仲間に斬りかかり、強制的に戦いを強いられる。それこそが臆病者への罰とでも言うように。
中々に外道、非道な術ではあるが……。

良く観て、よく学び、覚える。
人真似が得意な(コピーキャット)は、初めて見る生き傀儡に興味を示し、一部始終をしっかりと記憶し眼窩に飾る緋色を煌々と燃やした。
不意に、師が此方を向いて声を出す。
彼方の残りから眼を放してよいのか、という疑問もあったが、そこはぬかる師でもないと言う信頼がある。
そして、師の驚く理由もわかるので、尾に灯る青い灯をチラリと見てから小さく首肯を返した。

「……ご教授頂きましたこと、再度、理解を深め至れました。感謝いたします、影時先生」

先日受けたアドバイスのもと、思考と試行を繰り返し、魔物との交戦を経て至った成果。
また報告するのをすっかりと失念していた。というのは言い訳で、密かに怪我をしたことを黙っていた手前言わなかったと言う事実は無かったことにして、師へ礼を示す。

「――先生、そちらは……片付きそう、ですか?」

最初に小柄が仕留めた者以外は生かしておく理由は無い。
既にそこいらに転がる無数の骸をぼんやりと眺めながら、苦戦を強いられているだろう残りの暗殺者たちにも遠巻きに視線を向ける。

影時 > 使ってみせる氣で糸を撚り紡ぐ術は、初めて会った際に使って見せた術のひとつ。
色々と使い出のある術だが、そもそもはこうして使う用途の術を原形とする。
人体を模す、昆虫等の別種の生物の構造を取り込む等、精妙と奇妙を併せ持つ操り人形を繰る媒体たる糸繰りの術。
材木をその場で組み合わせて接ぎ、組んだヒトガタならいけそうだが、本来の人形師のようにはいくまい。
とはいえ、発展性やその場に応じた用途を見出せる術でもあったが――さて、弟子への教導に良いかは、後々頭を抱えるかもしれない。
気に掛かることも、ある。初見の際に見たものと云えば、奇妙に脳裏に焼き付いているものがあるのだ。

「――……ご苦労」

あられもない悲鳴が上がり、ままならぬ身体に怒声が響き、罵声の応酬が糸繰りに応じて続き、やがて静かになる。
斬りかからせ、或いは切りつかれ、刺され。折り重なる骸。
手口の多さを見せつけるには良いが、後々見分されると少々厄介ではある。“後始末”の必要がありそうだ。
厄介と云うか、面倒と云うか。内心でそっと息を吐き、術を解く。観測阻害の術はまだ保つ。
麻痺毒を喰らったもの以外は、これで全員片したことだろう。

「どういたしまして、と言いたい処だが、まだ修羅場だ。その名で呼ぶな。
 改めてその炎が如何なるものか、如何なる知見を得たかは、場を改めて尋ねよう……と、一人残ってたか」
 
そんな中、本名を呼ぶ姿に覆面の下で苦笑を滲ませつつ、首を巡らせる。
同士討ち同然に対処し、片したもの以外で、いよいよ恐慌をきたしたのか。細い剣を放り出して遁走する姿を見咎める。
どうにかなるか? 内心で問うまでもない。どうにか、なる。右手を振れば手の中に落ちる棒手裏剣。それを握る。
構える。身を捻るように振り被りつつ呼吸を巡らせ、力を籠める。肉体が一瞬膨れたかのような筋肉の漲りと共に、放つ。
擲つ手裏剣が、ごぅ、と風を渦巻かせ、逃げる敵の後頭部を穿ち、篭められた衝撃のままに爆ぜさせる。

