2025/09/06 のログ
ご案内:「帝都シェンヤン/酒楼」に睡蓮さんが現れました。
睡蓮 > 帝都シェンヤン

黄龍大路を挟んで西側に広がる地都の花街。
天都との違いは──客層が一番なのだろう。
喧騒はどちらも同じくらい。人が抱く欲の熱というのはどこもさほど変わりはないのだから。

軒を連ねる酒家、酒楼。

その一つの、街路を臨む開放的な露台の一席に、腰を預けるのは白基調の襦裙を纏う女が一人。

純粋な人間というには尖った耳がそれを打ち消し。
さりとてほかの土地のように浮きすぎるということもない。

吹き抜けの一階から聞こえる昆曲に耳を傾けながら、手酌で一献。
丸みを帯びた白釉の酒杯に甘みの強い果実酒を注ぎ、傾ける。

果実味の甘酸っぱさと、強めの酒精が喉を通るのに目を細め、味わう。
濡れて艶を帯びた唇を、舌でなめとり。
明かりの照らす夜空へと視線を流す。

焼けた夜空に朧月が、その輪郭を滲ませていた。

睡蓮 > 昆曲特有の柔らかで伸びやかな声色を聞く。
階下では歌手が柔らかな身振りで華やかでたおやかな姿を見せているのだろう。
あいにくと己の席はそういった姿を見るには向かない場所だが、それでよかった。

帝国に身を置く存在ではあるが、本拠がシェンヤンにあるわけではない。

これもまた、移ろう扉の気まぐれのめぐりあわせ。
特に悪さを働くわけでもなければ、道官がわざわざ市井に足を踏み入れることもないだろう。

街の中、ことに平民の多い此方側にも、緩やかな衰退の影を見受けることは出来るものの、けれど夜の街はあまり、変わらない。
猥雑な喧騒も、その地に住まう人間たちの織り成す悲喜こもごもも。

女にとってはこうして耳を憩わせる戯曲に似て。
目を伏せ、その熱気をいとおしむように舌に馴染んだ味わいを、今はただゆるりと楽しむ。

────何か面白いものがあれば仕入れるのもいいしな、と他愛のない思考を巡らせるのは、人も人でないものも同じ。

睡蓮 > 曲の切れ目、酒の切れ目。
満足したように一度瞑目すると、立ち上がる。

給仕に代金を卓に置いたことを伝え、確認してから席を離れ。

花街はまだこれから賑やかな時間帯だろう。
女は───ふら、と路地の影へと消えていった。

ご案内:「帝都シェンヤン/酒楼」から睡蓮さんが去りました。