2025/07/01 のログ
■影時 > 「俺がこの地に至る旅の途中、或る土地で聞いた言葉、だ。麻薬のことだったか。
それを服用し、痛みも良心も麻痺させ、人を殺すもの。
……――転じてだか鈍ってだかで、アサシン、と云うらしい。諸説あるうちの一つだが。
不服かァ。あー、じゃあ恋人とも娘のようにとも扱えば良いのかね?ン?」
諸説ある言葉であるらしい以上、正確な所は己ですら計り知れない、既知ではない点も含む。
だが、そういう暗殺教団なるものたちが居る、と。忍者と似て非なるものたち。
彼らの如く人を殺すものを暗殺者と定義したとでもいったものだろうか。真実は闇の中だ。
さて、子ども扱いを嫌がるならば、どう扱えば悦ぶ、もとい喜ぶのだろうか。思いつくままに語句を述べてみつつ。
「火の神ってぇのは、ぁぁ。あれか。……加具土命に願い奉る、の。
そうとなると、やっぱり俺が使うように教えておく必要もあるか……」
制約の有無というのも、軽視はできない。縛りがあるからこそ、発現できるチカラが増すということもある。
善し悪しだ。それを念頭に入れて駆使することで、大いなる威力が出せるケースは大いにあるもの。
やはり聞くことは大事だ。教え方をよくよく考慮、吟味できる。
教えておく術のひとつである分け身の術は大掛かりだが、導き出すべき解に至る式は工夫が利く。
己が使うものはその内の一つでしかない、とも云える。貪欲に学べるなら、きっと使えるだろう。
「そうとも。例えば、篝。水を使って分け身を作れと云われたら、どう思う?
――直ぐに思った通りの答えになるとは思うが、いざやるなら一番馴染みのある処から入る方が楽だろうよ」
だから、いわば入門編として提示する術式は火、熱の属性、性質による現象を取っ掛かりとする。
此れはあの屋敷の戦いで使った通りにもなり得るし、練り込めば炎熱を固めた分身として具現させる等も出来よう。
何にしろ先ずは慣れてみることが肝心なら、少しでも扱いやすい、組みやすいものである方が望ましい。
「はっはっは、崇めてくれてもいいぞぅ。名付けて陽炎分身の術、ってトコかね。
何分、熱を基礎にして作った分、普通の人間と比べて熱いかもしれんな。熱で敵を見る類には注意が必要かもな」
そして、陽炎に映し出し、熱気と共に押し込んで固めたような分身が術者と揃って動く。
見えざる氣のラインでつないだものである以上、別途思念を篭めれば、その場で屈伸運動もして見せる。
色々と思う処はあるのだろう。娘の尾は色々と雄弁なまでに揺れ、止まり、複雑げにまた揺れる。
しげしげと眺め、見回る姿に分身の動きを止め、直立させれば、触れやすい。
触れればとても熱い、とはいかなくとも、火照っていると云える温かみ、熱さを感じられることだろう。
それを眺めつつ、印を見直しておくか?と問うてみよう。
教えるに辺り、メモは取らせない。術はすべて見て覚えてもらう。
■篝 > 「ああ、薬……言葉の合点が行きました。
なれば、暗殺者が使うのは道理なのでは……。
――? 私の願いが通るのならば、駒として扱ってください。その方が、迷いません」
首肯して考えるのは、「暗殺者である己が使用を止められる道理はないのでは?」と言う疑問。
師が己を忍として育てようとしていることは無論理解しているが、そうなるつもりが有るか無いかと聞かれると難しい所で。
しかし、これ以上この話を引きずると、また説教が飛んでくる気がしたので独り言で留め。
相手の揶揄い交じりの言葉に、じぃっと視線を向け、素直に応える。
娘のように扱われても師を父とは思えないし、恋だなんだと言われても良くわからない。
それなら、今まで扱われて来たのと同様にされるのが楽であると。
火ノ神――加具土命の加護。
それを受ければ火術の効力は飛躍的に上がる。
威力は勿論、複雑な術を簡易化して、例えば屋敷でやって見せたように、絡繰りを使わず遠隔で複数の爆薬を起爆するのも動作一つで出来てしまう。それがメリット。
デメリットは、事前に祝詞や手印を組む必要や、使用中の氣の減りの早さ、他にも諸々とあるけれど、聞かれなければ答える気はなく。
相手の話を真面目な顔で聞きながら、水で分身をと言われると考え込み。
「みー……水、を固める……とか?
うー。どうやれば良い、かは……確かに、直ぐには思い浮かばない、です。
……ん、だから火、なるほど」
馴染みの無いものより有るものを。その師の判断は正解も正解、大正解である。
既に同種の術もあるならば、イメージは容易であるのは言うまでもなく。仮に何もない状態だったとしても、火であれば得意も手伝い実用に至るまでの道も早いだろう。
本物の人のように自由に動く陽炎の分身を眺め、実際に触れて確かめて、僅かばかりの体温の差はあれど、問題ない出来であるのはすぐに理解でき。
「……うん、凄い。陽炎分身。この術、覚えたいです」
印を見直すかと聞かれて断る理由もない。コクコクと大きく二度頷き、
「でも、その前に、先生に聞きたいことが一つできました。
――氣の総量と言うのは、修行で増やせるもの……ですか?」
分身から本物へ視線を戻し、傍に歩み寄りながら尋ねる。
■影時 > 「お前さん、何故クスリが禁制とされるか、を考えてみ?
