2025/07/02 のログ
ご案内:「九頭龍山脈 山中某所」に影時さんが現れました。
ご案内:「九頭龍山脈 山中某所」にさんが現れました。
影時 > 「十把一絡げも云うのも、頭ごなしのようで好かねェな。
 ……そうだな。どうしても必要と感じたら、だ。
 どうして必要なのかをその時の俺に納得させられるなら、善しとしようか。
 そうでもなかったら、篝。お前さん、常用しかねんだろう?ン?
 
 俺としては、だ。薬は是が非でも。その時の局面で勝たなきゃならんなら、使う。
 ほら、あるだろう?筋力やら動体視力を上げるような魔法薬。俺が使うならあの辺りだが。
 薬が無けりゃ全力を出せぬ、安定せぬと云うなら、それは己が思う力と平常の前提が誤っているに他ならん」
 
己が考える薬と娘が使う薬の認識違い、というのもあるかもしれない。
が、過日の屋敷での遭遇、交戦の末捕縛したとき、改めた荷物の内容と物言いから色々と察しえたものは多い。
麻薬ではないが、適量を超えて過剰摂取(オーバードーズ)していたとしか思えない状況は看過し難い。
ああ言えばこう云うの応酬自体は、嫌いではないにしても、まだまだ尾を引きそうだ。
そうと思えば、条件を一つ加えよう。常用はさせないが、いわば事前申請や審査の如く、可否を判じようと。

だが、矢張りと思うものはある。まるで暗殺者としての自分に薬が必要と思っていそうな節だ。
またそれと言われれば、“大事なことだからなあ”と小さく零す。
忍びでも暗殺者でも何であろうとも。何かを欠かした途端、安定しなくなる強さは、きっと強さではない。
駒ではなく人とするのも本心ではあるが、心情、信念の問題でもある。
ただ、行為で依存を置き換えようにするのは――愛でているという言い草、言い方がどこまで通じるやら……。

「ぇ゛ー。いーじゃねーかよーぅ?減るもんじゃあるまい……と。」

さて、そんなに話したくないような事項か。門外不出めいた類か。
分かりやすい位に話したくなさそうな素振りに、猫撫で声めいた胡乱な声を挙げつつ、思考を巡らせる。
秘伝にも機密にも加え、もっと根本的に、気にすべき事項もある。
――もう、夏だ。夏はと思えば、冥府から戻る亡者を迎える季節である。この国には無い習慣だろうが。
この暗殺者でありたい――と思っている娘の親父殿や御母堂の墓、遺体の在りかが分かるなら、どうにかしたい。
聞いた限りの現状を思えば、二人ともこの世のものではないのは明白と思って相違あるまい。
そう考えつつ、じぃ、と。真面目に緋色の目を見遣り。

「そりゃあ家庭教師に、学院の講師もやってるからな。
 ……そう言ってくれるなら、考えてみた甲斐もあるってもんだ。水ならば……」
 
忍術については、教える相手は極々限定しているが、色々と教えることには事欠かない。
教えられるのは自分が熟知している範囲だが、その範囲内であれば如何様にも出来る。
水を媒体に使った分身であれば、今居る場所は“材料”に事欠かない。
印を組み、締めに人差し指と中指を揃えた剣指を結び、氣を奔らせつつ川の水面を指し示す。
すると、水柱が立ち上がり、上空で結実。術者と寸分たがわない姿が娘の後ろに飛び降り、跪いてみせる。

――今の術は、氣を感知できる感覚があれば、ふと気づいたかもしれない。
陽炎分身の術よりもほんの少し、結ぶ印の数と氣の消費量も少なかったであろうと。
“その場”にあるものを活用できるなら、わざわざその場にないものを生むよりも、面倒が少ない。

「おうとも。素地はあるにしても、一から始めるようなもんだ。手堅く、焦らず、だ。

 ……此れは流派にもよるだろうが、な。
 俺が認識している範囲なら、呼吸と共に生じるチカラが氣である。
 呼吸の技を能く練り、平時より氣を常より多く生じる状態を保てれば、総量を増やせると云える。