「……此れで片付いたな。
 首を刎ねてコロコロやれる時間でもあれば良いが、持ち込む先が分からなければ意味がないか」
 
敷地の外に出て離れた敵が倒れ伏せ、衰える鼓動のままに血が溢れ、薄汚れた石畳を濡らす。
此れで全て片付いた。生きているのは己と、少女と、麻痺毒を受けたものと。
その一番最後の者を探しせば、腰裏に手を遣りながら歩み寄る。爪先でうつ伏せに転がせば、首筋に雑嚢から取り出す細い針を立てる。
経絡氣脈の流れを見切り、突き立てる針で循環を乱すことによる感覚切断だ。聞き、喋る以外の権利は許さない。認めない。

「……――聞こえるか? 聞こえるならお喋りの時間だ。誰に言われてきた?」

あとは、尋問の時間だ。喋っても良いし喋らなくともいい。
身包み剥がし、所有物を改める。喋るならば洗い浚い吐かせて、最後は痛みなく止めをさそう。

> 五指から糸に酷似した氣を紡ぐ。確か、屋敷で見たアレは、雷霆を纏わせ狼藉者を捕える網だった。
そこから発展して人を操る糸となるとは、実に興味深い。
自由度の高い術を如何に発展させ使いこなすか、それは知識と実戦経験の差をはっきりと知らしめる結果となる。
繊細かつ巧みな氣の操り方は才能でも勿論あるが、日々積み上げた研鑽の賜物であるのだと、師の術を見る度に弟子は実感するのだ。

労いの言葉に会釈を一つ。向こうで響く阿鼻叫喚の騒ぎも、静かになるまでにそう時間はかからなかった。
まだ息がある地面に倒れ伏す男を一瞥し、ぼんやりと彼方を見据えて思案して。
後片付けも必要だが、その前に戦利品の回収をするべきかと折り重なった骸たちの方へ近づこうと足を踏み出しかけ。

「――……これは失礼いたしました。シャッテン・フェレライ様。
 はい、またシャッテン様が覚えていらっしゃれば、お答えいたします」

踵を返して振り返り、盗賊ギルドで聞いた偽名を淡々と告げ、言葉を紡ぎながら再び手の中に何かを握り込む仕草を見やる。
そうして、風切り音を鳴らして振りかぶり――背を向け逃げていた最後の一人の頭蓋を撃ち抜く。
ドンッ、とも。バンッ、とも聞こえるような、おおよそ投擲では聞かないような音に、フードの下の白い耳がパタリと揺れた。

「……はい、お疲れさまでした。
 コロコロ……? 首を、コロコロ……」

辺りは静まり、無数の死体が転がる荒地。その様子を改めて眺め、外に出てしまった骸を回収に向かうか迷っていると、師が歩き出す。
コロコロなんて可愛らしい響きの言葉に首を傾ぎながら、生首をコロコロとボール遊びをするように投げて遊ぶ想像をして後に続く。
向かった先は、生き残りの下。首筋に針を刺す意図は理解できなかったが、何度か瞬きをして両者の様子を観察する。

尋ねられた男は、この先自分に待ち受ける運命が地獄であることを早々に理解していた。
この男は最初に言ったのだ。“ここで命を捨てて貰おう”と。
情報を吐いたところで死ぬなら同じ。生き延びたところで、仕事をしくじった暗殺者など、行く末は見えている。
一人生き残って拷問を受けて死ぬとは。つくづく、貧乏くじを引いたと嘆くしかない。

暗殺者は何も答えず、硬く口を閉ざし殻に閉じこもる。

影時 > 遠目からの観察を阻む――術は使っていても、万全とは思わない。考えない。
その意味では、敵の練度が自分たちに及ばないのは僥倖だった。
同等ないし同格以上の使い手が来たなら、こうはいかない。真逆の有様に自分たちが陥った展開も想定しうる。
だから、手堅い術を使う。手堅いというのは馬鹿にならない。奇を衒って仕損じるより遥かに良い。

