2025/08/11 のログ
ご案内:「王都マグメール 富裕地区/料理店」にヴァンさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区/料理店」にナイトさんが現れました。
ヴァン > ホテル・ロワイヤルの一階レストラン、オープンテラス席。
陽は傾き始めてはいるものの、まだまだ通りには熱気が残っている。
その熱気を遮るように張り出したサンシェードと冷気を送る魔導機械のおかげで、テラス席は室内と変わらない快適さが保たれていた。

そんな席の一つに、壮年の男がいる。
グレーのジャケットに揃いのスラックス、ライトブルーのシャツ。
銀髪のオールバックは普段伯爵家に赴く時と変わらないが、騎士服とはまた違った趣がある。
男は恭しく席を引いて黒髪の少女に着席を促している。
レディファーストといえば聞こえは良いが、どこかおどけたような雰囲気が漂っている。

「試験の成績が優秀だったから、そのお祝いに。アフタヌーンティー、好きなんだろう?」

理由を答えるようにどこから仕入れたのか、そんな情報を口にする。
とはいえ、デリカシーの無い男がそんな理由で祝うとは思えないだろう。
そもそも、祝うだけなら利用券を渡せばよい。一緒に行く事が少女にとって減点要素になっている可能性も否めない。

「それにしても驚いたな。馬子にも衣装とは言うが……こんな美人さんだったか?
……あぁ、うん。黙っていれば、かな」

そっくりそのまま自分にも当てはまりそうな言葉をのたまいつつ、感心したように私服姿の少女を見遣る。
屋敷ではメイド服か、それに部分鎧をつけた姿しか見たことがなかった。
少し距離はあるが他の利用者や店員がいる。ぎゃーぎゃー喚かないように牽制として軽く釘を刺した。

ナイト > 照り付ける日差しの中、快適に作られたテラス席のなんて贅沢なことだろう。
流石はホテルのレストラン。下町の喫茶店とは一段違う気配りから高級さが漂っている。

紳士のエスコートを受け、少女は黒髪を靡かせながら引かれた席へと腰を下ろす。
いつものメイド服はお休みで、年頃の娘らしい流行の黒いワンピースに身を包む姿は、どこからどう見てもただの可憐なお嬢さん(当自比)である。
男が口を開くまで、どうにも腑に落ちない、怪しい、と疑心に満ちた目をしていたが、理由を聞いて。

「なーんだ、そう言うこと。急にお茶の誘いなんてするから、また何かの罠かと思ったわ。
 でも、そうね……。お祝いって事なら、来て良かった。
 どうせなら、アンタより友達と来たかったけど……贅沢は言わないでおくわ。
 ところで、私がお茶好きだって誰に聞いたのよ?」

納得したり、残念がったりと忙しくコロコロと表情を変えて。
友達と言っても、現状誘いに乗ってくれそうな子は知らない内に屋敷を去ってしまったようで、当てがないのだけど。
そこは短く嘆息して胸の内に隠す。
そのまま話を切り替えようと問いを返すのだが、正直すぎる相手の反応に。

「~~~っ! あ、アンタねぇッ! 人のこと言えた口か!
 ……ったく、何で素直に褒められないのかしら」

パンッ! と軽く両手で机を叩いて、一度荒げそうになった声をグッと堪え、小声で文句を吠える。
この教官は相変わらずの性格をしているようだった。

ヴァン > 相変わらずの態度に笑いつつ、少女から聞き慣れない言葉が発せられたので目を見開いた。

「トモ……ダチ……? ナイトさん、屋敷外に友達がいるのか? えっと……空想上の、ではなく?
十三師団の頃からのつきあいとか、茶飲み仲間とか、なんかそういった感じの……?」

数日間屋敷に滞在したことで、屋敷内にはいないという断定めいた口調になるのは許されたい。
普段、男は少女をからかうような態度を終始崩さないが、今は本当に少女の体調を心配しているような口ぶりになっていた。
誰に聞いたか、というのには首を傾げて。

「夜の試験で紅茶を淹れると、美味しそうに飲むし感想もしっかりしてる。
大抵の人は紅茶の違いにあまり興味を持たないし……誰から聞いたっけな。伯爵だったか……?
今日の紅茶は渋みとコクが強いものを選んだ。ミルクティーにするといい」

己の実感と誰かからの伝聞。とはいえ情報源はあやふやなようだ。
この少女のことだ、情報源を明かすと不利益が出ないとも限らない。

四人掛けの円形のテーブル、男は少女に向かい合う席ではなく横の席へと座った。
三段のティースタンド、ポット……店員の手によってまたたく間に準備が整う。
最初の一杯は店員がサーブするらしく、しばらく黙っていた。店員が立ち去るとカップを手にとりながらにやりと笑う。