 人からってのは、あれよあれ。房中術なンて言葉、聞いたことがあるかね?」
 
己が述べた手段、概念には一つ留意点がある。手っ取り早く劇的な手段ではない。
方法論としては間違いない筈だが、個々人の素質、才能次第による上限とも云える歯止めがかかる。
この自分のような域を、ということを言いたいなら、非常に難しいと言わざるを得ない。
そして、ふと。人が悪そうな面持ちをしてみせながら問い返す内容に、心当たりがあるだろうか。

> 「……それは、難しい問いかけです。仮定は仮定に過ぎませんので。
 ですが、理由があれば返却されるとは、良いことを聞きました。思案します。

 ん……。先生のおっしゃりたいことは理解しました。
 薬を使っての強化、ドーピング……は、一時的なもので中毒性の無いものが主流だと認識しています。
 私は、其方の薬に頼るつもりはありませんが……。

 ――では、平時からそう在れるよう、殺し……或いは討伐の依頼を中心に熟し、慣れるよう方針を変えます」

都合の良いことだけを記憶して、頭が痛くなるようなことは弾くように耳を跳ねさせる。
そうして、師への交渉権を得て。次いでは方針の変更を申し立てて、じぃっと射貫く様に見上げた。
今任せられる情報収集のお題を完了させ、常に緊張状態にあれるような仕事を詰め込んで行けば、いずれは其れが日常となる。
不要なものをそぎ落とし、不安定さが無くなれば良いだろう。
そう言った考えからの提案である。

「減りません。が……先生は、心配と小言が多すぎるので。 ――?」

門外不出かどうかはさておいて、うかつに話して薬や自爆のように禁止にされては敵わない。
この人は何かと心配性が過ぎると言うのが弟子から師への評価であった。
付け入る隙でも探すような声を聞きながら、緩く首を横に振り、耳を反らして否を突き返す。
師が親身に弟子やその亡き父母まで気にかけていると言うのに、当の本人は猫なで声を鬱陶しそうに聞き流して。不意に暗赤の目が此方を見据えることに気付けば、頭上に疑問符を浮かべ、ゆらりと尾を立てて警戒態勢に入る。

「……今度は、水。先ほどよりも出来上がる時間が早いです。
 先生は、苦手な術などは無いのですか?」

また気軽にやって見せられる分身の術。今度は川の水を媒体に作られたものだ。
元からその場にある物を使えば、氣の減りが抑えられるのは道理。
少女自身もその為に火の魔道具を身に着けている故、それは身をもって知っている。
それはそれとして、雷……は木行、水行と術を使いこなす師に不得手はないのかと首を傾げて問いた。

「はい。手堅く、焦らず。承知しました。

 呼吸法で、氣の巡りが変わるものですか。……なるほど、其方も機会を設けて指南を願います。
 ぼーちゅー……? 申し訳ありません、存じません」

氣の練り方や考え方は、大きな差は感じられない。ならば、その呼吸法に違いがあるのか。
気になったもの、学べる機会があるならば是非其れもと口にして。
尋ね返された言葉に聞き覚えはなく、字面もわからないので首を傾げるしかない。
何やら意地の悪そうな顔をしているので、あまり己にとって好ましくないものなのではないかと言う予感がうっすらとしていた。

影時 > 「俺を納得させられることを言えたなら、な?
 もとより、常用を飛び越えて飲み過ぎであった様を前科、と呼ばずして何と呼ぶやらというのに。
 
 一番真っ当な類な奴ならそうだ。
 だが、どうしてもどうしても強くなりたい強いままでいたいだから薬を呑まなきゃ―……、と。
 こンな負の連鎖に陥る奴も、世の中少なくなくてなァ。
 一応釘を刺しておく。平時で十割の強さを維持するつもりで居るなよ? 平時で七、八割位を保っておければ良い位だ。
 
 あと、な。普段から殺しと口に出ちまう奴は真っ当に見えんのが、この世の中だ。
 他者を殺さなきゃ生きる価値がない……とか言いたげな在り方は、アブナいを通り越して呪いだわなあ。
 俺が面倒を見てやれん時の過ごし方は、あんまり口を挟むつもりはない。
 が、せめて一日位休みを入れとけ。お前さんのその調子だと、変に無茶をしそうだ」
 
