2026/02/28 のログ
影時 > 王国側に向いた門の攻防は現状、伯仲している。
砦を占領している魔軍の兵が偶々精強なのか。それとも押っ取り刀で集めた王国側の兵や騎士が劣っているのか。
その辺りの評定は、終わった後にしてくれるといい。彼我の差は他ならぬ指揮者こそが、嫌という程に自ずと弁える、体感するであろう。
とは言え、埒が明かないのはどちらも確かである。
血肉の泥濘とかした戦場の陰に立ちつつ、血濡れた得物の片方、肉切り包丁めいた刃を払う。
氣を僅かに注ぎ、血糊を払うそれは見た目通りに断ち切りに特化し、尖り気味の割り切りと相俟って大変いかつい。
入手後は盗賊ギルドとして動く際の得物にしようとは思ったが、結果的に出番なく普段の活用に転用したが、成る程。悪くない。

(使い分けの一つとして、改めて考慮に入れておくか)

頭の片隅でエンチャントも施された刃を評価し、ローブの下、腰裏の魔法の雑嚢(カバン)に仕舞う。
苦無は弄ぶように柄尻の輪に指を落としてくるくる回し、慣れた仕草で袖口に放り込む。
見た目上は腰に刀も剣も佩かない、差さない無手の様相を示しつつ、修羅場止まぬ砦の威容を見遣る。

「この辺りは死守せよ、とまでは厳命されてねェからなあ。……はてさて。敵の頭のツラでも拝めるなら、後の役に立つか?」

攻略法、解法等を思えば、敵の進軍経路を辿り、その元を断つ――というのは妥当のように思える。
故に、そうする。後で何か言われるならば現場判断でそうした、とでも言えばいい。
上体を曲げ、身を一応は低くしながら、遥か頭上で偶々爆ぜる魔法の爆光を目くらましにして、砦の壁面の真下まで一気に進出する。
あとは、砦の壁面をトカゲもかくやな動きで登る。手がかり等、僅かな起伏、亀裂程度で事足りる。
登る位置は勿論、真正面からではない。正門から見て横手側、正面ばかりに注視していれば手薄、油断が見られそうな側。

「……いようっ、と。お邪魔する、ぞッ……と」

勝手知った友人の宅に殴り込む、というのも言い回しとしてはおかしい。友人は土産でも持って穏やかに訪れるものだ。
砦の胸壁で暇そうに欠伸をかいていた魔物の兵に気さくに手を挙げる。
ローブ姿というのがキモだ。目深にフードも被っていれば夜陰のお陰で、顔が直ぐに見えない。
ただ、炯々と輝く暗赤色の眼光を諧謔めいた風情に揺らめかせ、古びた剣で切りかかってくる彼を引き落とす。
静かに懐に入るように近づき、振りかざした剣を握る手をそっと掴んで、引く。
踏み込みの動きを利して引き寄せ、進行ベクトルを変え、整えて胸壁から自分から飛び込み落ちるように仕向けるのだ。

影時 > 「……さてさて。
 下の奴らが真っ正面からガチやってるのを眺めてるのもつまらないんでなア。お前らの頭ァ、どこだ?」
 
ぱむぱむと軽く手を叩き、ぐるりと見やる。
戦力を然るべき処に回しつつ、最低限の守りは、といったつもりなのだろうが、練度にばらつきがあるらしい。
魔族は兎も角魔物に練度という概念は通じるのだろうか、という疑問はもっとも。
少なくとも何度も死地を生き延びられる能力、運があるなら、練度という二文字も生えなくもないだろう。
だが、それもまた理不尽な死、唐突な死を迎えられるかは定かではない。上回る者に相対すれば圧倒されるばかりだ。
偶々かどうかはさておき、後方にも目を配ることができるものは居る、らしい。
それを殺到してくる魔物、魔族の兵から察しつつ、ローブの中に右手を差し込む。何かを握って、引き抜けば。

「……――仕方がないな。すこぉしばかり斬って、流れを見ていればおのずと知れるか」

右手に、手品のように白々としたハガネが現れる。ハガネは緩やかに湾曲する、研ぎ澄まされた刀の形をしていた。
それが右に、横にと振られるたびに、血肉が落ち、零れ、景気よく命が溢れ出す。
偶々腕に覚えがある、とばかりに打ち込んでくる者が居ても、呼吸を合わせて刃を打ち込めば、敵の刃が逸れて刀が埋まる。
脅威を切って落とす。刃を凌ぎて先んじる術理、道理は知るまい。知るが故に生を拾い、敵を斬る。

やがて、頭らしいものを見出せば、背後から一刺しにして、密やかに砦の外に出よう。
武勲はあるに、あればこしたことはなくとも今はまだ、いい。挙げ時は然るべき時を狙うに限る。

ご案内:「タナール砦」から影時さんが去りました。