「俺も黙っていれば格好いいってことか?
……さて。ここに連れ出したのはもう一つ。何か聞きたいことはないか、と思ってね」

伯爵家の屋敷内ではどこで誰が聞いているかわからない。
場所を変えることで交流を深められればと思ったが、さて。

ナイト > 驚きと困惑に満ちた表情、そして心配までされては黙ってはいられない。
ぐわっ!と毛を逆立てる勢いで身を乗り出し。

「なっ! 何よ、友達くらい私にだっているわよっ! ちゃんと! 実在してるし! 私は正気よ!?
 失礼ね……。私のことなんだと思ってるのよ?
 普通に、ヴァリエールの屋敷で働くメイドよ。……最近は、顔見てないけど」

周りの迷惑を考えつつ、ギリギリの音量で唸って吠えて何とか堪えている。
口を尖らせながら、行儀悪く脚を組み頬杖までついて、最後はふいっと眼を逸らし声は小さくなっていた。
紅茶好きを知るに至った話に耳を傾けては、一応納得したように相槌を打った。

「……意外と人のこと良く見てるじゃない。
 剣の腕前以外にも、取り柄が合ったか……。仮にも教官を任されることはあるってことね。
 ああ、そう言えば、アンタって旦那様からの推薦なんだっけ。ふーん……。
 どーも。ええ、そうさせてもらうわ」

曖昧ながら、筋道が通っていればあえて疑うこともない。
向かいではなく隣に腰掛けて来る男を横目で訝しげに見ながら、運ばれて来た茶器と店員の仕事ぶりには、嬉しそうに、上機嫌でにっこり笑みを浮かべた。

「んーっ、ふっふっふーっ! これはかなり、期待できそうな予感っ♪」

わくわくっ、うきうきっ。紅茶の注がれたカップに手を伸ばしつつ。

「――……つくづく教官殿は都合の良い耳をしてるようね。
 聞きたい事? 何よ急に……。例えば、アンタの弱点教えろって言ったら、教えてくれるわけ?」

戯言には半笑いを、そして思いがけない言葉に首を傾げて手を止める。
どういう風の吹きまわしか、やはり訝し気に目を眇め尋ね返す。
なんだかんだとあった訓練の日々の中、結局一度も相手から真面に一本を取れなかったことは悔しいようで。

ヴァン > 「周囲とうまくあわせてやっていくことが苦手なお嬢ちゃん。
――あの屋敷は広いが、同じメイドなら顔くらい合わせるだろう。
お嬢ちゃんと仲良くやっていけそうな子は見た覚えがないな……」

何だと思っているのか、にはさらりとツッコミを入れる。
友人について言及されれば、似たような年頃のメイドを思い浮かべた。どの娘も目の前の少女と積極的に関わろうとした記憶がない。
さりとて嘘をついているようでもなく――なんとなく合点がいった。

「選んだ茶葉を美味しそうに飲んでくれれば、そりゃ記憶にも残るさ。
白兵はともかく、戦術はそれほどじゃない。あくまで基本に忠実に、ができる程度さ。
うーん……あいつからの依頼なのはそうなんだが」

伯爵のことをあいつ呼ばわり。伯爵とこの男、ただの取引先、という関係ではないらしい。
テーブルに並ぶ茶器を見て嬉しそうな表情をする少女を見て、つられるように微笑んだ。
弱点、と聞かれると肩を竦める。

「俺も人間だからな。弱点くらいあるさ。
白兵も魔術戦もできてイケメン高身長な王侯貴族なんて、完全無欠な存在を相手にしても面白味がなかろう?」

最近の若者向け――特に恋愛小説に出てくるお相手役(スパダリ)に思う所があるのか、冗談めかして。
ティースタンドの一番下、サンドイッチとキッシュをフォークとナイフで己の更に移しながら告げる。

「弓は苦手だ。力を抜けと後輩には言われたが、なかなかうまくいかん。
騎士なのに馬を戦場に突っ込ませることもできん。仲間との連携も小隊規模が精々だ。
誰かさんみたいに、単独で戦場を荒らしまわるのが性に合ってるんだ。
っと……俺についてでもいいが、伯爵家の動向について何か思う所はないのか、という意味だ」

ナイト > 「ぐぬ……。なかなか言ってくれるじゃない……。
 私は陰口叩いて慣れ合ってるような群れに加わるつもりがないってだけよ。
 友達はいるにはいるのよ、本当に。
 ただ、前々から数日屋敷をあけることはあったんだけど、ここ何か月も顔を見てないの。
 旦那様に聞いても今は忙しい、使いに出しているって、そればっかり。
 あの子、なにかトラブルにでも巻き込まれたのかしら……」