全くこれだ。都度、己の小言、説教からまた抜け穴じみたことを探しかねない気がする。
此れならいっそ、娘が欲する薬とは真逆のものを改めて手に入れ、ないし仕込み直した方が対案にもなるだろうか。
拷問、対拷問じみた行為は好みではない。どうせなら、快楽に訴える方が気楽ですらある。楽なだけに。
しかし、しかしだ。今の在り方が、暗殺者であろうとする在り方が、そんなに大事かね、と。
思うことは尽きない。今の調子だと、兎に角強さを追求し過ぎて、逆に身体を壊しかねない恐れが出てきそうだ。
小言も心配だって増えるのも無理もない。見上げる眼差しに、くしゃくしゃと髪を掻きつつ声を返せば。

「……減らないなら、俺の手間を減らすついでに教えてくれると有難いがね。
 ああ、そのうち夏が深まる位前に、な。
 お前さんの親父殿や御母堂の墓とか分かるなら、参っておきたいなと思ったのさ。……俺の故郷の風習でな」
 
内容にもよる。神に奉って得る力も色々あるが、そういう建付けの喚起かもしれないし、本気のものもある。
本当に神が関わるようなものなら、正しく付き合うために知っておく必要があると考える。
まあ、答えないだろうなァ……と今の段階で考えつつも、同時にふと思っていたことを言葉に出す。
心配性と思えばさもありなん。面倒を背負うのも止むをえまい。それが他者を預かるということ。
そんな飼い主の心情を嗅ぎ取ってか、天幕の中でじっとしているのに飽きた毛玉たちが、肩を竦めるような所作を見せる。

「――ま、そりゃ気づくか。不得意の内の不得意を挙げるなら、惑わし、って位か。
 五行を廻す類は、長ァくやってたせいかね。割と得意な部類になった。
 水から木。木から火。火から土、土から金。金からまた水、と。こっちなら四大の方が馴染みが深いかねぇ?」
 
不得意オブ不得意を述べるのは、腑に落ちるかもしれない。真っ向の戦いを嗜む性分がここには出る。
そして、五行の理になぞらえて周囲のものを操る、森羅万象に干渉する術の冴えにこそ、熟練の技が光る。
その場に使えるものがあれば、ないし、相生の理で喚起できるものがあれば、一から現象を生むより手間がない。
だが、名は体を表すものであれば、五行回しもまた奥の手を秘するための手管でしかない。

「若い時分は何かと気を急いて良くない。……いやまぁ、俺もまだまだ若いつもりなんだが。
 お前さんの親父殿がどれ位教えていたか、教え切れていたかは分からん。
 知らない、分からないってなら、教えることはきっと大いにあることだろう。
 
 ――……知らんか。房は閨のことを云う。つまり、な。男女が閨の中で会して遣ることなんて、なァ?」
 
目立つ術、大技にこそ人間意識が向かいがちだが、基礎を疎かにして立ち行くものも立ち行かない。
呼吸法を正しく、いついかなる時も、寝ている時ですら怠らないなら、自ずと能力も上がり行く。
忍術も色々だ。仙人に成るにも似た心身の鍛錬を重視するものあれば、より即物的な方向に走った手合いもある。
そんな中、囁くことは知らないとなれば、“こういうことだ”と。
気配を滅した水分身に意識を飛ばす。水の冷たさを多く含んだ分身が、ぺたり、さわさわと。
揺れる尻尾の根元を、そうっと。越しを拡げて尻肉ごと揉むような手つきで、触りに掛かりゆく。

> 「前科とは、人聞きの悪いことを言わないでください。
 ……強くなれば、その時の主の役に立てることも増えます。ので、出来ることは増やしたい。
 でも、私は借り物の強さが欲しいわけではありません。必要な時に、必要な働きが出来るようになりたい。
 ……平時で、七……八割……。

 う? 危くない。私は普通……です。
 自己紹介で、暗殺者です……とは、名乗ってないから、大丈夫。
 先生は大げさです。心配性です。……むー、わかりました。一日、休みを作ります」

話を聞きながら思うのは、平時で八割と言うなら、屋敷で対峙した時の師はまだまだ本気ではなかったのだろうな、と言う落ち込みたくなるようなことで。
ぺたりと耳が伏せ、尾もゆるゆると下がり元気をなくす。
危ない奴呼ばわりもあれだが、呪だなんだと言うのを他人事のように聞きながら、髪を掻き上げ言われる命令には、渋々と言わんばかりに返事をした。