別に常識人振るつもりはこれっぽっちも無いんだが、身体を蝕み、心も壊すものを使わせたくはないのが正直なところだ。
――じゃあ、人として扱うきゃぁないわなァ。
俺の弟子とした以上は、よくよく学び、考えて生きるものでなきゃならん。
刃の使い処を他者に頼らず、己で定めるものでなければならん」
だが、残念。己はアサシンとしてではなく、忍びであり、人としても育てるつもりである。
冗談めかした言の葉に対する反応に、何処か少し惜しむように、噛み締めるような面持ちで独り言めいた響きに零す。
どの道、過剰摂取レベルの薬の常用はさせないつもりだ。
どうしても必要な時は許可はする。例の薬を取り上げ、手に取れないように自分専用の魔法の鞄にしまってはいない。
暗殺者としての生き方しか出来ないと、自分から縛り選択肢を固めるが如き有様を如何に解きほぐすか。
まだまだ今暫くは、考えるべきであろう。
――同時に、そう。火守の徒に特有と思われる加護についても、理解は深めておくべきだろう。
細かな良し悪し、背景的な知識があれば余さず聞いておきたい。
「加護、加護なァ。……色々出来ることはあるようだが、引き換えのしがらみも色々ありそうだ。
あとで飯食ってる時とか、休んでいる時ににでも聞かせてくれ。
まぁ、やはりピンと来ねェか。例えば、水を器に満たして粉をどばどば入れたらどうなる?
だいたいはどろどろした奴が出来るよな。それに近いことを遣る、と考えてくれ。
この場合の器を定義するのが術式。粉を為すのが氣、水――に当たるのが、今回だったら熱やら火やらだ」
いきなり空を掴むような話をしても、イメージは出来ないだろう。
自分にできることが他者の誰にでもできる、わけがないのと同じように、先ずは解きほぐして教える必要がある。
己の一番弟子が直ぐにできるようになったから、この新弟子も直ぐにそうなる、というのは早合点が過ぎる。
“○○なら直ぐに出来たぞ”――と云われて、気持ちよくなれるわけがあるまい。
故にこの言葉、言い方は何よりも禁句、禁忌として心掛けながら、説明をする。言葉を選ぶ。術も再構成する。
陽炎の分身による熱の問題は、術式を見直し、粗などを直せば、十分に対処できる筈。
そう見立てつつ術を解けば、ぱっと分身がそもそも無かったように消える。残るは空に登る靄めいた熱のみ。
「良いともさ。……いきなり幾つも作ろう、と思うな。一体でも作れるなら上出来な類だ。
……――あー。増えはするが、飛びぬけて、ってぇのはないな。その筈、だ。
あとはそー、だな。周囲の自然から集めるか、人から集めて溜めるか、か?」
では、使った印と紡いだ氣の流れを改めて教えよう。失敗は何度しても良い。
試行錯誤があってこそ、最終的に行きついた時の喜びは大きいものだ。
ただ、ひとつ。向けられた質問に対しては、男にしては珍しく歯切れが悪い。
脳裏に過った手段は、まず一つ。仙人めいた体質への変形。次に思うは外付け、ないし蓄積の手段。
■篝 > 「薬も過ぎれば毒になるとは聞きました。
でも、私には必要だった。今も、必要である……と、考えます。
欲を抑える為だけ、ではなく。心を平らに均す、その為に……では、駄目ですか?
また、それ……。むー……」
言われずとも、薬が齎す害は理解はしている。危険であることも。
己が使う薬は麻薬の類ではないが、だからと言って知識もなしに使うことは良くないと、医者や薬師からもようく言って聞かされたので知っている。
けれど、何年も常用して、知らず知らずの内に癖になり今に至る。
アレが手元にあると思うだけでも、多少は余裕を持てる程度には、日常の一部となっている。
それは異常なことだろう。
――だが、薬の代わりに師に頼る方が、問題があると感じるのは密かなところ。
誰かの好意依存している方が、後々厄介なことになる気がしてならないのだ。
駒でなく、人にする。
師の酔狂に深く嘆息し、呆れたような半目を向けるだけで、少女はもうそれ以上は言わなかった。
何を言い返したところで、相手に言いくるめられるのが目に見えているのだ。
「……きょ、拒否します」
己の使う術、加護についてを教えろと言われると首を横に振り、己の口を両手で押さえて何も話さないとの意を見せて。
水で作る分身の話には、最初は首を傾げていたが、話が進むにつれて想像が追い付き頷いて理解を示した。
「影時……先生、本当に先生なんですね。教えるの、上手。わかりやすい。それに、面白い」
これなら確かに、学院で教鞭をとっている姿も想像できる。
軽くパチパチと手を叩いて褒めつつ、教師の苦悩と楽しみが教えの裏にあることまでは知らずに、生徒は暢気なものである。
事前に教えられた陽炎の術の問題点。
熱の問題は、場合によってはそのままで在る方が望ましいと、少女は言うだろう。
火を中心に扱う身は、火に炙られ身も心も火照る。特に、加護を有する術を使えばそれは顕著に表れるから。
術が解かれ消え失せた分身の跡に手を翳し、そこに残る熱を確かめて。
「はい、承知いたしました。一つから始めます。
――そうですか、増やすこと自体は可能なのですね。ならば、この術も憂いなく覚えられます。
周囲から集める……は、聞いたことがあります。人から……は、初めて聞きました」
何故か歯切れが悪いことに疑問は持ったが、方法があるなら良かったと安堵して。
師の迷いとは対極的に、此方は迷いが晴れたと術を覚えるのに集中する。
もう一度、手で印を結ぶ様子を見せてもらえれば、同じように繰り返して真似、形はすぐに覚えよう。
■影時 > 【次回継続にて】
ご案内:「九頭龍山脈 山中某所」から篝さんが去りました。
ご案内:「九頭龍山脈 山中某所」から影時さんが去りました。