2025/07/27 のログ
ご案内:「王都平民区 深夜の大通り」にミランダさんが現れました。
ミランダ > ……月がでている。

夜も更けて、日中は暑さに負けないぐらいに人と活気で満ちていた大通りも眠りにつくそんな時間帯。

真夏の暑さから解放された時間帯だからか、散歩にはちょうどいいのだろう。
大きな三角帽子を被った魔女が、愛犬を連れてのんびりと歩いていた。

「……ちょっとは涼しいけれど」

細い女の指がローブの首元にひっかかり、ぱたぱたと前後に。
衣服の上からでもくっきりとわかる胸へ、夜風を送り込みながら一つ、息を吐く。

数週間ほど忙しい時期があったが、それも一区切り。
……なんとも刺激的な日々ではあったが、こののんびりとした日常も替えがたい。
軽く涼むために足を止めた飼い主を待つように、愛犬はその足元で主の次の行動を待つだろうか。

ご案内:「王都平民区 深夜の大通り」にミランダさんが現れました。
ミランダ > 時間が時間だけに人通りはまばら。
それでも出歩くのは――よっぽどの変態、変質者か。 もしくは闇に紛れて獲物を求める狩人か。

それらから見れば、犬を一匹連れているだけのこの女はどのようにみられるだろうか……。

「なーんて」

重みが感じられるお尻を小さく左右に揺らしながら再び女の脚が動き出す。
声をかけられた愛犬がやれやれとばかりに首を振りながらその後をついていくだろう。

ご案内:「王都平民区 深夜の大通り」にミランダさんが現れました。
ご案内:「王都平民区 深夜の大通り」からミランダさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 ヴァリエール伯爵家邸宅」にヴァンさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 富裕地区 ヴァリエール伯爵家邸宅」にナイトさんが現れました。
ヴァン > 銀髪の男は昼間の詰襟姿とは別人だった。
ベージュ色のジャケットに黒のシャツ、そして濃紺のカーゴパンツ。小金持ちの平民といったところ。
それよりも目をひくのは髪型だ。オールバックにしていたそれは左右にわけられ、額を奇妙な模様のバンダナで覆っている。
髪をおろすだけで三十そこらの壮年が二十半ばの青年に変わったような錯覚さえ与えるだろう。

詰襟はクロークにでもあるのか、一見室内には見当たらない。腰に差していた打刀はベッドの上に無造作に置かれている。
テーブルの上には二人分の食事の跡。男に帯同者はいない筈で、奇妙に見えることだろう。

「そろそろ来るか……」

椅子に座りながら、扉へと視線を向ける。
少女騎士が現状をどう認識しているかにもよるが、彼女も食事を終えた頃だろう。

ナイト > コンコンコンーー。
ノックの音が三度響き、返事よりも早く扉が開かれる。
少女は長い黒髪揺らしながら、カッ、カッと靴音を立てて部屋の中央、彼が座る椅子の前まで来ると腰に両手を添え言い放つ。

「ナイト・ブラックフォード、参上したわ。
 で、呼び出した当の教官殿は何処かしら? まさか、忘れてすっぽかしたんじゃないでしょうね?」

軽く辺りを見渡しても、そこにいるのは若い青年一人。部屋に教官の臭いは確かにあるのに姿は見えず。
他にも、ベッドの周辺から妙な気配が漂っているが、それもあの教官の物ではない。

まさか本人とは思わずに、目の前の青年を睥睨しつつ握り拳を揉んで尋ねる。

「アンタ、あの男が何処に行ったか知ってるなら、優しく聞いてあげる間に答えなさい」

パキポキと、指の骨が小気味よい音を奏でている。まるでカウントダウンのようだ。

ヴァン > 男が声をあげるより先に扉が開く。
せっかちそうなのは想像通りか。ずんずんと近づいて、目の前に立ちふさがるような少女を見上げた。
客人が――それも貴族が、堅苦しくて疲れるからと服装を変えるとは少女は思ってもいないのだろう。
あるいは、外見の変化をからかってでもいるのだろうか?その冗談につきあってみるのも悪くない。

「忘れてはいないとは思いますよ。
それにしても……素直に来るとは意外でした。有効打を当てたと証人を集めたり、伯爵殿に直訴に行くものかと。
……あ、どうぞ。ありがとうございます」