「……必要と感じたこと、のみであれば。
 夏に、墓に参る……のですか。であれば、不要です。父、母、どちらも在りませんので。
 母上の躯の所在は存じませんが、父上の方は既に骨も残さず灰となりました。
 父上は私の中に残っています。墓を参らずとも、傍に在ります故」

これもまた渋々、耳と尾をへたらせたまま答え。次の言葉にはパチリと目を瞬かせる。
が、残念ながらどちらも墓は無い。父に限って言うならば、形見の双剣が墓標の代わりとなるかどうか。
心遣いだけで十分と首を横に振って、少しばかり視線を下げ、己の後ろで控える水の分身から滴る水の音を聞く。

「惑わしが不得意……ふむ。それ以外は得意……難敵。
 四大元素は魔法、魔術の考え方。私はどちらも指南されたことがありません。
 五行の環を順に巡れば苦手はなくなる……?
 むー、うー……。ん、急いて悪いことは無い。黙って仕損じるのを見ている先生ではない」

限りなく万能に見えてくる師を眺めながら、何処から切り崩せばと悩みつつ。
教えてもらえることは正直に嬉しく、機嫌よく尾をふらふらと左右に揺らしていた。
――が。
謎の答えを聞けば、頬を僅かに色付け口ごもり顔を伏せようとした瞬間。

「――ひゃっ……♡
 フーッ! ウ゛ゥーッ!! 嘘なら、もう少しましな嘘をついてほしい、です……。すけべっ!」

突然冷たい手が尾の根本に触れ、反射的に甘い声を上げる。
手が遠慮なく尻を揉むに至れば、急いでその場から飛び退き、身を低くして尾を膨らませ分身と本体を交互に睨んで威嚇する。
まったく、真面目に聞いて損した。そう思いながら、本来の修行へと戻ろう。

教えられた術を模倣し使うだけでは、また猿真似(コピーキャット)になる。
術に使われることの無いように、術の理念を理解しなければならぬ。
以前師に言われたことを思い出しながら、記憶した印の意味一つ一つまで読み解いていく。幸い、得意とする火行へと落とし込んでもらえたお陰で基礎がある分、理解に時間はかからない。
一通りの手順を頭の中で浚い、加えて必要とする要素を知識から取り出し、術式を構築――。

「――では、参ります」

一呼吸置き、告げて手に嵌めた火打指輪を擦り種火を起こし、同時に手早く教えられた印を順に組む。
お天道様より降り注ぐ日差しより、一際暑く熱された空気に揺らぎが混じり、陽炎より出でる人影。
朧げな像は瞬時に小柄な少女の姿を得て、この“型”に氣を練り込んでいく。

さて、問題は此れにどれくらいの量を込めるかと言うこと。
実体を持たせるなら己の総量の三分の一もあれば良い。が、それだけではやりたい事にはまだ足りない。
せめてその倍は込めるべきかと氣を注ぎ込めば、陽炎は実体を得て、より存在感を増していく。
教えられたのは此処まで。もう氣の量も十分と見極めれば、組んだ印を二度三度とまた変化させ、出来上がるは少女の模造品(レプリカ)

分身はパチリと瞼を開けると、手足の感覚や身につけたものを確かめてから、本体へと振り向く。
うり二つの顔を見合わせ少女らは頷き合い、師へ向き直って。

「「できました」」

同じ抑揚のない声を重ねて術の成果を報告した。

「体の違和感、具現化された道具にも遜色は無いように見えます。耐久テストを提案します」

とは分身。

「問題点は、やはり氣を多く使用しすぎる点です。三分の二も費やしてしまいました。改善が必要です」

続けて意見を言うのは本体。
少女らはそれぞれ個別の思考を持っているように言葉を交わし合う。
本体と繋げた細い糸の氣から供給があれば長く実体を保てそうか、分身でも術は使えるか、魔道具は再現されているか、分身が怪我をした場合はどうなるのか等々、質疑応答を語り合って。
意見を出し切ると、くるりと振り返り、同じ顔で師に意見を求め口々に話しかける。

「先生、如何でしょうか?」

「先生、実践で使用可能な出来ですか?」

「「――採点を」」