2025/12/01 のログ
ご案内:「魔族の国・魔王城アビス・オベリス」に魔王ニルヴァローグさんが現れました。
魔王ニルヴァローグ >  
魔族の国──タナール砦を国境とし、その先に大きく広がった魔族達の世界。
人の足では、辿り着くことすらも困難だろうその果てに、太陽の登らぬ常闇の地が在る。
マグメール王国では既に伝承の中にのみ残る場所…そこにはまるで天地を裏返したかのような、地底へと伸びる巨きな城が鎮座している。
無数の迷宮、ありとあらゆる魔物が棲み着き、蔓延るその遙か先──荘厳なる玉座の間。
その玉座に主の姿はなく、変わりに紅く輝く巨大な魔水晶が置かれていた。
そう、それはまるで人がその中に入ることが出来るくらいには、大きな……。

ピシリ。

沈黙が閉ざした世界に、硝子が砕けるような音が響く。

魔王ニルヴァローグ >  
小さな亀裂が幾つも走り、やがて巨大な亀裂へと、そして……、
強烈な破砕音と共に…玉座に置かれた巨大な魔水晶は粉々に砕け散った。

「───……」

中から現れたのは、一糸纏わぬ姿の、黒肌の少女。
その黒曜石のような肌と、鋭く伸びた黒角が人外の様を思わせる。

ぺたりと、玉座の間の絨毯の上に寝そべる形となった少女はゆっくりと、重苦しい動きで首を擡げた。
黄金の螺旋光渦巻く異様な瞳が開かれ、糸人形が吊り上げられるかのようにその身体が持ち上がった。

「……数年は眠ったか」

子供のような声色の声を発する黒曜の少女はは宙に浮いたまま、滑るように玉座へと腰を下ろす。
まるでその場所が、自分のものであると当然に思っているかのような、傲慢に振る舞いで静かにその細く靭やかな脚を組み上げる。

「…誰ぞ、居るか」

広大な玉座の間にただ少女の声だけが木霊する。

魔王ニルヴァローグ >  
沈黙が流れる。
玉座の主の声に反応するものはなく、ただ静寂が支配する。

数多くの魔王が跋扈した時代より数年。
刺激に飽いて眠りについた古の魔王は不満げに…それでも表情は変えずに、玉座の肘置へと頬杖を突く。

眠りから覚めたばかりの微睡み、その薄靄が晴れると共に、徐々に眠る前の記憶が蘇る。
旧神の加護により侵略の足踏みをすることとなった折、それなりに使える側近…手駒を向こうへと送り込んだ。
武力での侵略が不可能であれば、潜ませ内部から腐らせれば良いと。
そうしているうちに、いずれあの面倒な加護でも薄れ消えていくだろうと。

主の目覚め。
そこに馳せ参じる者がいないのは己の采配の結果であることを思い出す。
そして…。

暇を潰すに丁度良い側近に尽く遠出をさせたことで、退屈に飽きた魔王は自ら眠りについたのだった。

「………」

主の問いかけに答える者はいなかった。
静かに瞳を伏せ、薄く…限りなく薄く、その唇を笑みに歪ませる。

魔王ニルヴァローグ >  
配下の手駒達は向こうで果てたか、それとも今だに暗躍を続けているのか。
誰もいない玉座の間を見渡せば、それも最早どうでも良い。

退屈が在るのであれば潰せば良い。
退屈を潰すために必要なものがあれば用意すれば良い。
手駒など、増やせば良い。創れば良い、──産めば良い。

先ずは手ずから。
恐らく戦乱は続いているだろう国境の砦に。
他の魔王の統べる領地に。都市に──侵略の魔手を伸ばすとしよう。

──手駒など、そうしている内に自然と増える。

永命の者として享楽に溺れるでもなく。
達観し争い事から遠ざかるでもなく。

玉座へと居座る黒曜の少女は、悪意と、邪気と、災いを以て君臨する古来伝承通りの邪悪──魔王だった。

魔王ニルヴァローグ >  
今この場に応える者こそいなかったが、魔王城に荒れた様子はない。
であれば配下の者の誰ぞかが守ってはいるのだろう。

そんな者がこの場にいれば、褒美として三日三晩、肉という肉、穴という穴を玩び、
魔王自らの手で淫獄に堕としてやろうと思っていたが──。

久方ぶり、混沌の夜風に身を晒し、破滅を振り撒き玩具を探しに往くのも良いか。

黒曜の少女は立ち上がると、辺りから蠢く影が足元に集まりその身体を這い上がる。
影は僅かばかりの布地を作り上げ、その背に漆黒の、不定形の翼を形成する。
そして復活した魔王は足元の影溜まりへと身を沈め──玉座の間は蛻の殻となるのだった。

ご案内:「魔族の国・魔王城アビス・オベリス」から魔王ニルヴァローグさんが去りました。