少し声色を変えて、普段より高い声を出してみる。青年時代はこんな声だった気がする。自分のことは覚えていないものだ。
二十代半ばの己の振る舞いを思い出し、穏やかに微笑んでみせる。

男が声をあげた後、またノックの音がした。メイドが配膳台を伴って訪れた。二人分の食器を片付け、大きめのポットを置いていく。
メイドは呼び出された同僚をどんな目で見ていただろうか。

「……まぁ、立ち話もなんですし。座られては」

正面の椅子とソファの椅子、好きな方に座るようにと手で示す。ソファテーブルには数冊の本が積まれ、紙片が拡がっている。

ナイト > あの男(教官)の使用人……と言う雰囲気でもない。身なりはラフだが安物と言うわけでもなさそうだし。
どういう間柄なのかと疑心に満ちた瞳が男を見据えていた。
口を開けば見た目どおりの声音に、爽やかな笑顔。悪くは無いが、何か裏を感じる其れを少女は胡散臭いと評し、彼を優男だと断定する。

「あら、証人なんて必要は無いわ。アレが有効打なのは、本人が一番わかっていることだもの。
 それを無効だなんだと言うようなら、ますます悪い噂に尾ひれがついて回ることになるわ。
 まぁ、認めないようなら旦那様へ直談判しに行くつもりではいるけどね」

軽く肩を竦めて返し、後から来たメイドが茶器を運び込むのを横目に、フンッと鼻を鳴らして男を睨む。
メイドは慣れているようで、客人に対するナイトの不敬な態度を諫めずにそそくさと準備を済ませ、部屋を後にするだろう。
触らぬ神に祟りなし。よく吠えて噛みつく犬には関わらないのが一番である。

「……それもそうね。じゃあ、アイツが帰ってくるまでここで待たせてもらうわ」

ふむ、と頷き、腰に添えていた手を下ろし、ソファの方へと寄ってポスンッと腰を下ろす。
行儀悪く足を組んで、テーブルの上に広がったままの本に興味本意の目を向けて、何があるやら……。

ヴァン > じっと見つめられると、困ったように微笑む。どうやら本当に気付いていないらしい。
男は立ち上がると棚に置かれたポットをとる。話しながらお茶の準備でも進めるとしよう。
戸棚に置いてあった私物と思しき袋から茶葉を取り出す。

「おや……審判の近衛隊長殿はそうおっしゃっていましたか?
有効だ無効だの歩み寄らない主張は、最後は立合人の証言や傷痕などの動かぬ証拠で決まるものです」

昼の立ち合いで少女の動きを目で追えたものはいなかっただろう。
観衆は結果だけ、つまり倒れ伏すナイトを見た。有効打を当てたと自信を持って言える者はいない。
男は誰かに見咎められる前に己の右手を治療していた。聖騎士の特技ともいえる回復術は痕一つ残らない。
気絶しているうちに少女の武器も検め、ささっと付着した血を指で拭っておいた。
証拠の隠滅、証言者の不在。卑怯という点において、この壮年の男は少女よりも遥かに経験を積んでいた。

去っていくメイドが食事を配膳する際には男はもう着替えていた。少女が勘違いをしている姿は滑稽に映っただろう。
パタリと扉が閉じられるのを一瞥した後、茶の準備をしながらソファへ座った少女へと告げる。

「私が聞いているのは、そちらの本が役立つ、と……お読みになったことは?」

人体の造りを解説した本、剣術の指南書、そして用兵術に関する本。
どれも王国の共通言語で書かれた本だ。

ナイト > 「近衛隊長ははっきりと断言はしていなかったわ。と言うか、見えて無かったそうよ。何のための審判何だか。
 そうねぇ……。証人がいない、傷痕がない、それを盾にとって交渉するつもりなら、再戦を申し込むのが妥当でしょうね。
 今度はお互い真剣で、舞台は“決闘”になるでしょうけど」

証人をでっちあげるにしても、残念ながら人徳がない少女では難しい。
数十秒の気絶で証拠になりえるものは破棄され、証明もままならないとあらば……。

――よろしい、ならば戦争だ。

などと、そこまで拗れて大事にするのは、相手も本意ではないだろう。と言う希望的観測。
まぁ、仕掛けるにしても、相手が自分に何をさせようとして呼び出したのか、その内容を確認してからでも遅くはない。
茶葉の蒸される良い香りが漂ってくるのを嗅ぎ取ると、クンクンと興味深そうに本に向けていた視線は青年の方――ポットへと向かう。