「……まったく。こういう時の事を、ワタシが忘れると思うかい?」

偽名を名乗っている時らしく、口調と一人称を僅かに崩して受け答えする――が。
その言い草にこめかみの辺りを押さえつつ、後で問い質そうと心の中の遣ること一覧に刻んでおく。
何かあるな……と見当をつけるのは、今までの経験を踏まえると多分間違いではない。その公算が高い気すらしている。
そう思いながら、血風吹き荒ぶ――というよりは、夏の熱気もあり血風立ち込める領域を見遣る。
骸はこの空き地の一角で穴を掘り、高熱を発する配合の火薬か術で灰に帰して埋めるか、火守の術で荼毘に付し得るか。
臭いについては、出立前に物陰で錬金術で調合された臭い消しのポーションを使う。そう定めて。

「昔、名を忘れたがね。
 ナンタラとか云う貴族が差し向けてきた手勢の首を刎ねて、お貴族様の枕元にころころ転がしたことがあるのさ。
 
 ……おや、聞いたことがあるかい?」
 
  『……! く、首。首置きの、首置きの悪魔か!まだ生きていたのか!?』
  
くい、と顎をしゃくってみせるのは、骸の回収と遺留品の確認をせよ、という意図を示すため。
針で余分な身動きを止め、観察の気配を感じながら聴覚と発声のみを許した敵にも聞こえるように、声を出す。
震えた――ように思うのは、身震いしたように思える氣を敵が発したから。
針で感覚遮断を行い、動けぬ筈のものがそんな有様を見せるのは、多少は事情通でもあった――からなのだろう。

「どうだろうねぇ。さて、君はヴァリエール家の使い走りか?それとも……依頼を見ての、かな?」

とぼけながら、尋問する。時間は限られている中、可能な限り尋ねられるものを尋ね、反応を確かめ――“始末”をつけよう。
仮想敵の走狗であるなら、知るべき以外は何も知っていない可能性は当然にある。
遺留品、所持品を見分して、関与の有無の決め手を探れば確実性は上がる。
そうでない場合、依頼を何処で見たということが分かれば、暗殺者ギルドの出先の所在地を盗賊ギルドで経由で確かめることになるだろう。
此れは必要であれば、確認のために直で出向いても良い。全てが済めば、一先ずの休息を近場の盗賊ギルドの出先に求めたか。

> 畏まった使用人らしい口調はやはり違和感が勝る。が、何処に目があるかもわからないのだから仕方ない。
今暫く、この騒動が収まるまでは執行猶予だと考え、尋ねる声を聞いているのかいないのか、ふいと顔を逸らし勝手に話を切り上げた。
そして、尋問を開始する師の傍ら、ちょっとした昔のやんちゃ話に耳を傾けていれば、無言で指示が出される。

「…………、」

すぐにその意図を察して首肯し、小柄はその場を離れ死体を集めに走った。
既に先に片付けてしまった一つ以外、同士討ちのように重なり合う者や、首を跳ね飛ばされた者、臓物を掻き出された者。最後に荒地の外に出てしまった者も、ずりずりと一生懸命引きずり一つどころに束ねて集め。
財布、獲物、道具、書、くまなく身ぐるみ漁って掻き集め、念のため口の中や胃の中まで捌いて確かめ。
血生臭い仕事もて慣れた様子でこなして終われば、後は尋問が終わるのを待った。

男に与えられた止めは痛むものだったのだろうか。
敬虔な羊ではない猫は、特に気にした風もなく骸の山の傍らで座り込み。
ようやっと片付けの合図が出れば、焔の宿る尾を揺らして珍しく自分から名乗りを上げた。

「死体の処理はお任せください。骨も影も残さず消して進ぜましょう」

――と。
その宣言通り、僅かな時間で骸は跡形もなく燃やし尽くされ、臭いは僅かな焦げ臭さのみを残すだけだった。
死体の処理は暗殺者にとっては悩みの種である。
そう言う点で、また一つ有能になれたことを誇る弟子は胸を張り師を見上げたに違いない。