サラッと言ってくれちゃうので、ぐぬぬと悔しそうな顔になるのも仕方ない。
物は言いようで、孤高の狼よろしく偉そうに腕組をしてフンッと鼻を鳴らした。
だが、友人の話となると少し声が沈む。
少女が友人を心配しているだろうことは、その憂う表情を見れば明らかだろう。

「あの地獄のような座学とテストの時間で、唯一の楽しみだったんだもの。実際、お茶は美味しかったしね。
 ――で、その基本を私にも叩き込もうとしたと。
 なんか、歯切れ悪いわね。って言うか、旦那様に対して馴れ馴れしい……不敬よ?」

思い出すだけも辛い時間だったと、涙も出てないのに目じりを拭う仕草を見せて。
カップを手に取り、隣で微笑む顔を見て首を傾げた。
相手は聖騎士、貴族である可能性が高いが、それにしても距離が近くないか?と。

「うわー……、自分でそれ言う?
 あら、以外。何でも使えるもんだと思ったけど、弓は苦手でしたのねー。
 残念。私も馬は乗らないけど、走ったほうが速いし。弓は使うのよ。それもかなり上手いんだから」

上げられた特徴は、今まさに女子に人気の小説に出て来る英雄様だが、悔しいことに相手にも当てはまる点が多いと言う。
呆れた半目で少し引きながら紅茶を一口。まずはミルクは入れずに味見して。
その香りと味に舌鼓を打ちつつ、この渋みにはやはり、とミルクの壺に手を伸ばす。

「――伯爵家の動向?
 んー……そうね。お家のことは、私はよくわからないからアレだけど。
 ……いなくなった子のことが気になるわ。メイドだけど、結構腕もたつのよ。
 貴族同士の会合や、挨拶回りに行く時とか、私とあの子で警護したこともあるくらいにはね。
 元気にやってるなら良いんだけど……」

カップにミルクを適量注いで、スプーンで混ぜる。
ぐるぐると回る渦に不安や疑問が溶けることは無く、溶けていくのは角砂糖だけだった。

ヴァン > 「ま……仕事で連携がとれればいい。近衛兵として、彼等は君より力は劣るがそれでも戦力になる。使い方を心得てくれ。
何か月、ねぇ……お勤めが嫌になって逃げだしたとか?」

心配そうにしている少女を前に、トラブルに巻き込まれたのだろうという程無神経ではない。
無難そうな返答をしておく。男が今ここにいるのも、その“友達”が原因なのだが、今は伝える時ではないだろう。

「あの屋敷の広さ程度なら、警備体制の最適解はそういくつもあるもんじゃない。
そうだ。お嬢ちゃんは強いがまだ粗削りだ。メイド業は門外漢だが、戦うことなら教えられる。
え? あぁ……言ってなかったっけか。詳細は省くが、俺とあいつはタメ――身分としては、ほぼ対等だ」

嘘泣きする仕草には、それほどのことをしたかとわざとらしくとぼけた顔をする。
不敬、という言葉に対して顎に手をあててみる。二人の齟齬に思い至ったかあぁ、と声を漏らした。

「あいつとは歳も近くてな。みての通り性格は全然違うが、なぜか馬が合った。
今、あいつは――先代に引けを取らぬと、内外に示したがっている。自然な成り行きだが、必然的に無茶もする。
王都内で彼を守れるのは近衛兵の連携と、君だけだ。期待してるぜ?」

言外に、行っている無茶が周囲の耳目を集め、護衛が必要になっていると伝える。
普通の人間相手ならば王都で大きな問題はないだろうが、高レベルな相手の襲撃には近衛兵だけでは不安が残る。
少女は最後の砦として活躍できるだろう。

「……いや、俺は当てはまる所そんなにないだろ。人間、弱点や欠点があってこそ面白いし、絡む甲斐がある。
投擲はまだなんとかなるが、遠くに狙いをつけるのが苦手なのかもわからん。
屋敷の護衛なら弓を使う機会はないだろう。もしあったら、だいぶヤバい時だ」

どうやら少女は男が完全無欠に近いと自認していると誤解しているようだった。珍しく慌てて否定する。
あと5cm欲しかった、と呟いたのは気のせいではないだろう。
紅茶に一口、渋みを楽しみつつも口許が少し歪む。

「君と警護を務める……ってことは、それなりの手練れか。
なら、どこかからスカウトでもされたんじゃないか?
辞めますの一言もないのは珍しいが、古巣に言い出しにくいのは理解できる」

少女から得られた新しい情報。自然と思い浮かぶことを口にする。
消息不明の友人がどこで何をやっているか。不安は尽きぬだろうが、安心できそうな言葉をかける。