「読んで覚えるより、体で覚える方が得意なのよね。実戦派って言うの?
 ほら、机上の空論じゃないけど、文字で書かれてることだけじゃわくわくしないでしょ」

剣の指南書でも役に立つものは多くあるけれど、生きた剣を学ぶ方が良いと言う。兵法や人体についても然り。
これら全てを満たす戦場で学ぶのが最も効率が良いと言い、少女はふふんっと胸を張って自慢げに笑みを浮かべた。

ヴァン > 「なるほど。最後の最後まで勝利を諦めない姿勢は素晴らしい。
まぁ、一般的に夜に部屋に来い、と貴族が言うのは夜伽の申し付けですから、必死にもなるでしょうな……」

思った通りだ。状況が敗北を示していてもなお喰らいつく気概は望ましいものだ。
もとよりそういった意味で来訪を命じた訳ではないが、多少脅かしておこう。
伯爵が客人に供するのとは別の茶葉なのか、果物のような香りが広がる。

「シェンヤンの南の国、高地地帯でとれたお茶です。お口に合えばよいですが。
まさにそこです。実践はより身近に経験を得られますが、逆に言えば経験しないことは身につきません。
経験という経糸と知識という緯糸があって、強い布ができるのです」

武力を稼業とする者は往々にして知識を重んじない。口伝や稽古、実践で得られたものは書に立ち戻ることでより強靭になる。
体系だった知識の習得も可能になるが――今の少女には伝わらないだろうか。

棚でカップに紅茶を注ぎ、少女の前へと供した。淡いオレンジ色で、果物のような香りはより強く感じるだろう。
男は自分のカップを少女の隣に置いて、半人分空けて座ろうとする。
どうやら男の方には酒と何かが入っているようで、より甘そうな匂いが漂ってくる。尻ポケットにスキットルをしまうのが見えた。

「どうぞ。お茶菓子はありませんが……」

ナイト > 「う゛。……アンタねぇ、あえて考えないようにしてるのに、わざわざ言葉にしないでくれる?
 まったく、デリカシーってものがないのよ。アンタ絶対もてないでしょ?」

褒めて落として、上がったり下がったりの気分の落差は軽いものだが、それでも腹を立ててついつい眉間に皺が寄る。
乙女の一人として物申しているわけだが、相手の悪名を悪びれもせず連呼していた駄犬がデリカシーを説くとはこれ如何に。
感情に任せて言い返しはしたが、特に最後は自分にも刺さる特大のブーメランでもだった。
ぐぬぬと唸りながらも、漂う嗅ぎ慣れない香りで気分を変えて。

「へぇ。初めて嗅ぐ匂いだわ。悪くない……。頂くわ。

 ――ぁ、ちちっ……。フーッ、フーッ……。
 あ、結構美味しい。これ、この街でも手に入るかしら?

 ……アンタの言うことには一理も二理もある。それは認めるわよ。
 実戦ありきなのは変わらず当然だけど、多くへ広めるために本に残す意味は分かるもの。
 知識としてでも多くを知っていれば、強力な相手に当たっても対応できる。選択肢が増え、被害も最小限に抑えられる」

相手の言わんとすることはわかる。相槌を返しつつ、出された紅茶を頂いて。
匂いを嗅ぐ。フルーティーな、柑橘系の果物の香りが強い。刻んだ皮でも入っているのだろうか。
軽く舐める程度に味を確かめてから、毒が入っていないと確信を持ってようやく口をつける。
間を空けて腰を下ろすなら咎めることは無く、僅かに相手のカップから異なる匂いが混じっているが、酒ともう一つは……なんだろう?

「でも、面白くないのよ。小説みたいに、わくわくしないの!
 本はもっと誰もが楽しめるように書くべきだわ。そう言うところが学者や武術家ってつまらないのよね」

相手の言葉に応じるように、カップをテーブルに一度起き、スカートのポケットを探って包みを取り出す。
開けば、中には数枚のクッキーが入っていた。
クッキーを二人の間、丁度ソファの空席の前になるようテーブルに置いて、一枚つまんで口に放り込む。