ご案内:「平民地区~貧民地区」からさんが去りました。
ご案内:「平民地区~貧民地区」から影時さんが去りました。
ご案内:「海賊島レオガン・都市レオガン・宿屋『ジョリー・ロジャー』」にザラさんが現れました。
ザラ > 先日まで艦隊運用で宝探しの冒険を行っていた海賊団。ダイラスで休息の後、一旦艦隊運用が解散された。
その後、小規模の船団や、単艦でそこそこの積み荷がありそうな商船をしばらく襲って、まだ練度の低い船員たちを鍛えていた。
大体1週間程度そういう行動を取っていて、ようやく休息とばかりに戻ってきたのは、海賊島。
本拠とまではいわないが、ここには海賊団の海賊商館があるので、今回のアガリを上納しに来たというわけで。

上納分を割り引いて、ルール通りに船員たちに配分すれば、自分が多めにとることになり、更にそれなりの端数が出て来るもの。
そうなった時にどうするのか?
それは、自分が団長の配下で『仕事』をしていた時と同じである。

「さあ、今夜の飲み食いはアタシ持ちだよ。好き勝手に喰らって呑みな!
飲み食い以外は、さっきの払いで賄うんだからね!」

酒場の一画のテーブルをいくつか占拠して、そこで船員たちの好き勝手な注文が始まる。
程なくテーブルに届くのは大量の酒。己も一杯目のエールのジョッキを手にして、
自分の直下である航海長に乾杯の音頭を取らせる。
何時もの無茶ぶり故に、慣れたものである航海長は、うまいこと音頭を取って、

「乾杯!」

船員たちと乾杯を唱和する。
乾杯の後、ジョッキのエールを一気に煽り、飲み干してから、食事も始める船員たち。
あとは好きにさせるため、暫く楽し気に見やってから、頃合いをみてテーブルを離れる。

離れた後はカウンターへと移動して、エールジョッキを置いてから

「ブリザード。あとは適当につまみ見繕って。」

別の酒とつまみで一人飲み開始。
船長が目を光らせていたら流石にはっちゃけることも出来まいと。
レオガンでは船を奪われる心配がないため……そんなことをしたら、島中の海賊に全世界追われることになるので……
船員たち全員で好きに飲ませるための策、という訳だった。

ザラ > 「ん?……まぁ、いつものよ。仕事熱心だって?馬鹿言わないで。
楽できるなら楽死体に決まってるじゃない。
でも、次から次へと別の船に乗せる子育てなきゃなんだから、アタシの仕事はいつまでも終わんないのよ」

海賊船員など、消耗品だ。
一部の能力が高い者、運が強いものは長く生き残ることもあるが、ずっと生き残るだなんて余程の一握り。
ならば、つぎからつぎへと連れ込んで、育成する必要がある。
海賊から足を洗って一般船員になるような連中もいるが、そんな幸運なものなど本当に少ない。

ならば、育て続けて消費し続けるしかない。
だから、海賊は船員でも普通の仕事よりはるかに儲かる金が貰えるのだ。
半分以上は危険手当とでもいうかのように。

今日もこの酒場はにぎわっている。
海賊たちのオアシスである以上、色々な海賊船、海賊団が集まっている場所だ。
場合によっては新しいコネや新しい情報、新しい儲け話なども手に入るかもしれない。

ザラ > しばしそのようにバーテンと会話をした後で、別の海賊団のものから声をかけられる。

「あら、お久しぶり。え?……まぁ、ボチボチよ。」

よくある挨拶と、世間話。
ちょっとした猥談に、それとない誘い誘われ。

そんなよくある光景を繰り返していけば時間は程なく過ぎていく。
三々五々と、娼館やなじみの男女の元へ向かっていく自船の船員たちの様子。
大体宴会も終わりと察すれば

「じゃぁ、チェックで。……あら、思ったより安かったのね。
まぁ、今回は食い気より色気ってことかしら。」

そんな言葉と共に支払いを済ませれば、己も今日声をかけてきた中で、一番良さそうだ、と思った相手とどこへともなく消えていった。

ご案内:「海賊島レオガン・都市レオガン・宿屋『ジョリー・ロジャー』」からザラさんが去りました。