2026/02/21 のログ
ご案内:「深夜のタナール砦」にネヴェドさんが現れました。
ネヴェド >  
人間と魔族の戦火が夜の砦を焦がしている。
そんな姿も最早見慣れたものだ。

崩れた城壁。燃え残る石壁の匂い。
怒号と悲鳴が混じり合い、血が石畳を濡らしてゆく。

人間側は勝勢にあった。
駐屯していた騎士団が、魔族の残党を追い返すのも時間の問題。だった。

――風が止む。

砦の中央、割れた塔の上に白銀の翼が静かに広がる──豊満なる影が月を背に立っていた。

「……それなりの精鋭はいるな。…だが、特化した力ではない…」

戦場を見下ろす女はそう呟く。
魔王の戴く生きた冠たる魔神。
我が主である魔王は戦を好む──故に、この戦場にその器を探しに現れていた。

強くはある。しかし主様の敵ではない──。
今宵も収穫はなし、と落胆に蒼玉の瞳が細まる。

「……早々に終わらせてやろう」

ネヴェド >  
魔族の軍。
時折姿を見せるようになった黒曜の魔王軍とやらすらを打ち破る者がいる、と風説に耳にする。
そのような者がいるならば、さぞ主様は悦んでくれるはず。

──勇ましくも狂気に笑みを浮かべ闘いに身を投じる主様。
  想像するだけで、胸の奥底が高鳴り、熱が生まれてしまう──

「…おっと」

つい妄想に耽ってしまい、我に返る。
眼下では人間の将が此方を見上げ、軍令を下そうとしていた。

「ふむ…この程度の軍勢が相手であるならば、降り立つまでもないな」

詠唱ですらない言葉が紡がれ──女の足元から無数の影が戦場へと滑り降りてゆく。
それらは戦場を縦横無尽に駆け巡る。しかし、それは攻撃ですらもなく──。

人間の心を容易く手折る、魔王権能が一つ。
影に触れた人間の兵は一人、また一人と戦意を失い、恐れ慄き退却の一途を辿っていった。
恐怖(フィアー)の概念を振り撒いきながら影は走り──やがて戦局は裏返ってゆく。

逃げ遅れた人間が魔物達の餌食になる、そんな光景が広がる中…翼をはためかせ、漸く女は砦へと降り立った。

ネヴェド >  
練度、装備ともに申し分ない。
しかし精神汚染の類には対策がなかったか。
砦を責めていたのはオークやオーガといった怪力で襲いかかる魔物ばかり。
突然の精神干渉に対応できなかったのは、落ち度とは言えないだろう。

辺りに立ち込めはじめた饐えた匂いに眉を顰める。
魔物達の本能が人間を凌辱するとはいえ、漂っていて気持ちの良いものでもない。

魔王クラスの精神汚染に耐え、この巨躯の魔物軍を打ち破る者がいれば、主様のお眼鏡にも叶う強者であっただろうが──。

──人間のことは嫌悪している。
だからこのような惨状になろうが、何も思うところも感傷もない。

豚鬼に押しつぶされ、犯されている女が悲鳴をあげていようが。
巨鬼に嬲りものにされている兵士がいようが。戦場の掟といえばそれまで。

「……軍の指導者はいない、か…? 野良の有象無象か」

指揮された襲撃であれば知能の高い魔族もいるかと想ったが。辺りを見回しても見えるのが無惨な凌辱の光景のみ。

ネヴェド >  
目的を果たすことはできなかった。
彼…主の楽しめるような好敵手がいなくなって久しい。

力こそ、戦っていてこそのかの魔王…。
さぞ乾き、さぞ満たされていないだろう。

私が埋めて差し上げなければ。
このカラダと献身で以て、その渇きを。
餓えた彼はさぞ獰猛にこの身体を───。

「………」

浮かんだ妄想を振り払い、ばさりと白銀の翼が広がる。
そうと決まれば、足早に帰ることとする。
主様に最上の自分を捧げるために、すべきことは山程あるのだ。

ご案内:「深夜のタナール砦」からネヴェドさんが去りました。